モリコメンド 一本釣り  vol. 121

Column

Maica_n (マイカ) 18才が生み出す“温故知新”。クールさとスケール感を持つシンガーソングライターの秘密

Maica_n (マイカ) 18才が生み出す“温故知新”。クールさとスケール感を持つシンガーソングライターの秘密

優れたポップスというのはいつの時代も、聴いた瞬間、「そう! いまの聴きたいのはこれだった!」というシンクロニシティ的な喜びがある。「Dance With Me」を初めて耳にしたときも、まさにそうだった。軽快でスムーズなギターカッティング、ソウルフルなパーカッション、抑制を効かせながら心地よいグルーヴを生み出すリズム・セクション、そして、切なさと解放感を同時に放つボーカルのフェイク。イントロだけで「これが聴きたかった!」という気持ちがあふれだす、ほんとに魅力的なポップチューンだと思う。

このまま曲の良さについて説明したいという欲望を抑え、まずはこの曲を生み出した新しい才能を紹介したい。彼女の名前は、Maica_n (マイカ)。この春、大学生になったばかりの神奈川生まれ、徳島育ちのシンガーソングライターだ。

幼い頃から父親の影響で、さまざまな音楽に触れていたという彼女。ザ・ビートルズの青盤、赤盤(最初のベストアルバムです、念のため)をはじめ、 ザ ・ バンド、 ダニー・ハサウェイ、エリック・クラプトン、シェリル・クロウ、ボズ・スキャッグス、 ロン・ウッド、 ジェームス・テイラー、 リッキー・リー・ジョーンズ——70年から90年代のおける最も良質な音楽——を身近に感じながら育ち、その音楽的感性を(おそらくは無意識のうちに)磨いていった。その頃のお気に入りがスティーリー・ダンの「幻想の摩天楼」だというのだから、センス良すぎ。周りの友達とは絶対に話が合わなかっただろうなと、余計な心配をしてしまう。

中学に入るとエルビス・プレスリー、ストレイキャッツに代表されるオーセンティックなロックンロールに興味を持った彼女は、当然の流れとしてギターを弾き、オリジナル曲を書き始める。その楽曲が音楽関係者の耳に留まり、山崎まさよしの主催による徳島の秋フェス「エコカメプロジェクト」のオープニングアクトに大抜擢。その後も曲を作り続け、カバー(星野源、エド・シーランなどのカバーをYouTubeにアップ)やライブ活動を通してシンガーソングライターとしての土台を固めてきた彼女がついに本格的なデビューを飾る。その最初のアクションは、「Dance With Me」を含む5曲入り音源『秘密』のリリース。豊かなルーツミュージックからの影響をたっぷりと含んだメロディライン、生楽器の響きを活かしたアレンジ、リアルな日常を普遍的な歌に導くソングライティング。この作品には、シンガーソングライターとしての大きな可能性がしっかりと刻み込まれている。

彼女が生み出す楽曲は、まさに温故知新。70〜90年代の音楽をしっかりと吸収しながら、いまの時代にふさわしいポップへとつなげていて、それを象徴しているのが、前述した「Dance With Me」だ。10年代のトレンドであるネオソウルの流れを汲みつつ、シンプルにしてしなやかなサウンドのなかで、心地いいメロディを響かせる。大げさに歌い上げるのではなく、しっかりした芯の強さとどこかクールな佇まいを感じさせるボーカルもいまの気分だ。

タイトル曲「秘密」もきわめて魅力的だ。ピアノ、ドラム、ベース、ギターによる抑制の効いたアンサンブルから香るのは、ソウルミュージックの豊かなエッセンス。そのなかで彼女は、ゆったりと身体を揺らしたくなるようなグルーヴとともに、<溢れる吐息 震える耳から 骨を通して 腰まで響いて>というフレーズを響かせる。さらに楽曲の後半では、突然ディストーション・ギターが鳴り、“このままじゃいられない、でも、今はどうかこのまま”という感情を爆発させ、リスナーに圧倒的なカタルシスを与える。才能と年齢は関係ないとわかってはいても、この楽曲のクオリティとスケール感は、とても18才には思えない。

そのほか、往年のAORを想起させる洗練されたバンドサウンド(歪み強めのギターがカッコいい!)としなやかでエモーショナルなボーカルが交差する「Hanakoさん」、ザ・ビートルズがカバーしたことで知られる「Baby it’s you」(ブルースロック的なアレンジが渋い)、ボサノヴァ経由のアコースティックギター、<煙草が苦手な私と 煙草が好きなあなた>の情景を描いた歌がひとつになった「タバコと私」(こんなシチュエーションの歌が書けるとか、やっぱり10代とは思えない)を収録。ルーツミュージックと日本語の響きを活かした歌を結び付けることで、幅広い層のリスナーに届くべき作品に仕上がっている。凛とした歌声、真っ直ぐな強い視線と一緒に、“Maica_n”の名前は多くの音楽ファンを魅了することになるだろう。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
http://maica-official.jp

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