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戦争の中で生きる若者たちが目指す頂。松本零士原作舞台『スタンレーの魔女』開幕

戦争の中で生きる若者たちが目指す頂。松本零士原作舞台『スタンレーの魔女』開幕

舞台『スタンレーの魔女』が、7月28日(日)DDD青山クロスシアターにて開幕した。
松本零士による「戦場まんがシリーズ」の中でも、“名作中の名作”と謳われる同名タイトルの短編が原作。第二次世界大戦の最中、日本軍爆撃隊の“落ちこぼれ”航空隊員たちが立ち向かった挑戦を描く。
脚本・演出家の御笠ノ忠次が3度目の上演を手がけ、オーディションで選ばれたメンバーほか、個性豊かな俳優たちが顔を揃えた。 標高5千メートルを超える“スタンレー”山脈の頂を目指した彼らは、その先に何を見たのか? 初日直前に行われたオフィシャル会見とゲネプロの模様をレポートする。

取材・文・撮影 / 片桐ユウ


共に笑い、語り合い、そして笑顔で夢に向かった青年たちの物語

夏がくると、花火や海水浴といった風物詩と共に、欠かさず取り上げられるものがある。日本の夏の真ん中、8月15日に終戦記念日はある。

様々な“諍い”と“争い”を含んでいるため、月日を区切ることは本来難しいのだが、「第二次世界大戦」は1939年から1945年までの6年間続いた。(もちろん“戦争”の傷痕はすべてなくなってはいないし、世界から“戦争”もまったくなくなっていない)
その発端やその後の爪痕、合間の不穏な情勢まで含めると、人々はずっとずっと“戦争”という落とし穴が待つ、巨大な悪意に巻き込まれている。

だが『スタンレーの魔女』は、そんな“戦争”の長い月日から“一瞬”を切り取った作品だ。
瞬(またた)きのなかで、共に笑い、語り合い、そして笑顔で夢に向かった青年たちの物語である。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

まずはゲネプロの模様をお届けする。

舞台上に、俯いて座っているひとりの青年がいる。
彼だけ時が止まっているかのように、その周囲だけを静寂が取り囲んでいる。
開場から開演時間になるまで、青年はそのままの姿でそこにいる。

やがて客電が落ち、劇場内が暗くなると、透き通るような女性の歌声が聴こえてくる。
いつの間にか、と思うほど、ゆらりと現れた8人が青年を取り囲む。皆、青年と同様に日本軍の飛行服を着ている。そのまま何も言わず、ただ中央に座る青年を見つめたあと、彼らは静かに立ち去っていく。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

その間に、座っていた青年は夢から目覚めるかのように動き出し、飛行帽とゴーグルをはずして一冊の本を朗読し始める。

「無念の涙をのんでひきかえす私が、ふと、ふりかえった時……。山が笑っていた」

その青年=敷井(石井 凌)が一小節を読み終えると同時に舞台上が明るくなり、蝉の鳴き声が響き渡った。
斜めに倒れた航空機の羽根や、雑草の生えた鉄屑、赤く錆びたドラム缶が夏の日差しに晒され、ラバウルの景色が立ち上る。

敷井が読んでいたのは、航空探検家・ハーロックが書いた冒険小説。ハーロックは愛機「我が青春のアルカディア号」が唯一越えられなかった山脈、スタンレーについて読み上げたように書き記しており、敷井はその記述に痺れ、いつか自分がスタンレーを越えたいと憧れを抱いていた。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

日本軍が拠点としているニューブリテン島のラバウルから、連合国軍基地のあるポートモレスビーに向かう途中、ニューギニア島にスタンレー山脈は存在する。
爆撃隊の操縦員である敷井ならば、すぐにでも攻略できるはずだったが、そうもいかない事情が次々と明らかになる。

何せ敷井の属する爆撃隊は、“落ちこぼれ”揃いなのだ。

つねにおふざけの中心にいる大平(宮下雄也)、昆虫好きの流山(池田竜渦爾)、腹をくだし気味の熊田(永島敬三)、目が悪い足立(松井勇歩)、恋人に焦がれてばかりの尾有(宮田龍平)。
気の良い連中だが、ヘマばかりして機体を壊すので出撃命令が下されない。
おまけに彼らの部隊を率いる出戻中尉(唐橋 充)まで、一升瓶を腕に抱いて野にのびている。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

こんな状態だから仕方がないとばかりに、大平たち搭乗員はふざけ倒す。暴露話をしてみたり、全員で陣営の模様替えをしてみたり。同じような年頃の男子が集まっている部隊。じゃれ合いが楽しくないわけがない。
だが、暇潰しの日々に皆どこか虚しさを抱えている様子で、戦闘機乗りの後藤(松本寛也)からも嫌味を言われる始末だ。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

そんななか、偵察隊が帰還。石田中尉(津村知与支)の報告により、戦況が芳しくないことが居残り組だった爆撃隊の搭乗員たちにも伝えられる。戦闘機の数が減っている今、出撃すれば尚のこと、還ってはこられないかもしれない。

それでも敷井が望むのは“飛ぶこと”のみ。自分たちに与えられる機体がないならば作ればいいと、破損した零戦を繋ぎ合わせて、自分たちで航空機を作ることを思いつく……。

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本作の主演をオーディションで射止めたニューフェイス・石井 凌は、ひたすら“飛ぶ”ことを求める敷井の純真さとリンクしている。彼のまっすぐさを、唐橋、松本、津村のベテラン勢と大平 役の宮下をはじめとする搭乗員の役者たちが支え、なおかつ自らの色を乗せて生き生きしている様が良い。

ストーリーはごくシンプルだ。前半のまったりした時間で起こる笑いの掛け合いと語りの深さ、後半の機体作りのテンポと上空で待ち受ける運命。全体を通して明確なコントラストが付けられており、それは飛行機のフライト前、滑走路をゆっくりと巡回する時間と、力強く飛び立っていく瞬間のギャップに似ていた。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

特に印象深く残るのが“音”がもたらす効果。ほとんどの場面、背景に流される音はなく、場面の冒頭で聴こえる虫の鳴き声で、その季節と時間を知らせる程度に止めている。
その静けさが会話を引き立たせ、その中に流れる心情を浮かび上がらせていた。特に少人数に分かれて境遇や心境を語り合う場面で、それぞれの本音が迫る。

さらに皆で作った航空機が飛び立つ瞬間は、轟音が体を震わせてくる。彼らと共に上空へと舞い上がる気持ちにさせてくる、この“体感”の演出には持っていかれた。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

衝撃のラストに至るまで、絶えず生っぽい臨場感と、極限状態だからこそ輝く人の善意、あるいは慈愛とも言うべき“情”が流れている。 終演後、胸に残っているのは、彼らの笑顔か慟哭か。ぜひ劇場で確かめて欲しい。

始めから終わりまで、90分間すべてが見どころ

このあとは、ゲネプロ前に行われたオフィシャル会見のコメントを届ける。
オフィシャル会見には、敷井 役・石井 凌、出戻 役・唐橋 充、大平役・宮下雄也、足立役・松井勇歩、石田 役・津村知与支、脚本・演出の御笠ノ忠次が出席した。

舞台スタンレーの魔女 エンタメステーション舞台レポート

御笠ノ忠次は舞台の見どころを尋ねられ、「舞台における見どころというのは難しいのですが……始めから終わりまで、90分間すべてが見どころです」と返答。
隣りにいた唐橋が「今回は再々演ですけど、もともと舞台化したキッカケは何だったんですか?」と質問し、御笠ノが「昔、松本零士先生の元を直接訪ねて『スタンレーの魔女』を舞台で上演したいとお願いしたんです。『いいよ』と言っていただいたのが始まり。なので、本作の見どころは松本零士先生の世界観ですね」と続けた。

石井 凌は「みんなが自由に動くお芝居なので、毎公演違うと思います。台詞は一緒でも感情の流れなどが変わると思いますし、16公演全部違う『スタンレーの魔女』になると思っています」と見どころを語るが、それを聞いた御笠ノが「じゃあ、全部変えないといけないってことだね?」とプレッシャーをかける。石井が慌てて「いや、そういうことじゃないんですけど……」としどろもどろになるなど、微笑ましいやりとりで周囲から笑いを起こす場面も見られた。

唐橋 充は「稽古場では“空気”をどうつくるのか、ということに終始していました。何度繰り返しても、高度な技術を持った方の稽古は澱まない。新鮮で楽しい稽古場でした。こういったところは客席にも伝わるものなので、ぜひ伝えていければ」と稽古を振り返りながらコメント。
「戦争は“死”にまつわるものですが、“生”だけを描こうとしている作品です。それは同時に“死”も描かれることに繋がるのですが、そんな戦争ものの舞台ですので、ぜひご観劇いただきたいです」と呼びかけた。

宮下雄也は「むちゃくちゃいいカンパニーです!」と断言。「個性を確実に生かしている座組みですので、このメンバーにしかできないことが1シーン、1シーンに込められていると思います。夏に、ぴったりですよ」とアピールした。

松井勇歩は「“これって戦争を題材にした作品ですよね?”って思えるぐらい、くだけたシーンがあったりする作品ですが、ふざけつつもしっかりと道をつくってくれる先輩方と、それに死にものぐるいでついていく、年下組の僕や主演の石井くん、宮田くんの相乗効果もあって、観終わったあとに心に残るものがあると思います。最高にふざけていて、最高に面白い男たちのロマンを見届けてください!」と熱くコメント。

津村知与支は再演にも出演しており、2度目のスタンレー。「出身も毛色も違う9人が集まっていて、舞台上で異種格闘技戦のような反応を起こしています。バラバラなメンバーが集まったからこそスリリングな面白さがあると思いますので、男たちの化学変化、ぜひ観に来てください!」と、座組みの豊かさを挙げた。

最後は石井が「毎公演、違う空気感を楽しんでいただけたらいいなと思います」、御笠ノが「演劇が好きな人と演劇が嫌いな人、ぜひどちらの人にも観てもらいたいです」とメッセージを送り、オフィシャル会見は終了した。

上演は8月8日(木)まで。スペシャルゲストを迎えてのアフタートークが開催される公演回もある。

舞台『スタンレーの魔女』

舞台『スタンレーの魔女』

2019年7月28日(日)〜8月8日(木)DDD青山クロスシアター

STORY
時に冗談を飛ばし、時に本音をぶつけ、そして彼らは夢を語る。
仲間と過ごす時間は、いつの時代も、どんな場所でも変わらない。
たとえ、たまたま“時代が戦争をしていた”としても。
太平洋戦争中、 ニューブリテン島のラバウルを飛び立った日本軍爆撃隊。
その中の一機が最後に挑んだ頂とは……。

「無念の涙をのんでひきかえす私が、 ふと、 ふりかえった時……。 山が笑っていた」

原作:松本零士
脚本・演出:御笠ノ忠次

出演:
敷井 役:石井 凌
出戻 役:唐橋 充
大平 役:宮下雄也
流山 役:池田竜渦爾
後藤 役:松本寛也
熊田 役:永島敬三(柿食う客)
足立 役:松井勇歩(劇団Patch)
尾有 役:宮田龍平
石田 役:津村知与支(モダンスイマーズ)

主催:『スタンレーの魔女』制作委員会

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@stanley_stage)
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©松本零士/小学館 ©『スタンレーの魔女』製作委員会

原作コミック:戦場まんがシリーズ『スタンレーの魔女』