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飯島寛騎&鈴木勝吾が働くことや友情、生きることに向き合う舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』開幕レポート

飯島寛騎&鈴木勝吾が働くことや友情、生きることに向き合う舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』開幕レポート

飯島寛騎(男劇団 青山表参道X)と鈴木勝吾がW主演を務める舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』が、6月13日(木)に渋谷・CBGKシブゲキ!!にて開幕した。
原作は、第21回「電撃小説大賞」メディアワークス文庫賞を受賞し、70万部を超える北川恵海の大ベストセラー小説『ちょっと今から仕事やめてくる』。ブラック企業、パワハラ、長時間労働、自殺といった多くの社会問題を抱えた今の時代に必死で生きる若者たちの姿を通して、すべての働く人たちに“生きることの意味”や“生きることの素晴らしさ”といった大切なメッセージを届けるこの物語は、これまで漫画化や映画化もされている。
初舞台化となる本作の初日公演前に行われたゲネプロのレポートと、飯島寛騎、鈴木勝吾、葉山 昴、中島早貴、田中 健が登壇した囲み取材のコメントをお届けする。

取材・文 / 松浦靖恵 撮影 / 畠中彩


観る者に生きるうえで大切なものは何なのか、信じられる人とは誰なのか、を教えてくれる

カチ、カチ、カチ、カチ……。開演前の劇場内に鳴り始めたこの音は、時計の秒針が刻む音なのだろうか。その音が徐々に大きくなると客電が落ち、舞台『ちょっとこれから仕事やめてくる』が静かに始まった。

この物語の主人公のひとりである青山 隆(飯島寛騎)は、“ブラック企業”に勤める新入社員。残業でどんなに遅く帰宅しても朝6時には起床し、朝ごはんを食べる気力もなく、起きがけに電子タバコを吸うことがいつしか習慣になってしまっている。
昨晩ベッドの上に脱ぎ捨てたスーツに着替えると慌しく家を出て、6時46分の電車に乗り、ラッシュに揉まれ、出社する毎日。

仕事のノルマの厳しさもあるが、それ以上に部長・尾高(田中 健)から「おまえの限界を超えてみろ!」「バカヤロー!」「おまえのようなヤツは……」などと、威圧的な口調で繰り返される説教や叱咤される日々は、彼の心身をどんどん疲れ果てさせた。

役柄とはいえ、田中 健が演じる上司・尾高の言動や振る舞いは、観る者に嫌悪感を大いに抱かせるだろう。そんな上司のもとでも、ようやく入れた会社だから、どんなにつらくても「働くしかない」という諦めにも似た思いだけで、同じような日々を繰り返している青山。
飯島寛騎は、彼の心模様、そして、思考することすらやめてしまった空虚な青山の姿を、表情をいっさい消し、焦点さえどこにあるのかわからないようなうつろな眼差しで熱演していた。

2016年にドラマ『仮面ライダー エグゼイド』で主演を務めたあと、数々の作品に出演、2018年には「男劇団 青山表参道X」の旗揚げ公演で初舞台を踏んだ飯島は、1996年生まれなので、この8月に23歳になる。地味なネクタイを締めたスーツ姿の“普通の”新入社員・青山は、本人と同年代の青年だけに、職業や自分を取り巻く環境は違っていても、今の時代に漂う匂いや、若者ゆえの葛藤や苦悩を共有できているのだと思った。

休日出勤もあり、ぶっ続けで働くこと半月が経ったある日。心も身体も限界に達して気を失いかけ、駅のホームから落ちそうになった青山を、ある男が助ける。
「俺、ヤマモトや」と、青山が通っていた小学校の同級生だと名乗り、「なんや思いっきり誰や!?って顔しとるなぁ」と、その男は優しい笑顔で青山に手を差し伸べるのだった。

しかし、青山にはヤマモトに関する記憶がまったくない。小学校の同級生だった岩井(葉山 昴)に電話をかけ、小4のときに引っ越していった“ヤマモトケンイチ”ではないかと教えてもらうが、その後、岩井から“ヤマモトケンイチ”が現在海外で暮らしていることを伝えられ、自分が出会った“ヤマモト”は「いったい何者なのか」「なぜ正体を偽っているのか」と疑念を持ち、ふたりで飲んでいた居酒屋で彼がトイレに立った隙に、 “山本 純”と記載された写真付きの身分証明書(免許証)を発見し、問い詰める。すると、ヤマモトはあっさり“山本 純”であることを認める。

そんな出来事もありヤマモトを信じられなくなった青山は、彼からの電話やメールに返信しないまま数週間を過ごす。
ある日、四葉物産のビルの前で花束を持ち立ち尽くすヤマモトを見かけた青山は、偶然通りかかった岩井から、このビルから飛び降り自殺した社員がいることを告げられる。
その名前は“山本 純”。青山は驚く。あのヤマモトはいったい誰なのか──。

派手な赤色のアロハを羽織り、胸元にはネックレス。ロールアップしたダメージジーンズに雪駄を履いたヤマモトは、一見、そのラフな風貌からチャラチャラしているようにも見えるし、ハイテンションな話し方で関西弁でズケズケとモノを言うのだけれど、演じる鈴木勝吾が、このヤマモトという男がとても優しいヤツで、どこか憎めない男だと捉えているように見えたし、それを端々で感じることができた。鈴木の屈託のない笑顔には青山のみならず、きっと観客も救われるはずだ。

心が痛くなるような場面が多いこの物語の中で、青山に対して手を差し伸べ続けるヤマモトの存在や、いつから笑っていないかも忘れてしまっていた青山がヤマモトと笑い合えるようになった場面は、観る者に生きるうえで大切なものは何なのか、信じられる人とは誰なのか、を教えてくれるシーンのひとつだろう。

囲み取材で飯島は鈴木のことを「なんでも思ったことを迷わず言ってくれます」「本当に頼りになる兄貴分だと感じています」と言い、鈴木は飯島のことを「いい後輩です」と言っていた。飯島と鈴木は今回が初共演だが、約1ヵ月の稽古期間を通してふたりがつくり上げてきた関係性、お互いに寄せる信頼が、青山とヤマモトの関係性や距離感としっかり重なり合っていた。

タイトルにある“仕事やめてくる”。実はそんなに簡単なことではないのかもしれない。しかし、未来への選択肢として、続けること以外に、やめると決断できる道があることは、逃げではなく、その人の支えにもなり、自らの人生を変えるきっかっけ=希望にもつながるはずだ。そして、青山とヤマモトのふたりが、“なんのために働くのか”“人生はどうあるべきなのか”に向き合う姿には、つい自身をも様々な思いを巡らせることだろう。

付け加えておきたいことがもうひとつある。青山が会社で唯一尊敬している先輩の五十嵐(中島早貴)は、原作では男性の設定だが、映画化されたときも本作でも女性で登場している。テキパキと仕事をこなし、結果をちゃんと出している五十嵐だが、その裏で、女性だから男性よりも何倍も努力をし結果を出さなければ認めてもらえない不平等さを十分に知っている。そんな彼女が抱えている危うさを、自分しか信じられない寂しさを、演じる中島が強気な台詞の中に繊細に乗せているように見えた。彼女の存在は青山とはまた違った視点で“働く”こと“生きていくこと”の大変さや不条理さをこの物語で浮き彫りにしていた。

劇場内に入ると、まず目に飛び込んでくるのは、舞台上に設えられた駅のホームだ。舞台全体の拵えがわりと白色で統一されているためか、舞台上にある点字ブロックの黄色い線が印象を強く残す。そして、飯島も囲み取材で「線路があることに最初はビックリした」と言っていたが、舞台下には客席と舞台の間に白い線路が置かれている。
囲み取材で鈴木は「このセット(線路)は主にこのふたり(青山とヤマモト)が関係はしますが、観に来てくださった観客のみなさんと共有できるところなのかなと思います」と言っていた。この線路が象徴するものはいったい何なのか。何を意味しているのか。これは劇場で体感して欲しい。

原作を読んだ人や映画を観た人は、それぞれに描かれた結末を知っているだろうが、舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』が描く結末をぜひ観て欲しい。今、岐路に立っている人に、自分を見失いかけている人に、今の時代に生きるすべての人たちに、舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』は、自分にとって大切なものはいったい何なのかを気づかせてくれるはずだ。

“みんなの線路やで”ってことを、心の中にもって観てくれたら

このあとは囲み取材のコメントを紹介する。

役どころ、初日を迎えての意気込みを教えてください。

葉山 昴 僕は主人公・青山の幼馴染みの岩井という人物を演じるんですが、岩井は原作の小説にはあまり描写がなく、映画化された際も登場しなかった人物です。それを今回の舞台版で、演出の深作(健太)さんや脚本の田村(孝裕)さんに岩井という役を広げていただき、演じさせていただくことになりました。この物語の中では、青山に無意識のうちにコンプレックスを与えるような役になっているかと思います。

中島早貴 青山くんが働くブラック企業の会社で、青山くんが唯一尊敬してくれる先輩の五十嵐を演じさせていただきます。原作では男性の役で、映画から女性になった役です。五人芝居というのも初めてなんですけど、会話劇になるので、いかに青山くんに好かれるか、いかに青山くんに刺していくのかというのが大事な役になっていくので、そこをうまく表現できたらいいなと思っています。

飯島寛騎 新入社員の青山をやらせていただくのですが、現代社会の問題、パワハラであるとか働き方改革とかいろいろありますけど、そういった壁に立ち向かっていく若者のお話です。周りの方々の支えもあり、厳しい教えもあり、それらを乗り越えていく青山の姿を楽しみにしていただけたらなと思います。あと、ヤマモトと青山の関係性がどう伸びていくのかというのも楽しみにしていただけたらなと思います。

鈴木勝吾 役柄の説明と言ってしまうと(ネタバレになるので)語れないことが多くて……。ひとつ言えるのは、ヤマモトは青山に寄り添う役であり、助ける役であり、救い救われる、友達、親友、兄弟、といったような役です。それらの真実は劇場に観に来てくださった方のためにあるので、ぜひそこを観に来てくださったら嬉しいです。

田中 健 主人公の会社のパワハラ部長をやらせていただきます。映画も観ました、原作も読みました。全部終わりが違います。もしかしたら、僕はこの舞台版がいい終わり方をしているのではないかと思います。原作者の北川(恵海)さんも(稽古を)観て感動されていたので、頑張らなきゃなと思っております。みんな若くて僕だけが年上、もう後期高齢者に入っていて(苦笑)、カッコいいやつらとどうやって頑張っていくかと思っていましたが、いいチームワークでできてると思います。

飯島さんと鈴木さんはW主演。初めての共演になると思うのですが、お互いの印象は?

飯島 最初に取材でご一緒することになったんですけど、1ヵ月の稽古を通して、なんでも思ったことを迷わず言ってくれますね。良くも悪くもですけど。

鈴木 “悪くも”は言わなくてもいいじゃない?(笑)

飯島 あはは! そうやってなんでも言ってくれるので、わかりやすかったです。本当に頼りになる兄貴分だなと、僕は感じていますね。

鈴木 ありがとうございます。

飯島 良くも悪くもですけどね(笑)。

鈴木 “良くも”で終わっとけ(笑)。(飯島は)若者らしい、この年齢らしい、まっすぐさと、すごく情熱もあって。しかも自分の哲学もちゃんと持っている人なんだという印象から始まりました。彼は舞台経験が浅いのもあって、稽古場に入ってからも毎日誰よりも早く稽古場に来てセリフの練習をしたりしていて。そういうところを自分でカバーしていく姿を1ヵ月見ながら、すごくたくましい役者さんになったなと感じています。良くも悪くも(笑)。

飯島 いやいや(笑)、良いでしょ?

鈴木 はい。良くも悪くもいい後輩です!(笑)

劇場の中セットに線路がありますがいかがですか。

飯島 もちろん線路があることに最初はびっくりしました。深作さんの考えもいろいろお聞きしてもいるのですが、この物語ですごく象徴的なものでもありますし、線路もですけど、セットひとつとっても、なぜこれがあるのかということにひとつひとつ意味があるので、モノも僕らの心にもひとつひとつ愛を持って作品に挑んでいきたい思いです。

鈴木 今言った象徴的なものというのは、この作品においてもそうですが、このセットには主にこのふたりが関係はしますが、観に来てくださった観客のみなさんと共有できるところなのかなと思います。“みんなの線路やで”ってことを、心の中にもって観てくれたらすごく嬉しいなと思います。

本作で舞台ならではという見どころは?

飯島 小説、映画と僕も拝見しましたけど、僕は台本を読んだときに、舞台はやはり現実味があるなとすごい感じて。それは実際にやっていても。そういう意味では、みなさん感じられることや共感されるところがそれぞれ違うんじゃないかなと思うので、そこも楽しんでいただけたらなと思います。

舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』は6月23日(日)までCBGKシブゲキ!!にて上演されている。

舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』

2019年6月13日(木)〜6月23日(日)CBGKシブゲキ!!

原作:北川恵海(『ちょっと今から仕事やめてくる』メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)
演出:深作健太
脚本:田村孝裕

出演:
飯島寛騎(男劇団 青山表参道X)
鈴木勝吾
中島早貴
葉山 昴/
田中 健

オフィシャルサイト