Interview

バケツの作画にまで熱を込める制作現場! アニメ『ヴィンランド・サガ』原作を愛する監督のこだわりは背景の“重厚感”と会話の“間”

バケツの作画にまで熱を込める制作現場! アニメ『ヴィンランド・サガ』原作を愛する監督のこだわりは背景の“重厚感”と会話の“間”

幸村 誠原作『ヴィンランド・サガ』のTVアニメが、いよいよ7月7日(日)より1話から3話までの一挙放送でスタートする。本作の制作を担当するのは、『進撃の巨人』『魔法使いの嫁』など、数々のアニメーション作品を手掛けてきたWIT STUDIO。

主人公・トルフィン役(幼少期)を石上静香、成長後のトルフィン役を上村祐翔、トールズ役を松田健一郎、アシェラッド役を内田直哉、トルケル役を大塚明夫、クヌート役を小野賢章といった豪華声優陣が熱演する。

放送に先駆け、エンタメステーションでは籔田修平監督にインタビューを実施。幸村 誠作品の大ファンだという籔田監督が、『ヴィンランド・サガ』をどのような思いで映像化したのかを語ってもらった。

取材・文 / 島中一郎


『ヴィンランド・サガ』で大切にしている“人間の愛”

まずは、『ヴィンランド・サガ』に監督が参加された経緯について教えてください。

籔田 元々WIT STUDIOさんの『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』でCGの制作を中心に行っていました。それらの作品のプロデューサーの中武さん(中武哲也)との縁があって、本作のプロデューサーの長谷川さんも交えて『ヴィンランド・サガ』に参加しないかとお誘いを頂きました。大作の監督というプレッシャーもありましたが、自分も幸村先生の作品の大ファンでしたし、自分の向いている題材だと感じたので参加することを決めました。

TVアニメ『ヴィンランド・サガ』

幸村先生のファンとのことですが、先生の作品のどういった部分に魅力を感じているのでしょうか?

籔田 幸村先生の過去作である『プラネテス』(1999~2004/講談社)もそうですけれど、先生が選ばれる題材はすごく独創的で深いテーマのものが多いんです。ですがそれにより重たく読みづらいものになっているかといえばそうではなく、多彩で魅力的なキャラクターたちをきっかけに物語に引き込まれていき、自然と作品のテーマに触れていけるような作りに魅力を感じています。

『ヴィンランド・サガ』のテーマも非常に深く、重たいものなので、アニメとしてお客さんが観た時の雰囲気まで重くなり過ぎないよう意識しています。最近主流になっているアニメの雰囲気とは若干毛色が違うので、より多くの方にとって親しみやすいものにしたいし、まずは純粋に楽しめるエンタメになるよう心掛けています。

本作で大切にしているテーマや、コンセプトについて教えてください。

籔田 幸村先生が「人間は、愛することが苦手な生き物である」と仰っていたのが頭に残っているんです。アニメでも様々なキャラクターが受け取った“人間の愛”をどのように表現するかを意識して制作しています。また、原作と違い、アニメではトールズからトルフィンへと思いが受け継がれていくといった、時系列に沿った構成になっています。主人公はトルフィンではあるけど、スタートラインにあるのはトールズ。彼の抱いた想いが全ての始まりだったのだというイメージを持って取り組んでいます。

制作する上で苦労された点、意識された点はございますか。

籔田 まず、作画の密度が高く“重厚感”のある原作を、アニメでどのように表現するか悩みました。キャラクターが活躍するシーンや雰囲気は、原作を読んだ中で自分が抱いたイメージを元に方向性を決めれますが、画面の密度だけはアニメの弱いところなので苦労しました。

原作の重厚感をアニメで出すためには、どういった工夫をされたのでしょうか?

籔田 アニメは漫画ほど作画の描き込みができないんです。タッチのラインをどこまで足していくかをキャラクターデザインの阿比留さん(阿比留隆彦)を中心に検証しながら進めていきました。美術はBamboo(※)の竹田さん(竹田悠介)にご参加頂いています。竹田さんには、アニメではなかなか描く機会がない北欧の世界を、美しくて広がりのある背景に描いて頂きました。ここまで重厚感のある作品に仕上がったのは、阿比留さんと竹田さんの力が大きいと思います。

※Bamboo:アニメーションの背景美術を専門とする会社。

また原作で特に印象的だったセリフやシーンが、アニメでもしっかりと表現できるように意識しています。せっかく良いセリフがあっても、尺の中でただ詰め込んでしまうだけでは流れていってしまいます。言葉がキャラクター同士の間を行きかう時間や、お客様が受け止めやすい時間、“間”を大切にしていますね。ですが、尺の制限でシナリオの内容を全部網羅できないことも多くて……。シーンの見直しをする中で、泣く泣くカットしたセリフもありますが、より良い形でお客様にシーンを受け取ってもらえるよう神経を使っています。

TVアニメ『ヴィンランド・サガ』

そのためには、具体的にどのような工夫をされているのでしょうか?

籔田 キャラクターがセリフを発する直前には、“意識が動く一瞬の間”があると思うんです。その喋り出しまでの間も含めてセリフだと思うので、カット頭からセリフがある場合でも一般的なタイミングより6~12コマほど喋り出しを遅らせる調整をすることが多いです。また印象的なセリフはキャラクターの表情やシーンの情景と対になっている場合がほとんどなので、お客様がセリフの内容を受け取るのと同時に改めて画にも目を移せる尺を残すよう心がけています。基本的にはテンポよく流れていく方が見やすいですが、キャラクター同士の大事な掛け合いの際はとにかく尺がかさんでしまいますね(笑)。自分の特徴かもしれません。

原作のセリフはもちろん大切にしたいですが、それがただの音になってしまっては意味がないので、尺に合わせてセリフの変更、あるいはセリフそのものを無くして間に置き換えることもあります。セリフの真意やキャラクター性を失わずにセリフを変更するのはリスクもあるし難しい作業ではありますが、確実に効果が出る部分なので注意しながらも楽しんで取り組んでいます。

幸村 誠の作品に関わるという、強いプレッシャーがあった

メインスタッフの皆様にはどのような指示を出しているのでしょうか?

籔田 スタッフは皆作品に対する熱意もあるし、技術も高いものを持っていらっしゃる方が多いので、当初から「これは絶対にやってくれ」というオーダーは少なかったと思っています。『ヴィンランド・サガ』には偉大な原作があるので、皆プレッシャーは感じているし、しっかりした作品に仕上げないといけないという意識は元々強かったですね。

ただ、意識が強くなりすぎて「もっとやらなきゃいけない、これじゃ足りない」と考える方も少なくないんです。贅沢な話ですけど、現場の熱量・やる気を上手くコントロールする役割が自分にはあると思っています。なので、現場では「もっと楽をしてくれ」という要望をすることが多いですね(笑)。

確かに、熱量のバランスをとるのは難しいですよね。

籔田 皆さん高い熱量を持って取り組んでくださっているので、絶対にやる気を削がないようにしないといけない。なので、自分が監督として皆さんに何を求めているか、シーンごとに、カットごとに何が大切なのかというのは、その都度伝えるようにしています。どれだけ期待値の大きい作品でもスケジュール内に終わらせる以上は、取捨選択をしなければなりません。ですがその取捨選択の中で作り手たちの目指す方向が明確になっていったり、完成したものに良いメリハリが生まれることもあります。

TVアニメ『ヴィンランド・サガ』

現場の中で、特に話し合いを大切にされているんですね。

籔田 やはり大勢の方が関わっている作品なので、監督として自分の考えをいつも明確にしないといけないし、相談があればすぐに答えられるようにしておくべきだと思うんです。自分の考え方や、物事の線引きをする指標が曖昧では現場に混乱を招いてしまうので。

籔田監督は以前のアニメーション作品で、3D監督や3DCGディレクターとして活躍されていますが、本作ではどのような部分でCGを扱われているのでしょうか?

籔田 難しい表現はたくさんありますが、個人的に本作のCGで注力したかったのは、海の波の表現ですね。キャラクター中心の表現だけではなく、スケール感のある世界観もお客様に届けたいという思いがありました。なので、自然の荒々しさや力強さの象徴である波に力を入れようと考えました。

波を作画でなく、CGで制作したのは何故でしょうか?

籔田 理由の一つは作画で説得力のある波を作っていくためには、非常に高い技術が必要になることです。1~2カットなら構いませんが、それらを継続的に作っていくとなるとコスト面の問題にも関わってくるので、CGがより効果的だと考えました。ただ、CGのディテールが多すぎてアニメの絵から浮いてしまっている印象は与えたくなかったので、美術さんの描く質感とのバランスの調整には初期段階から時間を使いました。非常に良い仕上がりになったと思います。

なるほど。背景にはかなり力を入れているということですね。

籔田 自分はどちらかというとキャラクターよりも背景をCGで扱うことが多いですね。僕が以前に関わった『進撃の巨人』ではスピード感のある背景の動きが多かったですが、カメラがゆったりと動くだけでも、空間を贅沢に見せることができます。そういった意味で、『ヴィンランド・サガ』ではまた一味違ったCG背動の表現ができたと思っています。

TVアニメ『ヴィンランド・サガ』

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