Interview

羊文学 彼女たちが“女の子”をテーマに作品を作ると、どんな世界が展開されるのか?

羊文学 彼女たちが“女の子”をテーマに作品を作ると、どんな世界が展開されるのか?

羊文学のニュー・リリースは、5曲入りEP。“女の子”をテーマに揃えられたという5曲は、彼女たちならではの陰影は感じさせながらも、全体的にはポップな印象が強い。着実に支持を広げている彼女たちが、さらに新しい展開に向かう最初の一歩のような作品だ。
ここでは、その楽曲たちの制作を順番にたどってもらうと共に、このバンドの曲作りやアレンジ作法をあらためてメンバー3人に語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史


私は男っぽい感じでバンドをやってきたけど、Charaさんを見て、女として音楽をやってる感じでやってみたいなと思って

昨年夏のアルバム・リリース以降、どんなふうに活動が進んで、今回のリリースにつながっていったんですか。

塩塚モエカ(Vo,Gt) 何があったかな?

ゆりか(Ba) 配信シングルを出したよね。

塩塚 そうだ。配信のシングルを出したりして、それでこの夏くらいに何かリリースしようという話になったんですけど、計画性がないから(笑)。

前回のインタビューの際には、普段から曲作りは進めていて、具体的にリリースが決まったら、その作品のサイズやテーマを決めていくという話でしたが。

塩塚 2曲目の「ロマンス」を去年の夏くらいに作ったと思うんですけど、あの曲は入れたいなということは思っていました。それとは別に、一昨年くらいからCharaさんのライブを何度か見てるんですけど、それで感じたことがあって。私は男っぽい感じでバンドをやってきたけど、Charaさんを見てると女として音楽をやってる感じが自分にはないから、そういう感じでやってみたいなと思ってたところから、今回のような内容になりました。

羊文学 塩塚モエカ エンタメステーションインタビュー

塩塚モエカ(Vo,Gt)

「ロマンス」という曲は、これまでの羊文学の曲たちに比べると、ポップ感がより強い印象がありますが、そういう曲を作ろうとしてできた曲ですか。それとも、結果的にそうなったという感じですか。

塩塚 「ロマンス」は結果的、という感じですね。あの曲を作った頃、大学でスーパーカーのコピー・バンドをやってて、それであの曲もスーパーカーっぽくしたいと思ってたんです。誰にもそう思ってもらえなかったんですけど(笑)、私としてはそういうイメージだったんですよね。でも、ちょっと違いました。

フクダさんとゆりかさんは、「ロマンス」を最初に聴いた時にはどんな印象でしたか。

フクダヒロア(Dr) 歌がメインでどんとある感じがしたんで、ドラムもシンプルに歌を聴かせたいと思ってやったし、羊文学の曲のなかでも歌モノ的な位置にある曲だと思います。

ゆりか 今までよりもポップな印象はありました。

太いベースが鳴ってるのも、この曲の印象として強いですね。

ゆりか そうですね。ポップにポップを重ねるのも良くないかなと思って。現状の自分たちの特徴は残しつつ、新しいことをやった感じはあります。

羊文学 ゆりか エンタメステーションインタビュー

ゆりか(Ba)

「ロマンス」のアレンジについては、あらかじめのイメージとしてこういう感じにしたいというようなものはあったんですか。

ゆりか ダサい感じにしたいって言ってたよね。

塩塚 そう、ダサい感じ。ダサかわいいにしたいなって。2000年代っぽい感じというか(笑)。

2000年代はダサかわいい感じだったんですか。

塩塚 今はわりとさっぱりとしてきれいな感じが流行ってるように思うんですけど、でも2000年代はもうちょっとバカっぽく抜けてる感じとかシュールな感じがあったなという気がするんですよね。

そういうサウンドに乗せて、例えば♪女の子はいつだって無敵だよ♪と歌うと、そのメッセージ自体が抜けてる感じとかシュールな感じに聞こえたりしませんか。

塩塚 歌詞については、一つは仮面ライダーみたいなヒーローもののイメージがあったんですけど、その主人公の女の子には好きな男の子がいて、付き合ってたんでだけどフラれて、それからはその男の子のことをネットですごく調べたりするんです。ひと言で言えばネットストーカーですよね。そういうイタイ女の子の話なので、さっき言ったような感じのアレンジがいいかなと思ったんです。

私の場合は映画を観たり本を読んだりして、その感想みたいな感じで曲を作るのが好きなんです。

「ロマンス」がそういうふうに出来上がって、次に出来たのはどの曲ですか。

塩塚 出来た順番ですか? 出来たのは4曲目の「ミルク」が一番古くて、その次に「ロマンス」と「ソーダ水」、それから「あたらしいわたし」で、最後が「優しさについて」です。

「ミルク」は、バンドのアレンジまで含め、完全に出来上がっていたんですか。

塩塚 昔、20歳くらいの時に作って、まだゆりかちゃんがいない時ですけど、当時のメンバーでライブでもけっこうやってたんです。でも、ライブでやらないとそのまま消えちゃうし、歌詞は女の子というテーマにぴったりだし、ここを逃すと入れるタイミングがなくなっちゃうなと思って。

それで、今回この3人でレコーディングすることにしてから、構成やアレンジで何か変えたところはあるんですか。

塩塚 バンドでやらなくなってから弾き語りでやってたんですけど、その構成でやりました。ギターも、細かいところはいろいろ変えたんですけど。

フクダ 前からすごくいい曲だったんですけど、今回さらに完成度が上がった感じがありますね。

塩塚 歌詞も繰り返しが多いし、コードも少なくてシンプルな構成だったから、昔ライブでやってる時にはちょっと退屈かなとも思ってたので、だから今回ギターの細かいフレーズを入れたりして…。

歌メロに合わせたフレーズがギターで入ったりしますよね。

塩塚 そうなんです。だから、これはギター弾きながら歌うのが難しくなったんですけど(笑)、それに♪いつか終わる日がくると〜♪というブロックの歌詞を足してCメロみたいにして入れたりしました。

羊文学

最初にこの曲を作った時はどんなモチーフだったんですか。

塩塚 テレビかなんか見てたら、「覆水盆に返らず」と訳される英語のことわざをそのまま訳すと「こぼしたミルクを嘆かないで」という意味だという話をしてて、外国ではそのことわざは「もうやっちゃったことはしょうがないんだから、前を向きなよ」みたいな感じらしいんですけど、「覆水盆に返らず」はもうちょっと後ろ向きな感じじゃないですか。それが面白いなと思って書きました。

「ソーダ水」は「ロマンス」と同じ時期に作ったということですが、気持ちの上でその2曲はつながっているところはありますか。

塩塚 その2曲だけでなく、どの曲も詞は私が書いているので、全部関わりがあると言えばあるんですけど、「ソーダ水」は去年「放課後ソーダ日和」というYouTubeドラマの音楽を作ったんです。そのドラマは、「少女邂逅」という映画のキャンペーンのための企画だったんですけど、それは女の子がいろいろ悩んだり楽しく盛り上がったりするお話で、その映画を見たり、ドラマの脚本を読んだりして、そこからイメージを膨らませて作った曲です。

そのドラマや映画で展開されている世界は、自分にも身に覚えのあることだったりしたんですか。

塩塚 そういう感じはありましたけど、でも具体的に自分が経験したことを曲にするということではなくて、私の場合は映画を観たり本を読んだりして、その感想みたいな感じで作るのが好きなんです。ただ、この曲が女の子と女の子の話ではなくて女の子と男の子の話になっているのは私自身の経験や視点が入っているとは思います。

「ソーダ水」のドラムのスクエアな感じが印象的だったんですが、この曲のドラムについて何か意識していたことはありますか。

フクダ 僕のこの曲についての印象はダウナーな感じで、それでダークライド・シンバルとダークライド・クラッシュ、ダークライド・ハイハットと揃えて全部暗い感じでサステインが長めということを意識していました。具体的なプレイでは、この曲はドラムから始まるんですけど、その最初のパターンが基本的にはずっと続くっていう。だから、ドラムとしては今回の5曲のなかではテンションが一番低い感じの曲ですね。

羊文学 フクダヒロア エンタメステーションインタビュー

フクダヒロア(Dr)

コーラスも印象的ですが、この曲だけでなく、今回の5曲のアレンジでコーラスが効果をあげている場面が少なくないです。今回コーラスを多く使っているのは意識的なことでしょうか。

塩塚 そうですね。前はコーラスまで頭が回らなかったんですけど(笑)、いろいろやってみようと思って、去年配信で出した「1999」でコーラスを使って、今回もスタジオでいろいろ試してみました。

それは、ゆりかさんと相談しながらやっていくんですか。

塩塚 レコーディングは全部、私一人でやりました。ライブの時には、ゆりかちゃんにお願いすることになりますけど。

ゆりかさんは「ソーダ水」という曲についてはどんな印象ですか。

ゆりか さっき話してた作った過程とかも聞いて、タイトルのままですけど(笑)、ソーダ水の爽やかな感じというか、グラスの中で炭酸の泡が上っていくような感じをイメージして弾きました。

「グラスの中で炭酸の泡が上っていくような感じ」と言われましたが、それはサイダーのコマーシャルのような弾ける感じではないんですね。

ゆりか そうですね。シュパーッみたいな感じじゃなくて、静かにシュワーッと上っていく感じです。

例えばメニューに「ソーダ水」と書いてあるようなお店はかなり昭和っぽい感じだと思いますが、そういうレトロ感みたいなイメージもあったんですか。

塩塚 「ソーダ水」というタイトルにしたのは「放課後ソーダ日和」だったからなんですけど、イメージとしてはクリームソーダなんです。でも、クリームソーダという感じでもないしなと思って。ただ、昭和まではいかないですけど、去年の夏の思い出とか、そういうレベルの懐かしい感じはあったかなと思います。

ちなみに、ユーミンとは関係ないんですよね(笑)。

ゆりか 私もタイトルを聞いた時に思いました(笑)。

塩塚 (笑)、ないです。

ただ、“ソーダ水”とか“飛行機雲”とか、個別の言葉の話とは別に、絵画的な印象を与える歌詞という意味でユーミンに通じるところがあるように思いました。

塩塚 この歌詞は頭の中のイメージをちゃんと書くことができたなという感じが自分でもあって、例えば「ミルク」はもっとシンプルに感覚的なところを書いたんですが、「ソーダ水」はイメージをちゃんと言葉にできた気がしていて、すごく気に入っています。

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