モリコメンド 一本釣り  vol. 129

Column

川口レイジ 日本発のSSW系グローバルポップという新たなスタイルの先駆けとなるニューカマー

川口レイジ 日本発のSSW系グローバルポップという新たなスタイルの先駆けとなるニューカマー

現在、世界のポップシーンの楽曲制作の主流は“コライト”、つまり、共同制作だ。トラックメイカー、トップライナー(メロディを作る人)、作詞家などがアイデアを出しながら楽曲を作るシステムは、00年代に入ってから完全に定着し、多くのヒット曲に結びついている。たとえばエド・シーランの「SHAPE OF YOU」のクレジットを調べてみると、“作詞・作曲/Ed Sheeran、Johnny McDaid、Steve Mac”と記されている。世界各国で驚異的なヒットを記録した(いまYouTubeを見るとMVの再生回数は43億回オーバー)この曲は、エドがひとりで作ったのではく、3人によるコライトで制作されたということだ。

一方、日本の音楽シーンに目を向けてみると、“シンガーソングライターはひとりで作詞・作曲を行うもの”というイメージが強く、コライトという方法論はまだまだ浸透していない。それが良くないというわけではないが、亀田誠治氏が「日本ではシンガー・ソングライター信仰というか、“等身大の言葉を歌わせたい”という考えが強いですが、それより大事なのは、質の高い楽曲を作ることです」と指摘するように、ひとりで作ることへのこだわりが、シンガーソングライターの音楽的な質の向上を妨げているのも事実だろう。

またしても前置きが長くなってしまったが、今回紹介する川口レイジは、海外のクリエイターとのコライトによる楽曲で徐々に注目を集めはじめているシンガーソングライターだ。筆者が彼の名前を初めて知ったのは、2017年の世界的ヒットチューン「Despacito ft. Daddy Yankee」(Luis Fonsi)のソングライティングに参加したMarty Jamesとのコライトによる「R.O.C.K.M.E. ft. Marty James」。しなやかなグルーヴとキャッチーなフレーズを組み合わせたメロディライン、音数を抑え、中低域を押し出したサウンドメイクは、まさに現在の海外のメインストリームの潮流。さらにロックテイストのギター、歪みを効かせたベースラインなどで、際立った独創性をアピールしている。なによりも川口自身のボーカルの魅力がしっかり伝わってくることが、この曲の魅力。グラミー賞にノミネートされた楽曲に参加したソングライターとのコライトは、新人の日本人シンガーソングライターとしてはまちがいなく異例だが、そのチャンスを川口は見事にモノにしたと言えるだろう。

1994年生まれの川口レイジ。幼少期から剣道や野球に打ち込んでいたという彼が、音楽に興味を持ったきっかけは、父親が持っていたギターを“見つけた”ことだ。16才のときに父親を事故で亡くし、遺品を整理していたとき、ネックが反ったクラシックギターがあったのだという。同じ時期に音楽の授業でギターを弾く機会があり、スピッツの「チェリー」やレミオロメンの「粉雪」を弾き語りするようになった。当時、もっとも彼の心を惹きつけたのは、玉置浩二。ガールフレンドが椿屋四重奏のファンで、ボーカルの中田裕二が玉置の「しあわせのランプ」をカバーしたバージョンを聴き、その豊かな歌の世界に魅了されたという。父親を亡くし、ケガのために野球を諦めざるを得なかった川口にとって、玉置の音楽は大きな癒しであり、生きる希望でもあったのだろう。

その後、路上ライブ、ツイキャスのライブ配信を軸に音楽活動をスタート。豊かな表現力を備えたパフォーマンスがメジャーレーベルのスタッフの目に止まり、東京で本格的な制作をはじめた。さらにBruno Mars、Charlie Puthといった海外のポップスに触れながら、自らの音楽性を模索していた川口に大きな変化を与えたのは、LAでのライティング・セッションだった。リファレンスする楽曲を聴き、“こんな感じでやってみようか?”と話しながらトラックを作り、メロディラインを決めるーーリラックスした雰囲気で進められる制作は、川口の音楽世界を大きく広げると同時に、新たな可能性を与えることになる。

その最初の成果とも言えるのが、EP「Departure」。特にリード曲「Summers Still Buring」は、LAで得た技術とセンスが強く反映された楽曲だと思う。テーマは夏。R&B、ラテン、ハウスなどが自然と混ざり合うサウンドメイク、夏の気持ちよさ、切なさを増幅させるメロディ、そして、セクシーな手触りを備えたボーカルがひとつになったこの曲は、海外のポップシーンとJ-POPを自然につなぐ楽曲と言えるだろう。

さらに本作には、Carlos K.、starRoなどの日本人クリエイターとの共作による楽曲も収録。川口自身の経験、友達から聞いたエピソードをもとにしながら、想像力を膨らませながら紡ぎ出される歌詞も大きな魅力。“日本発のSSW系グローバルポップ”という、2020年代以降の新たなスタイルの先がけとも言える、大きなポテンシャルを持ったニューカマーだと思う。

文 / 森朋之

その他の川口レイジの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
https://www.reijikawaguchi.com

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