LIVE SHUTTLE  vol. 348

Report

松任谷由実 あの日のユーミンと“45年のタイムトラベル”。贅沢なセットリストと演出に魅了されたツアーファイナルをレポートする。

松任谷由実 あの日のユーミンと“45年のタイムトラベル”。贅沢なセットリストと演出に魅了されたツアーファイナルをレポートする。

Ghana presents 松任谷由実 TIME MACHINE TOUR Traveling through 45years
2019年5月16日 日本武道館

ショーは会場全体の照明が落ちる前からはじまった。客席の通路に一人の男が登場し、徘徊、時に和ませつつ、センター・ステージへ上がる。マイムの動きからダンサーだと知る。そしてここは発掘現場の設定で、見つかったのはタイムマシーンの象徴であるクリスタル。やがてそれを掲げると、上空からの光の啓示とともに、“あの日のユーミン”が降臨する。

実に鮮やかなオープニング。スパンコールの燕尾服とシルクハット姿でピアノに腰掛けて、オープニングは「ベルベット・イースター」だ。イントロの敬虔な響きに、思わず背筋が伸びた。

ツアーが始まった時から話題を呼んだ、ロボットの象に乗ってのパフォーマンス。「Happy Birthday to You〜ヴィーナスの誕生」からスタートする。さっきまでピアノに居た彼女が、象の背中に跨がりせり上がる。事前に客席には、フリフラ(無線制御型ペンライト)が置かれており、本人の、「さあ、みんな、両手を上にあげて!準備はいいかな!」という掛け声をきっかけに、武道館360度、ギッシリの観客が応え始める。光が対面の座席で揺れて、とても綺麗だ。

ユーミンは1979年「OLIVE」ツアーの中野サンプラザ公演で、本物の象に乗り登場した。実際に観た人は限られているだろうが、多くの人が、“象に乗ってステージに登場した”彼女のことを、都市伝説のごとく知っていた。やっとそのシーンに出逢えた! そんな気分だ。

「砂の惑星」へ。“月の沙漠を旅する”ようなメロディだが、リズム・アレンジは当時から、最先端のエレクトロニカ。気づけばダンサー達は、曲ごとに体の動きはもとより、衣装もチェンジし、配置も複雑に変化する。リハーサルで積み上げたであろう多くの時間が、その見事なパフォーマンスの背後から、滲み出してくる。

続いての「WANDERERS」は物量に圧倒される。後半、炎が四方から吹き上がる。これくらいかな、と思ったら、これでもかと吹き上がり、終わった時、我々の口から漏れたのは“ほぉ〜”という、驚嘆だった。

炎に目を奪われた、次の瞬間、彼女は白のワンピース、白のヘアバンドでステージに居た。「ダンデライオン〜遅咲きのタンポポ」が歌われる。歌い終わると、スカートをつまんで会釈。続くMCで、このツアーのコンセプトが簡潔に紹介され、「解説はこのくらいにして、「またタイムマシーンを動かしますね」と、「守ってあげたい」へ。超がつく名曲が、続いていく。

ここまでで感じたのは、衣装チェンジが単なる“御色なおし”ではなく、楽曲の演出の重要な要素のひとつとして、彼女が纏う“モード”を変化させているということだ。

「Hello,my friend」では、回転するセンター・ステージに、誰も座ることない空の椅子が置かれている。そんな光景に、この歌の詞が重なり歌の世界観を拡げている。

「かんらん車」では、スルスルとセンター・ステージを囲む紗幕が降りてきて、プロジェクターから映写される映像はシームレスにつながり、巨大な筒状の別世界が出現した。この曲でいえば、歌の進行にともなう気象の変化も、見事に描かれた。ユーミンの掲げた手の指先と、舞い降りる粉雪の映像が、見事にクロスする。そこにやがて、ぶ厚い雲が出現した。おそらくこれは、主人公の胸に堆積した、想いの分厚さ、なのだろう。

続く「輪舞曲(ロンド)」は、あでやかな着物姿のユーミンだ。ステージ上の進行は衣装替えの時間を観る側に一切感じさせない。着物といっても、髪飾りも一体となり、キラキラとファンタジックな印象だ。燭台を持ったダンサー達はゴシックな雰囲気でもあるが、着物姿と不思議に溶け合う。続いて「夕涼み」を披露。MCで「心を込めて歌います」と言うと、「春よ、来い」のお馴染みのイントロが聞こえてきた。1994〜95年の「THE DANCING SUN」ツアーの演出でも行っていたドラゴンの舞いが、エンディングに登場し、最後はユーミンのもとへ。ただ今回は、それで終わらず、紗幕の映像のドラゴンへバトンタッチされ、それもやがて昇天する。

小田原豊のドラム・ソロから場面が再び変わり、着物から一転、次は躍動的なカウガール姿のユーミンだ。曲は、この姿の期待どおり「Cowgirl blues」であった。ダンサー達とともに、激しいステップを見事にこなす。

「もう愛は始まらない」では、「もう一度、手をあげてもらっていいですか」と客席を促し、再びフリフラの光が揺れる。

しかしその熱狂を沈静されるように「Carry on」へと続く。ユーミンが立ったステージの中央がせり上がる。[モノクロームの時間]が[虹色に]という歌詞のごとく、せり上がった舞台の側面、さらに我々の手元のフリフラの色彩、そして会場全体が虹色に変化していく。

「セシルの週末」で、客席に向かい、挑発的なポーズを取ると、客席は喝采を送る。やがて“セシル”は曲の途中でステージ下へ消え、変身した姿で曲中に現われ、続きを歌う。それはさっきの女の子が成長し、大人の女性となった姿のようにも見えた。

ロングのソバージュの髪型に、80年代の衣装をモチーフにしたライダース・ジャケットを、今現在の流行であるオーバーサイズにアレンジした衣装は、いわゆるバブル時代の女性のイメージだが、ユーミンはステージで、そんな時代に先鞭をつけるかのように展開していた。

「当時、よく続けて演奏していた」という前置きから、まずは「ハートブレイク」を。ここでの振り付けは、1984年の映像作品『コンパートメント(TRAIN OF THOUGHT)』のものだ。曲のアレンジも、ダンスの見せ場を考慮している。踊るユーミンやダンサー達も、実に楽しそうだ。続けて「結婚ルーレット」。確かにこの曲順は、84〜85年の「YUMING BLOOD」ツアーや、86〜87年の「YUMING VISUALIVE ALARM a la mode」ツアーでも採用されていた。

“Friday Saturday Sunday…と、曜日のカウントダウンから、始まったのは「月曜日のロボット」だった。ここで一気にダンス・チームが大人数になったと思ったら、ひとりのダンサーが両脇に人形を従え、横棒を操作してのパフォーマンスなのだった。途中、ステージに腰掛け立ち上がるなどの動きも、見事に全員の息が合うのだ。これらの演出は、ユーモラスとも少し違う感覚だ。エスプリが効いている? そう。この表現はどうだろうか。

「ダイアモンドダストが消えぬまに」でも、ステージを360度覆う紗幕が降り、曲に合わせ、海の中の景色となる。歌詞がシャンパンを開ける場面に差し掛かると、映像のなかでも泡が弾けた。

場内のムードは一転して、続くは「不思議な体験」だ。この作品は過去も、奔出するレーザーの海での歌唱など、スペクタクルな演出がおこなわれていたが、今回は、紗幕の中でダンサーの空中パフォーマンスが繰り広げられた。この演出では、ユーミンは、ところどころにライトを装着した宇宙服のような衣装で登場した。(ツアー・パンフで確認すると、これは服というより、ユーミン自身が“ポスト・ヒューマン”になったようなイメージのものだった)。

「Nobody Else」では、ダンサー達が紗幕の向こうではなく、より眼前に。エアリアルティシューと呼ばれる吊された布をつかう空中パフォーマンスを繰り広げる。体に巻き付けた布を、一気に解き放ち急降下する技にはドキドキした。

このシーンには、かつて『YUMING SPECTACLE 「SHANGRILA II〜氷の惑星〜」』で、大胆かつ華麗なエアリアルアクトを披露した、ロシアのダンサー、Zoya Barkovaも登場。今回、タイムマシーンというコンセプトで名シーンを、といっても、さすがに『SHANGRILA』は別だろうとタカをくくっていた自分は反省した。それも含むものであることに驚いた。

さらにストライプのスリーピースのスーツで現われたユーミンが、「ESPER」を歌う。とことんノリのいいこの曲は、ライブによく栄える。そろそろ終盤であることが分かったのは、彼女が「45年のタイムタイムトラベルは、如何でしたか?」と客席に問いかけたMCからだった。「そろそろタイムマシーンは現代へ」と告げて、「COBALT HOUR」へ。客席に出来るだけ近づき、すべての人達に感謝の笑顔を振りまきつつ、ステージを一周してのパフォーマンス。ここまで披露された総て作品が、再び書架に戻されるかのように「宇宙図書館」へ。曲が終わると、出演者は横並びで順番に向きをかえて挨拶し、ステージを去った。

アンコールはマリンルックで登場。曲は「カンナ8号線」。客席も一緒になり、その場で行進するようなこの曲の振り付け自体、彼女がやってきたツアーの“名場面”だろう。ここではユーミンのロゴの大きなフラッグをもったダンサーが登場。これは1995〜96年の「KATMANDU PLIMGLIM」ツアーで行われた演出が基になっている。さらに「DESTINY」。このあたりは彼女の定番にして永遠の作品達である。

「DESTINY」が終わり、先ほどのZoya Barkovaが再び登場し、このステージのキャスト全員が揃い、ユーミンにタイムマシーンのクリスタルを手渡した。それを空に向け、掲げる。すると雷鳴のような音が轟いた。これは盗まれたタイムマシーンを返した、ということであり、オープニングの演出と、対を成すものだった。

ユーミンは話し始めた。この45年間があっという間だったことや、「今回はこんなショーにしてしまったから引退かと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、まだまだこんなもんじゃ終わりませんよ!」と、ハッキリ言い放ちもした。「まだまだ聴いてもらいたい作品がいっぱいある」。そして最後にこのステージの音楽監督を務める武部聡志のピアノで「ひこうき雲」を披露。ステ−ジを去る彼女…。

しかし拍手は鳴り止まず、再びステージに戻ってくると、涙声で「幸せです! アンコールありがとう」と感謝を伝えた。ソングライターとしてスタートした頃から夢として持ち続けてきたこととして、「いつの日か、誰もが知っている曲を作れたら…」と想っていたことを告白。でも最近になって、「みんな知っていてくれているかもしれない、私の歌を」と実感できるようになったという。

その流れから、「よかったら一緒に歌ってください」と客席に呼びかけ、最後は「やさしさに包まれたなら」。これぞまさに、老若男女が知っているユーミン・ソングだろう。彼女は客席にマイクを向ける。その瞬間、伴奏もブレイクし、客席の歌声が響く。みんな大きな声で歌っている。そうやって、360度から降り注ぐファンの想いを、彼女は抱き締めるような仕草でしっかり受け止めていた。

それでもまだ、客席は拍手と歓声を送り続けた。するとユーミンは、「最終日だしサプライズを期待している人も…」と、こちらの気持ちを汲んでくれて、「私のタイムマシーンに一番長く乗っている人!」と、ユーミンの音楽プロデューサーであり演出家の松任谷正隆をステ−ジに呼び込む。ピアノのある場所へ誘うようにして、松任谷正隆の伴奏で「卒業写真」が歌われた。

アルバムの写真に涙がぽろぽろ落下しそうな「卒業写真」であった。

いずれにしても二人のなかで、次の旅支度は既に始まっていることだろう。

文 / 小貫信昭 撮影 / 田中聖太郎

Ghana presents 松任谷由実 TIME MACHINE TOUR Traveling through 45years
2019年5月16日 日本武道館

セットリスト

1. ベルベット・イースター 
2. Happy Birthday to You ~ヴィーナスの誕生 
3. 砂の惑星
4. WANDERERS
5. ダンデライオン ~遅咲きのたんぽぽ
6. 守ってあげたい
7. かんらん車
8. 輪舞曲(ロンド) 
9. 夕涼み
10. 春よ、来い
11. Cowgirl Blues 
12. もう愛は始まらない
13. Carry on
14. セシルの週末
15. ハートブレイク
16. 結婚ルーレット
17. 月曜日のロボット
18. ダイアモンドダストが消えぬまに
19. 不思議な体験 
20. Nobody Else
21. ESPER 
22. COBALT HOUR
23. 宇宙図書館

ENCORE 1
24. カンナ8号線 
25. DESTINY
26. ひこうき雲

ENCORE 2
27. やさしさに包まれたなら

ENCORE 3
28. 卒業写真

オフィシャルサイト
https://yuming.co.jp

vol.347
vol.348
vol.349