LIVE SHUTTLE  vol. 352

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西川貴教の本気をまさに “証明”してみせた“Takanori Nishikawa LIVE TOUR 001 [SINGularity]”追加公演。「できるかじゃない、やるんだ!」

西川貴教の本気をまさに “証明”してみせた“Takanori Nishikawa LIVE TOUR 001 [SINGularity]”追加公演。「できるかじゃない、やるんだ!」

ついに自身の本名である“西川貴教”を掲げて新たなるヴォーカル・プロジェクトをスタート、実質4度目のデビューを果たしたのが2018年3月のこと。それから1年、相も変わらず多分野を股にかけ八面六臂の活躍を見せる一方で、着々と生み落とされ育まれてきた楽曲たちの最初の集大成にして、このプロジェクトの本領を世に轟かせる傑作が放たれた。それが西川貴教の記念すべき1stアルバム『SINGularity』だ。AI(人工知能)が人間の脳を越えるとされる技術的特異点、すなわちシンギュラリティをタイトルに標榜し、ヴォーカリストとしての劇的かつ無限の進化を意志表明したこの果敢なる傑作を携えてこの4月から全国7都市14公演、本名名義で初となるツアー“Takanori Nishikawa LIVE TOUR 001 [SINGularity]”を敢行した西川貴教。『SINGularity』リリース時の当サイト・インタビューにてツアーについて訊ねた際には《今あるものはすべてお見せしますよ。ただ、ホントにイチからだから不安しかないですけど(笑)。とにかく今、必死で準備していますので。》と控えめに語っていた彼だが、ツアーの追加公演であり最終日となった6月20日、Zepp Tokyoで観たものは想像を(少なくともその発言から普通にイメージするだろうものを)遥かに凌駕した驚嘆の世界だった。

取材・文 / 本間夕子 撮影 / 加藤千絵(CAPS)


まずもって驚かされたのはライヴハウスのキャパシティではほぼ考えられないであろう桁外れのスケール感。ステージの背後一面に設えられたLEDスクリーンの巨大さも然り、そのスクリーンを効果的に使用した特に前半戦と呼ぶべきライヴ本編でのコンセプチュアルで物語性の高い壮大な展開も然り。ライヴ本編を“前半戦と呼ぶべき”としたのはアンコールに当たる後半も本編に劣らぬボリューム感を誇っていたからだ。なにせ本編12曲に対し、アンコールは8曲。実質、2部構成と言ったほうがいいかもしれず、こうしたシアトリカルなスタイルで進行するステージというのもライヴハウスではなかなかない試みなのではないだろうか。さらに本編の中核を担う映像にはかつてT.M.Revolution中期に「Out of Orbit」からの一連のMVシリーズを手掛けたこともある映画監督のA.T.、ストーリー監修には『攻殻機動隊S.A.C』シリーズなどで名高い神山健治監督の参加が、西川の熱烈なラブコールによって実現したという。自身の歌と表現を改めて見つめ直し、それらを素材としながら、人と人との結びつき、様々なコラボレーションによる化学反応でいかに新しく面白いものを生み出せるのか。このプロジェクトの大きなテーマのひとつがこうして見事に結実しているのを目の当たりにするにつけ、そこに懸ける彼の並ならない熱と覚悟に圧倒されずにいられない。

定刻通りにスタートしたこの日のライヴ。スクリーンに浮かび上がったカウントダウンタイマーが開演時刻の1分前を切るや、すでに超満員状態のスタンディングフロアが塊となってグッと前方に動いた。オーディエンスの一人ひとりが腕につけたツアーグッズ、バングルライトのオレンジの光も一斉に波打つ。タイマーが“00:00:00”を表示した瞬間、沸き起こった凄まじい歓声と、鳴り渡るSE「SINGularity」とがみるみる融け合っていく様はなんとも言えず気持ちいい。バンドメンバーの菰口雄矢(G.)、二家本亮介(B.)、山崎慶(Dr.)、Yamato(DJ)によるアグレッシヴなバンドサウンドが加われば熱狂は加速の一途。

『西川貴教、証明できるかしら?』

「できるかじゃない、やるんだ!」

無機質な女性の問いを力強く跳ね返す西川の声。同時にスクリーンがまっ二つに割れ、その向こうから本人が姿を現わすとオーディエンスのヴォルテージは早くも最高潮に。一体、あの女性の声は? 証明できるか、とは? そんな問いさえ瞬時に吹き飛ぶほど、この場にいる全員が待ち焦がれた登場。それを体現するかのようにオープニングを飾った「Roll The Dice」ではいきなりどデカいシンガロングがフロアいっぱいに渦を巻いた。

「来たぜ、東京! 一生の中でそんなにあるはずないのに何度か経験している気もする、でも正真正銘、西川貴教として生まれて初めてのツアー。しかも今日は、なかったはずの、あり得ないもう1日。つまり、すでにこの段階でシンギュラリティが起きてるんじゃないんですかって話ですよ!」

続く「Bright Burning Shout」でも激情の限りを尽くしたパフォーマンスで魅せたあと、ジョークを交えつつそう呼びかけた西川に万雷の拍手と歓声が再び注ぐ。たしかに普通の新人であれば1stツアーで追加公演などおそらくかなり異例だろうが、そこは20年超のキャリアをもつド級の大型新人。しかもこの追加公演が今ツアー中でもっとも大きい会場であることを鑑みれば、自身の集客力を低く見積もり過ぎなのではないかとツッコミたくもなるが、その後のMCで「ちなみに初めてのツアー、本数もかなり少なかったです。自分的にちょっと日和り過ぎました。でも生まれて初めてなんだから小さいところからコツコツやりたいと思うのは人の情けでしょう?」と弁解していたところをみると、どうやら自覚はあったらしい。加えて考察するならば、様々な場所で本人が語っている通り、彼にとって“西川貴教”はイチから、いや、ゼロからの再出発。その覚悟を持って挑む最初のツアーだからこそ大風呂敷を広げるのではなく、たしかな実感とともに足元を踏み固めたいという想いが強くあったのかもしれない。そうしてコツコツ歩を進めた結果としてツアー最大規模の追加公演に辿り着いた。それも彼ひとりではなく、バンドメンバー、ツアースタッフを始め、各地に足を運んでくれたオーディエンス一人ひとりと一緒に、まっさらな大地に足跡をつけるようにして進んできたその道程こそが今ツアー最大の成果なのかもしれない、とも。

一方で、「(今日という日が)ホントに楽しみで仕方なさすぎて、ちょっと何も考えられへんくらい、いっぱいいっぱいな1週間でした」と明かし、「もうね、言いたいこと、伝えたいことだらけなんですよ」とあちこちに話題を脱線させては会場の爆笑を誘い、「この無駄話の時間も愛おしい!」と喜びを炸裂させつつも、きっちりとライヴのメインコンセプトであるシンギュラリティにまつわるストーリーへと帰結させる手腕は見事の一語に尽きた。LEDスクリーンをただのLEDではなく“F.L.E.I.(フレイ)”という名の学習機能付きAIとする架空の設定を作り、西川と“F.L.E.I.”との対話(始まりの女性の声は“F.L.E.I.”のものだった)をライヴのもうひとつの柱として主柱である演奏に絡めながら“人間とAIとの共存は可能なのか”という、今まさに人類が直面しつつある問題に迫るという展開だ。演劇的アプローチを取り入れたこの演出が説得力を持って、オーディエンスを惹き込むのはミュージカルなど、舞台経験にも長けた西川だからできる技だろう。最初はフレンドリーで“人間の心”という概念に深い興味を示していた“F.L.E.I.”が徐々にその曖昧さや合理性のなさに懐疑的になり、最終的に“共存は無理”と結論づけて決裂へと至る流れの中、最後まで諦めることなく“人間の可能性”を説き続け、圧巻の歌唱力で斬り込んでいく西川の鬼気迫る表現力たるや。

ヒトの魂というものを“F.L.E.I.”に示すべく、西川とフロアが一丸となって歌声を響かせたネオアンセム「Hear Me」からヘヴィにドライヴする「REBRAIN In Your Head」の現代的リアリティ。“並列”や“共有”といった記号的な言葉に収まらない感情を美しく、かつエモーショナルに具現したのは「NOISEofRAIN」だ。「His/Story」「Roll The Dice」の作曲・編曲を手掛ける澤野弘之のプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]にゲストヴォーカルとして参加した曲であり、ツアーで唯一、自身の名義ではない曲だが、にも関わらず、今回歌い続けてきたのは、この曲もまた人と人、命と命のつながりで生まれたものであり、そこでの魂の行き来みたいなものを伝えられると思ったからだという。「Keiに捧げます」と今年1月に急逝したFear, and Loathing in Las Vegasのベーシストへの哀悼を告げると、彼らとともに作り上げた「Be Affected」を投下、思いの丈を全身全霊で放つそのパフォーマンスには彼の深い愛情が滲んで、こちらも否応なく揺さぶられてしまう。

人間の愚かで傲慢な所業、負の連鎖を“F.L.E.I.”に突きつけられ、苦悶に身をよじるかのごとく歌声を絞り出した「Elegy of Prisoner」の切実な迫力。それでも人間の未来に希望を見出ださんとパワフルに前を向いた「HERO」を経て、不敵なまでの牽引力を発揮した本編ラストの「UNBROKEN(feat.布袋寅泰)」でZepp Tokyoにいっそうの団結をもたらすと映像の中の世界に踏み込み、“F.L.E.I.”と対峙する西川。物語の結末に“F.L.E.I.”は彼に『西川貴教、今度はあなたが道を示す番』と使命を託し、『私の選択が間違っていないことを証明できるかしら』とまたも問いかける。

「できるかじゃない、やるんだ!」

猛々しい復活! 後半戦のステージに戻ってきた西川ははっきりと覚醒を遂げていた。

「最初から諦め、惰性で生きることになんの意味がある? 世間体に囚われ、できなかったことの数を数えてなんになる? だが、すべての人がイノベーターになりたいわけじゃない。誰かの夢に寄り添うことで満たされる人もいる。だから俺はオマエに夢を持てとはけっして言わない。その代わり俺がオマエの夢になってやる! 西川貴教、俺がSINGularityだ」

高らかな宣言とともに幕を開けたのは本編とは全く異なるアレンジを施され、ダンサブルに生まれ変わった未知なる『SINGularity』の世界だ。ダイナミックに場内を揺らす強烈な四つ打ちのトラックといっそう殺傷力を増したアンサンブル、どこまでもたくましく、また伸びやかにほとばしる西川貴教の歌。物語から解き放たれた楽曲は自由に空間を駆け巡り、オーディエンスのたかぶる感情を容赦なくブーストする。「あり得ないことを起こそう。今日、この瞬間、この場所に日本でいちばんデッカいクラブを作るぞ!」と西川に煽られ、フロアもまたこれ以上ないくらいに跳ね踊った「His/Story」に、脳みそにリアルに激震を走らせたかのような「REBRAIN In Your Head」。「Hear Me」の曲中、「今、差し出せるのはこの命と声しかありません。それでもこの先も一緒にいてくれますか!」と西川が全力で叫べば、本編をも超える勢いで満場に轟く歌声が西川に注がれる。結局、後半の全8曲中7曲が本編でも演奏された楽曲で占められていたわけだが、予想だにしなかった変身ぶりにはただ、ただ、目をみはるのみだった。こんな大胆な試みも“西川貴教”ならば全然あり、というか、できれば全曲やってほしいと思ってしまったほど。まさかクラシカルな「Elegy of Prisoner」がこんなにもダンスアレンジに映えようとは。過去の作品に頼ることなく、徹頭徹尾、今のモードを貫いた、その潔さも美しい。歌詞そのままに“止まらずMove”“ひたすらGroove”“力尽きるまでDo”な「BIRI×BIRI」までノンストップに畳み掛けた40分、“F.L.E.I.”の言葉を借りるなら、それは西川貴教の本気をまさに“証明”してみせた、かけがえのないひとときではなかっただろうか。

「この新しい場所から、もう一度イチからのスタートです。他のアーティストのファンをやってたら、たぶん味わうことのできない苦労、もしかしたら味わわなくていい苦労かも知れません。とまどったり、はぐらかしたり、想いを斜め45度から返したり、そんなことばっかりやってますが、ここにあるものはひとつも変わってない。ただオマエらが大好きです!」

この日の最後に西川は照れることなく胸の内を明かし、「このキャリアにして、全く失敗を恐れず、もう一度ゼロからすべてに挑み続けることをここに誓います」と改めて約束した。ならば苦労も喜んでしよう。『SINGularity』のそのずっと先の景色まで共に見たいと願うから。

Takanori Nishikawa LIVE TOUR 001[SINGularity]
2019年6月20日(木)Zepp Tokyo

SET LIST

M01. SINGularity
M02. Roll The Dice
M03. Bright Burning Shout
M04. Hear Me
M05. REBRAIN In Your Head
M06. NOISEofRAIN
M07. awakening
M08. Be Affected
M09. His/Story
M10. Elegy of Prisoner
M11. HERO
M12. UNBROKEN(feat.布袋寅泰)
〈ENCORE〉
E01. Roll The Dice
E02. His/Story
E03. REBRAIN In Your Head
E04. Hear Me
E05. HERO
E06. Elegy of Prisoner
E07. UNBROKEN(feat.布袋寅泰)
E08. BIRI×BIRI

ライブ情報

イナズマロック フェス2019
2019年9月21日(土)・22日(日) 滋賀県草津市 烏丸半島芝生広場

西川貴教(にしかわ・たかのり)

1970年9月19日生まれ。滋賀県出身。1996年5月、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてシングル「独裁-monopolize-」でデビュー。キャッチーな楽曲、観る者を魅了する完成されたステージ、圧倒的なライブパフォーマンスに定評があり、「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」「INVOKE」など大ヒット曲を連発する。故郷・滋賀県から初代「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、県初の大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催、地方自治体の協力のもと、毎年滋賀県にて開催している。2016年5月にはT.M.Revolutionデビュー20周年を迎え、オールタイム・ベストアルバムをリリース。オリコン・アルバムチャートで1位を獲得し、2017年5月には20周年プロジェクトの集大成としてさいたまスーパーアリーナ2days公演を開催。2018年から西川貴教名義での活動を本格的にスタートさせ、3月に1stシングル「Bright Burning Shout」、10月にFear, and Loathing in Las Vegasとコラボレーションした配信シングル「Be Affected」、11月に2ndシングル「His/Story / Roll The Dice」をリリース。そして、2019年3月6日に西川貴教としての1stアルバム「SINGularity」をリリースし、4月から全国ツアーを開催。追加公演を含む14公演を大盛況のうちに完走した。

オフィシャルサイト
http://www.takanorinishikawa.com

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