佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 98

Column

何を始めるかわからない純烈、その奇天烈な面白さを支える生真面目さ

何を始めるかわからない純烈、その奇天烈な面白さを支える生真面目さ

6月12日に東京・渋谷のNHKホールで純烈が開催した単独公演のタイトルは、『純烈のNHKだよ マル秘大作戦!』というものだった。

どことなくかつてのクレイジーキャッツや、ザ・ドリフターズのショーを思わせるニュアンスが感じられた。

トータルで3時間半にも及ぶ長丁場だったが、特に芝居仕立てだった第1部は通常のコンサートとはかけ離れた内容で驚かされた。

現実と空想が入り混じった物語「純烈、次なる夢は……!?」の脚本を担当したのは、新潟プロレスに所属するプロレスラー、スーパー・ササダンゴ・マシンことマッスル坂井。

所属事務所の方針でふたつに分裂させられた純烈が、二人ずつ若手のメンバーを補充して歌唱で戦うという設定で、プロレス興行のような映像がときおりインサートされる構成だった。

それは“奇天烈”とさえいえるくらい破天荒な展開の物語で、純烈ならではの総合エンターテインメントになった。

最後はなぜか、北海道根室市にある社会人アマチュアプロレス団体「新根室プロレス」に所属するアンドレザ・ジャイアントパンダが登場し、全員とのプロレス対決で圧勝していく。

だがリーダーの酒井一圭がかろうじて逆転勝利して、虚々実々の物語は大団円を迎える。

そのエンディングで全員が唄ったのは、BOØWYの代表曲だった「NO.NEW YORK」。
しかもその日は観客全員に、「入浴 New York」という文字の手ぬぐいが、入場時に配布されていた。

これはいつか純烈がニューヨークでライブを行いたいという願いが隠された、新たなメッセージだと受けとめた人も多かったのではないか。

純烈が「有言実行」のグループであることは、これまでの発言と活動歴をみれば一目瞭然なのだ。

酒井はNHKホールのコンサートが終わった翌日の早朝に、オフィシャルブログの中で、感謝の気持ちをこのように記していた。

昨日のステージのワンショット。自分の横、後、前、頭上、袖、下、空、共演者、ミュージシャン、ファンのみんな、家族、関係者の皆さん、裏方さん、ご先祖様、キリが無い。 自分以外のこの空間にいる人すべてに支えられてNHKホールでのコンサート乗り越えることが出来ました。 ありがとうございました。

この素直な感性とポジティブな姿勢が、彼の類まれな発想と純烈の行動力を支えている。

そういえばNHKホールの第1部では当日になって、敬愛する前川清が完全にシークレットでサプライズ出演してくれた。
そのために酒井が思わず泣くという、印象に残るシーンがあった。

こうしたことが本番で急に起こるということも、常に人と人との縁を大切にしてきた酒井と、生真面目な純烈だったからこその出来事だったと思える。

その点について、酒井がこんな感想を述べていた。

そう言えば昨日、泣かされたんだ。。
満員の客席、献身的なスタッフワーク、懸命に頑張る演者たちの姿、そして前川清さん登場のサプライズ。。
やられっぱなしでしたね。ありがとうございました。
またみんなで集まって面白いことをやる時はお集まりください。

酒井はこの秋、9月15日と16日の2日間にわたって開催される『あいちトリエンナーレ』におけるプロデュース公演「1969年の前川清と藤圭子~昭和を彩るロックとブルース~」に挑む。

昭和という時代の歌謡界に金字塔を打ち立てた歌い手で、洋楽のロックとブルースをルーツに、演歌という枠を超えた音楽的才能を発揮したシンガーだった前川清と、故・藤圭子のトリビュート・ライブである。

これもおそらく初めての試みだが、「みんなで集まって面白いことをやる」という、純烈にしかできないライブになるのだろう。

音楽監督を務める江川ゲンタと語り合った対談のなかで、酒井はすでにクレイジーキャッツやザ・ドリフターズにも言及していた。

僕らは歌うことが本流ですけど、ときどき、クレイジーキャッツやザ・ドリフターズに例えていただくことがあるんです。
音楽を通してお客さんを楽しませたり、ゲストを紹介するっていう共通点があるのかも。
だから将来「純烈だョ!全員集合!」みたいな番組が生まれたらうれしいし、もしそれが実現したとき、この「あいちトリエンナーレ」が最初の契機だったなってことになると思います。

やはり有言実行の人なのである。

そんな酒井と純烈が昭和という時代に生まれた日本のロックとブルースを、正攻法で取り上げるのか、それとも意表を突く表現に向かうのか。

大河ドラマの『いだてん』を例に上げて、酒井はこんな将来への抱負を語っていた。

今の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』では、前回の東京オリンピックが題材になっているわけで、つまり数十年後には昭和後期や平成を題材にした大河ドラマが作られても不思議ではない。そのときに何が描かれるかと言ったら、やっぱり歌謡曲でしょ。僕らはそういう時代に生きてるし、当時いかにして日本独特の音楽が生まれたのか、それが芸術としてどれだけ素晴らしかったのかはきっちり伝えていきたいですね。

歌謡界や芸能界のセオリーにとらわれず、何を始めるかわからない純烈だが、これまでにないエンターテインメントを目指す真剣な姿勢から、ますます目が離せなくなってきた。

純烈の楽曲はこちら

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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