まず観る!アニメ1話無料  vol. 6

Column

大規模展覧会も開催中! 巨匠・高畑 勲が演出『アルプスの少女ハイジ』第1話を無料で観る

大規模展覧会も開催中! 巨匠・高畑 勲が演出『アルプスの少女ハイジ』第1話を無料で観る

各種配信サービスで「1話無料」となっているアニメ作品を視聴し、その感想や周辺知識を語っていく連載「まず観る!アニメ1話無料」。いまでは愉快なパロディCMでもおなじみの、あの国民的名作アニメを取り上げます。

文 / エンタメステーション編集部


現在、東京国立近代美術館にて「高畑勲展―日本のアニメーションに遺したもの」が開催中。
朝の連続テレビ小説『なつぞら』でも草創期のアニメーション制作の現場に光が当たり、昨年亡くなった氏の功績を改めて振り返る機会がそこここにある状況が続いています。

というわけで今回ご紹介する作品は

『アルプスの少女ハイジ』

(バンダイチャンネルにて1話無料配信中)

です。

1974年にテレビシリーズとして放送された本作。制作会社は「ズイヨー映像」です。
高畑の代表作として挙げられるのは『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』などスタジオジブリ制作の作品が挙げられることが多いですが、これらは年齢を考えるとむしろ円熟期にあたる作品。
ジブリ時代以前に演出を手掛けた作品として、今回ご紹介する『ハイジ』や『母をたずねて三千里』など数々の作品があるわけです。

先日、ライムスター・宇多丸がMCを務める人気ラジオ番組「アフター6ジャンクション」に、「高畑勲展」にも展示アドバイザーとして携わっている映像研究家の叶 精二がゲスト出演していました。そこで高畑の作品を読み解くキーワードとして語られていたのが、「日常にありふれたものを子供たちが見出していく、『発見と解放のファンタジー』」ということ。『ハイジ』第1話にはまさにそういった視点が盛り込まれています。

他の話数を断片的に観たことはあったのですけど、第1話を観るのは今回が初めてでした。なるほど確かにこれはすごい。

まず、ハイジのバックボーンというのが個人的に衝撃でした。1歳のときに両親を亡くし、5歳になる現在までおばさんのところで育てられた、と。そもそもハイジが5歳という設定だったということに驚きなんですが(調べたところによると、劇中で時間の経過があるみたいです)、確かになんでおじいさんのところで暮らしているんだろうというのは、考えたことがなかった。
おばさんも幼いハイジを抱えていてはいい仕事に就くことができない……ということでハイジの実祖父である「アルムおんじ」のところに預けられることになるのです。

映像は早朝、まだ薄暗い時間帯にそれまで暮らしていた町を出るところから始まります。
これは自然の薄暗さを表したリアリティある色彩の表現なんですけど、ハイジの不安げな表情と相まって心理描写として観てしまいます。

そこから山に住むおじいさんのところまで、ずんずん坂を登っていきます。
とにかくこの1話、基本的に右から左への横移動でずっと構成されているのです(だからこそ、左→右への移動や縦の移動には重要な意味が込められていると言っていいでしょう。先のラジオ放送では、高畑がアニメーションに「縦のカメラワーク」を持ち込んだパイオニアとしても紹介されていました)。

途中、乗り込んだ馬車の御者のおじさんがハイジの境遇を「かわいそうに……」とつぶやくのですが、山を登るにつれてハイジの顔はどんどん明るくなっていきます。
「親戚をたらい回しにされて……」とかって、やっぱり大人の目線だってことなんです。ハイジはそんなことおかまいなし! 初めて見る自然や虫たち、そして動物たち(ヤギ!)に目を輝かせ、全身でその出会いを味わおうとします。
日が高く昇ってきたのに合わせて、画面もどんどん色鮮やかになってきますね。それはハイジの目に映る新しい世界の鮮やかさでもあるのでしょう。

そう、ヤギのことにも触れておかなきゃいけませんね。ヤギと言えばヤギ飼い、ヤギ飼いと言えばペーターですが、彼が大量に連れているヤギというのは実は全部が彼の飼いヤギではないんですね!(いろいろな人のヤギを日中預かって世話しているとのことです) 子ヤギのユキちゃんというのがマスコットキャラ的にいるのですけど(OPの冒頭でもハイジと一緒に歩いています)、この子もふもとに住んでいる別の家庭の飼いヤギのようで。
ちなみにペーターは11歳ということで、ハイジの2倍も歳が離れていたというのも驚きでした。

1話のクライマックスとなるのが、山をほぼ登り切ったところで、ハイジがそれまで着ていた厚手の上着をすべて脱ぎ捨て、白いワンピース(下着?)一枚になってペーターとヤギと一緒に草原を駆け回る、というシーンです。ここでまさに「縦のカメラワーク」が使われ、開放感がマックスに。ヤギは飛び跳ね、画面全体から歓喜が伝わってくるよう。
そしてOP曲の「おしえて」が流れるんです。これ、深夜アニメでも定番の手法ですよね!(『けものフレンズ』第1期の最終話なんかを思い出します)。まさか『ハイジ』に原型があったなんて……しかも第1話からですからね(笑)。高畑はピアノも弾け作詞作曲もできる人だという話ですが、こうした音楽の使い方にも目を見張るものがあります。

ラストではアルムおんじと邂逅。長い上り坂の果て、まさしく「ラスボス」のようにどっしりと小屋の前に構えています。
そこでのおんじとハイジのおば・デーテとのやり取りには目を見張ります。デーテ曰く、4年も面倒を見てきたのだから今度は実祖父であるおんじが面倒を見るべきだと……。
こうやって抜き出すとデーデが主張しているのはただのエゴ、ともすると悪役のように感じると思うのですが、実際の彼女の表情を見るといろいろと考えさせられます。
おばとは言っても彼女もまだそれなりに若いでしょうし、姉の子とはいえ自分の子ではないハイジをひとり育てるのにはいろいろなストレスもあったと思うのです。
言い分を聞かされた後、おんじは言い放ちます。「お前はさっさと山を下りろ! もう二度と顔を見せるな!」無言で唇をかみしめ、涙を目に浮かべるデーテ。背を向け去っていく彼女に「さようなら、おばさん!」と叫ぶハイジの声が、なんとも切ない。

情や正しさだけでは割り切れないこの世の現実。それに直面したときに見せる人間の、なんとも名前をつけがたい表情。それを巧みな「間」の使い方やわずかな視線の動きで表現しているんですね。
高畑は学生時代から実写映画を深く研究してきたといいます。躍動感あるファンタジックなシーンをときに描きながらも、キャラクターをあくまで血の通った「人間」として描こうとする。
この両面が奇跡的に融合している高畑アニメーションの魅力がギュッと凝縮された1話であるように感じました。ぜひ、『なつぞら』でアニメーションの歴史に興味を持った人にも観てほしいですね。

それではまた次回!

今回ご紹介した作品を「1話無料」で観るならこちら!

アルプスの少女ハイジ 第1話 【バンダイチャンネル】

https://www.b-ch.com/titles/1399/001/

『アルプスの少女ハイジ』

【STAFF】
演出:高畑 勲
場面設定・画面構成:宮崎 駿
キャラクターデザイン・作画監督:小田部羊一
美術監督:井岡雅宏
撮影監督:黒木敬七
録音監督:浦上靖夫
制作主任:松土隆二
シリーズ構成:松木 功
音楽:渡辺岳夫
担当プロデューサー:中島順三
プロデューサー:高橋茂人
企画制作:瑞鷹エンタープライズ

【CAST】
ハイジ:杉山佳寿子
アルムおんじ:宮内幸平
ペーター:小原乃梨子
クララ:吉田理保子
デーテ:中西妙子
ブリギッテ:坪井章子
ペーターのおばあさん:島 美弥子
ゼーゼマン:鈴木泰明
おばあさま:川路夏子
ロッテンマイヤー:麻生美代子
セバスチャン:肝付兼太
チネッテ:つかせのりこ
お医者様:根本好章
ナレーター:沢田敏子

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連載「まず観る!アニメ1話無料」
次回の更新は8月12日(月・休)予定です。

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