Interview

スマホRPG原作が『マクロス』河森正治カラー全開でアニメになる面白さ。『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』キャリア40年の総監督が見せつけた手腕

スマホRPG原作が『マクロス』河森正治カラー全開でアニメになる面白さ。『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』キャリア40年の総監督が見せつけた手腕

現在、全世界900万ダウンロードを突破する本格タクティクスRPG『誰ガ為のアルケミスト』(以下、タガタメ)が劇場アニメ化。その『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』が、2019年6月14日(金)より全国公開される。総監督/ストーリー構成を務めたのは、『マクロス』シリーズや『アクエリオン』シリーズで知られる河森正治、アニメーション制作は河森率いるサテライトが手がけている。

原作ゲーム開発を手がけたFgGと強力タッグで完成した『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』は、錬金術と魔法が入り乱れる『誰ガ為のアルケミスト』の世界に、オリジナルキャラクターである現代の女子高生・カスミ(CV:水瀬いのり)が召喚され、熾烈な闘いに巻き込まれていくという新しいドラマを実現。迫力満点のバトルとハートウォームな成長物語を融合した、観応えのあるファンタジーアニメ映画となった。

さらにこの映画は、原作、監督、脚本、演出、メカデザインと、ひとり何役もこなす個性派クリエイター・河森正治が、プロデビュー40周年を迎えた節目に、初めてゲーム原作アニメにチャレンジした記念碑的作品にもなっている。河森が初の挑戦で感じたこと、この作品で訴えたかったメッセージを語ってもらった。

取材・文 / 阿部美香 撮影 / 樋口涼


実は何度もやりたかった……『天空のエスカフローネ』以来のファンタジー作品

河森さんがゲーム原作アニメを手がけるのは初になりますが、そもそものきっかけは?

2016年に『タガタメ』がリリースされたときに、オープニングアニメーションを僕とサテライトで作らせてもらったのがそもそものきっかけです。当時は映画化の話はまだなくて、2017年に改めて劇場版アニメの話をいただきました。

河森作品というと、河森さんご自身が原作から手がけるオリジナル企画アニメの印象が強いです。新作がゲーム原作物と聞いて、驚いた方も多かったと思います。

僕も原作物には何度かトライしたことがあるんですよ。でもだいたいの場合、原作側と「けっこう内容が変えてしまいますが大丈夫ですか?」「お好きにやってください」というやり取りがありまして。かなり念押しした上で、実際にシナリオや絵コンテを提出すると……「ここまで変えるとは思いませんでした!」とおっしゃられることの繰り返しなんです(笑)。正直なところ、今回も「またそうなったら悲しいなぁ」というのは、まず最初にありましたね。

河森正治総監督

それでも引き受けられたのは、河森さんご本人にこの作品でチャレンジしたいことがあったからですか?

そうですね。もともとオープニングアニメをやらせていただいた時に、『誰ガ為のアルケミスト』というタイトルを聞いて、すごく魅力を感じたんです。このタイトルに象徴される内容なら、すごく面白い物語になるだろうなという直感は、当時からありましたね。

何が一番の魅力だったんでしょうか。

もともと自分は、錬金術に興味があったんです。錬金術のスキルというよりは、深層心理学でメタファーとして使われる“心の錬金術”と呼ばれるものですね。“錬金術”に“誰ガ為の”という言葉が付いているなら、スキルとしての錬金術を超えた“人間の心”を扱っていい作品だなと思っていたんです。

そんな時、今泉(潤)プロデューサーをはじめとするFgGのスタッフさんに、「映画は監督のものにしてもらっていい」「魂をぶつけてください」といった言葉をいただきまして。そうまでおっしゃっていただけるのであれば、と非常に感じ入りました。

河森作品というと、メカ物、SF物のイメージも強いので、ファンタジーの『タガタメ』を? という意外性も大きかったです。

それがですね……本当に、これはものづくりの難しいところなんですが、実は僕もファンタジー企画は何度も出してるんですよ。でも、「メカは出ないんですか?」と言われて企画が止まってしまう。僕はファンタジー物をやりたいんだけど、やらせてもらえない(苦笑)。

それだけ、皆さんが河森さんに「素晴らしいメカ作品を!」と望まれている?

そうなんでしょうね(笑)。今までなんとか実現したものが『天空のエスカフローネ』(1996年)でした。そういう意味では、『エスカフローネ』以来のファンタジーですし、異世界に飛ばされた若い女の子をヒロインにしたという構造も、『エスカフローネ』に近いものがありますね。

河森さんにとっては、満を持してのファンタジーアニメということにもなるんですね。

そうですね。僕は常に新しいことをやりたい性格なので、メカ物だけを連続してはやりたくない。メカをやって、ファンタジーや日常ものをやって、またメカに戻るというサイクルが理想なんです。『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』にはもともと、主人公の勇者たちを襲うメカニカルな“闇の魔人”という存在はいるんですが、それはいわゆる“乗り込み型ロボット”ではないので、普段やらせてもらえないことができそうで。そこにも大いに惹かれました。

物語がまだ完結していないソーシャルゲームをアニメ化する難しさ

今泉プロデューサー以下、『タガタメ』原作チームの方からは、「河森さんの映画として完成してほしい」という言葉もあったそうですが、他に要望として挙がったことは?

内容にオリジナル要素を加えるにしても、ゲーム世界の真に核になる部分は大事にしてほしいということと、キャラクター性は尊重してほしいという要望はありました。それは、原作スタッフと密に相談しながら、シナリオに盛りこんでいきました。

もうひとつ今泉さんがおっしゃっていたのは、ファンムービーだけに留まらない、『タガタメ』を全く知らない人が観ても映画として楽しめる作品にしたいということでした。その考えは、自分とすごく合いました。なので、開発は非常にやりやすかったです。

ゲーム原作をアニメにする場合で、とくに難しく感じたことは何でしたか?

今回のようなソーシャルゲームの場合、常に連続してエピソードが配信され続けます。完結もしていない。それを1本のアニメで描く難しさがまずありますね。さらに『タガタメ』は、世界が7つの国に分かれていて、それぞれに過去の英雄の歴史があり、その過去から幻影兵(ファントム)と呼ばれる強力な魔法を使える者を召喚してバトルが展開します。その設定だけでも、とても多層的。全てを1作で扱うのは、とても困難なんです。

設定を深めていくと、説明しきれないですね。

さらにキャラクターの扱いも難しい。ゲームはユーザー自身がプレイし、感情移入して進めていくものなので、普通にアニメを観る以上に感情移入度が高い可能性があります。そこで、原作そのままのストーリーをアニメで再現してしまっては、ただの短いダイジェストに見えてしまいます。皆さんが思い入れのあるキャラクターの性格についても、原作とのちょっとの違いがものすごく気になってしまうだろうなと。

たしかにそうですね。ゲームの中のキャラクターは自分の分身ともいえますから。

そうなんです。なので今回は、ゲーム内より後の世界という設定にして、圧倒的に強い伝説の存在・デストルークが敵として現れ、エドガーやリズ達が本来の力として持っていた錬金術と魔法を奪われてしまう……という新しい設定を加えたんです。そうすれば、相当大きなものを喪失しているキャラクター達なので、ゲームからアニメになった時の違和感も、少し薄められるのではないかと考えました。原作と違う状況を作れば、初めて『タガタメ』の世界に触れる人にも、馴染みやすくなりますしね。

1 2 >