Interview

「面白さとは何か?」「最終回まで観たくなるアニメとは?」 幾原邦彦監督が語る『さらざんまい』、その膨大な情報量に秘められた本質

「面白さとは何か?」「最終回まで観たくなるアニメとは?」 幾原邦彦監督が語る『さらざんまい』、その膨大な情報量に秘められた本質

2019年春、すごいアニメが始まってしまった。『美少女戦士セーラームーン』シリーズや『少女革命ウテナ』をはじめとした平成アニメの名作を手がけてきた幾原邦彦監督による最新作『さらざんまい』(フジテレビ “ノイタミナ”ほかにて放送中)だ。

矢逆一稀(やさかかずき)、久慈 悠(くじとおい)、陣内燕太(じんないえんた)、それぞれに秘密を抱えた3人の中学生と、謎めいた警官たち、夜になると“ゾンビ”が現れる浅草の街、そしてカッパ。少年たちはカッパの姿になって“つながり”あい、他人に知られたくない秘密まで共有してしまう……。

この非常なユニークな世界観ゆえに、放送直後から話題となっていた本作だったが、その全貌がいよいよ明らかになろうとしている。放送がいよいよ折り返し地点を迎え、クライマックスに向けてさらに加速していく『さらざんまい』の世界について、今回は幾原邦彦監督に直撃した。

取材・文 / 青柳美帆子 撮影 / 増永彩子
構成 / 柳 雄大


大切なことは「キャラの気持ちを最終回まで追いかけたい」と思ってもらえるかどうか

『さらざんまい』、毎週翻弄されながら観ています。視聴者からの反響はいかがでしょうか?

幾原 まだはっきりとはわからないですが、ある意味では予想通りだったと思います。きっと「第1話で“これはなんだろう?”と思われるだろう」、「第2話でさらにブーストがかかる感じじゃないだろうか」……とは思っていました。

毎話、ラストに「ええええ!?」と驚かされる展開がありますね。第1話には一稀の告白、第2話には燕太のキス、そして第3話は春河のこと……と、毎回来週まで待ちきれない気分になります。登場人物の秘密が視聴者に明かされていくのは、ミステリー的な楽しみもありますね。そうした仕掛けが多いのはどうしてなんでしょうか。

幾原 それはきっと、好きだからじゃないですかね(笑)。ずっとやっているので手癖みたいなものもあるかもしれませんが、映像の中に情報量がいっぱいあって、2~3回観たくなるようなものが、自分の作品でも人の作品でも好きなんです。例えば黒澤映画なんかは本当に情報量が多いので何度も観れますよね。

ミステリー的な仕掛けも、画面の中に情報は入れているので、よく観たらわかるんですよ。実際にリアルタイムの放送中に気付いた方もいたようです。一稀の女装も、本物の吾妻サラとはディテールが違う。春河に関しても、第1話の段階から家の描写は描かれています。

第1話の段階から「春河はもしかして……」と考察している視聴者も見かけました。情報量の多さが「何がなんだかわからないけど、引き込まれる」という状況になっているのかもしれません。

幾原 映画と比べてテレビは「消費」できるようなものになっていて、視聴者は情報の多いものに慣れていないので、いわば新鮮に観てもらえるのかもしれません。ただし、びっくり箱的なものを作ってもしょうがない。情報量はある意味“にぎやかし”で、本質的には「キャラクターの気持ちに乗れるかどうか」を気にしています。「この作品を見続けたいな」と思わせるために、「このキャラは何を気にしているんだろう」「このキャラの“喪失”はなんだろう」――と、キャラクターの気持ちを最終回まで追いかけたいと思ってもらえるかどうかが大切だと思っています。

視聴者の度肝を抜いた「尻子玉搾取」「漏洩」そして「カワウソイヤァ」

本作の企画は、『ユリ熊嵐』(2015年放送)の制作終了後すぐに始まったとうかがいました。

幾原 最初は「2018年くらいには放送できるかな」と思っていましたが、想定よりは時間がかかりましたね。(アニメーション制作会社の)ラパントラックは設立からそこまで間もない会社なので、マンパワーが十分というわけではありませんでした。そこに時間をかけることで補ったから、現在のクオリティーでできていると思いますね。ミーティングにも相当時間をかけています。

『美少女戦士セーラームーン』シリーズや『少女革命ウテナ』からずっと一緒にやっているメンバーもいれば、本作から参加しているスタッフもいますね。コミュニケーションを重ねていく中で、チーム力もできあがっていったんじゃないかな。

第1話でもっとも視聴者の度肝を抜いたのは「尻子玉搾取」のシーンだったと思います。初めて観たとき、「どうやったらこのシーンができあがるのか!?」と驚きました。

幾原 「面白さとは何か?」をひたすら話し合っていましたね。ミーティングで案が出るたびに「それって面白い?」「これって何回も観たいもの?」と考えていきました。ゾンビが出てきて尻子玉を抜くことは面白いことなのか……と、大人がみんなで真剣に考えました(笑)。

GW期間中に開催されていた「幾原邦彦展」では、尻子玉を抜くアイデアスケッチもありましたね。このアイデアメモから今の尻子玉抜きシーンになっていったのか……! と感慨深かったです。こんなに“尻子玉を抜いているシーン”をしっかり描くアニメは、もしかしたら世界で初めてなのではないでしょうか。

幾原 ある意味、やっていること自体は、お尻にフォーカスした『おぼっちゃまくん』や『クレヨンしんちゃん』的なフィーリングじゃないですか。でも、女性視聴者も多くなるだろうことがわかっていたので、女性が目が離せないようなシーンにもしたいと思っていた。万人に好かれる作品ではないと覚悟はしているけれど、嫌悪されるのは避けたかったのもありました。だから女性スタッフの意見はすごく聞きましたね。「尻子玉を取るの、許容できる? 俺はダメかもと思うんだけど……」と(笑)。

答えはどうだったんでしょうか?(笑)

幾原 「イケます!」(笑)と。「え、マジで? 見たい?」「見たい!」……ということで、僕の方にためらいがあるくらいでした。(「尻子玉搾取」から連なる)「漏洩」のシーンでは、「カッパでつながるよりも、少年の姿でつながったほうがうれしいんじゃないだろうか」と、カッパから普段の一稀たちの姿になっています。そこも僕というよりも、女性スタッフがノッてくれた。

男性のかっこよさを描くときに、やはり男性には本当の意味でわからないところがある。いま「このシーンの男性陣、カッコいいな」と思える部分は、女性スタッフの力がこもっているんです。僕だけではなく、いろいろなスタッフの感性が現れていると思いますよ。

第2話から始まった玲央と真武の「カワウソイヤァ」には、さらに度肝を抜かれました。

幾原 先ほどもお話ししたように、第1話ではみんな驚いてくれるだろうと予想していたんです。でも、どんなにやってもオリジナル作品では1話は“様子見”になるもので。1話目から主人公たちに感情移入できる視聴者はいません。オリジナル作品はびっくりさせないといけないけれど、1話目にだけ驚きがあると「出オチ」といわれることもあります。気持ちがノってくるのは2話目から。だからシリーズ構成をする中で「2話目でみんなの気持ちをつかむような隠し玉、変化球を投げよう」と決めました。

確かに、心をガッチリつかまれました。振付についてもうかがいたいです。

幾原 あの振り付けは実際に振付師さんにやっていただいています。いろいろなダンスのスタイルを調べていく中で、ちょっとフェティッシュなヴォーグ(ヴォーギング)ダンスというスタイルでやっていくことになりました。

すごくヌルヌルっと動きますが、モーションキャプチャーなどを使っているのでしょうか。ちょっとバーチャルYouTuberっぽさも感じました。

幾原 基本的には描いてますね。VTuberっぽさは確かに少し狙ったところもあります。

ダンスのあとに玲央が真武の心臓を抜き取るシーンは一転して耽美で、非常にドキドキしました。

幾原 あそこも石川佳代子さん(キャラクターデザイン・総作画監督)をはじめとして、女性スタッフが力を入れてくれたところです。石川さんは放送直前まであそこにこだわっていて、完成シーンがどうなるかは僕にもわからないくらいでした。

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