モリコメンド 一本釣り  vol. 119

Column

さなり 16才のラップアーティストが、1stアルバム『SICKSTEEN』でクールに映し出す現実

さなり 16才のラップアーティストが、1stアルバム『SICKSTEEN』でクールに映し出す現実

小学校低学年のときにHIKAKINをはじめとするYouTuberに興味を持ち、“自分も同じことをやってみたい”という純粋な興味からオリジナルの動画を投稿(iPhoneで撮った動画をアップロード)。投稿動画によって得た収入でパソコンを買い(!)、さらに動画制作にのめり込むと同時に、ボカロP系の音楽(ササノマリイ、有機酸など)を聴きはじめる。その後ラップ・ミュージックに出会ってフリースタイルラップで友達と遊んでいるうちに、“自分のオリジナルのトラックで歌いたい”と思い、Logic Proをダウンロードしてトラックメイクをスタート。オーディションに応募したことをきっかけに、その音楽性の高さ、ラップスキルの巧みさ、ルックスの良さに注目が集まり、16才でデビュー。“今どき”という言葉を使いたくなるが、いまの時代において最も真っ当で、いちばん効率的なやり方だと思う。

2002年生まれのラップアーティスト、“さなり”。まずはSKY-HIのプロデュースによるデビュー曲「悪戯」を聴いてみてほしい。トラップの進化型ともいえるトラックは、さなり自身がスケッチしたデモをSKY-HIがブラッシュアップしたものだという。日本語に鋭利なグルーヴを与えるフロウ、“踊らされたままで流れてく”という現代社会の在り方をシンプルに射抜いたリリック、そして、しなやかなメロウネスと言葉を伝える力を同時に感じさせるラップを含め、その表現力の高さはとても16才とは思えない。

さらにトロピカルハウスのテイストを取り入れたサウンドと切なさをたっぷり含んだメロディ、孤独と寂しさを感じさせるリリックがひとつになった「Prince」、WEAVERの杉本雄治とのコラボレーションによるシティポップ風味のナンバー「Mayday」などのMVを発表してきた彼は、恋愛リアリティ番組「オオカミくんには騙されない♡」に出演したことでも注目を集め、SpotifyのバイラルチャートTOP50に3曲をランクインさせるなど徐々に存在感を強めてきた。その最初の集大成と呼ぶべき作品が、6月5日にリリースされる1stフルアルバム『SICKSTEEN』だ。

「悪戯」「Prince」「Mayday」などの既存曲のほか、SEKAI NO OWARIの楽曲プロデュースで知られる保本真吾(CHRYSANTHEMUM BRIDGE)との共作による「タカラモノ」、BiSHなどの楽曲を手がける松隈ケンタがトラックメイク、作曲で参加した「Never End」など11曲を収録した本作。まず印象に残るのは、エレクトロ、トラップからギターサウンドまでを網羅した幅広い音楽性だ。前述した通りさなりは、インターネットを通し、ボカロ系、ラップ・ミュージックを中心に幅広い音楽を当たり前のように吸収。いまの10代はジャンル、国籍、時代を超え、ありとあらゆる音楽をフラットに聴くことがデフォルトだが、さなりもまた音楽を枠にはハメることなく、どこまでも自由に自らの表現を広げている。色彩豊かなトラックを自然に乗りこなし、心地よいグルーヴ感とエッジーな手触りをバランスよく兼ね備えたラップも驚くほど魅力的だ。

さらに特筆すべきは、“SICK”という言葉を含んだタイトルが示す通り、いまの社会のなかにある“病み”の感覚をしっかりと捉えた歌詞の世界。

“忘れたいことを/増やしてしまったんだ/また今日も”(「もっと」)、
“どうでもいいことばかりの日々/ハリボテで溢れかえって”(「BRAND-NEW」)

きわめてシンプルな言葉遣いで彼は、現在の(日本の)空気を的確に描き出し、リスナーの感情に揺さぶりをかける。このアルバムのなかにある“SICK”な状況と無関係な人はおそらく、一人もいないだろう(いるとしたら、病みの感覚を見てみないふりしているか、麻痺しているかのどちらかだ)。しかし、さなりの音楽は決して暗くないし、むしろポップに響いている。その理由は、彼自身が“SICK”な気分を肯定も否定もせず、“そういうものだよね”とあっけらかんと表現しているからだろう。“いまの社会はヤバいですよ”みたいな大げさに表現に走らず、まるで冷徹なジャーナリストのように現実を映し出し、そのなかにある気分を(彼自身の実感を含ませながら)そのまま差し出す。このクールな姿勢もまた、さなりの大きな魅力だと思う。“がんばれ”とか“元気を出そう”みたいなことを一切歌っていないのも好感が持てる。

6月には吉田凛音、Rude-αとともに福岡、大阪、東京で「フロム ニューエイジツアー 2019」を開催。7月にはアルバム『SICKSTEEN』のリリースパーティを東京と大阪で行う。楽曲、ライブを含め、ここからさなりは予想を超えた進化と変化を繰り返すことになるだろう。その最初のポイントとなる本作『SICKSTEEN』にできるだけ多くの音楽ファンに触れてほしいと思う。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
https://sanaridayo.com

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