Interview

稲葉 友が三人芝居に挑む、舞台『エダニク』。“言葉”を操る彼が普段意識していることとは?

稲葉 友が三人芝居に挑む、舞台『エダニク』。“言葉”を操る彼が普段意識していることとは?

大阪を中心に活躍する劇作家・演出家の横山拓也(iaku)が2009年に書き下ろし、再演が重ねられている人気戯曲『エダニク』。とある食肉加工センターという、普段目にすることがないけれど、たしかに私たちの日常の中に存在している、そんな世界を舞台に巻き起こる騒動を、軽妙な会話劇で描いている。
本作で演出を手がける鄭 義信と舞台『すべての四月のために』(2017)から2度目のタッグを組んで主演に挑むのは、稲葉 友。舞台上に登場するのは3人のみで、ほぼノンストップの会話だけで展開していくこの作品で、稲葉が演じる「沢村」の人物像や、日頃、会話やSNSで心がけていることなどを聞いた。

取材・文 / 能一ナオ 撮影 / 冨田望


愛すべき“ちょっとダメな人”というキャラクター

久々の主演舞台となりますが、お話をいただいたときの気持ちをお聞かせください。

主演舞台は5年ぶりくらいなので、プレッシャーはありますけど、鄭さんとまたご一緒できることや、中山祐一朗さん(阿佐ヶ谷スパイダース)、大鶴佐助くんと一緒に作品をつくれることが嬉しかったですね。そして、浅草九劇はうちの事務所(レプロエンタテインメント)がつくった劇場でもあるので、その舞台に立てるのも感慨深いなと思います。

舞台『エダニク』稲葉 友 エンタメステーションインタビュー

稲葉さんが演じる「沢村」について教えてください。

沢村は屠殺場で働いている妻子持ちの男性です。もともとヤンチャしていたところもあって、祐一朗さん演じる先輩の玄田との関わり方が、ちゃんとするところはちゃんとしているんだけど、わりと絡みにいくタイプの人間だったりもします(笑)。そして、自分の身の回りというか、手の届くところの守りたいもの、失いたくないものを大事にする人間らしい姿を一番体現している人物ですね。だけど、基本的に抜けているし、詰めが甘くて(笑)、愛すべき“ちょっとダメな人”というキャラクターです。

ご自身と似ているところは?

自分との共通点は、言葉を並べ立てて失敗するタイプというか(笑)。沢村は、調子に乗って偉そうに喋るんですけど、僕もいろいろ喋ったあとに後悔したり凹んだりすることが結構あるので。そこは近しいところかなと思います(笑)。

稲葉さんは、結構考えて話していらっしゃるのかな?と思っていたので少し意外です。

僕は人前で喋る機会や、こうやってインタビューで喋らせてもらう機会があると、だいたい終わってから凹むんです(笑)。「あの喋りはどうだったのかな?」とか。毎週ラジオの生放送を4時間半やっているんですけど、毎週やるたびに「あそこはもうちょっとこういう言葉があったな」「こういうことを言えば良かったな」と思うことが多々あります。それが今回の劇中では明確に問題となる。アクシデントが起きてしまう(笑)。そういうところは現実と繋がるところだと思います。

舞台『エダニク』稲葉 友 エンタメステーションインタビュー

今作は会話劇なので、ラジオのパーソナリティーもやられている稲葉さんが主演に抜擢されたのかな、と思いました。

いえいえ、そういうことではないと思います(笑)。トークとお芝居における会話劇というのはまったく別物だと思っているので、トークの経験がまったく活きないとは言わないですけど、そこは関係ないと思います。

だんだん物語の当事者に引きずり出される。いつの間にか巻き込んでしまうパワーがある

台本を読むかぎりでは、沢村が昔ヤンチャだったことには気づけなかったので、今のお話を聞いて、沢村が上下関係に厳しかったり、少し生意気な言動があるところも納得しました。

僕も最初はヤンチャな印象はなかったんですけど、鄭さんとお話しながら稽古するなかで、だんだんそういう部分が出てきましたね。

では、台本の文字で読む以上に、舞台ではそれぞれのキャラクターがより明確になってきているんですね。

全体的に文字で読んだ印象とはだいぶ違うのではないかなと思います。演出が鄭さんなので笑いももちろんありますし、台本を書いている横山さんも関西の方なので、特有のノリがたくさん詰まっているので。テーマは屠殺場ということでちょっと構えてこられる方も多いのかなと思うんですけど、いろんな要素でビックリすると思います(笑)。

舞台『エダニク』稲葉 友 エンタメステーションインタビュー

散りばめられているたわいのない会話が面白くて、どんどん惹き込まれる、とても魅力的な会話劇だなと思います。

屠殺場という世界で3人が喋っている中に、いろんな問題が詰まっています。雇用問題や、今の僕らの生活の中において抜け落ちている屠殺の段階とか。お魚は、さばく動画もYouTubeに上がっているので簡単に見ることができるし、テレビ番組で魚を釣ってさばいて食べるとかもよくありますけど、牛や豚って見ないじゃないですか。その見えない部分を思い起こさせるけれど、決して押しつけがましくではない。僕も最初に本を読んだときに思ったんですけど、軽妙な会話の中で巻き起こっている人間関係を見ていると、だんだん物語の当事者に引きずり出されるというか。いつの間にか巻き込んでしまうパワーがある脚本なので、そこがすごく魅力なのかなと思います。

展開も変わっていきますし、その中で力関係や立場もコロコロ変わっていくところが面白いですよね。

ステイタスゲームみたいな。お互いの立場が変わるたびに、その関係値をしっかり見せないといけないなとは思います。話がコロコロ転がっていくところは醍醐味というか、見どころですね。

この作品では、会話を何気なくしたらいけない

登場人物の中で誰に一番感情移入できますか?

やっぱり沢村ですね。僕はまだ奥さんも子供もいないですけど、最初にお話したように、手の届く範囲というか、なんだかんだ言っても普通に生きている人間にとってはそこが一番大事で、大事にしたうえでしかほかのことってできないと思うので。沢村のそういうところはすごく共感できるなと思います。

舞台『エダニク』稲葉 友 エンタメステーションインタビュー

稽古に入って気づいたことは?

この作品では、会話を何気なくしたらいけないんだなというのがあって。ともすれば、何気なく会話をしちゃいそうになるんですけど、それじゃ芝居が成り立たないと感じています。会話の中にどういう機微があって、そのための言葉の組み立て方、乗っかり方、引き方、盛り上がり方、盛り下がり方とか、そういったところを明確に出していかないといけない。会話劇ってただ会話をしているだけだと観ている方に伝わらないと思うので、そういう意味では、おとなしい作品ではないと改めて感じています。

これほど会話が詰め込まれている作品もなかなかないですよね。

ずーっと喋ってます。とても大変です(笑)。

舞台『エダニク』稲葉 友 エンタメステーションインタビュー

スマホアプリ版『ぴあ』での連載やラジオパーソナリティーなど、言葉を使ったお仕事が増えていますが、喋ることについて意識していることは?

基本的にはリスクだなと思っています。勇気づけることだって当然ありますが、誰かを傷つける可能性があることなので。だから、なるべく場に適した日本語を使おうとは思っています。例えば、ラジオ、舞台挨拶、テレビ番組に出演したとき、連載で使う言葉など、すごく意識しているわけじゃないですけど、どこかで使い分けているんですね。どういう言葉が効果的で届きやすいか、どういう言葉が邪魔にならないかとか。その選ぶ言葉や吐き出し方で個性やキャラクターが出て、その人が面白い/恐いとかの印象も出てくると思うので、僕は、僕が選んだ言葉を僕なりの温度とスピードでお届けして、基本的には聴いている方や見ている方が楽しくなるように喋っています。

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