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松下優也や平間壮一が風間杜夫らと家族の在り方に向き合う。舞台『黒白珠』開幕レポート

松下優也や平間壮一が風間杜夫らと家族の在り方に向き合う。舞台『黒白珠』開幕レポート

人間の心模様を繊細に描くことに定評のある青木 豪の書き下ろしの最新作で、良質なエンターテインメント作品を生み出し続ける河原雅彦が演出を手がける舞台『黒白珠(こくびゃくじゅ)』がBunkamura シアターコクーンにて上演中である。
1994年の長崎を舞台に、とある家族の秘密が暴かれていくミステリーにて、母を知らない信谷 勇 役を俳優としてだけでなくダンス&ボーカルユニット“X4”としても活躍する松下優也、その双子の弟である信谷 光 役をミュージカル界には切っても切れない名プレイヤーの平間壮一が演じる。また、信谷兄弟の父親・大地を風間杜夫、母親の純子には高橋惠子と演技派も揃い、その信谷家の脇を清水くるみ、平田敦子、植本純米、青谷優衣、村井國夫といったフレッシュな若手から個性派が固めるという鉄壁な布陣。
6月7日(金)の上演前に行われたゲネプロと囲み会見について──。

取材・文・撮影 / 竹下力


つかず離れず、どこか遠くて近い。そんな距離感を保ちながら手を取り合って生きているのが家族

終演後、劇場を出るときについ口ずさんでしまったのが、ハナレグミの名曲「家族の風景」だった。夕暮れ時のどこにでもいる家族のことを朗々と歌った曲。父親、母親、兄弟・姉妹、みんながつかず離れず、どこか遠くて近い。そんな距離感を保ちながら手を取り合って生きているのが家族だと歌っていた。それは今作の本質にぴったりだと思った。

まず、1994年の長崎という地方を舞台にしているところに青木 豪の作劇の巧さがあると思う。私は静岡出身だけれど、バブルがはじけた90年代の中葉においても不景気という波が襲ってきているとはいえ、まだ地方においては他人への親切心が土着性としてギリギリ残っていた。簡単に言えば、ひとつの家族の周りには、恋人なり、親戚のおじさんやおばさんがいて、近所の定食屋さんの店主まで、困っていれば世話を焼いて必ず助けてくれる、今の時代には神話とさえ思われるかもしれない親密な人間関係が根付いていた。そんな舞台設定が今作では活きている。

真珠の加工・販売会社を経営している信谷大地(風間杜夫)の家には、アルバイトをすぐクビになり定職についていない、どこか粗暴な性格の信谷 勇(松下優也)が同居していて、そこに恋人の松原花苗(清水くるみ)がちょくちょく遊びに来ている。
ある日、東京の大学が休みということで、勇の双子の弟・光(平間壮一)が帰ってくる。光と勇は正反対な性格もあって、互いに忸怩たる想いがあるように見えるけれど、父親の大地が男手ひとつで、ここまで自分たちを育ててくれたのだから、文句は言えない。
そんな矢先、勇と光が幼い頃に生き別れてしまった母親・純子(高橋惠子)が存命中であることを知る。そして絶妙な距離感を保っていた信谷家にヒビが入り始める……。

スタインベックの小説『エデンの東』をモチーフにしており、映画であれば父親探しになると思うけれど、本作は母親探しがテーマになっている。まだ見ぬ母親に出会ったときに、自身がどんな変貌を遂げるのかが、勇と光という資質の違う兄弟の目線を通して多角的に語られていく。次第に真実があきらかになるにつれ、戸惑い、悩み、苦しみ、葛藤から人間の根源が炙り出されていく。兄弟同士や父親と息子の距離感が微妙に狂うだけで、家族の関係がダイナミックに変わっていく様を演出の河原雅彦が丁寧に描いていた。

なにより、キャスト陣が豪華だ。
一家の大黒柱である父親を演じる風間杜夫が本当に上手で、観ながら泣いてしまった。早くに両親を失い、男ひとりで築き上げてきた会社もバブルの崩壊でどうなるかわからなければ、ふたりの息子に跡取りも期待できないかもしれない。さらに自分たちを置いて出て行ってしまった妻との因縁もある。いろいろあったからこそ今がある、そんな大地という男の積み重ねてきた苦労が端々から感じられる渋い演技。昔ビデオで観た舞台『熱海殺人事件』の木村伝衛門の狂った演技が今でも目に焼きついているけれど、風間の芝居にはいぶし銀の魅力があった。

大地の息子・勇という人物は、野暮で、女の子には弱く、それでいて己の意思を貫ければそれでいいという性格。今で言う、自己中のダメ男というどこか垢抜けない役にも見えるのに、松下優也が演じると爽快感があった。彼にはひとつ、凛とした佇まいがある。それは彼の持つ身体性に理由があると思う。本作はダンスや歌のないストレートプレイだけれど、彼の所作には目を見張るものがあって、ふと歩くシーンや階段を駆け上がろうと伸び上がるちょっとした仕草、それらの身体の使い方がコンテンポラリー・ダンスのようで、見ていてとても繊細で美しくて印象的だった。イライラしたときに見せる、クシャクシャと髪をかきあげる仕草はどこかエロティックでもあり、自己中ながらもその内に彼なりの葛藤を抱えている様もにじませ、勇そのものを生きているように見えたし、そこに松下の持つ芝居の特異さが表れていた。

一方、光は勇とは対照的で、いつも冷静というか、どこか冷めた視点を持っている人物。落ち着いて見えるのに、おそらく登場人物の中では一番の激情家だ。そんな役を平間壮一は実直に演じていたし、感情を自在に操ることに長けた彼にはぴったりの役だとも感じた。ミュージカルで彼を観ていても思うけれど、平間壮一という俳優の感情表現は、本当に素晴らしい。泣いて、笑って、怒り狂う、圧巻の芝居だった。

“家族”という言葉は一般名詞だから、どこの国の誰にでも当てはめることができる。同時に、“今”、“ここ”にしかない唯一無二の固有名詞でもあることも教えてくれる。家族の数だけ、家族にしか見えない風景がある。そしてそこにはその家族の絶妙な距離感がある。父親、息子、娘、母親、彼らの間にあるそれぞれの距離には、優しさ、悲しさ、希望、絶望、秘密、愛、すべてが詰まっている。だからこそ家族は愛おしい。キャストの芝居から溢れる優しさが胸に去来する本当に素晴らしい舞台だった。

家族とは何かを考えていただける。笑って楽しんでもいただける作品

ゲネプロの前に囲み取材が行われ、松下優也、平間壮一、風間杜夫、高橋惠子、村井國夫が登壇した。

まず、初日を迎えた心境を尋ねられ松下優也は「僕らが今まで稽古をしてきたことを本番でどのようにお客様に感じていただけるか楽しみです」と語ると、平間壮一が「稽古期間中はいろいろなことがありましたが、無事に初日が開いて良かったです」とコメント。

風間杜夫は「最後まで脚本の直しがあった稽古でしたが、カンパニー一丸となってこの日を迎えたことを嬉しく思います」と稽古を振り返り、高橋惠子は「私たちが1ヵ月かけてつくり上げてきた作品をお客様に伝えるのが楽しみです」と意気込み、村井國夫は「朝令暮改のような脚本で、試行錯誤をしながら稽古をして本番を迎えました。緊張もしていますが楽しみでもあります」と語った。

双子の兄弟を演じるにあたって松下は「壮ちゃん(平間壮一)とは以前共演させていただいたので、仲間や友達に近い感覚で、双子という設定でも特別意識することなく、自然と演じることができました。言葉を交わさなくてもお芝居ができるのでありがたい存在です」と述べると、平間が「お互い容貌は似てないんだけどね」と取材陣を笑わせるコメント。

最後に松下が「壮ちゃんと僕、清水くるみさんと青谷優衣さんは平成生まれです。そんな僕らが大先輩と一緒に長崎弁でお芝居をしながら頑張ります。家族とは何かを考えていただけるし、笑って楽しんでもいただける作品です。ぜひ劇場に足を運んでください」と締め括り、囲み会見は終了した。

東京公演は6月23日(日)までBunkamura シアターコクーンにて上演。その後、兵庫公演、愛知公演、長崎公演、久留米公演を経て大千穐楽を迎える。

舞台『黒白珠』

東京公演:2019年6月7日(金)~6月23日(日)Bunkamura シアターコクーン
兵庫公演:2019年6月28日(金)~6月30日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
愛知公演:2019年7月6日(土)~7月7日(日)刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
長崎公演:2019年7月10日(水)長崎ブリックホール 大ホール
久留米公演:2019年7月13日(土)~7月14日(日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール

STORY
1994年、長崎。信谷大地(風間杜夫)は、真珠の加工・販売会社を経営していた。長男の勇(松下優也)は高校卒業 後、職を転々とし、大地を心配させていた。勇には花苗(清水くるみ)という恋人がいる。勇の双子の弟・光(平間壮一) は、大学に進学するために東京に出ていた。光に大地は期待を寄せていた。
勇は、周囲から、叔父に似ていると度々言われることから、いつの頃からか、自分の出自にある疑念を抱き始める 。 
勇と光は、母・純子(高橋惠子)の事をほとんど知らない。まだ二人が幼い頃、母は、叔父と不倫の末、駆け落ち し信谷家を出て行ったらしいが、その後の消息は聞かされていなかった。
出自へ疑念を抱えた勇。そして、ある出来事から母と再会することになった光…。
封印された家族の物語が、不協和音を立てがら動き出し、衝撃の真実を解き明かすパンドラの箱が、今開か。

脚本:青木 豪
演出:河原雅彦

出演:
信谷 勇(しんたに いさむ)役:松下優也
信谷 光(しんたに ひかり)役:平間壮一
松原花苗(まつばら かなえ)役:清水くるみ
吾妻久仁子(あずま くにこ)役:平田敦子
薮木三郎(やぶき さぶろう)役:植本純米
須崎沙耶(すざき さや)役:青谷優衣
須崎英光(すざき ひでみつ)役:村井國夫
水森純子(みずもり じゅんこ)役:高橋惠子
信谷大地(しんたに だいち)役:風間杜夫

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