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植田圭輔&君沢ユウキらが絶望の果てのユートピアを見せる。舞台『pet』-虹のある場所-、大ヒット上演中!

植田圭輔&君沢ユウキらが絶望の果てのユートピアを見せる。舞台『pet』-虹のある場所-、大ヒット上演中!

舞台『pet』─虹のある場所─が7月29日(月)より神田明神ホールにて上演中だ。
今作は2018年12月に初演された舞台『pet』─壊れた水槽─の続編にあたり、本作で完結を迎える。原作は三宅乱丈の漫画『ペット リマスター・エディション』。他者の脳内に入り込み記憶を操作できる特殊能力を持った“ペット”と呼ばれる人間たちの生き様を描く。主演は本年放送予定のアニメ版でも主演を務めることになった植田圭輔。さらに、君沢ユウキ、桑野晃輔、谷 佳樹、萩野 崇、伊勢大貴、あまりかなりと、前作からの続投組や新キャストも加わっている。
どのような完結を迎えるのかに注目が集まる本作のゲネプロと囲み取材の模様をレポートする。

取材・文 / 竹下力


誰しもが記憶の片隅に閉まっている希望の世界

開演前、緊張感のある雰囲気が劇場を包んでいた。すると舞台が暗転し芝居が始まる。スポットライトの中に、今にも泣きだしそうな表情のヒロキ(植田圭輔)が体育座りをしている。この一瞬だけでこの作品がとんでもないものになると確信できる“何か”が満ちていた。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

舞台には余計なものはほとんどない。シンプルな装置と照射される映像、役者の肉体だけで展開されていく。他人の記憶を操作する能力を持つ人間が生きづらい現実でもがき苦しむ、サイキッカーたちの絶望的な状況を活写する意味でSF的であり、ディストピアな世界が描かれるダークな話でもあるが、役者たちの演技とスタッフワークによって、最後には誰しもが脳内からエンドルフィンが溢れ出す多幸感に満ちた感動の舞台に仕上がっている。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

何にもまして、こんなにも観客とキャストが化学反応を起こして完成する舞台は観たことがなかった。キャストも観客も誰しもが泣きくれ、激しいアクションも朗々と歌われる歌もない舞台で、すすり泣きの声が印象を残す。なんとも異様でありながら、それがまったく不可思議に思えない光景が広がっていた。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

ストーリーをかいつまんで言えば、ヒロキや悟(谷 佳樹)といった記憶を操作できる能力者が、特殊能力である“イメージ”を使いながら、人の最も幸福な記憶が集まる場所の“ヤマ”や、最もつらい記憶が集まる場所の“タニ”に潜り込み、“ヤマ”や“タニ”の形を変えることで他人の記憶を改竄していくという物語である。そして“イメージ”を得るためには、つまり能力者になるためには、“ヤマ”を分け与えられた“ヤマ親”という存在が不可欠で、ヒロキの場合は司(桑野晃輔)、悟や司は林(萩野 崇)が“ヤマ親”にあたる。その“ヤマ親”に従順な人間が“ペット”と呼ばれている。前作では、彼らにどんな能力があって、それにより何が起こるのかということが主に説明された。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

今作では、司が憧れの存在の林と一種のサイキックバトルを繰り広げ、林を“壊し”て“潰す=廃人”にしてしまったことを背景に、林たちのバックにいる中国マフィアの“会社”という巨大な組織や、能力者たちの人間模様が前作よりもスケールアップして緻密に描かれている。そして、記憶という人間の曖昧で不確定な要素をモチーフに、何がリアルで何がリアルでないのかの境界線を演劇的手法を効果的に使い曖昧なものとし、我々の生きている世界とは何なのか? 何が本当なのか? 我々とはいったい何者なのか? という実存的なテーマを突きつけてくる。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

そんな深いテーマを主題にしながら、登場人物の誰しも、“誰かを愛したい”、“誰かに愛されたい”という想いが貫徹している。彼らの行動原則はとてもシンプルで、どの人物にも感情移入しやすく、前作では謎だった部分がスピーディーに回収され、新たな物語にスムーズにつながっていく。原作の三宅乱丈の着想の豊かさに驚くこともさることながら、それを約2時間の脚本に仕立て上げた伊勢直弘の構成力、そして演出が見事に花開いていた。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

登場人物たちの卓抜した演技は圧巻だった。
中でも注目したいのは、能力者ではない、“会社”の暗殺者である桂木 役を務めた君沢ユウキの人間くささ。桂木は“会社”のためにひたすら利害を追い求めている人物で、性格が少し破綻しているせいか誰からも嫌われているのだけれど、己に秘めた想いが爆発したときの君沢の演技は筆舌にし難いものがあった。その桂木の過去が徐々に明らかになるラストで見せる、泣かずにはいられない芝居には感嘆するだけだった。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

そしてこの舞台の肝になる、植田圭輔演じるヒロキは、司という絶対的な守護者のために生きているのだが、裏切られたと思い悩み絶望し、それでも司のために生き抜こうと決意する。殉教的とも捉えられるヒロキの真摯さは身悶えん気持ちにさせる。植田の演技には、絶望的な状況に追い込まれても、かすかな希望を感じさせ、人間に絶望という言葉は似合わないと教えてくれるようで感動的だった。彼も最後には泣いてしまうほど役に入れ込んでいたけれど、彼を観ていると祈りを捧げずにはいられなくなる宗教性のようなものを帯びていて、物語を牽引している強さをも感じられた。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

本作にはヘビーなストラグルをくぐり抜けたあとに訪れる優しいカタルシスが待っている。植田圭輔がインタビューで「洋服の掛け違えたボタン」と答えていたように、“誰かを愛したい”という切なる想いがすれ違い、行き違い、愛することに絶望しながら、それでも生き抜こうとする、彼らのむき出しになった魂のぶつかり合いが観客の心を強く揺さぶる。だからこそ、とてつもない業の深い人間ドラマとして成立している。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

物語はユニークで、決して難解なものではない。難しい台詞が飛び交うわけでも、理解するのに時間がかかる所作もない。かといって、従来のエンターテインメントの舞台体験では得られない何かが本作にはある。それをあえて言葉にするなら、“祝祭”と言えるものかもしれない。芝居が始まった瞬間に感じた“何か”は、人間の存在を炙り出そうとする“祭り”の始まりの合図なのではないだろうか。本作を煌々と輝かせる、言いしれない高揚感と圧倒的な“ハレ”。これこそホンモノの演劇と言えるだろう。絶望の果てのユートピア──終演後に見えた景色は、誰しもが記憶の片隅に閉まっている希望の世界なのかもしれない。

人が壊れていく姿が美しいという美学がある

ゲネプロの前には囲み取材が行われ、ヒロキ 役の植田圭輔、司 役の桑野晃輔、悟 役の谷 佳樹、林 役の萩野 崇、桂木 役の君沢ユウキ、ロン 役の伊勢大貴、ジン 役のあまりかなり、7名が登壇した。

舞台『pet』-虹のある場所- エンタメステーションレポート

初日を迎えた意気込みを問われた植田圭輔は「今作はアニメと連動して、そちらでもヒロキを演じさせていただきますが、彼は他人の感情に引っ張られやすいし、喜怒哀楽が激しい人物です。物語は前作の伏線を回収していくので、目の前で起こっていることに心を奪われたり、涙を流していただけると思います。今作で結末を迎えるので、僕たち全員でしっかり完結させたいと思います」と心境を語った。

桑野晃輔は「前作に引き続き今作に携われることを光栄に思い、司という役を最後まで生き抜いて勝負してきたいと思います。人が壊れていく姿が美しいという美学がある作品なので、美しく壊れていきたいです」と意気込んだ。

一方、谷 佳樹は「座組みはパワフルな方が揃って、舞台上でマックスの力でぶつかり合うとものすごい力が生まれます。ひとりひとり嘘がつけないまっすぐなお芝居をするしかない作品です」とカンパニーの印象にも触れ、萩野 崇が「僕が演じる林は、司と悟の親のような存在ですが、そんな親が抱く慈しみの想いがお客様に伝われば嬉しいです」と役どころについて語ると、君沢ユウキは「この作品はダンスも歌もアクションもないのですが、人間の根幹をえぐり出すような舞台です」と作品への熱を込める。

続けて伊勢大貴が「今作では新しいキャストも加わりますし、僕の役は良い人ではないのですが、人に命令する悪い人間を意識して演じたいです」と答えた。あまりかなりは「総合監修のなるせゆうせいさんや演出の伊勢直弘さんが、自分の役に皆が懸命に取り組んだときに初めて完成する作品にしようと、つくりあげてきた舞台です。登場人物みんなのストーリーを感じていただけるように頑張っていきます」と抱負を述べた。

最後に植田が「今回で完結なので、ヒロキを演じさせていただくことに感謝しながら、お客様にしっかり届けたいと思います。登場人物はみんな思い違いをし、すれ違っていくので、胸が締めつけられて痛くもなりますが、最後には朝日が昇るような清々しい気持ちになって劇場から帰っていただけると思います。最終シーンのためにつくり上げた作品とも言えるので、最後の瞬間を見届けていただければ嬉しいです」とコメントし囲み取材を締め括った。

公演は8月4日(日)まで神田明神ホールにて上演。8月4日(日)の千穐楽公演は、CSテレ朝チャンネルでの生中継が決定している。

舞台『pet』―虹のある場所―

舞台『pet』―虹のある場所―

2019年7月29日(月)〜8月4日(日) 神田明神ホール

INTRODUCTION
人の意識に潜り込み、記憶を自在に操る能力を持つ「ヒロキ」たちは、「会社」と呼ばれる中国マフィアによって管理される日々を送っていた。
「pet(ペット)」と呼ばれる彼らは、組織のために人の記憶を破壊し廃人に追い込む任務を強いられる事もあった。
それでも「ヒロキ」は、パートナーである「司」と一緒に居るだけで幸せだった。
ある時「会社」の任務中に現場で倒れた「ヒロキ」は、運び込まれた病院で潰れた「林」を発見する。
そこで知った「林」の記憶によって、「ヒロキ」たちペットの運命が大きく変わってゆく……。

原作:三宅乱丈『ペット リマスター・エディション』(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
協力:TVアニメ『pet』
総合監修:なるせゆうせい
演出・脚本:伊勢直弘
制作:オフィスインベーダー
製作:舞台「pet」製作委員会

出演
ヒロキ 役:植田圭輔
司 役:桑野晃輔
悟 役:谷 佳樹
林 役:萩野 崇
桂木 役:君沢ユウキ
ロン 役:伊勢大貴
ジン 役:あまりかなり
メイリン 役:安西 禀
アンサンブル:田中崇士、平本亜夢

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@pet_anime)

アニメ「pet」 ©三宅乱丈・KADOKAWA/ツインエンジン
舞台「pet」 ©三宅乱丈・KADOKAWA /舞台「pet」製作委員会

原作コミック:『ペット リマスター・エディション』