Interview

「大人のためのルパンを作ってくれてありがとう」─『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』は、いかにしてモンキー・パンチの志を継ぐ重要作となったか

「大人のためのルパンを作ってくれてありがとう」─『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』は、いかにしてモンキー・パンチの志を継ぐ重要作となったか

モンキー・パンチ原作による国民的アニメシリーズのスピンオフ作品として、アニメ映画『REDLINE』などで知られる小池 健が監督を務め、2014年に『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』、2017年に『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』が公開された『LUPIN THE ⅢRD』シリーズ。“小池ルパン”として知られるこのシリーズは、作品ごとにひとりのキャラクターを深堀りする構成で、モンキー・パンチによる原作やTVアニメのファースト・シリーズの雰囲気を現代に復活させた、ハードな「大人のルパン」として人気を集めている。

その最新作にして、峰不二子に焦点を当てた最新作『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』は、荒野を舞台に、彼女が少年ジーンと逃避行を繰り広げる物語。本作で通算3作目となる『LUPIN THE ⅢRD』シリーズと、今年4月にモンキー・パンチ氏が亡くなってから初のルパン作品となる本作に込めた思いを、小池監督に聞いた。

取材・文 / 杉山 仁


ファースト・シリーズの雰囲気を現代的に表現してみたいとスタートさせた『LUPIN THE ⅢRD』シリーズ

小池監督が手掛けてこられた『LUPIN THE ⅢRD』シリーズは、キャラクターデザイン&作画監督として関わられていた2012年のTVシリーズ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』の流れを汲んだ、モンキー・パンチ先生の原作やTVアニメのファースト・シリーズ(通称「ファースト・ルパン」)にも通じる「ハードボイルドな大人のルパン」を感じさせる作品になっていますね。

そうですね。元々僕自身が『ルパン三世』に触れていちばん衝撃を受けたのが、『漫画アクション』の表紙にモンキー先生が書かれた峰不二子のイラストでした。アメコミと劇画が混ざったようなその表現に、とても衝撃を受けたんです。同時に、TVアニメのファースト・シリーズにも何度も触れていて、その中でも僕は、特におおすみ正秋さんが監督されたハードで大人っぽい初期の雰囲気が好きでした。

ガジェットもそうですし、タバコやお酒、車、銃にリアリティが感じられて、まるで大人の世界に触れるような感覚で。その雰囲気を現代的に表現してみたいとお話しして、まずは次元(『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』)からスタートさせたのが、今回の『LUPIN THE ⅢRD』シリーズでした。

次元、五ェ門、そして今回の不二子という形で、作品ごとにひとりのキャラクターに焦点を当てていくという構成は、どんなアイディアから生まれたものだったんでしょう? 

元々ルパンは一味の中でも知能が高く、チーム戦を好む人物で、「一味のブレーン」的な役割のキャラクターですよね。ですから、その片腕となる次元や五ェ門の魅力をそれぞれ深堀りすることで、スピンオフ作品としてうまくまとまるんじゃないかと考えたんです。

また、敵役に関しては、「ルパン一味対殺し屋」という構図で統一して、毎回彼らが敵いそうもないような強敵を登場させることを意識しています。そもそも、ファースト・ルパンにも魔術師パイカル(第2話『魔術師と呼ばれた男』)や殺し屋プーン(第9話『殺し屋はブルースを歌う』)のように魅力的なキャラクターが多かったので、ドラマを盛り上げて緊張感を出すためにも、「強敵である」ということはとても大切にしています。

小池監督の『LUPIN THE ⅢRD』シリーズは、PG-12指定になっていて、戦闘/アクション・シーンが非常にハードなものになっているのも特徴のひとつですね。

そうですね。例えば、長回しのカットで表現した『血煙の石川五ェ門』の50人斬りのシーンは、特にカロリーが高いシーンだったんじゃないかと思います(笑)。作品の中でどこにリアリティを置くかという部分でカットの作り方にも挑戦しているのですが、あのような長回しでは嘘がつけないので、作品内でのリアリティを上げることができるんです。こうした長回しは、今回の『峰不二子の嘘』でもアクション面でのポイントになっていますね。

2作手掛けた時点で、監督としてはどんな手応えを感じていましたか?

少なくとも、自分たちが作りたかった『ルパン三世』の世界観は表現できたかな、とは思っていました。僕自身が『ルパン三世』に出会ったときに衝撃を受けた、ルパンたちがまだ出会って間もない頃の雰囲気を、今の表現として打ち出せたことがよかったな、と思っています。

実際、小池監督が手掛けた『LUPIN THE ⅢRD』シリーズには、生前のモンキー・パンチ先生も非常に喜ばれていたそうです。

モンキー先生は基本的に「ご自由にどうぞ」という形でやらせてくださったのですが、完成したものを観ていただいた際に「大人のためのルパンを作ってくれてありがとう」と言っていただけたのが、とても印象的でした。

ただ、僕が直接先生と会ってお話させていただく機会は、2回しかなかったんです。最後にお話ししたのは『東京アニメアワードフェスティバル2015』でモンキー先生が功労賞を授賞式されたときで、すごく優しい言葉をかけていただいたのを覚えています。モンキー先生は絵描きとして大先輩にもかかわらず、とても気さくで、「小池さんのルパンを作ってくれてよかった」と言ってくださいました。すごく温かい雰囲気に包まれた、いい時間でした。そこで「『ルパン三世』のシリーズのひとつとして認めていただけたのかな」と感じたのを覚えています。

また、『次元大介の墓標』が完成して試写を行なったときにも、モンキー先生が隣で観られていたんですが、作品の中にマモー(劇場版第1作目『ルパンVS複製人間』に登場するキャラクター)が出てきたときに、とてもいい反応をしてくださったことも印象的な思い出です。

今回は不二子の弱点を描くことで、彼女の新しい表情を見せられたら、と

そして今回の『峰不二子の嘘』は、次元、五ェ門と続いた『LUPIN THE ⅢRD』シリーズにおいて、ヒロイン「峰不二子」をフィーチャーした回になっています。小池監督はもともと、不二子というキャラクターにどんな魅力を感じますか?

不二子のことは、きっと皆さん好きですよね(笑)。知能が高くて、美貌があって、身体能力が高い。これはおそらく、どの方も感じている魅力だと思います。

中でも、僕自身がいちばん印象的だったのは、ファースト・シリーズの第2話の『魔術師と呼ばれた男』の不二子でした。あの回は、とても大人な回じゃないですか? パイカルは女性として不二子を囲っているし、ルパンも女性として不二子を奪いに行くし、その中で不二子の本音はよく分からない。その嘘のつき方や所作がとにかく妖艶で、驚きを感じました。不二子は単独行動も多いですし、自由な女性の象徴でもあって、謎めく女であることが魅力的な人物だと思います。

モンキー・パンチ先生が生前のインタビューで『ルパン三世』の世界観の参考にされたと話していたこともある、『007』のミューズに通じる雰囲気もありますね。

ああ、そうですよね。そんなふうに男性を翻弄する雰囲気が、ドラマに緊張感をもたらすと同時に華やかさを加えてくれるので、峰不二子というキャラクターは、『ルパン三世』に欠かせない要素だと思います。今回の作品では、そうした要素を踏まえつつ、峰不二子というキャラクターに新しい付加価値を加えられたら、ということを考えていきました。

具体的には、不二子のどんな側面に焦点を当てようと思ったのでしょう?

多角的に、いろいろな見え方ができるものにしたいと思っていたので、先ほどお話した知能と美貌とフィジカルの3要素をちりばめたうえでの話ですが、今回は不二子の弱点となる「子供」(=ジーン)との逃避行を描くことで、彼女の新しい表情を見せられたらいいな、と考えていました。

とはいえ、母性を強調しすぎると「それは峰不二子ではないんじゃないか」ということになってしまうので、そのバランスの取り方にはかなり苦労しました。

ジーンの存在は、今回の作品の大きなカギになっていますよね。あれほど男性を翻弄できる峰不二子というキャラクターが、子供相手にはこんなに困ってしまうのか、と(笑)。

はい(笑)。不二子は男性を誘惑して、自分の思い通りになるように翻弄することを得意にしていたわけですから、それが通じない、何もかもうまくいかない状況に追い込まれたときに「彼女がどうするか」というところが、今回の物語の重要な要素です。だからこそ、そこを越えたときの爽快感も出るんじゃないかと思っていました。

2011年から峰不二子を演じられている沢城みゆきさんは、口調自体はすごく柔らかい方なので、優しい雰囲気もあると思いますし、同時に言葉尻にトゲがあるような演技もされていて、新しい不二子像を作ってくれていると感じます。男性を突き放すような台詞の言い回しにも張りがあって、そこは不二子の強さを表現してくれている部分ですね。僕が『LUPIN THE ⅢRD』シリーズで監督をすることになってからは、なるべく沢城さんが演じる幅の部分が伝わるように試している部分もあります。特に今回は、その要素が強く感じられる作品なのかな、と思っています。

たしかに『峰不二子の嘘』には、不二子という人物の様々な表情が詰まっていますね。

序盤には家庭教師としての優しい表情も見せますし、一方で男性を翻弄するような表情もありますし、アクションでの張りのある声もありますし、ラスト・シーンでは女性的な表情も見せますし……。今回の作品はまさに、峰不二子のいろいろな表情が楽しめる作品になっているんじゃないかと思います。

アクション・シーンも、沢城さんの声が入ることで、より臨場感が出たように感じました。息遣いもとてもリアルな感じで伝わってきますし、強さと色っぽさの両方が混在するキャラクターを演じてくださったのかな、と思いますね。

一方で、今回の敵役となる宮野真守さん演じるビンカムも、不二子が主人公の作品ならではの敵だと感じました。『LUPIN THE ⅢRD』シリーズでは、銃の名手である次元が主人公の『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』に狙撃の名手・ヤエル奥崎が登場し、五ェ門が主人公の『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』では斬鉄剣とは対照的に斧を駆使するパワー・タイプのホークが登場するなど、主人公に対応した敵役が登場している印象です。

宮野さんの甘い声が素敵なのでオファーさせていただいたんですが、宮野さんに関してはテストの段階からキャラクターが完成されていました。ビンカムには無垢な青年としての側面があって、同時に呪いをかけるシーンのドスの効いた声の表情もあって、そのギャップが特徴的だったので、「ビンカムというキャラクターを確立できる」と手応えを感じましたね。

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