山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 61

Column

2019年のWe Belong Together / リッキー・リー・ジョーンズ

2019年のWe Belong Together / リッキー・リー・ジョーンズ

1979年。まだレコードしかなかった時代、全米はもちろん日本の音楽シーンに鮮烈な風を吹かせたリッキー・リー・ジョーンズ。
咥え煙草のジャケットとともに、その印象的な声とスタイル、自由と洗練をまとった音楽性は、彼女を瞬く間に時代の寵児へと押し上げた。
それから40年。ハイレゾでも4Kでも捉えきれない音を、光を、そのステージは淡く、深く、豊かに湛えていた。
結成40周年、HEATWAVE山口洋がときめきを込めて書き下ろす奇蹟の一夜。


ツアー中の大阪で素晴らしいコンサートを観た。ずっと体験したいと願っていたアーティスト、リッキー・リー・ジョーンズ。

コンサートの情報を前もってインプットしたりはしない。できるだけ白紙の方が好き。そうしておけば、ステージにセットアップされた楽器を見ただけで、想像がふくらんでワクワクするから。

開演時間が過ぎて、会場ではスマートフォンが機能しないことがアナウンスされ(素晴らしい!)、ステージに現れたのはドラマーでいて、パーカッションとヴィブラフォンまで同時に操る才人とギタリストの2名。

冒頭から2人がスポンテニアスな演奏を繰りひろげる。今宵は素晴らしい夜になることを確信。なぜって、それが足し算ではなく引き算の音楽で、即興性にあふれていて、みずみずしくて、自由を体現していたから。スカスカな音の隙間に人生や思考を重ねることができたから。これをやれる人は数少ない。実力に、自信と勇気が伴わなければ難しいことだから。来てよかった。

ガッツポーズ。

©渡邉一生

たまにバス・ドラムを踏まれるだけで、低音がこんなに安定感があって愛おしいものなのだと教えられる。ギタリストはときどきワーミー(エフェクターの一種)でベースラインを奏で、オブリガードを弾く。フェンダーのアンプからときどきノイズが出ていたけれど、それすらも音楽。彼のアイデアが素晴らしかったから、僕もすぐワーミーを買った。彼は2本のギター(エレクトリックとアコースティック)を使っていて、その日のインスピレーションでどちらを使うか、選んでいたフシもある。好きだったなぁ。そう考えるギタリストも、それを許すリッキーも。

2人はリッキーがどんな演奏をしようと、即座に反応できるように彼女から目を離さない。まるで恋人のように、親のように。その愛と緊張感が美しい。

完璧な音楽なんて求めない。人生と同じでたまに綻びるから、ピークが美しく輝いてくる。瞬間にしずくが寄りそってくる。これが僕の好きな音楽。ベースが存在しなければ、想像させればいいのだ。

さぁ、リッキー。

©渡邉一生

少女でいて、老婆のように可憐なひと。

ハイヒールを履いてステージに現れ、ヒールが高すぎると3曲めで脱ぐ。「わたし、ちっちゃくなっちゃったわね?」というセリフとともに声量は増す。そして最後の曲を歌う前に、もう一度ハイヒールを履いたのだけれど、もう声量が落ちることはなかった。

ウェールズとアイルランドが生んだ金髪の少女。きっとアメリカのダイナーでウェイトレスをしていなかったら、こんな歌たちは書けなかっただろう。人生の交差点。ローウェル・ジョージとの想い出も、トム・ウェイツとの愛の日々も、愚かなアメリカの大統領をdisるときも。瞳はいたずらっぽくクリクリと愛らしく。その声は若干鼻づまり気味で、唯一無二にキュート。

今はニューオーリンズに住むリッキー。なんだか、その気持ちはわかる。アメリカのほんとうの懐の深さ。リッキーの音楽は確かにルーツ・ミュージックに深い影響を受けているけれど、ジョニ・ミッチェルと並んで、あの歌たちは彼女たちにしか歌えない類のものだ。

©渡邉一生

蛇足だけれど、最近、ジョニの75歳を祝うコンサートのDVDを観た。名だたるアーティストたちが彼女の歌を歌う。でも誰一人としてジョニを超える歌はなかった。あくまでも僕の中では。

だからこそ、ジョニであり、リッキー。

生まれ変わったら、こんな女性に惚れることにする。金髪をかきあげて、耳にかける仕草がたまらなくチャーミングな64歳。

あれからずっと、2019年の「We Belong Together」が頭の中に響いている。それは幸せな耳鳴り。会場の外に出たら、人生が輝いて見えた。悪くなかった。音楽を続けてきたことは間違ってなかったと教えられた夜だった。

ずいぶん前のこと。アメリカでジェリー・ガルシアさんのコンサートを体験する機会に恵まれたのに、体調を崩して行かなかった。間もなく、彼は亡くなった。思い知ったのだ。観たいと思うコンサートを見逃すことだけはやめよう、と。彼女と2人の素晴らしいミュージシャンが僕に教えてくれたように、僕もそう思ってもらえる音楽を奏でたいと強く思った。

スマートフォンに記録できない、あの瞬間が愛おしい。

感謝を込めて、今を生きる。

RICKIE LEE JONES / リッキー・リー・ジョーンズ
1954年シカゴ生まれ。ウェールズとアイルランドの血を引く両親のもとに生まれ、不安定な家庭環境のなかで家出・中絶・ドラッグ等波乱に富んだ思春期を過ごす。19歳のときにロサンゼルスでウェイトレスとして働きながらクラブで歌い始める。1977年頃トム・ウェイツと出会って同棲を始め、「Easy Money / イージー・マネー」がローウェル・ジョージ(元リトル・フィート)のソロ・アルバム『Thanks I’ll Eat It Here / 特別料理』(1979)で取り上げられたことでデビューのきっかけをつかむ。1979年、ランディ・ニューマンやマイケル・マクドナルドなど錚々たるミュージシャンを率いてアルバム『RICKIE LEE JONES / 浪漫』でデビュー。全米3位の大ヒットを記録し、シングル「Chuck E.’s In Love / 恋するチャック」も全米4位に。同年グラミー賞最優秀新人賞を受賞。1981年、2ndアルバム『Pirates / パイレーツ』をリリース。参加したミュージシャンの多彩さはもとより、純粋さと革新性を増した音楽性で1作目以上の高い評価を得る。『Girl At Her Volcano / マイ・ファニー・ヴァレンタイン』(1983)、『The Magazine / マガジン』(1984)、 ウォルター・ベッカーのプロデュースによる『Flying Cowboys / フライング・カウボーイズ』(1989)、チャーリー・ヘイデンやジョー・ヘンダーソンらが参加した『POP POP / ポップ・ポップ』(1991)等コンスタントに作品を発表しながら、現在もライヴ活動を続けている。デビュー40周年にあたる今年、前作『The Other Side of Desire』(2015)から4年ぶり、カヴァー・アルバムとしては『The Devil You Know』(2012)以来7年ぶりとなる新作『Kicks』を5月15日に日本先行発売。翌5月16日にはNHK大阪ホール、5月17日にはBunkamuraオーチャードホールで来日公演を行った。


『RICKIE LEE JONES / 浪漫』〈SHM-CD〉

2016年9月21日発売/デジタル・リマスター盤/WPCR-17421/¥1,300(税別)/ワーナーミュージック・ジャパン
2019年7月24日発売予定/ハイレゾCD(MQA-CD×UHQCD)名盤コレクション<完全生産限定盤>/WPCR-18243/¥2,800(税別)/ワーナーミュージック・ジャパン
ランディ・ニューマンやマイケル・マクドナルド、ドクター・ジョンら豪華ミュージシャンが参加したデビュー・アルバム(1979年作品)。フォーク、ジャズ、ブルースなど多彩なルーツ・ミュージックに時代の空気をも内包した豊かな音楽性、独特のヴォーカル・スタイルは高い評価を得るとともに、シーンに大きなセンセーションを巻き起こした。全米4位を記録した「Chuck E.’s In Love / 恋するチャック」ほか「Young Blood / ヤング・ブラッド」、「After Hours / アフター・アワーズ」等全11曲を収録。

『Pirates / パイレーツ』〈SHM-CD〉

2016年10月19日発売/デジタル・リマスター盤/WPCR-1748/¥1,300(税別)/ワーナーミュージック・ジャパン
ドナルド・フェイゲン、ランディ・ブレッカー、スティーヴ・ガッド、アーニー・ワッツ、スティーヴ・ルカサー、デイヴィッド・サンボーンらワーナー・ブラザーズが誇る錚々たるミュージシャンが参加した2ndアルバム(1981年作品)。映画『理由なき反抗』にインスパイアされた「We Belong Together / 心のきずな」のほか、トム・ウェイツのことを歌った「A Lucky Guy / ラッキー・ガイ」等全8曲を収録。ジャケット写真はブラッサイ。全米アルバム・チャート5位。

『Kicks / キックス』

2019年5月15日発売/PCD-17802/¥2,700(税別)/P-VINE RECORDS
前作『The Other Side of Desire』(2015)から4年ぶり、カヴァー・アルバムとしては『The Devil You Know』(2012)以来7年ぶりとなる新作。リッキー・リー・ジョーンズとマイク・ディリオンのプロデュースで、現在住んでいるニューオーリンズで地元のミュージシャンとともにレコーディングされた。エルトン・ジョン「My Father’s Gun」やスティーヴ・ミラー・バンド「Quicksilver Girl」といったヒット曲に加え、スキータ・デイヴィスの古典「The End Of The World」、キャブ・キャロウェイが歌った「Nagasaki」、ジャズ・スタンダード「Mack The Knife」など、選び抜かれた全10曲を収録。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。バンド結成40周年となる今年、アルバム発表に向けて現在レコーディング中。3月に始まったソロ・ツアー“山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour”はこれまでに全国12会場でのライヴを終え、7月からはまた新たな旅が始まる。6月28日には2011年東日本大震災後から続けている“MY LIFE IS MY MESSAGE”を横浜THUMBS UP(サムズアップ)で開催。8月には日本初の本格的オールナイト野外フェスとして1999年に始まって以来21回目となる “RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO”にFRIDAY NIGHT SESSIONとして出演。2018年ツアーのライヴCD『日本のあちこちにYOUR SONGSを届けにいく』、2018年12月22日HEATWAVEライヴを収めた『The First Trinity』がライヴ会場をはじめHEATWAVE OFFICIAL SHOPにて発売中。

オフィシャルサイト

ライヴ情報

MY LIFE IS MY MESSAGE 2019
Brotherhood

6月28日(金)横浜THUMBS UP(サムズアップ)
出演:山口洋(HEATWAVE)×仲井戸”CHABO”麗市
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VORZ BAR & GROOVE COUNCIL presents MIX UP&BLEND vol.3
7月13日(土)仙台市 市民活動サポートセンター B1F シアター
出演:山口洋(HEATWAVE)/ 藤井一彦(THE GROOVERS)/ 大江健人
Opening Act:堀下さゆり&佐山亜紀
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山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour
7月21日(日)水戸 Jazz Bar BlueMoods
7月26日(金)佐賀 Restaurant & Cafe 浪漫座
7月28日(日)福岡ROOMS
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オハラ☆ブレイク’19夏
北のまほろばを行く-猪苗代湖畔編- powered by ARABAKI ROCK FEST.

8月9日(金)・8月10日(土)・8月11日(日)猪苗代湖畔 天神浜オートキャンプ場
出演:BAND:山口洋(G)・細海魚(key)and more
GUEST:仲井戸”CHABO”麗市
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RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO
北のまほろばを行く-石狩編- powered by ARABAKI ROCK FEST.

8月16日(金)・8月17日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
出演:BAND:山口洋(G)・細海魚(key)・辻コースケ(Per)and more
GUEST:仲井戸”CHABO”麗市 and more
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HEATWAVE sessions 2019 ③
9月23日(月・祝)東京 duo MUSIC EXCHANGE
*チケットBLOG先行発売:6月5日(水)〜6月16日(日)23:59
*チケット一般発売:7月13日(土)PM12:00〜
詳細はこちら

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