横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 18

Column

初主演舞台で見せた有澤樟太郎の支配力

初主演舞台で見せた有澤樟太郎の支配力
今月の1本:TXT vol.1『SLANG』

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月はTXT vol.1『SLANG』をピックアップ。これまで数々の挑戦を重ねてきたクリエイターたちの、ひとつの収穫についてお話しします。

文 / 横川良明


高橋悠也×東映が送る、新時代エンターテイメントプロジェクト

言葉は、人を救う。そして、言葉は、人を殺す。

悪意むき出しの言葉で、その人の心のいちばん脆い部分をズタズタに切り裂くこともできれば、相手を想って発した言葉が思いがけずその人を追いつめてしまうこともある。

だから言葉は怖い。言葉は、簡単に牙を剥く。

だけどその一方で、言葉でしか救えないこともある。言った張本人さえとっくに忘れてしまっているような何気ない一言が一生のお守りになることもあれば、口にするだけで気持ちが弾む、幸せなおまじないのような言葉もある。

TXT vol.1『SLANG』は、そんな呪いにも福音にもなる言葉を題材にした作品だった。

TXTは、『仮面ライダーエグゼイド』のメインライター・高橋悠也と、同シリーズを手がける東映がタッグを組んだシアタープロジェクト。

東映×若手俳優と言えば、伝統の特撮ヒーローシリーズでおなじみ。だがその一方で、演劇方面に目を向けても、少年社中とタッグを組んで『パラノイア☆サーカス』『モマの火星探検記』などスケールの大きいエンターテイメント作品を数多く制作。2.5次元舞台の草分け的存在であるネルケプランニングやマーベラスとはまた違う確度から演劇界を盛り上げてきた。

そんな東映の歩みがひとつの収穫として結実したのが、このTXT vol.1『SLANG』だった。

脚本・演出を手がけた高橋悠也は自ら劇団UNIBIRDを立ち上げ、主宰として作品づくりのコアを担ってきた舞台人。近年では舞台『曇天に笑う』の脚本を担当したが、メインは映像作品が多く、がっつり舞台づくりに携わるのはUNIBIRDの公演以来。馴染み深いホームに満を持しての凱旋となった。

出演者には、『七つの大罪 The STAGE』、少年社中『トゥーランドット〜廃墟に眠る少年の夢〜』の有澤樟太郎を筆頭に、東映作品に馴染みのある顔ぶれが集結。俗に「2.5次元俳優」と総称される俳優たちが、原作のないオリジナル作品に真っ向から挑戦した意欲作だ。

1980年代の小劇場シーンを彷彿とさせる、「ザ・演劇」作品

その出来映えはと言うと、まさに「演劇」という怪物を知り尽くした手練れたちによる、実に「演劇」らしい1本だった。

主人公は、夢の世界を配信する人気夢人・バク(有澤樟太郎)。子ども向けニュースを配信するオネム(井上小百合)やムネオ(和田琢磨)など、個性溢れるキャラクターたちに囲まれながら、バクはその奇妙な世界で楽しく生きていた。

そんなファンタジックな世界と並行して、もうひとつの物語が進行する。舞台は、法廷。そこでは、バクだったはずの青年(有澤)は紡という名で、恋人の伊都(井上)の兄・櫂(和田)を殺した罪で、今まさに裁かれようとしていた。

どこからが真実で、どこからが虚構なのか、簡単に断定することを許さない企み深い構造。言葉遊びをふんだんに散りばめた懐の広い戯曲。観客の数だけ解釈が生まれる自由度の高い結末。

例えるなら、野田秀樹率いる夢の遊眠社や、鴻上尚史率いる第三舞台が活躍した1980年代の小劇場を彷彿とさせる雰囲気だ。大胆さと遊び心を持ちつつ、人間の脆さや残酷さを透かし視るような緊張感と恍惚感があって、するすると観客の心臓を絡め取っていく。

つくり手の導きたい方向へ、手取り足取り観客をガイドするようなことはしない。むしろ渡されたガイドブックを開いたら中身は白紙だった、という驚きの方が近い。どちらの道を選べば正解なのか。観客は自分の足で樹海に踏み込むしかない。けれど、そんな迷妄と発見のはざまで揺さぶられることこそが、演劇の面白さなんだと『SLANG』は教えてくれる。

演劇の力を信じた、生ならではの圧巻の演出

それでいて、観客を突き放すような傲慢さは微塵もなく、あくまでエンターテイメントとしての面白さを追求しているところが魅力的だ。夢の世界は、原色をふんだんに使ったカラフルな装い。パジャマをベースにしたようなパーティー感ある衣装は、それだけで観客をワクワクさせてくれる。

一方、法廷の世界はモノトーンで統一。死んだ櫂は全身白、兄を喪った伊都は全身黒、そして罪に問われる紡は白と黒のツートーンと、その配色にもつくり手の意図が見えて面白い。

舞台美術は、重要なモチーフである本になぞらえ、大きな本が開かれている状態を再現。現実と虚構の世界が何度か入れ替わるが、大幅なセットチェンジは行わない。観客の想像力を信じた試みも潔くて好感が持てた。

何よりこの舞台美術だからできる最後の大仕掛けが圧巻だ。手法としては、とてもアナログ。ある意味、古典的とも言える演出だ。だが、だからこそ爽快に決まった瞬間のインパクトはすさまじい。どれだけ4DXやVRが発達しても、この感動が味わえるのは生のライブエンターテイメントだけ。あの客席に向かって風が吹き上げた瞬間の高揚感は、同じ空間にいる人間しか共有できない。やっぱり演劇はいいなと、全身の火照りが冷めぬまま劇場を後にした。

渾身の有澤樟太郎ら実力者たちの充実した演技が光る

そして、この難解な戯曲と真っ向から格闘した俳優陣たちに称賛を送りたい。初主演の有澤樟太郎が、心に深い傷を負い、罰されることで救いを得ようとする生身の男の不安定な精神状態を、まるで自らの傷口をえぐるような生々しさで表現。むき出しの感情をさらけ出すさまは有無を言わさぬ支配力があり、彼を中心によみうり大手町ホールに強力な磁場が生まれるような感覚さえ覚えた。

和田琢磨は持ち前の向日性が魅力だが、真骨頂はむしろ静の演技。すっと感情のメーターをオフにしたような彼の表現には、背景を一瞬で無にして、世界で彼しかいないように観客を錯覚させる引力がある。

虚構の世界ではハイテンションな悪魔ブラザーズ、現実では検事と弁護士という両極端な役柄を演じ分けた北村諒と赤澤燈はさすがの安定感。無邪気な狂気を帯びた悪魔ブラザーズももちろん良かったが、こうした舞台の世界では珍しい検事と弁護士という現実的な役柄を地に足のついた演技でしっかり見せたところに役者としての幅の広さを感じた。

ヨチムジンと精神科医の二役を演じた岩永徹也は、この中でいい意味でひとりだけ温度の違う佇まいが、役の異色性を際立てたように思う。どこか掴み所のない空気感が、特に精神科医という観察者の立場に上手くハマっていた。

そして貫禄抜群だったのが谷口賢志。夢の世界ではレムのデタラメ感を強調しつつ、現実の世界の刑事はある意味で物語の骨格を担う役どころ。それを人間臭さたっぷりに演じることで、レムと刑事のコントラストが明確になっただけでなく、作品世界そのものに厚みをもたらした。迸る気迫には、熱量を超えた説得力がある。これは40代を迎え、俳優としてますます脂の乗った谷口賢志だから果たせるポジションと言っていいだろう。

メインキャストの中では唯一の女性となった井上小百合も芝居に芯があって好印象。特に終盤の山場となる、紡に罵声を浴びせるシーンは彼女の熱演あってこそ。恋人と兄、大切なふたりのあいだで板挟みにあう難しい役どころを、単に悲劇的に演じるのではなく、理性的に捉えているところに、役者としての知性を感じた。

若手俳優と舞台をつくり続けてきた東映のひとつの“集大成”

2.5次元舞台人気にプッシュされるかたちで、近年、演劇界では若手俳優を中心とした舞台作品が目白押しだ。それは非常に喜ばしい光景だが、ともすると俳優はこのブームにいたずらに空費されることになりかねない。熱狂に足をとられることなく、どれだけ役者として力をつけ、レベルアップしていけるか。彼らはみな強い覚悟を持って、1本1本の現場に挑んでいる。

そんな向上心みなぎる俳優たちが、この『SLANG』という実に演劇的な作品で、これだけ力強い跳躍を見せてくれたことに、何よりも胸を打たれた。目の前を塞ぐ高い壁。それをハンマーを振るって打ち壊すのではなく、それぞれの肩を蹴り高らかに飛び越えるような、そんなイメージが脳裏をよぎった。

それは、一朝一夕で身につけた力ではできない芸当だ。着実に経験を積み、力を蓄えてきた彼らだからこそ、この『SLANG』をエンターテイメントとして成立させられたのだと思う。そしてそれが、若手俳優と共に数々の舞台をつくってきた東映とのオリジナル作品であることに、また深い感慨を覚えた。

今作はTXT vol.1と銘打たれている。vol.1ということは、今後も続きがあると期待していいだろう。このTXTが次はどんなエンターテイメントを世に送り出してくれるのか。注目して見守りたい。

主演・有澤樟太郎さんのインタビューはこちら
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2019.06.25

高橋悠也×東映 シアタープロジェクト TXT vol.1 『SLANG』

2019年6月20日(木)~2019年6月30日(日)よみうり大手町ホール
作・演出:高橋悠也
出演:有澤樟太郎 井上小百合(乃木坂46) 和田琢磨 北村諒 赤澤燈 岩永徹也 谷口賢志 黒川一樹 勝亦利恵 的場祐太

制作 プラグマックス&エンタテインメント・東映
制作協力 QueenB
企画・プロデュース 東映

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