Interview

チャラン・ポ・ランタン 結成10周年のベストアルバム。試行錯誤を乗り越えたどり着いた境地とは? その歩みをたっぷりと訊く。

チャラン・ポ・ランタン 結成10周年のベストアルバム。試行錯誤を乗り越えたどり着いた境地とは? その歩みをたっぷりと訊く。

今年で結成10年目を迎えた姉妹ユニットのチャラン・ポ・ランタン。インディーズで5年、メジャー・デビューしてからもこの7月で5年が経ち、つい先頃は自信と勢いに満ち溢れた全国17都市のツアー「脱走」を盛況のうちに終えたところだ。3月には非常に熱量のあるオリジナル・アルバム『ドロン・ド・ロンド』を発表して高評価を得たが、それに続いて結成10年の記念日となる7月17日には、メジャー・デビュー以降の楽曲のなかからメンバー自らがセレクトしたベスト・アルバム『いい過去どり』をリリース。まさに迷いなく爆走を続けている印象だ。しかしメジャーに移ってからのこの5年、全てが思い通りに行っていたというわけではないようで、音楽性において自分たちと周りとのズレを感じて戸惑うこともあったと言う。ではいかにしてそれを乗り越え、いかにして『ドロン・ド・ロンド』という傑作をものにすることができたのか。結成10周年を迎えたいま、ふたりが思うことを赤裸々に語ってもらった。

取材・文 / 内本順一


「いいものができた!」と思って発表していたつもりだったんだけど、「チャラン・ポ・ランタンっぽくない」って言われることがけっこうあって(もも)

本当は『ドロン・ド・ロンド』ができたタイミングでインタビューしたかったんですよ。素晴らしいアルバムだったので。

小春 うん。でも、いいよ。『ドロン・ド・ロンド』の話からしたらいいよ。

あれはふたりが自分たちの個性を見直して、自分たちにしかできない音楽を迷いなく表現してみせた熱量の高いアルバムで。ふたりとしても、ものすごく手応えがあったんじゃないかなと思ったんですよ。

もも うん。

小春 でも、手応えっていうのとはちょっと違うの。手応えって、すごい労力を使ったときとか、頭をひねった時間が多かったときに感じるものじゃないかと思うんだけど、そういうのはそんなになくて。なんも考えずに作ったというか。

「私たちはこれをやりたいんだー!」という衝動に任せて作ったのがあのアルバムだったってことでしょ?

小春 うん。そうだね。

そういう意味では、インディーズの頃の姿勢に戻ったというか。ある意味、原点に立ち返った作品だったんじゃないかと。

小春 まあ、そうなのかもね。インディーズのときは確かにそこまで周りのことを考えてなかった気がする。やっぱりメジャーになって、“音楽を続けていく人とは?”みたいな、考えたところで答えの出ないことを考えたりしてたんだろうなと思ったし。

もも メジャーになってより多くの人に聴いてもらいたいという気持ちが出てきたし、より多くの人に聴いてもらうためにはどうするかって考えたときに、流行っている音楽とかも聴いてみて、新しいことをやって驚かせたいという気持ちがあったんですよ。だから8ビートを盛り込んでみたりとかもして、それは私たち的にすごく新しいことで、「いいものができた!」と思って発表していたつもりだったんだけど、「チャラン・ポ・ランタンっぽくない」って言われることがけっこうあって。

小春 「メジャーになってから、すっかり変わっちゃったよね」みたいなことを言われたりもして。ウチらとしては、メジャーという場所に行ったことがほかのいろんな音楽を知るきっかけにもなったから、そういうものも取り込んだほうがいいんじゃないかと思ってそうしてみたんだけど、その結果、そういう印象を持たれたという。でも実際、なんも変わってないんだけどね、ウチら的には。

もも うん。自分たちが思っている“チャラン・ポ・ランタンぽさ”と、聴く人が思っている“チャラン・ポ・ランタンぽさ”が違ってきていて、そのズレに気づいていなかったというか。で、それにだんだん気づいてきて。

小春 そう。だから、特にメジャーになってからの5年で改めて考えさせられたというか。

“そちらの味覚とか考えずに作りますけど”って気持ちになって、それで作ったのが『ドロン・ド・ロンド』だったってこと(小春)

自分たちが自信をもって「いい!」って思うものと、受け取り側が「いい!」って思うものとに差があったということ?

小春 もともと、小春がいつもの調子で普通に曲を作ったとして、それを聴いた人にビックリされるってことに違和感があったのね。“独特”とか“唯一無二の世界観”とか言われてしまうことの違和感というか。ウチらとしては別にいつものことをやってるだけなんだけど、必ず“チャラン・ポ・ランタンならではの独特のオリジナリティが…”ってことばかり言われるっていう。その距離を縮めたいと思ったときもあったの。で、そう思って自分たちなりにいろいろやってみたんだけど、結局“そちらの国の味覚に合わせてみました”みたいなことをやると、“なんか普通のつまらない味になっちゃったじゃん”みたいなことを言われたりして。

もも 私たちとしては本当に新しい音楽ができたと思ってやっていて、それは新鮮だったし、すごい楽しかったんだけど。

小春 すごい楽しかったんだけど、結局そういう印象を持たれるんだったら“そちらの味覚とか考えずに作りますけど”って気持ちになって、それで作ったのが『ドロン・ド・ロンド』だったってこと。

因みに「メジャーになって変わった」「普通になっちゃった」みたいなことを言うのは、メディアの人に多かったりするんですか? それともファンクラブに入っている熱心なファンとか、昔からのファンとか?

小春 いや、でも全体的にだよ。私たち以外、みんなだったりする。

もも いま話してることで一番わかりやすいのが「進め、たまに逃げても」だと思うんだけど、あの曲のときは自分たちに近い人とかからも「いつもの感じでやればいいのに」「チャラン・ポ・ランタンらしい曲をやればいいのに」って言われて。

それに対して、ふたりは戸惑っていたの?

もも 戸惑うよね。

小春 戸惑う戸惑う。あのときこそ一番考えて作って出したつもりだったから。言うたら、あれこそ手応えがあって出した曲だったからね。だから、「え?」みたいな。「考えて考えて作ったけど、答え、また違った?」みたいな。

もも 「え?」ってなったよね。「めっちゃ新しいのできたね」って言って、ふたりで盛り上がって出したのに、なんか「チャラン・ポ・ランタン、魂売ったな」とかまで言われて。タイアップ曲だから、スタッフを始めとする周りの大人たちの意向でこうなったんじゃないかって思われたみたいなんだけど。

小春 誰にも言われてないんだよ、それが。

まあでも、正直僕も周りの意向に沿って作った曲なんだろうなとは思いましたけど。

小春 そっかぁ。そう思われたのなら、周りに申し訳ない。

もも でもなんか、“あんなに我の強かったチャラン・ポ・ランタンでも、メジャーに行くと大人たちにもまれて丸くなるんだな”みたいに思われたのは確かで。

冗談じゃないと。

小春 いや、キレてるとかじゃなくて、「え?」ってなった。「なんか困ったな」というか。だから、そういう自分たちなりの新しい挑戦みたいなことを、そういうふうに捉える人が多いんだなと思って。で、『ドロン・ド・ロンド』を作って出したら……。

「どうして突然、やりたい音楽ができるようになったんですか?」ってきて(小春)

絶賛されたでしょ?

小春 インスタで“このアルバムについて質問があったら答えますよ”みたいなのをやったら、「どうして突然、やりたい音楽ができるようになったんですか?」ってきて。それが一番、衝撃だった。「avexにもSMAにもまだいるのに、どうして突然この作品から自由にできるようになったんですか?」って。

もも そういうふうに思うんだね。あ、でも確かに「なんかあったの?」って何人かに訊かれた。

小春 「クビになるから、最後ってことで自由に作ったんですか?」って訊かれた。いや、これで契約切られたらギャグにもならないからって感じなんだけど(笑)、なんかそう思われたみたいなの。

「脱走」ってそういう意味なのか、みたいな(笑)。

小春 そうそう。メジャー・シーンからの脱走を匂わせてるんじゃないかって(笑)。

もも いろいろ言ってくる大人たちからの脱走なんじゃないか、とかね(笑)。いやいや、まず言われたことないし、大人たちに。ってか、“大人たちって誰だよ?”って話で。そのときに本当に思ったよね。私たち以外のみんなが感じてることと、私たちが思ってやってることと、こんなにズレがあるんだなって。で、次のアルバムはどういうものを作りたいかって話になったときにはもう、そういうズレに飽き飽きしていて。

小春 そう。私たちとしては、なんだったらもっと新しいことをしていきたい気持ちもあったんだけど。

もも かなり新しいことやってたと思うんだけど。

その意欲が伝わらないなら、もう一度原点に戻って、もともとの自分たちらしいことをバーンとやろうと。そうしてできたのが『ドロン・ド・ロンド』だったってことですね。

もも うん。次のアルバムはどういうふうにしたいかって話し合ったときに、だったら小春ちゃんから出てくる最初の頃みたいな感じの……。

「このタイミングで小春節を全開にしたアルバムを作るのがいいと思う」って(もも)

初期衝動的な?

もも そう。そういうもので作ったやつでいこうってなって。そういうことをまず私とマネージャーとavexのスタッフさんとで話して気持ちを固めて、で、「このタイミングで小春節を全開にしたアルバムを作るのがいいと思う」って小春ちゃんに話したら、小春ちゃんは自分のことだから、「ああ」みたいな(笑)。

小春 こっちとしては普通のことだからね。

でも、それが結果的によかったわけじゃないですか。自分たちの本意が伝わらないことも確かにあっただろうけど、そうやっていろいろ経たことで、結果、自分たちらしさを存分に出した『ドロン・ド・ロンド』という素晴らしいアルバムができて、評判もよかったわけだから。

小春 まあ、そうだけどね。でも、この状況がいまになってジワジワきてる。“みんなやっぱり、これがいいんだ?!”みたいな。

もも “ウケる”って感じだよね。だからこそ今度出る『いい過去どり』が、自分たちで聴いてみると、なおさらよくて。

『いい過去どり』のほうは時系列があって。ここでこう思って、ここで突然何かを諦めて、っていうのがわかるの(小春)

そういう流れがあって、で、ここでメジャー・ベストアルバムが出るというのが、すごくいいですよね。

もも そう。自分たちで音のチェックをしながら聴いていて、「めっちゃ、よくない?」ってなった。

小春 なんかね、(インディーズ時代の曲をまとめた)『過去レクション』はそんなに時空が動いてないの。小春の心境とかもそんなに大きくは変わらないし。

確かにインディーズ時代のほうが一貫性がある。

小春 うん。似たようなところでジタバタしていた4~5年が収録されてるのが『過去レクション』なんだけど、『いい過去どり』のほうは時系列があって。ここでこう思って、ここで突然何かを諦めて、っていうのがわかるの。その起伏がやばくて。最後の数曲とか、すごい状態になってるからね。「憧れになりたくて」がきて、「脱走」がきて、「最高」がきて、感情の起伏が激しすぎるだろっていう(笑)

もも それがすごい面白かった。

それだけメジャーに行ってからの5年のなかでふたりが試行錯誤して、いろんなトライをしてきたってことだと思いますよ。

小春 うん。でも、ある時期はメジャー・シーンというか、J-ポップと言われる畑があったとして、私たちはその土俵にも乗せてもらえてないという疎外感みたいなものもあって。

そんなふうに思ってたときがあるんだ。

小春 あるある。J-ポップの誰々とか、ロック・シーンの誰々とか、アイドル・シーンの誰々っていうなかで、ウチらは毎回その番外編みたいな感じで紹介されるから。“こういうのもいますよ”みたいな。それがけっこう寂しかった。

でも、“ロックのチャラン・ポ・ランタン”とか“アイドルのチャラン・ポ・ランタン”って紹介されたら、もっと違和感あるでしょ?

小春 いや、そういうことじゃなくて、例えばCDの陳列とかが店によって違うわけ。

ああ、なるほど。どこに置くのがいいのかわかりにくい音楽ではありますからね。

小春 そういうのも含めて、毎回番外編みたいな扱いをされるのもなんだかなって気持ちがあったんだけど。でも、もう……。

腹をくくった?

小春 うん、そうだね。そういう感じ。そこに寂しさを感じる必要はもうないんだなって。

こういう音楽を一番のポップスだと思ってやってきてるチャラン・ポ・ランタンって民族がいるってことを発見してもらおうと(もも)

全然ないでしょ。だって、それこそが強みなんだから。むしろ、どっかに括られてどうする?! っていう。芸術表現にせよポップ表現にせよ、何かに括れない、何々っぽくないというのが一番強くて尊いことなんですから。

もも 『ドロン・ド・ロンド』のビジュアルのイメージも、そういうところからスッと決まったんだよね。あれは、アマゾンの奥地で未確認民族が発見されるっていうニュースが流れて、その未確認民族こそがチャラン・ポ・ランタンだったっていう話を思いついてできたもので。

小春 「この時代にまだ未確認民族がいるの?」って話だけど、それって都会に住んでいながらまだちゃんと発見されてない私たちみたいだなって思って。

もも しかもその未確認民族からしたら、ドローンで撮ってるそっち側の人間のほうが「だれ?」って感じだし、それまでも当たり前にそこで生きてきてるのに、急に未確認民族って言われて珍しがられることのほうがおかしな話なわけで。で、チャラン・ポ・ランタンも……。

小春 チャラン・ポ・ランタンも唯一無二とか独特とか言われるけど、そうやって言う人たちがこういう音楽をやる人のことを知らないだけなんじゃないかっていうのがあって。

もも 一番のポップスだと思ってやってるからね、この民族は。だから、こういう音楽を一番のポップスだと思ってやってきてるチャラン・ポ・ランタンって民族がいるってことを発見してもらおうというのが『ドロン・ド・ロンド』で。

なるほど。でも、そういうふうに開き直れたんだから、やっぱりいろいろ経てきてよかったってことですよ。

小春 うん。10年で気づけたのが早かったのか遅かったのか、わからないけどね。でも、いま気づけてよかったなとは思う。

メジャー・デビューした2014年にインタビューしたときに、「メジャーになっても自分たちは何も変わらない」と言っていて。「単純にインディーズ時代よりもお金がかけられるとかはあったとしても、自分たちのやりたいことが変わるわけではない」というような話をしていたのを覚えているんですけど、実際あれから5年が経ったいま、インディーズの頃とはやっぱり意識が変わったなって思うところもあったりしますか?

小春 ももはそこまで気にしてないかもしれないけど、小春は突然責任を感じるようになったんだよね、曲に対して。別に誰もプレッシャーかけてくるわけじゃないんだけど、新しい曲ができたときに“これって、出すほどのものなのかな?”ってことを考えるようになった。いまになって、それは無駄な感情だったってことがわかったんだけど、メジャーになってからのある時期はそういうことにけっこう気を遣ってたみたい。

自分の気持ちや衝動をぶちまけて曲を作るのではなく、ちゃんと多くの人たちに聴いてもらえる完成度をもった曲にしなきゃ、みたいなこと?

小春 うん。そう。

もも やっぱり、聴いてもらえるならひとりでも多くの人に聴いてもらいたいという気持ちには……。

小春 なるからね。自分の根っこが変わるわけじゃないのに、そういう思いだけ出てくるから、じゃあ例えばみんなが好きな8ビートというものを混ぜたらかっこいいのではないかって思ってやってみたりして。

もも 世の中にはかっこいい音楽がいろいろ存在するから、それを自分たちの音楽に混ぜてみたら新鮮だし、面白いんじゃないかと思って。で、実際、すごく面白かったし。

ももちゃんはどうですか?  メジャーになってから女優の仕事もやるようになって表現の幅が大きく広がったわけだけど、チャラン・ポ・ランタンの音楽そのものに限っていうと、インディーズ時代と意識が変わったところはありましたか?

もも 小春ちゃんの作る音楽が自分にとってはずっと当たり前のものとしてあったから、インディーズの頃はその大切さをわかってなかったかも、っていうのはありますね。いまでこそ小春ちゃんの音楽は小春ちゃんにしか作れないもの、それこそ唯一無二のものだってすごく思うんだけど、遡れば遡るほど、そんなに特別なことだと考えていなかったというか。小春ちゃんの作る音楽がほかにないものだって、私がちゃんと気づけてなかった。で、メジャー・デビューしていろいろやっていくなかでそのことにハッキリ気づいて、ここにきて小春節全開のアルバムを作りたいなって思ったわけなんですけど。

小春 メジャーになって、時間が経つなかで気づいたことというのは確かにあって。例えば、ももが映画に出たりするようになって、小春ひとりの現場があったりするときに、妹のありがたみを考えたりとか。そういうのって、いない現場がないと気づかないもんでね。

もも 当たり前すぎて気づけてなかったことがいっぱいあるよね。

『いい過去どり』の1曲目にするために作ったものだから。昔に戻っていくというか、そういうことを歌った曲で(小春)

さて、『いい過去どり』の中身についてですが、まず1曲目に新曲が入ってます。タイトルは(このインタビューをした時点で)まだ仮題になってますが。

もも あ、タイトル、決まりました。「置行堀行進曲」(おいてけぼりこうしんきょく)。

すごいタイトル(笑)。この曲、とってもいいですね!

もも めちゃめちゃいいですよね! 平成が終わったのに昭和に戻った……どころか、大正時代の曲みたいな感じで。

小春 令和一発目の曲とは思えないでしょ(笑)。

「人生のパレード」とか、あの頃の曲のムードが久々に戻ってきたなと思いました。

小春 違うの。出そうと思えばいつでも出るの、あの感じは。

もも パッとできた感じだったもんね。

小春 さっきの話じゃないけど、ひねって作ることが手応えだと思ってたんだよね。構成を途中で変えるとか、別の曲と繋げるとか、そういうことをやって作るのが新しいし、自分の手応えに繋がるんじゃないかと思ってやってたんだけど。だから「この1曲に半年を要したんです」とか言ってみたかったんだけど、無理だった。

そんなにひねらずにパッとできた曲のほうがいいものになるし、いい評価も受けると。

小春 なんか、そうみたい。

この歌詞は「枯レタ花ビラ拾イ集メ」って始まるでしょ。“枯レタ花ビラ”というのは過去の楽曲のことを指しているわけですよね。

小春 まあ、そうだね。この曲自体、『いい過去どり』の1曲目にするために作ったものだから。昔に戻っていくというか、そういうことを歌った曲で。

とことんネガティブなんだけど、それでもちょっとずつ前進してるみたいなニュアンスなんですよ、小春ちゃんの作り出す世界観というのは(もも)

「気持ちはあの日のままだね 心だけ 置いてけぼり」というフレーズで終わるでしょ。つまり、時間は流れても自分の心はあの頃に置いてけぼりになったままだという。アルバムの1曲目で、“さあ、ここから聴いてください!”という役目の曲なのに、まるで前向きさのない歌詞じゃないですか。

もも 本当にね。これこそが小春節なんだよね。1曲目にもってくる曲だって言ってるのに、仮タイトルが「おいてけぼり」ってなってて、「どうなの、これ?」って。

小春 あははは。やばい。

もも メジャー・ベストアルバムを出すってニュースで流すときに、「1曲目に入れる新曲のタイトルも発表しましょうか」ってスタッフに訊かれたんですよ。まだ正式タイトルが決まってなかったんだけど、仮タイトルだけでも発表したら、ファンの間で「どんな曲だろ?」って盛り上がるんじゃないかって。で、スタッフが小春ちゃんに「なんて仮タイトルですか?」って訊いたら、小春ちゃんが「“おいてけぼり”です」って言って、その瞬間「やっぱりいま発表するの、やめましょう」ってなって。

小春 わはははは。

もも さすがに「おいてけぼり」ってタイトルは重さがゴツすぎるって私も思ったし。だけど、それこそが小春節っていうのもあって。とことんネガティブなんだけど、それでもちょっとずつ前進してるみたいなニュアンスなんですよ、小春ちゃんの作り出す世界観というのは。で、小春ちゃんはもちろん意識的に狙ってそういうふうにしているわけじゃないし、それは私が一番わかっているんだけど、その私でさえ「重っ!」ってなったから。

僕もよくわかってるつもりだし、それこそが小春ちゃん節で、そういうところが好きなんですけど、多くの人はやっぱり「結局、心は置いてけぼりだと感じてるんだな」って心配するんじゃないかと思うわけですよ。

もも そう、心配するし、深読みすると思う。「この人は自分の望んだことをやれてないんじゃないか」って思う人もいるだろうし、「やっぱりメジャー・デビューしなかったほうが小春ちゃんのよさが出てた」とか言い出す人もいるかもしれないし。

小春 それはでも、平べったい聴き方ですねー。

もも でも、そう思われたらちょっと嫌だなと思って。で、ネガティブなんだけどキレキレで行進してるみたいなイメージもある曲だし、「行進曲ってつけたらどう?」って言って、「置行堀行進曲」というタイトルになったんですけど。

小春 でも、言うたらリリースした時点で全曲この気持ちだよ。どんな曲でもそう。だって、どんなにいい思い出でも、そこには戻れないんだから。

過去とはそういうものだと。

小春 そう。

もも そういうところが本当に小春ちゃんぽいと思うんだけど、文字だけ見るとすごい重いよね。

まあ、文字として見るのと歌を聴くのとでは印象も変わりますからね。

もも うん。私はそういう気持ちで歌ってないから。だから成り立ってるんだと思う。それにね、小春ちゃんはこういうこと書くくせに、微妙にそういうつもりじゃないんですよ。ちょっと説明しづらいんだけど、本当に置いてけぼりで、むなしくて、という気持ちとは違うの。それが小春節なんだけど。で、私は小春ちゃんとは全然違う価値観の人間だから、そういう私が歌うことで、こう……。

いい意味で中和されるよね。そうやってチャラン・ポ・ランタンの世界観が成り立っているわけで。

小春 そうだね。小春が自分で全部歌ったら、暗くなりすぎて客層変わると思う(笑)。

みんなにとっての“いい過去”でもあるし、もちろん私たちにとってのでもあるし(もも)

このベストアルバムの選曲はふたりでしたんですか?

もも そう。

『いい過去どり』の“いい過去”は、自分たちにとっての“いい過去”なのか、聴く人みんなにとっての“いい過去”なのか、どっちですかね。

もも みんなにとっての“いい過去”でもあるし、もちろん私たちにとってのでもあるし。

そういう曲を選んだと。

小春 そうだね。だから「フランスかぶれ」が選ばれていたりとか。なぜか人気なんだよね、あの曲。

人気があるの、わかりますよ。僕も大好きな1曲だし。

もも あ、そうなんだー。へえ~。

小春 こういう曲が意外と人気だってことが、正直、ウチらはあまりピンときてないというか。ライブでやるとやたらみんなが嬉しそうだから、「あ、好きなんだ」って、そこで気づくみたいな。

「フランスかぶれ」と「さよなら遊園地」を入れてくれたのが個人的には嬉しかったですけどね。

もも ファンはこういうのが好きなんだろなってことで、入れたんだよね。

小春 そう。あと「あの子のジンタ」も、意外と好きっていうファンがいるから、そうなんだろうなってことで入れた。

じゃあ、逆に自分たちが絶対入れたいと思って入れたのはどのへんの曲なんですか? 「忘れかけてた物語」とか「71億ピースのパズルゲーム」とか「メビウスの行き止まり」とか「時計仕掛けの人生」とか「進め、たまに逃げても」とか、そういう方向性の曲?

小春 そうそう。自然とそういう曲を選んでる。

ずっとズレてて、距離を感じながら、ずっと平行移動するんだろうなって思う(小春)

そうかあ。そういうアッパーめの曲の楽しさもありつつ、でもそういう方向性とはまた違うダークな曲や切なさ全開の曲だったりのほうが好きなコア・ファンもたくさんいるわけで、そのへんがさっき話していたズレに繋がっているのかもしれない。

もも うん。やっぱり、いつまででもズレ続けてるわ、私たち。

ズットズレテルズですね(笑)。

小春 ほんとだよ、ズットズレテルズだよ(笑)。ずっとズレてて、距離を感じながら、ずっと平行移動するんだろうなって思う。

それがまた面白かったりもするんですけどね。それで、今回の推し曲の「置行堀行進曲」のように、ときどきふたりの好みとコア・ファンの好みがピタッと重なるときがあるからこそ、ずっと追い続けていたくなるという。

もも でも、このあいだマスタリングで音のチェックをしながらフルで聴いてみたけど、この順番で聴くと本当によくて。「めちゃめちゃよくない?」ってふたりで言い合ったよね。

小春 そう。いい流れなんですよ、この順番で聴くと。この5年間をハイライトでお送りしてる感じが、すごくよくて。

確かにこの順番で聴くと、いい。アッパーな曲とスローな曲とがごちゃ混ぜになって、これ全部でチャラン・ポ・ランタンなんだよなぁって改めて実感できますね。

小春 しかも時系列に沿ってるから、これが自分たちの物語みたいになっちゃってて。「かなしみ」の次に「ほしいもの」がくる時点で、歌詞がひっちゃかめっちゃかなんだけどね(笑)。で、「憧れになりたくて」って歌ってるのに、次の「脱走」で逃げてるし。

もも 面白いわー。

「慣れないヒールの靴ずれ 今なら笑える」って最高じゃない? この2行に全てが詰まってるよね(小春)
そういえばいままで笑ってるアーティスト写真が1枚もなかったよねってことで、こうなったんだけど(もも)

さて、今年で結成10周年ということで。インディーズで5年、メジャーで5年やってきたわけだけど、どうですか、改めて振り返ってみて。

小春 インディーズの曲をまとめた『過去レクション』はざっくりと昔っていう括りで聴けたけど、『いい過去どり』は時間がどんどん流れていってる感じがすごいする。

もも すごい早く流れてる感じがする。しかも、すごく濃い。

小春 メジャーというところに立ってから、なお生き急いだなって思うね。

もも うん。それで『いい過去どり』のCDにつくオビのコピーがまたよくて。

小春 「慣れないヒールの靴ずれ 今なら笑える」っていう。「進め、たまに逃げても」の歌詞からとってるんだけど。

なるほど。言い得ていて、ジワジワきますね。

もも それ、初めて私が書いた歌詞なんだけど、まさか小春ちゃんがそこからとるとは思わなかった。

小春 「慣れないヒールの靴ずれ 今なら笑える」って最高じゃない? この2行に全てが詰まってるよね。しかもアーティスト写真で、ウチら、初めて笑ってるの。

もも 10周年だし、写真館でアーティスト写真を撮りたいって言ったら、スタッフが調べてくれて、「いい写真館があるよ」ってことで。なんか、家族写真っぽいでしょ。そういえばいままで笑ってるアーティスト写真が1枚もなかったよねってことで、こうなったんだけど。

小春 「ウケる~」なんて言いながら撮っただけなんだけど、「今なら笑える」っていうオビのコピーと相まって、なんか意味をもっちゃった。それはあとから気づいたことなんだけどね。

その他のチャラン・ポ・ランタンの作品はこちらへ。

ライブ情報

チャラン・ポ・ランタン 2019ツアー「置行堀巡業」

11月17日(日) 東京都 CHELSEA HOTEL
11月22日(金) 広島県 セカンド・クラッチ
11月29日(金) 大阪府 梅田シャングリラ
11月30日(土) 大阪府 梅田シャングリラ
12月6日(金) 宮城県 仙台darwin
12月8日(日) 秋田県 Club SWINDLE
12月12日(木) 東京都 LIQUIDOROOM

*その他の詳細はオフィシャルサイトにて。

チャラン・ポ・ランタン

もも(唄/ 平成生まれの妹)と小春(アコーディオン/ 昭和生まれの姉)による姉妹ユニット。
2009年に結成、2014年にエイベックスよりメジャーデビュー。
バルカン音楽、シャンソンなどをベースに、あらゆるジャンルの音楽を取り入れた無国籍のサウンドや、サーカス風の独特な世界観で日本のみならず、海外でも活動の範囲を広める。
チャラン・ポ・ランタンとしての活動のほか、映画/ドラマへの楽曲提供、演技・CM・声優・イラスト・執筆など活動の範囲は多岐に渡る。
これまでに8枚のオリジナルアルバムを発売。最新作は『ドロン・ド・ロンド』(2019年3月6日発売)。
2019年7月17日には、メジャーベストアルバム『いい過去どり』を発売。

オフィシャルサイト
http://www.charanporantan.net