連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 9

Interview

実に30年ぶりの朝ドラ!山口智子が『なつぞら』で日々感じ、作ろうと心がけている空気感を熱く語る

実に30年ぶりの朝ドラ!山口智子が『なつぞら』で日々感じ、作ろうと心がけている空気感を熱く語る

節目となる100作目、そして令和最初の“朝ドラ”という節目の一作でもある連続テレビ小説『なつぞら』。広瀬すず演じるヒロイン・奥原なつの兄・咲太郎(岡田将生)の母親的存在であり、“スタイリスト”のごとく、なつをおしゃれに仕立てる“翔んでる”女性──元ダンサーでおでん屋「風車」の女将・岸川亜矢美の存在感も、ドラマのアクセントになっている。カウンターの中でも舞台に立つごとく、歌い踊る陽気な亜矢美ねえさんを演じるは、1988年度下半期の朝ドラ『純ちゃんの応援歌』でヒロインを務めた山口智子だ。奇しくも、昭和最後にして平成最初の朝ドラ以来、実に30年ぶりの“カムバック”ということで、『なつぞら』の現場で日々感じていることを、つまびらかにしてもらった。

取材・文 / 平田真人


自由という言葉がふさわしいかはわかりませんけど、若い人たちが心を解き放てるような空気をつくろうとは心がけています

『純ちゃんの応援歌』以来、約30年ぶりの朝ドラ出演となりました。どのようなことを感じていらっしゃいますか?

30年ねぇ…ビックリしちゃいますよね(笑)。周りから「30年、30年」と言われてみて、初めて実感しています。本当にね…いろいろなところでお話しているのですが、NHKに帰ってくると、お母さんのお腹に帰ってきたような安心感というか、ホッとする気持ちと同時に、やはり何よりもビシッとしないと、という背筋がシャキッと伸びるような緊張感もおぼえます。今、毎日の撮影の現場では、ピチピチとした若さとエネルギーにあふれた、キラキラ輝く才能溢れる若者たちに囲まれていますが、彼らはフレッシュなだけではなくて、様々なシーンで、本気で根性を見せてぶつかってくる気迫が素晴らしいです。私も初心に帰って気合いを入れ直さなくてはと、若者たちから大きな刺激をいただいています。

山口さんの周りの方々も観てくださっていて、お話をすることもあるのでしょうか?

はい、ちょっと疎遠にしていた友達や遠い親戚から久しぶりに「朝ドラ観てるよ」と連絡をいただいたり(笑)。本当にみなさん、毎朝ご覧になってくださっているんですね。今日は「亜矢美のカスタネットがよかったよ」というお声を頂きまして──場面の細かい部分までよく観てくださっているんだなと嬉しくなります。

連続テレビ小説『なつぞら』

第49話より ©NHK
東洋動画の入社試験を受けた日の夜、おでん屋「風車」にて試験の手応えを咲太郎や亜矢美に報告するなつ。

以前の朝ドラと変わったところと、変わらないところについて感じていることはありますか?

朝ドラに突入すると、本当に家族のように出演者やスタッフと長い時間を一緒に過ごすので、日々みんなの絆が深まっていきます。今回も新たな家族や友と出会うことができて、毎日たくさんの刺激をいただきとても幸せです。それに…朝ドラの魅力はやはり、ヒロインの方をみんなで応援する一体感を共にすることかもしれません。ヒロインが様々な人生経験を演じることで成長していく、その過程を毎日見守り応援することで、私たちも作品に関わらせていただきながら、一緒に成長させていただくような感覚です。シーン一つ一つを、さらに面白くするためにみんなで力を合わせることで、少しずつ一緒に階段を上がっていくような手応えがあります。それは、何ものにも変えがたい素晴らしい体験です。

では、岸川亜矢美さんという役どころを演じていらっしゃって、楽しく感じるのはどういったところでしょうか?

元踊り子ということで、「生きる喜び」を身体で表現できる役をいただいたことが本当にうれしいです。(劇中で、かつて新宿にあった劇場の)「ムーラン・ルージュ」というエンターテインメントの殿堂で、亜矢美は毎日身体を張って踊ることで、戦争での辛い別れや苦労の中でも、強く生きる力を生み出してきました。おでん屋のカウンターも亜矢美にとっては舞台と同じで、毎日元気に生きていく力を生み出す場です。おでん屋に集まる人々に、笑いや夢を届けたいという気持ちで演じさせていただいています。
だから、カウンターの中でも、暖簾をしまう時でも、店の前を掃除している時でも、常にどんな時でも、亜矢美は歌と踊りと共にあることを心がけています。カウンターのセットの中に、美術さんが置いてくれたカスタネットを使ってみたり、小道具や衣装、様々な要素を面白がって活かそうと思っています。踊りというものは本来、食べ物を食べてエネルギーを得ることと同じように、踊ることは苦難を乗り越える原動力となり、生きる力を生み出していくものだと思います。命ある喜びを踊りで表すことで、みんなを元気に幸せに巻き込んでいけたらいいなと思います。

以前から嗜んでいらっしゃるフラメンコも役に活かされているのかな、と思ったりもしますが…?

そうですね…用意してくださる衣装もなぜかフラメンコ風の水玉模様だったり、ヒラヒラの飾りがついたものだったり、衣装部の方が面白い服を集めてきてくださるので、私もついつい気分が盛り上がってしまいます(笑)。フラメンコという舞踊自体、庶民の暮らしの中から生まれたもので、みんなで歌やギターや踊りで心を合わせて、今というこの一瞬を最高のものにして、共に人生の辛苦を乗り越えていこうというものです。戦中戦後と、厳しい時代を生きた亜矢美にとっても、踊りが生きる力となりました。「生きる力」としてのフラメンコの真髄は、まさにこのドラマと共通するテーマだと思います。

連続テレビ小説『なつぞら』

第48話より ©NHK
ステージで踊る亜矢美。このショーを観て少年だった咲太郎は亜矢美の元で生きる決心をした。

なるほど。それと…岡田さんが取材の場で「山口さんとご一緒して、お芝居とはこんなにも自由なんだと知りました」と、お話されていて。山口さんご自身は、何か感じることはございますか?

フラメンコという踊りも演技も共通することは、“今、この一瞬”をみんなでどう素晴らしいものにするか、という即興芸術であることです。ギターの音色、歌に込められた感情、それらを受け止めて体で表現する踊り手、そこで出会った人々が心を一つにして、今この一瞬を最高に輝かせるために力を合わせる──それは、まさにお芝居と同じです。互いに言葉を交わして、そこに生まれる感情を互いに共有し、刻々と変化していく状況の中で、瞬時に即興で感動を創り出していく。それは、お芝居と踊りに共通する面白さだと思います。
直球で勝負する若い時代に比べて、年を重ねると色々な変化球を面白がれる心のゆとりが生まれてきます。年長者としてできることは、「力を抜いて、その状況に飛び込んで、もっと自由に、楽しくのびのび、もっともっと色々な個性ある表現をしていいんだ」ということを、身を以て実践しながら、若者たちを応援することかもしれません。…自由という言葉がふさわしいかどうかはわかりませんけど、心を解き放てるような空気をつくろうとは心がけています。

ちなみに亜矢美さんのお店「風車」に掛けまして、山口さんご自身が好きなおでんダネは、何でしょうか?

迷うなぁ…。踊り手として、筋肉のために良質のタンパク質摂取が必要なので(笑)、玉子ですね。出汁が染みこんだ玉子が好きです。

「風車」の店内のセットのは、「ムーラン・ルージュ」の昔のポスターが貼ってあったり、装飾がすごく凝っていますが、お芝居や役にどういった作用をもたらしているのでしょう?

当時の小道具や衣装に触発されて、イメージがどんどん膨らみます。特にこの時代…1950〜60年代にかけては、人々が戦争の荒廃や苦しみを乗り越えて進んで行こうとするパワーに溢れていた時代でもあります。当時の写真や映画などを見てみると、世界の文化を旺盛に取り入れて、新しい日本を作ろうとするバイタリティに溢れています。特に女性たちのファッションや髪型が、とてもオシャレで面白い! 貪欲とも言えるほどの生命力に溢れています。ちょうど今リバイバルしている流行も盛りだくさんで、古さを全く感じない新鮮なものがいっぱいです。今日(※取材日)これから撮るシーンがツイッギー(’60年代後半にミニスカートの女王として一世を風靡したイギリス人女性)が来日する年の設定なので、亜矢美の衣装と髪型も、今日はツイッギー風でいこうかなと思っています(笑)。時代を表すファッションは、ドラマの見どころでもありますね。

咲太郎にとって亜矢美さんは母親のような存在ですが、お話が進んでいく中で、それこそツイッギーが来日するころには2人の関係性に変化が見られたりもするのでしょうか?

元々、先々の将来の展開を知らされぬまま撮影が始まりました。亜矢美と咲太郎は、戦後のどさくさに紛れて偶然出会い、咲太郎の育ての母のような存在として亜矢美を演じてきました。ニセモノの親子をあえて「演じる」ことで深めてきた、ちょっとユニークな絆ではありますが、互いになくてはならない存在です。親子であり、人生を共に生きるパートナーであり、心の恋人のような部分もあり、ちょっと独特な不思議な関係です。優しいけれど時々それが誤解を招き世間を騒がせるちょっと危なっかしい咲太郎を、亜矢美は“お母ちゃん”としてずっと見守ってきましたが、ドラマの後半に差し掛かかり…その関係性に、微妙な変化が生じてきました。私自身いただいた台本を読んで、突如浮上してきた展開に、「おぉ、そうきたか!?」とビックリしています。こんな複雑な関係性の役は初めてなので、とてもやりがいがあります(笑)。

朝ドラで女優デビューして結婚相手にも出会ったわけですから、本当に朝ドラには人生のすべてのきっかけをいただいたな、と。

「風車」の中で亜矢美さんが歌う流行歌も、山口さんが物語の時代背景に合わせて選曲しているとのことですが…?

はい、でも、9割がたオンエアではカットされてますよ(笑)。亜矢美は歌と踊りと共に生きている人なので、おでん屋の場面では、そのシーンの心情に合わせた流行歌を調べて、歌詞もそのシーンに適した部分を選んで、シーンの冒頭などで歌っています──きっと、カットされた亜矢美の流行歌シーンをまとめたら、その時代を表す面白い“歌謡ヒットメドレー”になると思うのですが(笑)。例えば、なつが咲太郎を捜しに上京してきた時、行方知れずの咲太郎への気持ちを込めて、「どこにいるのか〜リ〜ル♪」(『上海帰りのリル/1951=昭和26年』)という歌を、店の前を掃除しながら歌いました。あと、北海道から出てきた純朴ななつに向けて、「りんご〜かわいや〜♪」(『りんごの唄/1945=昭和20年』)と歌ってみたり。坂場(一久=中川大志)さんの名前にちなんで、彼が初めて店に来た時に、カウンターの常連客と一緒に「酒場(サカバ)の〜おんな〜♪」と、『カスバの女』(1955=昭和30年)の歌で迎えてみたり。テレビをご覧になるみなさんに全部お届けできず残念ですが、じゅうぶん「歌う亜矢美」を自分で楽しませていただいています(笑)。

そうだったんですね(笑)。ちょっと最初におっしゃっていたお話に戻ってしまうんですが、朝ドラを「母の胎内のような」と評されていましたけど、山口さんのデビューでもあった朝ドラが、人生においてどのようなものになっていると考えていらっしゃいますか?

『純ちゃんの応援歌』は本当に私の人生の始まりと言える作品です。もし『純ちゃんの応援歌』に出合っていなかったら、私は普通にお見合いをして、普通に結婚して、(実家の)旅館を継いで女将になっていたかも知れません──。縁とは不思議なものでおかげさまで、朝ドラで出会った唐沢寿明さんと結婚させていただきました。そういう意味でも人生のすべてのきっかけをいただいたと思っております。演技も何も知らないド素人の私を受け止めてくださった朝ドラに、感謝しても、しても、しても…しきれないくらい、本当に感謝しています。
また、朝ドラは今も昔も変わらず、「自分を成長させてくれる場」とも言えますね。なぜなら、毎日家族のようにみんなと時間を重ねながら、一つ一つシーンを積み重ねていく道のりは、厳しくも愛に溢れた本当に素晴らしい修行の場であり、若者たちのフレッシュなパワーも総結集されて、惚れ惚れするような彼らの美しさと才能に、ものすごい刺激をいただきます。私はみんなよりちょっと長く生きてはいるものの「まだまだ未熟だなあ、とてもみんなの足元にもおよばない」と、毎日反省の連続です。初心に帰って「もっともっとがんばらなくては!」という気持ちになります。30年でどれだけ自分が成長できたのか、まだまだ自信はありませんが、ちょっとでもみなさんのお役に立つことができて、朝ドラに恩返しをさせていただけたら嬉しいです。ヒロインの広瀬(すず)さんの少しでも力になれたらと思うのですが、ご飯に連れ出すことくらいしかできなくて(笑)──お芝居の場でも若者たちに面白い刺激を感じていただけるように、今回はむちゃくちゃ気を引き締めて、──もちろん今までどの作品も本気で取り組んできましたが──、さらに本気で取りくんでいきたいと思っています。

連続テレビ小説『なつぞら』

第54話より ©NHK
東洋動画出勤初日、なつの服を選ぶ亜矢美。

その『なつぞら』のヒロインである広瀬すずさんの印象はいかがでしょうか?

「どこからでも来い!」という揺るぎない存在感と力に溢れていて、本当に頼もしくて素敵です。堂々として…それでいてナチュラルで、風のようにさわやかなすずちゃんを見ていると、どうやったらあんな素敵な子が育つのか、つい親御さんと同世代の立場の目線で、ほのぼのと眺めてしまいます(笑)。ヒロインとしてのすずちゃんの毎日は、膨大なエネルギーを要する、半端じゃない集中力で挑まなければならない、それはそれは大変な日々です。でもすずちゃんは、その苦難の道をあえて楽しんでしまおうというチャレンジ精神に溢れていて、その人間力の大きさは驚異的です。でもたまに、撮影が夜中近くになると、みんなちょっと特殊なハイテンションになることがあって、そんな時、すずちゃんと夕見子ちゃん(福地桃子)がまるで本当の姉妹のように一緒にじゃれ合いながら、互いに「ヘン顔」をしてコロコロ無邪気に笑ったりしている姿をみると、20歳らしいあどけなさが可愛くて、不思議な生命体を見るような気持ちで、感動しながら眺めています(笑)。

新時代を象徴するヒロインと共演されている、といった感覚でしょうか?

広瀬さんとは初めてご一緒させていただきますが、テレビを通して見ていた現代の女の子という一面に加えて、今回ご一緒させていただいて、時代を超越した普遍的な大きな魅力を感じています。…北海道編では、当時の純朴な少女として大自然の中で生き生きとしていましたよね。こんなに吊りズボンが似合う現代の少女がいるんだなと思いました(笑)。

広瀬さんの姿を目にしたことで、山口さんがヒロインを演じていた当時の気持ちがよみがえった…ということはありますか?

はい…というよりも、すずちゃんを見ていると、かつて自分が同じ立場にいたということが、まったく信じられなくなります。越えなければならない壁をスイスイと飛び越えていく勇敢で頼もしい彼女を見ていると、演技も何も知らない素人だった私が、どうやって次から次へと降りかかる難題を乗り切っていたのか、自分でまったく思い出せない。それが「若さ」の力というものだったのか、「朝ドラ」が生み出す魔法なのか、確かに、何か奇跡のようなものが起きていたのかもしれません(笑)。

連続テレビ小説『なつぞら』

第52話より ©NHK
咲太郎の借金の一部を返しに来た亜矢美と「受け取れません。」と断るマダム・光子。

その右も左もわからず、ただただ懸命だった新人が30年経って、自由にお芝居をしていらっしゃるというのは、僭越ながら感慨深いものがあるのではないでしょうか?

そうですね、30年という歳月の経験は大切な宝物です。年齢を重ねる楽しさを、どんどんお芝居にも投影していきたいと思っています。芝居を心から楽しむ心のゆとりが、若い年代の方達にも波及して、みんなで色々な可能性を広げて行けたらいいなと思います。年を取ると、自分の好きなことや大事なことに対するフォーカスが明確になってきて、余計な力も抜けて、人生を味わう楽しさを日々実感できている手応えがあります。人生への感謝と喜びとともに、もっともっと楽しんで色々やってみちゃおうというチャレンジ精神で、一つ一つのシーンに臨んでいます。
50年ちょっと生きてきて出会ったたくさんの感動を、お芝居にも活かしていけたらなと思います。ずっと学んできたフラメンコ舞踊も、今回の役に大いに活かさせていただいています。フラメンコ舞踊とお芝居に共通するものは、人生の「今」という瞬間を輝かせるためにみんなで心を一つにして、生きる力を生み出し、人生を深く味わっていこうという精神です。
人生の一瞬一瞬が、まさに真剣勝負の「舞台」ですから、一つ一つのシーンをどんどん面白がって、歌い踊りながら人生を深く味わって、毎日の人生を輝かせてみせるぞという思いを込めて、周りをもっともっと楽しく幸せに巻き込んでいけたらいいなと思います。

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

オフィシャルサイト
https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
Twitter(@asadora_nhk)
Instagram(@natsuzora_nhk)

山口智子

1964年生まれ、栃木県出身。88年、連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』で女優デビュー。主な出演作に、ドラマ『ロングバケーション』『LEADERS リーダーズ』『BG~身辺警護人』など。NHKでは『咲くや花嫁』などに出演。7月8日にスタートするフジテレビ月9ドラマ『監察医 朝顔』に出演する。

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