【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 128

Column

YMO ノリノリだけどノー天気じゃなく、どこか賢そうだった「テクノポップ」という新ジャンル

YMO ノリノリだけどノー天気じゃなく、どこか賢そうだった「テクノポップ」という新ジャンル

先日、すごく久しぶりに「RYDEEN」をデカい音でフルコーラス聴いてみた。シンセサイザーを使った音楽は、時間が経つと音色が古く感じられたりするが、この曲は今も、不思議なくらいピッカピカだった。

いわゆる“アンセム”っぽい曲調というか、気分が適度に高揚し、気高い心持ちになれるところも愛すべき点であり、気づけばアタマの中は、曲が終っても“♪チャ〜チャ〜チャ〜 チャララ チャッチャララララ〜”のままなのだった。なおこの曲の作曲は高橋幸宏である。

曲の真ん中へんで、パッカパッカと馬の蹄(ひずめ)の音が聞こえ(シンセサイザーで制作した音)、それをパーカッションのように使っている。こうした自然界の具体的な音を楽器代わりにする手法をミュジーク・コンクレートと言うが、そんなアイデアも盛り込まれているのだ。

この曲がヒットしたのは1979年から80年あたりである。思えば歌のないインスト曲。なのにこんだけ流行したんだから凄い。とかく歌詞に頼りすぎると、オンガクはブンガクじゃな〜い、などと批判されたりするし、なのでこれは、オンガクの完全勝利、とも言える結果だ。

さて、ヒットした年を書いちゃったけど、そんな情報はなくても、「RYDEEN」が巷に流れた頃、自分は何歳だったかをハッキリ覚えている方も多いだろう。このように、人それぞれの“記憶の栞”になれる音楽って、そんなに多くはないはずだ。

当時、日本の音楽シーンはどんな様子だったのだろうか。ピンク・レディーや沢田研二がコンセプチュアルな魅力を発揮し、山口百恵は“伏せ字”の歌詞を含む「美・サイレント」という実験作をヒットさせていた。少し前、ツイストやサザンオールスターズが登場し、ロックがお茶の間に浸透した時期でもあり、なにより“♪ジン、ジン、ジンギスカ〜ン”みたいな洋楽ディスコが大人気だった。

そんな中、YMOの人気爆発により市民権を得たのが「テクノポップ」という新ジャンルである。特徴は、ノリノリだけどノー天気じゃなく、どこか賢そうなところである。そもそも取り扱いが難しそうな機材を使いこなすことからして、賢くなければ出来ないのだ。音楽といえば、もちろんクラブ活動でいえば文系だけど、「テクノポップ」は理系な感じも兼ね備えていた。

ただ、当時はこれらの音楽に否定的な人々もいたのだ。やがてコンピューターがのさばり、人間性を喪失することに繋がりかねない。熟達した演奏技術が人々を感動させるのに、それを機械の自動演奏で代替できるわけがない。そう、これらの懸念だ。

でも肝心なのは、コンピューターを“どういう人達が扱うか”なのだと思う。幸いなことに3人は、シリアスからユーモア、ロケンロールから現代音楽・ワールドミュージックまで、広大な音楽地図を有する人達だったのだ(特にユーモア。彼らはそのあたりも長けていたから、金属で出来た電子楽器を人肌に出来たわけだ)。

YMOの物語はシンデレラ・ストーリーでもある。いや男性ユニットだから、シンデレラではないのだが…。でも彼らは、“成田を発つ時は見送りもまばらだったのに、帰国したらゲートに溢れんばかりの人達がいた”みたいな現象を巻き起こした。

1979年の5月。晴れて彼らは全米デビューを果たす。その後、“どうやら海外で凄いことになっているらしい”みたいな第一報から、やがてマスコミにより、現地の様子をリアルに伝えら始める。その後、TVで海外でのステージが、衛星中継されるほどになっていく。外国での話題が逆輸入され、国内での人気に火がついたのだ。

伝説の始まりとして知られるのは、その夏、ロスのグリーク・シアターでザ・チューブスというバンドのオープニング・アクトを務めたことだった。見事、観客を熱狂させたのだ。ザ・チューブスは批判性・独創性・演劇性を備えたクセの強いバンドであり、そんな彼らを観に来たファンを納得させたのだから、3人はサスガであった。

ワールドツアーを終え、帰国した彼らは凱旋公演を行う。気づけばYMOは“ブーム”の対象となり、さらにそれを越え、“現象”を巻き起こした。セカンド・アルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』は、国内でミリオン・セラーという栄誉に輝くことになる。

このジャケットは超有名だ。メンバーが着てるコスチュームは、ファンから“赤い人民服”と親しまれたが、もとは高橋幸宏が、『日本制服図鑑』に載ってた戦時中の「国民スキー服」をモチーフにしたものである。でも、3人(と男女のマネキン)が雀卓を囲っているので、中国を連想させたのだろう。

さらにそこに、西洋資本主義の象徴たるコーラの瓶が置いてあったりして、様々な深読みを誘発させる趣向だった。ジャケット裏面は、もはやギャグと呼びたいくらいのハチャメチャぶりだ。坂本龍一が女のマネキンと絡む姿からは、世間に対して機先を制し、自らの“アイドル化”を拒むかのような意志も伝わってくる。

デビュー・アルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』と『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』は、リリースでいえば約10か月ほどしか空いてないが、コンピューターの世界は日進月歩。さらにそこに、彼らの機材に対する習熟度具合なども重ねると、制作環境としては、かなりの変化があったのだろう。当初、細野晴臣が考えていた無国籍趣・トロピカルな曲の電子楽器による演奏というアイデアは、さらに発展し、高橋幸宏や坂本龍一の個性も、より示されるようになる。

興味深いのは[テクノ=コンピューター=自動演奏]と思いきや、人間サマも大活躍しているところ。「RYDEEN」より先にシングル・ヒットした「TECHNOPOLIS」は典型で、ヴォコーダーによる“トキオ”というアナウンスが未来世紀のメトロポリス・東京をイメージさせつつも、実はレコーディングの大半は自動演奏ではなく、手で弾いたものだったのだ。つまり“人間技”なんだけど、私達はそれを“人間臭い”というよりも、テクノポップとして楽しんだのだ。

『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』には、他にも様々な名作が詰まっている。沖縄の指笛のような音が聞こえてきて、細野晴臣らしいともいえる「ABSOLUTE EGO DANCE」は、例えて言うなら“チャンプルー料理を調理するフライパンの具材が、より細かく見事に絡み合ってる印象”の音作りになっていた。

坂本龍一の「CASTALIA」は静かな曲で、アルバムのいいアクセントだが、それまで一般の音楽ファンが耳にしたことがないようなアンビエント感覚というか、音のオーロラが幾重にも頭上に広がるかのような魅惑の境地に浸れた。

ビートルズの「DAY TRIPPER(デイ・トリッパー)」の大胆なカバーもあった。突っ込むような歌のアクセントは、オーティス・レディングのヴァージョンを参考にしたそうだが、YMOとR&Bの関わりといえば、のちにアーチー・ベル&ザ・ドレルズの「タイトン・アップ」のカバーも大評判となった。

この曲もそうだが、本作で聴かれる高橋幸宏の歌声は、どんなに電気的に加工しても、むしろそのことでこのヒトのDNAが、より強く届いてくる気がするのが不思議だ。

ただ…。(録音当時は未発表だったけど)マイケル・ジャクソンや、さらにエリック・クラプトンなどもカバーした坂本作曲の「BEHIND THE MASK」の本当の凄さに関しては、まだ気づいてないヒトも多かった。

文 / 小貫信昭

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