LIVE SHUTTLE  vol. 354

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吉川晃司 ファンと一緒にアニバーサリー・ツアーを楽しむ姿から見えてくる、こだわりバンド・スタイルと2019年の吉川の音楽

吉川晃司 ファンと一緒にアニバーサリー・ツアーを楽しむ姿から見えてくる、こだわりバンド・スタイルと2019年の吉川の音楽

KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR
2019年5月25日 大宮ソニックシティ 大ホール

今年の2月1日、2日の武道館からスタートした“KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR”は、約3ヵ月半のインターバルをはさんで5月から再開。その3本目、大宮ソニックシティ 大ホールでのライブを観た。

デビューから35年。ひたすら走り続けてきた吉川の、軸となっているのは音楽だ。当初、恵まれた才能は映画においても発揮されたが、吉川の活動は次第に音楽に集中していく。その上で、改めて俳優として、歴史や科学番組のナビゲーターとして、多岐にわたる才能を開花させた。

音楽シーンの第一線で活躍しながら、これほどの表現のバリエーションを持つアーティストは、他に類を見ない。逆に言えば、そんなユニークなポジションを築いてきたのが、この35年間だった。だとすればこの35周年ツアーは、その貫禄を見せつけるライブになるのか、それともさらなるチャレンジを行なう場になるのか。期待を膨らませてライブに足を運んでみると、結果はそのどちらでもなかった。ステージに現われた吉川晃司は、大胆かつ繊細にアップデートされ、今を生きるミュージシャンとしての覇気に満ちていたのだった。

まず嬉しかったのは、豪華なセットリストだった。誰もが聴きたい曲を、惜しげもなく披露する。ポリープの影響は完全に消え、声はこれまで以上に伸びていて、張りも申し分ない。ファンと一緒にアニバーサリーを楽しもうという吉川の基本姿勢が、ストレートに伝わってくる。その上で、“吉川のスタンダード・ナンバー”を、どう表現するのか。焦点はそこに絞られていた。

たとえば「恋をとめないで」はCOMPLEXの人気曲で、オーディエンスはイントロが始まった途端、大歓声を上げる。しかし演奏はCOMPLEXのオリジナルとは、ニュアンスが大きく異なっていた。特にギターの生形真一が弾くあの有名な、オリエンタル・テイストのギター・リフがまったく違う。オリジナルの布袋寅泰は、ジャストのリズムで軽快なアプローチをしていた。だが生形はよりアグレッシヴな音色でリフに挑む。パワフルで刺激的なギター・リフは、まさに2019年型「恋をとめないで」の骨格となっていた。

その攻撃的なギターを支えていたのは、ウエノコウジの刻むベースだった。シンプルな縦ノリのビートは、単純なだけにニュアンスを出すのが難しい。ウエノはそれをいとも軽々とやってのける。ポップさを失わず、ビートが強調されていた。そんなバンド・サウンドに乗って、吉川は♪Don’t Stop My Love♪というリフレインをオーディエンスと交互に歌って楽しむ。アップデートされた“吉川のスタンダード・ナンバー”を、ステージ側も客席側も、心ゆくまでエンジョイしていたのだった。

「スティングレイ」は、ドラムの湊雅史が超ド級のブギーに仕立て上げる。へヴィーなドラミングに関して定評のある湊が、思い切りそのストロング・ポイントを爆発させる。2016年に初めて吉川のバンドに参加した湊は、そのツアーのファイナルとなる東京体育館で本領を発揮。中でも「スティングレイ」でのプレイは鮮烈で、今も記憶に新しい。それは吉川が永い間、思い描いてきたロックバンド構想の実現に一歩近づいた瞬間だった。その時から始まった“吉川ロックバンド構想”が、時間を経て、この日のブギーに結晶。重いビートに乗ってレスポールでギター・ソロを取る吉川の、快心の笑顔に結び付いていた。

このロック・スピリットは、「SAMURAI ROCK」から始まるハードな曲が続くコーナーで前面に押し出される。歌いながら弾く吉川のギターと、生形の弾くギターが、絶妙なアンサンブルでブ厚いサウンドを構築。加えて湊もウエノも神山も、全力で大宮ソニックシティを揺らす。迷いのないバンド・サウンドが、とても痛快だった。

吉川晃司 エンタメステーションライブレポート

一方で吉川を代表するポップ・ナンバーである「モニカ」も「LA VIE EN ROSE」も、見事に2019年仕様になっていた。

「モニカ」でロングコートをまとった吉川が、モニター・スピーカーに片足をかけ、マイクを握ると、かつての数々の名ライブシーンが脳裏によみがえる。吉川独特の足のステップも絶好調だ。オーディエンスも完全に往時に戻って目を輝かせる。同時に、男くさいメンバーのコーラスが、2019年の吉川の音楽をまざまざと伝えていた。

「LA VIE EN ROSE」では生形とウエノの刻むリズムが、80年代を彷彿とさせるシンセの音色を今の色に染める。また生形のメロディアスなギター・ソロが、曲にポップさを加えていたのが印象的だった。

素晴らしかったのは、「I’M IN BLUE」だった。佐野元春が1980年に沢田研二に提供したこの曲を、吉川はデビュー・アルバム『パラシュートが落ちた夏』(1984年)でカバーしている。「僕が敗者であっても、夢想者であっても、好きにさせて欲しい」と歌う「I’M IN BLUE」は、当時の吉川の心境をよく映して出していて、聴いていて切なくなったものだった。それを今回はホッピー神山のピアノ1本で歌う。ひとつひとつの言葉を噛みしめるように歌う吉川の姿は、とてもロマンティックで、少年のようにナイーヴでもあった。佐野元春という稀代のソングライターが書いた青春ソングを、53才の男が歌うとは、35年前の誰が想像しただろう。しかもこの歌は、今、この瞬間の吉川にとてもよく似合っていた。「少年の心を失わずにいたい」と口で言うのは簡単だ。だが吉川は、それを堂々と実現してみせた。彼に青春を重ねてきたオーディエンスたちは、力いっぱいの拍手を贈る。これこそが“ジェネレーション・ヒーロー”というものだ。

ほとんどMCなしで進むライブは、ストイックでとても潔い。だからアンコールで、水球の公式ボールを手に話す吉川の笑顔にホッとする。

「これは国際試合で使われるボールで、広島で作ってます。来年のオリンピックでは、水球を応援してあげてください」と言って、水球日本代表チーム“ポセイドン・ジャパン”のために書き下ろした「Over The Rainbow」を歌ったのだった。

音楽的に興味深かったのは、「RAIN-DANCEがきこえる」だった。1985年に発表されたこの曲は、UKロックの影響を色濃く受けている。吉川はUKスタイルのボーカリゼーションを目指していたから、当然の成り行きだったのだが、それまでのポップで明るい「モニカ」や「サヨナラは八月のララバイ」とは一線を画す楽曲だった。今回のツアーでこの曲を演奏するにあたって、もっともオリジナリティを主張していたのは、ウエノのベースだった。デジタルなUKサウンドの中で、ウエノは非常に官能的なベースを弾いていた。そのラインが、ディレイで飛ばしたボーカルとギターをよりセクシーに聴かせてくれた。これはアップデートというよりも、このバンドだからこそ起こったマジックだと思う。

大宮で観た“KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR”で感じたのは、今回のツアーのテーマは“新しい吉川バンド”であるということだ。昨年1月の武蔵野の森総合スポーツプラザでのライブ後、吉川はポリープのメンテナンスのため、1年間、音楽活動を休んだ。その武蔵野でのライブには盟友であるギタリスト菊地英昭(EMMA)が参加していて、“吉川バンド”のライブはここで一度完成を見た。その後、EMMAはザ・イエロー・モンキーでの活動のため、ひとまずこのバンドを去った。

今回のツアーのスタートとなった今年2月の武道館では、もう一人のギタリストが参加していたが、ツアーを再開するにあたって吉川は自分と生形の二人でギタリストを務めることを選択。ギターを基本とする曲が多いので、かなりリスクのある決断だった。それでも吉川はもう一度、生形、ウエノ、湊、神山によるバンドでの“完成”を目指した。当然、各メンバーの負担は増える。だがもし完成できれば、より深くよりヴィヴィッドなサウンドを、オーディエンスに届けることができる。この“バンド・スタイルへのこだわり”は、吉川がデビュー以来、テーマにしてきたことでもある。

おそらくこのアニバーサリー・ツアーで、吉川の代表曲が今回のバンドによって次々とアップデートされていくことだろう。彼の目指す新しいバンドの完成は、ファイナルとなる9月8日、幕張メッセ国際展示場で果たされることになる。今からその瞬間が楽しみでならない。

文 / 平山雄一
撮影 / 平野タカシ(5月19日 よこすか芸術劇場公演より)

ライブ情報

KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR

6月28日(金) 札幌・カナモトホール(札幌市民ホール)
6月30日(日) 栃木県教育会館
7月6日(土) 福岡市民会館大ホール
7月12日(金) 大阪・フェスティバルホール
7月14日(日) 金沢市文化ホール
7月20日(土) 広島・上野学園ホール
7月21日(日) サンポートホール高松
7月28日(日) 静岡市民文化会館 中ホール
8月10日(土) 名古屋・センチュリーホール
8月31日(土) 新潟県民会館 大ホール
9月8日(日)幕張メッセ国際展示場 5~6番ホール

吉川晃司

1984年に映画「すかんぴんウォーク」と、その主題歌「モニカ」でデビュー。日本歌謡大賞最優秀新人賞ほか、8つの新人賞を独占、俳優としてもブルーリボン賞、日本アカデミー賞、ゴールデンアロー賞他の新人賞を受賞した。
「モニカ」をはじめ、「LA VIE EN ROSE」「You Gotta Chance」など、常にランキングの上位をにぎわせる中、1988年ギターリスト布袋寅泰とのユニットCOMPLEXを結成。
その後ソロとして、作詞、作曲、プロデュースを自ら手がけ、独自のボーカルスタイルでロックアーティストとして不動の地位を確立。
2011年7月には、21年ぶりの復活となったCOMPLEXの東京ドーム公演を東日本大震災復興支援の為に開催した。
近年は音楽活動に留まらず、俳優としても高い評価を得る。
出演映画「レディジョーカー」「チームバチスタの栄光」「るろうに剣心」、主演ミュージカル「SEMPO -日本のシンドラー杉原千畝物語-」、NHK大河ドラマ「天地人」(織田信長役)、「八重の桜」(西郷隆盛役)、他。映画「必死剣・鳥刺し」では、第34回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。
現在も精力的にライブを行う中、映画やドキュメンタリー番組、CM等、更に活動の幅を広げて活躍中。

オフィシャルサイト
http://www.kikkawa.com

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