連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 7

Interview

『なつぞら』の役同様、人生の選択に迷った山田裕貴。演じている雪次郎の葛藤にシンパシーを抱く!?

『なつぞら』の役同様、人生の選択に迷った山田裕貴。演じている雪次郎の葛藤にシンパシーを抱く!?

節目となる100作目、そして令和最初の“朝ドラ”という節目の一作でもある連続テレビ小説『なつぞら』。広瀬すず演じるヒロイン・奥原なつがアニメーターとして奮闘中の「東京編」は、周辺の人物たちのサイドストーリーも見どころになっている。なつとともに北海道・十勝から上京し、家業の菓子屋「雪月」を継ぐべく新宿の名店「川村屋」で修行中の小畑雪次郎も芝居への情熱が冷めやらず、劇団に出入りするようになり──。まさに人生の選択に揺れる雪次郎を好演しているのが、近年メキメキと頭角を現している山田裕貴。プロ野球選手だった父に憧れ、少年期から思春期まで野球に打ち込むも、芝居の道を選んだという半生は、どことなく今回の役ともダブる。ということで、自身と雪次郎のことについて、熱く語ってもらった。

取材・文 / 平田真人 撮影 / 荻原大志


不思議なことに安田顕さんと一緒にいると、実の父といるような感覚がして、緊張するんです

家業か、演劇か。人生の岐路に立っている雪次郎のように、山田さんも俳優を志す際に葛藤があったそうですね。

まずお話ししておきたいのが…これしかやれることがないと言えるくらい、僕は俳優のお仕事が一番好きだということです。ルーティーンを繰り返していく作業が得意じゃないので、そういうお仕事には就けないだろうなと思っていましたし、自分のことを無個性でつまらない人間だなと思っていたので、誰か違う人になりたいという欲求が、もともと強くて。正直、天職だと思っているので、雪次郎の「俳優になりたい」というセリフには思いがのったところがあります。雪次郎のことでもあり僕のことでもあるというふうに、重なるところが多いというか。僕の父親は元プロ野球選手(※中日ドラゴンズ・広島東洋カープで活躍、現在はカープのコーチを務めている山田和利氏)で、僕も自分の意志で野球をやっていたんですけど、「僕、野球やめたい」と家族に告げた時に、すごく似ているんです。脚本の大森(寿美男)さんがアテ書きしてくださったんじゃないか、と感じるくらい。雪次郎が大切にしている俳優像だったり、お芝居をする上での感覚やセリフといったものが、僕が思っていることと一緒なんですよ。なので、新しい台本をいただくたびに、「大森さん、僕のインタビューをめちゃくちゃ読んでいるんじゃないか!?」と思ったりして(笑)。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

俳優って何となく特別扱いされがちですけど、実は一番“普通”の感覚を大事にしないといけない職業だと、僕は考えているんですね。だから、スターであってはならないというか…作品に溶け込んで、撮ってもらっていると意識することなく日常を生きることが理想だと思っていて。そういうセリフが雪次郎にもあって、まさに僕が目指しているところなんです。そういったところで、かなりシンクロ率が高い…いや、高くさせていただいている、という感じですね。台本を読むたびに、「ああ、思ったことがあることばかりだ」という感覚が強いです。本当に…大森さんには何もお伝えしていないんですけど、こうしてインタビューの機会をいただくたびに「伝わってほしい」と思って、ここぞとばかりにお話させてもらっています(笑)。もちろん、撮影が終わったら打ち上げの場で最大の感謝の意を述べるつもりです。

連続テレビ小説『なつぞら』

第73話より ©NHK
「川村屋を辞めたい」と職長に伝える日、店先で深呼吸をする雪次郎。

第13週では、将来のことで揺れる雪次郎を心配して上京してきた家族とのエピソードも描かれます。父・雪之助役の安田顕さん、母・妙子役の仙道敦子さん、そして祖母・とよ役の高畑淳子さんとの共演について、あらためて感じていることをお聞かせください。

小畑家のみなさんからは、厳しさの中にある愛情をすごく感じていて。第13週で「(菓子職人の)修行をやめたい」と言った時、「こいつの気持ちが変わるまで、(川村屋で)一緒に働く」っていう雪之助さんの選択肢は、なかなか出てこないんじゃないかなと思います。見守ってくれているし、かといって強制でもなく…ただそばにいて一緒に働くっていう行動の裏には、ものすごく複雑な感情があるように感じるんですね。単に叱るんじゃなくて、何も言わずにいることで、気持ちを伝えるっていうのは。
不思議なことにヤスケン(安田顕)さんと一緒にいると、実の父といるような感覚がして、緊張するんですよ。仙道さん──妙子さんの「母ちゃんには謝らなくていいからね」っていう優しさも、ばあちゃん(高畑演じるとよ)の俯瞰して見てくれている距離感も染みるんです。三者三様の家族愛がビシビシ伝わってきたので、雪次郎として自分がやりたいことに対する気持ちを、しっかり伝えなくちゃダメだって思いました。そんなふうにして、この先の人生を決めていくんだろうなって感じましたね。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

広瀬すずさんが「劇団おばた」と称していたほど、小畑家のみなさんが面白かったと話していたんですが、現場ではどんな雰囲気なのでしょうか?

僕も大好きです。お三方とも愛情が深いですし、すごく優しく見守ってくだるので、段取りとかテストの時でも、「好きなようにやっていいよ」と言ってくださって。しかも、小畑家のシーンは雪次郎にかき乱されて家族の気持ちが動いていく場合が多いので、いい芝居のキャッチボールができれば、いいシーンになるんじゃないかなと思いながら、いろいろなことをやっていました。だから、結構本番までに芝居が変わることが多くて。しかも、本番で一番ピッタリくる感覚が僕の中にはあって、テストや段取り、リハでは探っている部分が多いんですけど、「ここはこうした方がいいですか?」「今のだと伝わりづらいですかね?」って、お三方に訊いてみたりとかして。ちょっと先の話になっちゃうんですけど、あるシーンでは台本に書かれていなかったのに、本番で涙が自然と出てきて。その芝居を見て、お三方が「いい! 良かったよ!」と言ってくださったんです。その時は、自分としてちょっと認めてもらった感じと、雪次郎として許してもらった感じと…いろいろなめぐりあわせのタイミングが重なって、どっちの気持ちも感じました。何だろう…『なつぞら』は自分のパラレルワールドを生きているような感じなんですよ。ある意味、山田裕貴としての人生よりも楽しいかもしれないです(笑)。

連続テレビ小説『なつぞら』

第34話より ©NHK
雪月の新商品「バターせんべい」の説明をする小畑家。

そんな雪次郎の好きなところ、演じていて楽しいところはどこでしょう?

どういうところから役に入ったらいいかなって、クランクインする前から考えていたんです。で、インの日が北海道ロケからだったんですよ。ものすごく広い土地に木が生えていて、牛がそばにいて、独特の匂いがしていて。その日、天気はあんまり良くなかったんですけど、すごく気持ちよかったんです。こういう土地で育ってきて、戦後の大変な時期に家業を継ぐことを期待された菓子屋の1人息子で、愛されていて…っていうバックグラウンドがあったら、どういう人間になっていくかなっていうところから考えていきました。たぶん、すごくホンワカしているんだろうなと思って、共演歴がある(山田天陽役の)吉沢亮くんやキヨちゃん(柴田照男役の清原翔)たちが、どういう役のつくりかたをしてくるのかを予想して、彼ら2人とはちょっと違った…この時代、もっとガツガツしていないといけないのに、生きていることにホンワカしているような男の子になれば、というふうに肉づけしていったんです。
その後で言われて気付いたり、台本を読んでいて感じたのが、なっちゃん(広瀬すず演じる奥原なつ)はどんどん開拓していって、自分の人生を切り拓いていくんですけど、家族にも恵まれていて、特に大きな挫折をすることなく育ってきた雪次郎は、一緒に東京に出ていってから、どんどん失敗していくことになるんですね。開拓者の話なのに、開拓できずに人生が進んでいく。でも幸せって、開拓できなかった者でも道を踏み外さない限り、最終的には手にできるんだっていう構図になっているんですよ。そこがすごいな、と思います。のちのち…「ああ、こうなるんだ…」という展開があって。でも、それって雪次郎が愛されキャラだから腑に落ちるところもあるんです。そうやって考えてみると、最初の段階からホンワカしていて愛される男の子にしておいて良かったなと感じました。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

当初から山田さんが考えていた雪次郎像に、ストーリーがうまくハマっていった感じもあると。

後から肉づけされていったところもかなりあるんですけど、そういうところも面白いなと思います。毎回、自分でも演じながらワクワクしています(笑)。

ちなみに山田さんご自身は、どういったお菓子が好きなんでしょうか?

僕は和菓子が好きなので、京都駅に行くと抹茶と和菓子でひと息、といった感じですね。あと、羊羹が好き。ショートケーキ…というか生クリームがあんまり得意じゃないんですけど、食べず嫌いかもしれないです。クリームよりも小倉あんが好きなのは、名古屋育ちだからかな、と。“小倉マーガリン”的なのが好きなんですけど、これものちのち出てくるんですよ。もう大森さん、どこまで僕のことが好きなんだろうって(笑)。いえ、本当にありがたい限りです。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

名古屋のお父さんとは、お芝居のお話などをされたりはしないんですか?

『なつぞら』を見て、あのシーンが面白かったといったことよりも、「お前よかったな、こういう作品に出演できて。みんなに感謝しろ」と言われます。それは子どもの時から変わっていないですね。人がいて成立しているんだぞと、ずっと言われてきて。作品を観ても言うことは「どこどこはよかった。でも、まだまだなんだからな」ということだけです。まだここがゴールじゃないよって。

朝ドラに出ることができたから特に、というわけでもないと?

そもそも僕にとっては、朝ドラもほかの作品も注ぎ込む熱量は変わらないんです。それを父もわかってくれていて。朝ドラだからがんばっているわけじゃなくて、どの作品もがんばっているので、父も常に同じ反応が返ってきます。もちろん僕自身は、朝ドラ出演によって今まで以上に存在を知っていただくといったことに感謝をしていますけど、今まで自分が一生懸命に演じてきた役や作品は何だったのかなって、ちょっと悲しくもなりました。同じ熱量を注いでいるのになって、悔しくもあって。これからは、もしかすると、本当に伝わってほしいことが曲解されて広まっていくこともあり得るのかなって、思ったりもして。たくさんの人に作品を見ていただく俳優になりたいという思いは変わっていないので。「朝ドラ、見てますよ!」と声を掛けていただくようになりましたけど、たぶん山田裕貴っていう名前は覚えてもらっていないんだろうなって(笑)。でも、一番影響を受けたゲイリー・オールドマンみたいに役ごとにまったく印象が変わるというところで、俳優にとっては役で知れ渡ることが大事なので、そこは理想的でもあるかなと思っています。

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