山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 63

Column

ブルース・スプリングスティーン / Western Stars

ブルース・スプリングスティーン / Western Stars

結成40周年の節目にリリースするアルバムを現在レコーディング中のHEATWAVE山口洋から、清新なアルバム・レヴューが届いた。
ブルース・スプリングスティーンの通算19作目となる新作『Western Stars / ウエスタン・スターズ』。
ボス自身、「宝石箱のようなアルバム」と称す作品の本質を、40年旅を続けるミュージシャンならではの視点と聴力、共感力で、真摯に綴る。


69歳のブルース・スプリングスティーンから新しいアルバムが届く。

前評判がどうであれ、新作が出るたびに必ずアルバムを手にいれるアーティストたちが次々と鬼籍に入っていくから、久しぶりの嬉しいニュース。

同じ時代に生きていることは、ソングライターとして励まされるし、定点にとどまることなく、葛藤とともにソングライティングに取り組み続ける姿勢にいつも敬服している。時代が配信に傾いていく中、コンセプトをもった「アルバム」を創ってくれていることにも。

いつだって、彼の音楽は暗闇を照らすヘッドライトのようだった。

初期の作品『The Wild, the Innocent & the E Street Shuffle(邦題:『青春の叫び』)』(1973年)に収められた「New York City Serenade」。そこに描かれた街とこころの情景のコントラスト。ルー・リードにも描けなかったNYの裏通りの悲哀と美しさ。今聴いても胸が詰まる。

ショーン・ペンの初監督作品『The Indian Runner』(1991年)はアルバム『Nebraska』(1982年)に収められた「Highway Patrolman」をもとにシナリオが描かれた。この映画は僕の人生を大きく左右した作品で、初めて観たとき、しばらく椅子から立ち上がれなかった。5分足らずの曲に映画1本分のストーリーが内包されていることにのけぞるしかない。

いつも疑問に思っていることは、まぎれもないロックスターで、ある種セレブリティーでもある彼が、どうやって市井の人々を観察、サンプリングし、実際に存在するに違いないアメリカ人たち、サイレントマジョリティーを見事に描きだしているのか? ということ。もし会うことがあったら、聞いてみたい。どうやったら、スターの座にいながらにして、常に弱者の味方でいられて、アメリカのこころの荒涼を描けるのか?

さて『Western Stars』。今回は盟友Eストリート・バンドと組むことなく、70年代の南カリフォルニアのポップミュージックにインスパイアされ制作されたのだと。バート・バカラック、グレン・キャンベル、ジミー・ウェッブあたり。これらの音楽にはなんとも言えない琴線に訴えかけるサウンドのタッチ(肌触り)がある。たとえばグレン・キャンベルの声はノスタルジックだけれど、単に懐古的ではない。こころの深いところにある原風景に訴えかけてくる力がある。脱線するけれど、アルツハイマーに冒された晩年のグレン・キャンベルがポール・ウェスターバーグの手を借りて歌った「Ghost On The Canvas」(2011年)は今回ブルース・スプリングスティーンが目指したサウンドに近いのではないかと推察している。素晴らしい楽曲で、歌唱で、タッチなので、ぜひ一聴されたし。

なんにせよ、彼が郷愁だけで音楽を作るわけがない。おそらく通底しているのは焦燥、絶望、疲弊、衰退、不誠実さ。そしてその中でも失われない良心を描くために、この手法を選んだのではないかと思いながら、封を切る。

散歩しながら、聴く。生真面目な彼らしく、きっちりと作られている。クリックを使って録音されたことがすぐにわかる。アイデアは推敲を重ねて、このアレンジに落ち着いたのだろう。配置された楽器にまったく無駄がない。多用されている弦にはフィドルとヴァイオリンという概念があるが、これは紛れもなくヴァイオリン。そこにワイルドさを求めてはいないのがわかる。

なるほど、確かに南カリフォルニアの音楽にインスパアされたのだろう。けれど、紛れもなくブルース・スプリングスティーンの2019年の作品。登場する主人公、それぞれの人生が短編映画のように描かれている。素晴らしい曲順がまた短編の連なりを喚起する。つまり、そこには「僕」も含まれるのだと。

僕をとらえたのは「トゥーソン・トレイン」と「ムーンライト・モーテル」。通底しているのは絶望だけれど、自分の日々の中で、暮らしている町を歩きながら聴いていると、自分のためのサウンドトラックのように聞こえてくる。聴き終えると、不思議な希望が湧いてくる。

なんであれ、生きてさえいれば、明日もまんべんなく朝陽が昇ってくる。あとはどう生きるか、それはお前の問題だ、というような……。それは希望か? 希望だ、たぶん。

思い込みかもしれないけれど。

近年、彼の目が笑っているのをあまり見たことがない。年々その想いは強くなる。乖離と孤独が彼に歌を書かせ、それを歌うことで世界とコミットする。それがソングライターの仕事。つまり、ある意味では一般的な幸福とは縁遠いこと。そしてステージにいるときだけ、すべてを忘れる。

彼もまた旅を続けている。たぶん、そうすることしかできないから。そのことに妙に励まされる。流されるのと流れることは違う。前者は妥協で後者は意志。『Western Stars』は流れるための意志を推進してくれるようなアルバムだった。

感謝を込めて、今を生きる。

Bruce Springsteen / ブルース・スプリングスティーン
1949年9月23日、ニュージャージー州フリーホールド出身。オランダ系とアイルランド系アメリカ人の父、イタリア系アメリカ人の母の間に生まれる。1973年アルバム『Greetings From Asbury Park,N.J. / アズベリー・パークからの挨拶』でデビュー。3rdアルバム『Born To Run / 明日なき暴走』(1975年)で現代アメリカの若者の渇きを鮮烈に描写、Eストリート・バンドとの圧倒的なパフォーマンスも加わって、時代の寵児的存在に。ベトナム帰還兵の苦悩を歌った『Born In The U.S.A.』(1984年) は全世界で2000万枚を超えるセールスを記録。続くワールド・ツアーでも大成功を収める。9.11同時多発テロ後に発表した『The Rising』(2002年)では、ナショナリズムに煽られる国で個人の痛み、喪失感に深く寄り添う歌をうたった。イラク戦争には反対の意を表明、社会的メッセージを込めた楽曲などウディ・ガスリーの後継的アーティストの一人とも言われ、ロック・シーンにとどまらない存在感を誇る。
2018年、コンサートでもブロードウェイ・ショウでもひとり芝居でもない、アコースティック・ギターとピアノの弾き語りライヴ&トークが「第72回トニー賞」の「特別賞」を受賞。『Springsteen On Broadway』としてNetflix配信されるのに伴い、2017年音源を収録した同名のライヴ盤をリリース。さらに2019年6月14日には通算19作目となるオリジナル・アルバム『Western Stars / ウエスタン・スターズ』をリリース。新境地に挑戦した新作は早くも全英1位を獲得した。
愛称は“ボス(Boss)”。全世界トータル・アルバム・セールスは1億2000万枚以上。20のグラミー受賞、ゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞受賞、1999年にはロックの殿堂入り。2016年にはアメリカ文民最高位の賞「大統領自由勲章」を受章。


『Western Stars / ウエスタン・スターズ』

ソフトパック仕様 解説・歌詞・対訳付/¥2,400(税別)/SICP-6183/ソニー・ミュージックより発売中
2014年『HIGH HOPES / ハイ・ホープス』以来5年振り、通算19作目となるオリジナル・ニュー・アルバム。60年代終わりから70年代初めにかけてのサザン・カリフォルニア・ポップ・レコードにインスパイアされた、彼の音楽を新たな境地へと誘う作品。13曲全曲スプリングスティーンの書下ろし新曲。ハイウェイと荒廃した空間、孤立感とコミュニティ、そして家庭や希望の不変性といったアメリカ的なテーマを広範囲に網羅。広大なアメリカの風景、孤独な旅路の物語を紡いでいく。プロデュースはブルースとロン・アニエロ。パティ・スキャルファ、ジョン・ブライオン、デヴィッド・サンシャス、チャーリー・ジョルダーノ、スージー・タイレル他がゲスト参加している。アルバムのミキシングはグラミー賞受賞歴13回のトム・エルムハースト。全英アルバム・チャート(Official Albums Chart Top 100 6/21-6/27)で通算11作目の全英1位を獲得した。
2枚組アナログLP(完全生産限定輸入盤国内仕様のブルー・マーブル・カラー・ヴァイナル盤)でも発売中。(¥5,800+税/SIJP-86~SIJP-87)


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。バンド結成40周年となる今年、アルバム発表に向けて現在レコーディングの真っ最中。6月28日には2011年東日本大震災後から続けている“MY LIFE IS MY MESSAGE”を横浜サムズアップで開催した。7月21日からは山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour後半戦がスタート。8月には2つの野外イベント、“オハラ☆ブレイク ’19夏”、“RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019in EZO”に出演する(powered by ARABAKI ROCK FEST,)。9月にはHEATWAVE sessions 2019 ③を東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催することが決まった。 2018年ツアーのライヴCD『日本のあちこちにYOUR SONGSを届けにいく』、2018年12月22日HEATWAVEライヴを収めた『The First Trinity』がライヴ会場をはじめHEATWAVE OFFICIAL SHOPにて発売中。

オフィシャルサイト

ライヴ情報

VORZ BAR & GROOVE COUNCIL presents MIX UP&BLEND vol.3
7月13日(土)仙台市 市民活動サポートセンター B1F シアター
出演:山口洋(HEATWAVE)/ 藤井一彦(THE GROOVERS)/ 大江健人
Opening Act:堀下さゆり&佐山亜紀
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山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour
7月21日(日)水戸 Jazz Bar BlueMoods
7月26日(金)佐賀 Restaurant & Cafe 浪漫座
7月28日(日)福岡ROOMS
8月30日(金)岩国 himaar(ヒマール)*ヒマールスペシャル企画「山口洋とギターを弾いてみよう」
8月31日(土)岩国 himaar(ヒマール)*特別公演
9月1日(日)愛媛 松山 スタジオOWL
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オハラ☆ブレイク’19夏
北のまほろばを行く-猪苗代湖畔編- powered by ARABAKI ROCK FEST.

8月10日(土)猪苗代湖畔 天神浜オートキャンプ場
出演:BAND:山口洋(G)・細海魚(key)・辻コースケ(Ds)
GUEST:仲井戸”CHABO”麗市・TOSHI-LOW・藤原さくら・Rei
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RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO
北のまほろばを行く-石狩編- powered by ARABAKI ROCK FEST.

8月16日(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ(BOHEMIAN GARDEN)
出演:BAND:山口洋(G)・細海魚(key)・辻コースケ(Per)and more
GUEST:仲井戸”CHABO”麗市 and more
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HEATWAVE sessions 2019 ③
9月23日(月・祝)東京 duo MUSIC EXCHANGE
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vol.62
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vol.64