Interview

作曲の過程までアニメ化、「尋常ではない手間がかかっている」─『キャロル&チューズデイ』プロデューサーが語る、全世界配信に向ける覚悟

作曲の過程までアニメ化、「尋常ではない手間がかかっている」─『キャロル&チューズデイ』プロデューサーが語る、全世界配信に向ける覚悟

<TVアニメ『キャロル&チューズデイ』西辺 誠プロデューサーインタビュー/前編>

『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』を筆頭に、音楽にも強いこだわりを持った作品を世に送り出してきた渡辺信一郎監督の最新作であり、偶然出会った2人の少女=キャロルとチューズデイが、AIによる音楽制作が普及した近未来の火星を舞台に、後に世界で語り継がれる「奇跡の7分間」にたどり着くまでを描くTVアニメ『キャロル&チューズデイ』。

「海外にアニメカルチャーを広げたい」をコンセプトにNetflixを通して世界にも配信される本作では、全世界を対象に主人公役の歌唱シーンを担当するボーカリスト・オーディションを開催。楽曲を制作するクリエイターもNulbarichやベニー・シングス、フライング・ロータス&サンダーキャット、スティーブ・アオキ、☆Taku Takahashi、アリソン・ワンダーランド、コーネリアスなど世界各地から音楽シーンのトップクリエイターが集結し、細部までこだわり抜いた良質な音楽アニメ作品として話題を呼んでいる。

世界に発信することを意識した作品だからこその工夫や、音楽を題材にしたアニメだからこそ生まれた魅力は、果たしてどんなものなのだろうか。アニメ制作当初から作品にかかわるプロデューサー/音楽ディレクターの西辺 誠氏に、その制作秘話を聞いた。

取材・文 / 杉山 仁 構成 / 柳 雄大


渡辺信一郎監督に言われていたのは「初めてストレートを投げようと思った」ということ

『キャロル&チューズデイ』は音楽がとても重要な役割を果たす作品になっていますが、プロジェクト開始当初、渡辺監督は西辺さんにどんなお話をされていましたか?

これまで音楽にもこだわった作品を手掛けてきた渡辺監督に、なぜ『キャロル&チューズデイ』をやろうと思ったのか、と聞いたときに返ってきた言葉が、「初めてストレートを投げようと思った」ということでした。

監督はアニメに携わる前からずっと音楽、特に洋楽に親しんできた方ですが、音楽そのものを作品の中心に据えた作品は、実は今回が初めてです。また、歌については、当初は日本語でやるという話も出ていたのですが、この作品はNetflixさんで全世界配信もされるということで、監督が「英語でいきましょう」と話していたのを覚えています。それがどれだけ大変なことかは後になって知ることになるのですが……(笑)。

やはり世界に向けて発信する作品ですから、世界の共通言語である英語で発信しない手はないんじゃないかという話になったんです。その結果、コンポーザーも日本だけでなく、世界の様々な場所から分け隔てなく素晴らしい音楽を集めるという方向になりました。

なるほど、それで世界各地の様々なトップクリエイターの方々が作品に参加することになったのですね。西辺さんとしては、どんなことを意識していましたか?

今回はオリジナルアニメとあって、シリーズ構成も含めて「渡辺監督から出てくるものを具現化する」という形ではじまっているので、僕の立場としては、監督から出てくるものに対して「これはちょっと厳しいです」という話は、極力言わないようにしています。

また、プロデューサー陣も含めて話をしていたときに、NordやGibsonといった実在するメーカーの楽器(キャロルとチューズデイが劇中で使用するキーボード&ギター)や、Instagramのような実在のSNSや海外のフェスなども、「そのままの名前で作品に登場させたい」というアイディアが出てきたので、その部分でも海外との交渉に動いて、可能な限り実現することができました。

そうすることで、火星を舞台にしたSF的な要素もある『キャロル&チューズデイ』という作品に、現実との接点を持たせたいと。同じくリアリティを加えるという意味では、「インターネットを通して音楽がバズっていく様子」を筆頭に、現代ならではの様々な要素も取り入れています。

実際、この作品ではAIによる作曲がより一般化した世界が舞台になっているなど、少し先の未来に起こってもおかしくない様々な要素がちりばめられています。

もちろん、ここで描かれている世界は必ずしも実際の未来図ではないとは思いますが、現実としてもDTM(デスクトップミュージック)で曲を作ることが一般的になったり、ボーカロイドが普及したり、VTuberの方々が活躍していたり、AIでの作曲が可能になったりと、バーチャルなものが現実を侵食している側面がありますよね。

『キャロル&チューズデイ』の世界では、音楽の8~9割をAIが作曲していて、それを人々が楽しんでいるわけですが、そこにキャロルとチューズデイという、生楽器で、自分たちで曲を作る2人がどうトライするかという物語は、今の時代ともシンクロするテーマなのではないかと感じています。

もちろん、時代の変化にあわせて、変わっていくものは変わっていって当然ですが、その中でもずっと変わらない「エバーグリーンなものがある」ということは、どれだけ世の中が変化しても揺るがない永遠のテーマだと思います。国や人種に関係なく、世界中の人々に普遍的な題材であるという意味でも、世界に発信する今回の作品に合うと感じました。

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