Interview

東出昌大&太賀が、岩松 了の舞台『二度目の夏』に挑戦。舞台の魅力にとりつかれた役者が愛と嫉妬を大いに語る

東出昌大&太賀が、岩松 了の舞台『二度目の夏』に挑戦。舞台の魅力にとりつかれた役者が愛と嫉妬を大いに語る

M&Oplaysと劇作家・演出家の岩松 了が定期的に行っているプロデュース公演の最新作『二度目の夏』が、7月20日(土)から本多劇場にて上演される。
今作は岩松の書き下ろし新作で、湖畔の別荘を舞台に、ある夫婦と夫の親友、そして彼らの周りの男女が繰り広げる“嫉妬”をめぐる物語。
主人公の「夫」を演じるのは3度目の舞台となる東出昌大。前作の三島由紀夫の大作『豊饒の海』(18)で主人公の複雑な心情を巧みに演じたことが記憶に新しいが、初めてタッグを組む岩松とどのような舞台をつくり上げるのか期待が高まる。そして「夫の親友」を演じるのは、東出とは映画『桐島、部活やめるってよ』(12)以来7年ぶりの共演となる太賀。岩松とは4度目の共演となり、昨年は大ヒットドラマ『今日から俺は!!』(18)や映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(18)などに出演し、コメディーからシリアスな作品まで幅広い演技に定評がある。そのほか、水上京香、清水葉月、菅原永二、岩松 了、片桐はいりと個性派が揃う。
そこで東出昌大と太賀にインタビューを行い、今作のこと、稀代の作・演出家の岩松 了のこと、嫉妬、愛、役者についてなど縦横無尽に語ってもらった。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望


「あの岩松 了さんとご一緒できるのか!」と嬉しかった

まず東出さんは『豊饒の海』(18)以来、3度目の舞台。太賀さんは『流山ブルーバード』(17)以来、約2年ぶりの舞台ですね。今作の出演が決まったときの気持ちを聞かせてください。

東出昌大 「あの岩松 了さんとご一緒できるのか!」と嬉しかったのと同時に驚きました(笑)。岩松さんの舞台は何回も拝見していますが、圧倒的な台詞量やお芝居の緻密さで、お客様を不思議な靄(もや)の中に置き去りにするのが岩松作品の魅力だと思います。演じる役者は多くの熱量を必要とするでしょうし、岩松さんの作品で、しかも、演劇の聖地である下北沢の本多劇場での上演ですから、僕にとっては「ついにきた」という想いもあるので、僕も30歳を超えたし、「いつまでもフワフワしていられない」と、オファーをいただいたときには武者震いもしましたね。

東出昌大

太賀 僕が初めて出演した舞台『国民傘』(11)の作・演出が岩松さんでした。下北沢のザ・スズナリという小さな劇場が僕の演劇の原体験です。それ以降、岩松さん以外の方とも舞台をご一緒していますが、そのたびに「岩松さんだったらどう思うのだろう?」と岩松さんの視点を心に抱いていることが、僕のお芝居の原動力になっています。今回のオファーをいただいたときに、「今までの想いが繋がったらいいな」と思いました。ここでもう一度、岩松さんとご一緒するのは僕の俳優人生にとって大切な経験だと感じています。

本作は「この夏、愛と嫉妬がうずまく、大人のための恋愛劇」と銘打っていますね。

東出 岩松さんは、僕らが抱くのとは異なった美徳をお持ちだと思います。だからこそ観客の気持ちをむしゃくしゃさせる台詞をたくさん散りばめることができる。その岩松さんが愛と嫉妬を描くわけですから、人間の見たくない部分もむき出しにして、「本当にこういうことあるよね」と観客に突きつける作品になる気がしています。

太賀

太賀 岩松さんの作品に出演すると、男性が女性に翻弄されるシチュエーションの巧みさが作品の魅力のひとつだと感じます。岩松さんの描く女性は魅力的だからこそ、男性が振り回されてしまう。今作では、男女の三角関係が描かれますが、水上京香さん、清水葉月さん、片桐はいりさんとどう絡んでいくのか楽しみにしてください。今回、男女の愛憎がテーマなので、どんな男性像や女性像を描かれるのか僕も楽しみですし、嫉妬に狂う僕ら男性はかなりカロリーを使うかも(笑)。

東出 ははは。そうだね。

太賀 岩松 了さんと言ったらどなたもご存知だし、ベテランで巨匠なのに、毎作品、新しく何かを更新していくんです。『二度目の夏』でも、岩松さんは新しい境地に達するだろうから、僕らが食らいついていく戦いでもある気がしています。

“愛”が表のテーマだとしたら、“自己愛”が裏のテーマ

本作では男性の嫉妬心を主に描いているそうですが、実際におふたりは嫉妬を抱いたりすることはありますか。

東出 もちろん、色恋を含め、若い頃は嫉妬を強く抱くことはありましたが、30歳を過ぎ、家庭もできましたし、遠ざかった印象があるんです。ただ、年齢を重ねると、嫉妬にはつねに“自己愛”がつきまとうことに気づいて。他者をただ愛しているのか、他者を好きな自分を好きなのか、とどのつまり自分だけが好きなのか。今回は“愛”が表のテーマだとしたら、“自己愛”が裏のテーマだと思います。現場では舞台に渦巻く感情を掘り下げて、愛や嫉妬というものを考えられたら嬉しいです。

太賀 僕も10代の頃には、色恋に限らず、他者に対する嫉妬がありました。僕自身の実感として、歳を経ると嫉妬心の水準が減るというより、嫉妬している自分の気持ちを隠す術を覚えたような気がします。嫉妬している自分に蓋をすることで、嫉妬心というものが薄れていくような気がしていた。ただ、その根元的にある嫉妬のサイズやスケール感は変わらないまま、人は大人になっていくと思うようになりましたね。どんな人間も心の蓋を開けたら嫉妬心が必ずあるのに、その気持ちをごまかしている本質的な部分を、役を演じるうえで踏襲できたらいいですね。

演劇が面白いのは、作・演出の岩松さんが、実際に役者としても登場することだと思います。

東出 岩松組を経験された方にお話を聞くと、千本ノックのように稽古を繰り返すと聞きます。どうしてそこまで稽古を繰り返すのか……先輩方が導き出した答えは、芝居の変な癖をなくすための作業だそうです。それを痛いほど感じたのは、岩松さんとお食事をしたときです。岩松さんは「舞台上でイチを表現してしまうと、イチにしかならない。ゼロまで削ぎ落としてその瞬間を生きていれば、お客様は100や200にも想像できる。イチで表現しようとすると芝居は死んでしまう」とおっしゃっていて。今作はそういう演技を目指していきたいです。とはいえ、岩松さんが出演されているときは、「ここで笑って」とキャラ芝居してるよね?(笑)

太賀 していますね(笑)。

東出 ゼロどころか15ぐらいのパワーで芝居をしているように見えるから、僕らは惑わされないように、泰然と稽古をしたいと思います。答えは稽古を繰り返した先にあると信じて頑張りたいです。

太賀 岩松さんが登場すると、会場の緊張感が一気に緩むから不思議なんです。半分狙って、半分は狙っていない微妙なラインでお芝居をされて、そういう空気になることは、岩松さんもわかっていらっしゃる。しかも今回は、「修理屋の男」というものすごい漠然とした役どころで(笑)。登場の仕方が楽しみですね。ちなみに、岩松さんが出演されたときの稽古はなごやかですよ。

岩松さんの舞台は王道でありながらも異端

岩松さんの魅力はどこにありますか。

東出 岩松さんの舞台は王道でありながらも異端なのが魅力だと感じます。そんな舞台でお芝居をするのは、太賀も言ったようにカロリーを使うだろうし、正気を保つ努力をしていないと、岩松さんの力に人格が引っ張られてしまうとさえ思っています。さっきも言ったけれど、岩松さんは本当に千本ノック的な稽古をするの?

太賀 しますね(笑)。僕自身ラッキーなのは、何度も繰り返して稽古を重ねるというやり方が僕の体には合っていて、二千本くださいと思ってしまう(笑)。僕自身も答えを模索しながら稽古をしていますし、岩松さんも何が答えなのかを探している証拠だと思います。もちろん、明確なビジョンがあるからですが、目に見えるゴールではなくて、感覚的に訴えかける何かを探りながら演出をされていると感じます。岩松さんとご一緒すると「このへんでいいのではないか?」と力を抜く選択肢がないので、「どこまでもついて行きましょう」と思わせてくれる方ですし、岩松さんの理想を超えたいですね。

そういう厳しい稽古だからこそ、作品から岩松さんの魅力が見えてくるんですね。

太賀 そうです。岩松さんの魅力は、言葉の絶対的な美しさにあると思います。それでいて、演劇的で、詩的でありながら、もしかしたら、日常で使っている言葉とは少しだけ違う世界に存在していると思わせてくれる親近感もあります。岩松さんの台詞は、ただ登場人物たちに言わせるだけでは成立しなくて、それを構成する演出も重要だと思います。東出さんが言ったように「イチだと伝わらないけれどゼロだと伝わる」お芝居は、静謐でありながら躍動したり、いわゆる“静と動”を行ったり来たりするからで。最終的に、役者のお芝居と岩松さんの生み出した言葉が合わさったときに、言葉を超えて、言葉にならない感情に行き着く作品になるところが、岩松さんの人気の秘訣だと思います。

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