Interview

「大人のためのルパンを作ってくれてありがとう」─『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』は、いかにしてモンキー・パンチの志を継ぐ重要作となったか

「大人のためのルパンを作ってくれてありがとう」─『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』は、いかにしてモンキー・パンチの志を継ぐ重要作となったか

不二子からすると、ジーンもビンカムも「自分を女性としては見ていない」人格なんです

ヤエル奥崎やホークのように直接的に殺傷能力が高いタイプではなく、呪いを駆使するキャラクターと戦うことになるのは、やはり不二子が主人公の作品だからでしょうか。

そうですね。ビンカムはシャーマニックな方法で不二子たちを追い詰めるキャラクターで、これまでとは違った形での「強さ」を押し出したいと思っていました。そこで、ヤエル奥崎やホークとは違う、青年の見た目で、無垢な雰囲気の、新しい殺し屋のイメージを考えています。

ビンカムは、「殺し屋としてのアイデンティティ」と「食べることへの興味」しか持ち合わせていない、言ってしまえば、どこかサーカスの猛獣のような雰囲気の人物ですよね。

つまり、不二子からすると「果たして彼を翻弄できるのか/誘惑できるのか」という意味で、ジーン同様に攻略することが難しいキャラクターになっている、と。

そうです。今までの峰不二子の常識が効かない相手が、彼女に人間扱いされたときに変わるのか、変わらないのか――。そういうところを楽しんでもらえるとうれしいです。ただ、それをビジュアル面でどう落とし込んでいくかについては、かなり試行錯誤しました。

そういった意味で、監督がこだわられたシーンはありますか?

いちばんポイントになったのは、ビンカムと不二子が戦うシーンの中で、互いの目と目が映りこんで無限ループをするようなシーンですね。あの場面の間のとり方は、かなりチャレンジした部分です。音楽も効果音も含めて、不二子の眼に吸い込まれていくような雰囲気を表現したいと考えていました。

今回の作品にはハードなアクションも多数登場しますが、「その本質は心理戦だ」という雰囲気が見事に表現されていると感じました。他にこだわられたシーンと言いますと?

もうひとつカギになるのは、不二子と行動を共にする少年・ジーンの心理描写でしょうか。その移り変わりをていねいに描いていかなければ、ジーンがどんなふうに不二子の足かせになっているのかが伝わりにくいので、彼の心理描写に関しては、かなりていねいに拾って、注意して用意しています。中でもポイントになるのは、不二子とのお風呂場のシーンですね。あのシーンでは、ジーンの表情をかなりていねいに拾って作り上げていきました。

峰不二子とお風呂に入って冷静でいられる成人男性はいないでしょうから、あの場面は子供のジーンだからこそ成立するシーンですよね。それが今回の敵役・ビンカムと不二子の関係性とも相乗効果を生んでいくような雰囲気で、非常に面白かったです。

そうですね。ビンカムも見た目は青年ですが、その中身は「無垢な少年」なんですよね。ですから、その無垢な心情はリンクさせながら、見た目も立場も違う存在として2人を登場させています。つまり、不二子からすると、ジーンもビンカムも「自分を女性としては見ていない」人格だということで。その2人がどのように物語に関わってくるかが、今回の重要なポイントだと思います。

一方で、アクション・シーンに関しては、荒野が舞台ということもあり、一つひとつの動作に対して砂煙が舞っていて、それが激しいアクション表現に繋がっていると思います。今回乾燥地帯を舞台に選んだのは、そうした表現ができるからという理由もありましたし、ビンカムの奥の手である呪いが砂煙を使ったものになっているのも、乾燥地帯ならではの特徴を生かした武器を考えた結果生まれたアイディアでした。

なるほど。全編を通して、荒野の雰囲気が臨場感のある形で感じられたことも印象的だったのですが、それは設計段階からの工夫があったからこそだったのですね。

場所として明記してはいませんが、舞台としてイメージしたのは、カリフォルニア東部の荒野です。たとえば、あの地域に走っているタイプの貨物列車を使って不二子が逃避行に成功するシーンは、今回の地域ならではのものだと思います。また、陽が陰ったところで出てくるモーテルの描写もこの地域ならではのもので、美しく表現できたのかな、と思っています。

毎回モンキー先生が近くにいることを感じながら制作している感覚です

『峰不二子の嘘』は、生前のモンキー・パンチ先生にも観てもらえたのでしょうか?

残念なことに、観ていただくことはできませんでした。僕らとしては、今年の『AnimeJapan 2019』でモンキー先生からコメントをいただいたところで、先生も完成をすごく楽しみにしてくださっていたので、それは心残りな部分で、とても残念に感じています。

劇中の最後にも、モンキー・パンチ先生へのメッセージが挿入されていますね。

最後のビデオ編集(作品の最終確認をする工程)のときに、モンキー先生が亡くなられたことを知ったのですが、そこで「こういうコメントをつけたい」と提案を受けたんです。

このコメントだけで感謝を表現できるかというと、もちろん言い尽くせない部分はありますが、モンキー先生が亡くなられて最初に露出する作品に、私たちなりのメッセージをつけさせていただくことで、先生のこれまでの功績を称えて、いろんな方々が先生のことを思い出しながら作品を楽しんでいただくことができればうれしく思いました。

今回の『峰不二子の嘘』もそうですが、僕らは作品を作る過程で「モンキー先生だったら、どんなふうにキャラクターを表現するだろう?」「どういう演技付けをするだろう?」ということを、原作を何回も読み返しながら考えていくんです。ですから、毎回モンキー先生が近くにいることを感じながら制作している感覚で、作るたびにモンキー先生のことが頭によぎるんです。

今回は、残念なことに完成形を観ていただくことはできませんでしたが、もしもまた新作を作る機会ができた場合には、より熱い思いを感じて制作することになるんじゃないかと思っています。

これまで『LUPIN THE ⅢRD』シリーズを3作手掛けられてきて、このシリーズ自体の広がりも、感じられているのではないでしょうか。

僕としては、「ファースト・シリーズ初期の雰囲気に通じるものを作りたい」という提示を、1作目の『次元大介の墓標』で形にできたと感じましたし、そのタッチで続けて3作作らせていただけたことは、とても光栄な経験でした。この作品を様々な方が観ていただければ、シリーズ自体が完結に向けてまた動き出せると思うので、ぜひ劇場で楽しんでいただけるとうれしいです。

今回やっと3作に横たわる伏線が回収されはじめて、「『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの各作品は繋がっている」ということが認識できるんじゃないかと思うので、僕としては、またチャンスをいただけるのであれば、このシリーズを完結まで持っていきたいと思っています。

自分自身もそうですが、より若い方の場合、物心ついた頃に触れた『ルパン三世』のイメージというのは、コメディタッチの三枚目のルパンだったことが多いのではないかと思います。そういう意味でも、小池監督の『LUPIN THE ⅢRD』シリーズを通して、モンキー・パンチ先生の原作やファースト・シリーズにたどり着く方も多いかもしれません。

そうなってくれたら、とてもうれしいですね。『ルパン三世』シリーズの原点でもありますし、傑作もたくさんありますので、ぜひ初期の作品も観ていただきたいです。『ルパン三世』は様々な先輩方によって引き継がれてきたシリーズですから、僕らとしては、その雰囲気は壊さずに、あくまで自分たちなりに初期の雰囲気を現在に繋げているつもりです。

ですから、この作品をきっかけに「懐かしい」と感じてくれる方がいてもうれしいですし、よりいろいろな方が過去の様々な『ルパン三世』に触れてもらえるきっかけになれば光栄です。モンキー先生が生み出した作品は、これからも永遠に、人々に愛されていくだろうと思っています。

劇場用アニメ『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』

2019年5月31日(金)より新宿バルト9 ほか限定劇場公開

【スタッフ】
原作:モンキー・パンチ
監督・演出・キャラクターデザイン:小池健
脚本:高橋悠也
音楽:ジェイムス下地
クリエイティブ・アドバイザー:石井克人
製作・著作:トムス・エンタテインメント
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム

【声の出演】
栗田貫一、小林清志、沢城みゆき、宮野真守 ほか

原作:モンキー・パンチ ©TMS

『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』オフィシャルサイト

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