LIVE SHUTTLE  vol. 349

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Mr.Children 着実に伸ばし続けてきた“音楽の到達距離”が成し得た、歌が隅々まで届いてくる演出。東京ドーム公演を振り返る

Mr.Children 着実に伸ばし続けてきた“音楽の到達距離”が成し得た、歌が隅々まで届いてくる演出。東京ドーム公演を振り返る

Mr.Children Dome Tour 2019 “Against All GRAVITY”
2019年5月19日 東京ドーム

開演前の静かなざわめき。この日は16時開演ゆえ、ドームの天井が外の光線を透かし、中は明るい。やがてメンバーの登場とともに大歓声が。田原のギターのオブスキュアな旋律が響き、場の空気にひとつの色彩が生まれる。リズムが加わり、曲は「Your Song」だ。前回アリーナ・ツアーでは、ラストに演奏された楽曲であった。

花道を走り出す桜井は両手で風を集めるような仕草をする。「さぁ一緒に!」と、5万人のオーディエンスを誘うと、“ウォ〜ウォォウォ〜ォ”という、大合唱が生まれた。

「さぁいくよ、東京ド〜〜ム!!」。照明がブルーのイメージを強めて、桜井もギターを構え、「Starting Over」へ。エネルギーが有り余っているのか、彼はエンディングでジャンプ、ジャンプ。さらに腰を、左右にキュッ、キュッ。鈴木英哉のカウントから「himawari」が始まり、この出だしの3曲は、“煽る”というより、誠実で、ひた向きな彼らを伝えた。

しかしこの感覚も、紛れもなく、ひとつの彼らの流儀である。音楽が身体に作用し、体を揺らすことができる要素と、歌詞が鮮やかに入ってきて、意識を鼓舞される部分との、バランスがいいのである。それが彼らの特徴でもあり、なので盛り上がるだけじゃなく、胸にも刻まれる。しかし次は…。

「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」。まさに強烈な“キック”が炸裂だ。「ついてきて〜っ!」。桜井が絶叫し、スクリーン全面に、ネオン看板の様々なデザインが浮かぶ。50年代アメリカのドライブイン風から(もし見間違いじゃなければ)香港あたりのオリエンタルなものまでが、ズラリとスクリーンを埋める。この曲は、客席全体が両手のワイパー。「もっと頂戴!」。そう促す桜井だった。日頃のムシャクシャ気分もこのワイパーで、綺麗さっぱり拭い去った気分になる。

ドームは広く、後ろのほうの人達は遠いかもしれないけど、「そこまで届くように演奏するから」と、そんな誠意を伝え、年号の話題に触れつつ、「改めて僕らの平成のヒット曲を、もう一回、もう一回…」と、歌謡ショーの名司会者のようなMCに続き、誰もが察した次の曲は、もちろん「HANABI」である。年号といえば、まさにMr.Childrenというバンドは、まるまる平成育ち。続く「Sign」は、イントロのピアノの瞬間に、“ウォ〜”と大きな歓声が巻き起こる。5万人からこんな反応を引き出す楽曲こそが、彼らの真の財産だろう。

前半では白いTシャツにベストという、どちらかというとフォーマルなイメージだった桜井だが、いつしかチェックのシャツでアコギを抱える。これ、モードでいえば「フォーク」のイメージ。ヘッド・セットのマイクをつけて、今回のツアー・タイトル、“Against All GRAVITY”の説明をしてくれる。それをかい摘まむと、“GRAVITY”とは重力のこと。我々が“地に足をつけていられる”のはそのお陰であり、しかし逆に、“空を飛びたい”と願う人には足枷となる。つまり“All GRAVITY”とは、単に重力のことだけじゃなく、自分がそれでも変わろうとするか、このままでいいと思うかにも関わること、なのだという。

話のあと、ヘッド・セットのまま、桜井はアコギを相棒に弾き語りを始める。原曲とは違う抑揚を自由に加えた「名もなき詩」だ。すかさず場内から手拍子が…。しかしそれを制止し、「嬉しいけど、俺の間合いでやらせてー」。“♪苛立つ〜ような街並みぃ〜”のあたりで、他のメンバーもステージに戻ってくる。やがてバンドでの演奏へ。ここで改めて、Mr.Childrenのメンバーが紹介される。

「さらに濃厚に音楽を届けるために」と話しつつ、二人のキーボード、SUNNYと世武裕子を呼び込む。その際、桜井は次に演奏する楽曲を作った頃、自分はBank Bandの活動もしていて、日本のトップミュージシャンと共演し、それはサッカーに例えればパスもセンタリングも自由自在の見事な音の交歓でもあったけど、でもやはり、自分はひとつのボールを15人くらいが取り囲むような“小学生のサッカー”が好きなんだ、なのでこの曲の入ってる『I♡U』のジャケットも、トマトがぐしゃっとなったみたいなデザインにしたんだ、と、そんな前フリから「CANDY」を披露した。“照明”などがステージから縦方向へと幾筋か伸びていき、それはこの歌の主人公が抱える、微妙な“心の角度”を象徴するかのように思えた。

続いてピアノの流麗なコードが響いた。まだ形あるメロディを紡ぐわけじゃなく、たゆたうようで、でも輪郭が具体的になると、「旅立ちの唄」のイントロであることが知れた。満ちては引く、その繰り返しのような曲調で、いつしか聴く者の心情に、ぴたりと寄り添うかのように歌われた。別れの歌ではあるが、聴いた後に残るのは、むしろ至近距離に感じる体温なのだ。

さきほど平成から令和、という話もあったが、次の曲は、20世紀から21世紀を迎える、まさにその大晦日から元旦の間の眠り、やがて目覚めとともにメロディも歌詞も生まれたものだと前振りし、それは「ロードムービー」のことだった。桜井自身、ミレニアムが移り変わる瞬間に、「あなたはこの先も、音楽を続けていいんだよ」というメッセージのごとく、この曲を授かったのだと話す。また、自分の作品のなかで、もっとも歌詞に愛着のある1曲であることも…。バイクで何処かへ疾走していく歌詞内容については、当時の彼の深層心理も作用してのことだったかもしれないが、街頭が照らす“2秒後の未来”が、みるみる過去へと置去りにされるかのようなスクリーンの演出が、直接的ではあるものの、むしろそれが、功を奏していた。

次の「addiction」は、『重力と呼吸』のなかでもアレンジに意匠がこらされた作品である。シンセとピアノの兼ね合い、さらにバンドの推進力ある演奏。しかし歌が始まる前にオーケストラルヒットのような意表をつくアクセントが加わる。ライブではさらに発展していた。終盤の、鈴木英哉のドラムと世武裕子のキーボードによるインタープレイである。ミュージシャンとしての引き出しが試される瞬間でもあり、息もつかせぬ応酬に、会場から大きな声援が巻き起こった。

ライブで映えるといえば、やはりこの曲、「Dance Dance Dance」だ。イントロからして、デジタル・ロック華やかなりし頃の硬質さが魅力であり、さらに四つ打ちビートが腰のあたりを突き上げて、熱狂へと誘う。場内の5万人から手拍子が起こる。それは日本人のDNAに支えられた“アタマ打ち”のリズム感であった。バンドの演奏から一瞬、中川敬輔のベースが“♪ディドドン”と剥き出しに聞こえる場面は秀逸であり、この時の彼は、(うつむき演奏に集中してはいるものの)歌舞伎でいう“大見得を切る”みたいな見せ場を演じていることにもなる。

「Monster」では、スクリーンの映像が抽象的な色彩をぶちまけて、さらにハレーションを起こすかのように揺れ始める。“モンスター”は、つまりはそんな得体の知れない存在だ。呟くような歌い出しから渾身のシャウトへと、桜井の表現のレンジに感服する。

顔を出した太陽が周辺をリングのように照らす“ダイヤモンドリングの夜明け”をイメージさせる映像が効果的だったのが「SUNRISE」で、曲調はまったく違うが、ある意味「名もなき詩」とも共通するメッセージが感じられる歌である。聴いていると、少しずつ気持ちがノッてきて、最後の最後に、それが溢れ出すかのような、そんな味わいのある作品だ。そんな曲の進行に呼応するように、最後はスクリーンの太陽がリングから完全に顔を出し、会場内には光が溢れた。

お馴染みの「Tomorrow never knows」を、とても丁寧に、崩さず演奏していたのも印象的であった。ここではオリジナルMVを彷彿させる空撮映像から、やがて平原、鳥たちの飛翔へとイメージを広げた。音楽という乗り物にみんなを乗せて、悲しみなどから出来るだけ遠いところへ運びたい。彼らが演奏し続ける、根本的な意義にも触れたMCから、曲は「Prelude」へ。歌詞がまさに、このMCに相応しいものであることに気づく。

そしてそして「innocent world」へ。滑らかなイントロが流れ始めると、場内には“イノセント時間”のような特別な時間の流れ方が表出する。そして、歌の最後に出てくる曲タイトルである“イノセント・ワールド”という言葉へと、すべてが収斂するかのように大団円を果たす。これは、わずか数分間の出来事だが、毎回毎回、実に大きな容積の出来事に思われる。大合唱する客席の姿が、大きくスクリーンに映し出された。

最後はみなさんを裸にしたいと思います、と、「海にて、心は裸になりたがる」を。ビート・ロック系のくったくない演奏で、メンバー全員、楽器を奏でることを楽しんでいる様子だ。客席はすぐさま反応し、パンパンパンと早いテンポの手拍子で盛り立てる。桜井はステージの上手・下手・花道を移動し、出来るだけオーディエンスに近づこうという姿勢を続けてる。しかも万遍なく、みんなの顔を確認するように、歌を届けていくのだった。ライブは小気味よく、後味良く、この曲をもって終了した。

アンコールは「SINGLES」からスタートし、「Worlds end」へ。この曲、ライヴによっては非常に“地の果て”を感じる印象の時もあったが、今回はよりメロディアスに楽しめた。

ここまで観て思うのは、今回のドーム・ツアーは広さに正比例しての過剰な演出など皆無の、それでいて歌が隅々まで届いてくる、そんなものだということだった。もちろん、もう少しすればデビュー30年にも及ぶこのバンドの歴史が、毎年、着実に伸ばし続けてきた“音楽の到達距離”が成せるワザとも言えるだろうが…。

桜井は、「こんなに長くやっているのに、今も5万人もの大勢の人達が僕らのライブに足を運んでくれるのだから本当に自分達は幸せだ」と噛みしめつつ、だからこれ以上を望むとバチがあたるかもと自制しつつも、それでもさらに言うなら「あと1曲…、いや、それでは謙虚すぎるかな。あと10曲は、ここにいるすべての人達がひとつになれるような曲を作りたい」と語った。それを、自分達の令和における目標のように掲げたのだ。

最後の最後は「皮膚呼吸」。ここ数年の作品のなかでもベストといえる名作ではなかろうか。若さの延長ではなく、若き日の自分を回想し、現在の立ち位置も確認し、それでも“変わっちまう事など怖がらずに”と歌っている。ドーム・ツアーのあとは、ロンドンでレコーディングをするそうだ。彼らはまさに、ブランニューな自分達へと、再び歩き始めようとしているのだろう。

最後まで見終って、さっき入ってきた東京ドーム独特の回転トビラから、水道橋の街へ出た。ドームの中は、外気より少しだけ気圧が高い。トビラをくぐり、それは元に戻ったハズなのに、しばらく僕の体は少し高めの…、そう、彼らが放った“音楽の重力”そのままだった。

文 / 小貫信昭 撮影 / 渡部伸

Mr.Children Dome Tour 2019 “Against All GRAVITY”
2019年5月19日 東京ドーム

セットリスト

1.Your Song
2.Starting Over
3.himawari
4.everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-
5.HANABI
6.Sign
7.名もなき詩
8.CANDY
9.旅立ちの唄
10.ロードムービー
11.addiction
12.Dance Dance Dance
13.Monster
14.SUNRISE
15.Tomorrow never knows
16.Prelude
17.innocent world
18.海にて、心は裸になりたがる
<ENCORE>
1.SINGLES
2.Worlds end
3.皮膚呼吸

Mr.Children

1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングルを世に送り出す。これまでに37枚のシングル、19枚のオリジナルアルバム、4枚のベストアルバムをリリース。2018年10月3日にNew Album『重力と呼吸』をリリース。
6月26日には、 LIVE DVD / Blu-ray『Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸』をリリースする。

オフィシャルサイト
http://www.mrchildren.jp

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