Interview

中川晃教&加藤和樹が日本発のオリジナルミュージカル『怪人と探偵』で江戸川乱歩の世界を令和時代に華麗に甦らせる!

中川晃教&加藤和樹が日本発のオリジナルミュージカル『怪人と探偵』で江戸川乱歩の世界を令和時代に華麗に甦らせる!

ミュージカル『怪人と探偵』が、KAAT神奈川芸術劇場 ホールで9月14日(土)から上演される。
本作は、詩人・作詞家・作曲家でもある森 雪之丞が江戸川乱歩の小説を原案にオリジナルストーリーを書き下ろし、白井 晃が演出を手がける。テーマ音楽は東京スカパラダイスオーケストラ、作曲はWEAVERの杉本雄治が担当。キャストには、大怪盗・怪人二十面相を中川晃教、名探偵・明智小五郎を加藤和樹、ヒロインに『メタルマクベス』disc2での好演が記憶に新しい大原櫻子。それ以外にも日本のミュージカルには欠かせない役者と、スタッフ&キャストともに豪華なメンバーが集結。
そこで本作でライバル関係にあるキャラクターを演じる中川晃教と加藤和樹に話を聞いた。日本発の新作ミュージカルにかける意気込み、ふたりの出会いから印象、ミュージカル界の現状まで、様々な示唆にとんだインタビューとなった。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 増田慶


ゼロからすべてを間近で見てきた

ミュージカル『怪人と探偵』ですが、日本発の新作ミュージカルという試みがとても面白いですね。まず、そんなカンパニーに参加するお気持ちを聞かせてください。

中川晃教 日本の演劇には日本発のオリジナルミュージカルが少ないのが現状です。僕もふと役者人生を振り返ったときに、「どれだけ日本のオリジナルミュージカルに携わらせていただいたんだろう」と考えることがあります。今作についていえば、岸谷五朗さん演出の『SONG WRITERS』(13)をシアタークリエで上演したときに、脚本・作詞・音楽プロデュースとして森 雪之丞さんとご一緒しました。それから再演の2015年に雪之丞さんが「アッキー(中川晃教)、今、温めている企画があって、ミュージカルの新作をやろうよ」とおっしゃられて。雪之丞さんという稀代のクリエイターの情熱に「なんでもやります」と思わずほだされてしまった(笑)。そこから、雪之丞さんが実現に向けて奔走されて、パルコとKAAT 神奈川芸術劇場とその芸術監督の白井 晃さんという枠組みが出来上がっていきました。僕は立ち上げのゼロからすべてを間近で見てきたので、今までにない経験をさせていただくことができて嬉しいです。

中川晃教

加藤和樹 日本発のオリジナルミュージカルは初めての経験です。雪之丞さんとはアッキーさんと共演したミュージカル『フランケンシュタイン』(17)で訳詞としてご一緒したのですが、書かれた詞の世界観が本当に素敵でした。僕もアッキーさんと同じように、雪之丞さんとお話をしたときに「また一緒にやろう」と誘っていただいて、この作品にかける想いも聞いていましたし、アッキーさんやほかの素晴らしいキャストの方だけではなく、演出の白井さんとご一緒できることも楽しみにしていました。

加藤和樹

私がよく覚えているのは、いろいろな場所で、中川さんは日本発のオリジナルミュージカルをつくりたいとおっしゃっていることだったんです。日本からオリジナルミュージカルを発信する重要性を考えられることはありますか。

加藤 日本を舞台にするミュージカルであれば、2.5次元舞台のほうが多いと思います。たとえば、時代モノであれば、ミュージカル『薄桜鬼』シリーズといった人気作が挙げられますが、今作のように江戸川乱歩の『怪人二十面相』という誰もが耳にしたことのある日本の歴史に名を残す作品を、ミュージカルとして描くのは特殊な部類だと思います。日本人のお客様が純粋に楽しむことのできる日本発のミュージカルは、アッキーさんがおっしゃったように、今はまだ少ない。今作に関していえば、海外で生まれた作品を翻訳して演じるわけではないので、日本語という僕たちのルーツを大事にしたいですし、日本が誇るべきものをベースにできることは今の日本のミュージカルにおいて大切な意味があると思っています。

中川 そもそも“ミュージカル”は日本の言葉ではないですよね。この間もKAAT 神奈川芸術劇場で上演した劇団四季ミュージカル『パリのアメリカ人』(19)を観劇したのですが、演出や作曲、舞台美術、衣裳といったテクニカルな部分から、俳優のお芝居まですべてが素晴らしかった。そのときに感じたのは、とても感動できるミュージカルだけれど、舞台の原案はアメリカのミュージカルで、海外の作品ということもあって、登場する人物がどんなものを見て、どんな育ち方をしたのかというバックボーンは、日本人にとっては「そうなんだ!」と言えるものでしかなく……だいぶその差は埋まってはきましたが。ミュージカルには、“理解できる現実のもの”と、“現実ではないが感じられるもの”という作品の二種類があると思ったんです。

加藤 わかります。

中川 多くの方はミュージカルは西洋のものだという認識が古の時代からあって、僕はそういった意識が変わっていく瞬間に立ち会いたい想いを常々持っています。だから、今作の成り立ちは僕の想いと似ているところがあって。怪人二十面相と明智小五郎は、日本人なら誰もが知っている登場人物で、江戸川乱歩という人間がいた時代を辿っていくこともできる。しかも、そんな日本の誰もが知っている作品をミュージカル化するために、音楽シーンに功績を残されている雪之丞さんが挑むことは、日本におけるミュージカルのあり方を我々に問いかけている気がします。さらに、本作の音楽が日本の方にポップに耳馴染みよく聴こえるのは、日本のバンドであるWEAVERの杉本雄治さんが参加されているからというのも大きいことで、日本からしか誕生しえないオリジナルミュージカルが生まれる予感がしているので、今作が上演される意味はとても大きいと思います。

日本のミュージカルのセオリーが今作から生まれる

そんな舞台を演出するのが白井 晃さんになります。

中川 ほかの演出家にはない世界観をお持ちで大好きな方です。昭和から平成、そして令和を経験してきた僕たちだからこそ、原作の描くありし日の時代に新鮮に向き合えるはずです。白井さんの言葉を借りれば「とにかくかっこいいものにしたい」とおっしゃっていたので、雪之丞さんの世界をとてもスタイリッシュに表現できると思いますし、そのかっこよさは東京スカパラダイスオーケストラさんのテーマ曲にも表れていると思います。さきほどの話に繋がるのですが、誰もが想い描く昭和の風景と、白井さんの生み出す劇空間でなければ再現できない江戸川乱歩の昭和モダンな世界が融合すれば、日本のミュージカルのセオリーが本作から生まれると思います。

加藤 演出家の白井さんとは、『オセロ』(13)、『ペール・ギュント』(15)、『No.9-不滅の旋律-』(15)でご一緒しましたが、確固とした“白井ワールド”があります。もちろん、役者としての白井さんのお芝居も知っているけれど、演出家としての感性が尋常ではないので、思いもよらない方向に物語が転がっていく印象があります。同時に、役者としてどういう僕でいたいのか、挑戦心が湧き上がるほど、諦めない人でもあります。白井 晃の“アキラ”は“諦”めないという字を当てられるほどで(笑)。納得されるまで何度も稽古をしますし、役者よりも役者で、だからこそ求めるものが高い。本当に鍛えられますし、この人についていけば、どんな芝居になるのか役者としても想像がつかない世界に連れて行ってくれます。

おふたりは、『フランケンシュタイン』以来、敵対する役となりましたね。お互いの印象はいかがですか。

加藤 共演する前は、アッキーさんはとにかく憧れの存在でした。音楽面でも、お芝居においてもそうでしたが、共演したあともその印象が変わらなくて、むしろプラスになっている。

中川 どんなところに憧れるの?

加藤 そこをあえて聞くんですね(笑)。僕からするとアッキーさんは“中川晃教”という楽器です。あれほど自由に歌を表現しながら、そこに感情が込められているから伝わる以上の情熱があるんです。実際に共演して「この人の中身はいったいどうなっているのだろう」と探ってみると、誰にでも好かれてしまう愛おしい部分も見つけてしまったので、ある意味、ずるい人ですね(笑)。

中川 (笑)。今、気づいて感動したのですが、形があるものと空気のようなものがあれば、僕らはそれらが溶け合った関係性を築いています。僕に実体があって、和樹マン(加藤和樹)は優しさという空気のような存在だと思っていたのですが、話を聞いているとその逆で、僕のほうが感覚だけで空気みたいに実体がなく、和樹マンに実体があるのかもしれない。実体がないから僕は楽器に見立てられるわけで。そんなふうに僕を感激させた和樹マンはずるい!(笑)

もともと秩序があった世界を壊す

(笑)。中川さんは大怪盗・怪人二十面相、加藤さんは名探偵・明智小五郎を演じますが、どのように役を捉えていますか。

加藤 稽古がまだ先なので、これから白井さんやみんなとつくっていくのですが、明智小五郎は、役者やミュージシャンとしての今の僕のようにつねに何かを追いかけないといけない存在で、同時に何かに追われている印象があります。いつも何かに突き動かされて、自分の中から出てくる信念や正義感といったいろいろな感情が渦巻いている人。その表現をどうするのかはこれからの稽古で築き上げていきますし、歌のパートも気持ちが目まぐるしく変わっていくだろうと思います。

中川 探偵は面白いですね。たとえばカバンの中にカメラを忍ばせていたり、うだつが上がらない、トレンチコートを着ているようなイメージ。正義感を持って行動しているけれど、結局、何も見つけられないことがある。突き詰めれば、自分の中に目的を抱いて真剣になって真実を突き止めなければ、幻にもなれない淡い存在なわけで、探偵って深く考えさせられるよね?

加藤 たしかにそうですね。

中川 二十面相と明智小五郎が拮抗しあうところが、脚本を読んでいて面白くて、僕が演じる二十面相は、そんな深い意味を持つ探偵からライバルだと思われる役にならなければいけないんですね。モラルであったり、白黒だけの世の中にグレーが生まれてくるような、もともと秩序があった世界を壊す役割です。今回の物語の中では、誰もが思い描いた二十面相が表現されているわけではなくて、彼は“愛”を見つけます。今まで、盗みたいものを盗んできたのに、盗めないものが“愛”だという感情を抱くようになる。明智に向かっていろいろ行動を仕掛けていくけれど、同時に自分が何者かを問いかけていく存在です。

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