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岡田将生が醸し出す狂気とエロスと慈しみ。舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』絶賛上演中!

岡田将生が醸し出す狂気とエロスと慈しみ。舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』絶賛上演中!

岡田将生が主演を務める舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』が、8月14日(水)よりシアタークリエにて上演される(8月2日(金)~4日(日)はプレビュー公演)。
本作はイギリスで最も権威のある演劇賞のひとつ、ローレンス・オリヴィエ賞を受賞したイギリスの劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルが贈るサスペンスドラマの日本初演版にあたる。日本版演出を手がけるのは、第22回読売演劇大賞最優秀演出家賞や第69回文化庁芸術祭賞大賞などを受賞し注目を集めている文学座出身の上村聡史。さらに主演の岡田将生を筆頭に、木村多江、益岡 徹、峯村リエ、相島一之、立川三貴、前田亜季と、豪華実力派の役者たちが揃う。
そんな舞台の公開ゲネプロと囲み取材が、プレビュー公演前の8月1日に行われた。

※公開ゲネプロではエドガー・プリチャード 役は宏田 力が務めた。

取材・文 / 竹下力 写真提供 / 東宝演劇部(ゲネプロ)


アクチュアルで今日的な問題を扱った緊迫感のある会話劇

本作から漂ってくるテーマは“分断”とその“回復”であると思う。親と子、父親と母親、男性と女性、家族、友達、愛、生と死といった人間を取り巻くあらゆる感情や事象が、本来は地続きであるのにも関わらず、どうしようもなく分裂、破綻してしまっている、そんな失調した状態を回復させようとすることの意味を問いただしている。まるでメキシコの国境にそびえ立つ“分断の壁”について議論するのと同じように、アクチュアルで今日的な問題を扱った緊迫感のある会話劇だった。

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』 エンタメステーションレポート

まず、舞台の時代設定に注目して欲しい。時は1937年、場所はイギリス・ヨークシャー州のとある豪邸。1937年といえば、日本では日中戦争が起こり、世界的に見れば、1939年にナチス・ドイツがポーランドに侵攻、第二次世界大戦が始まる。民族と民族、国と国、政治と経済、それらが“分断”し、どうやっても修復不可能な状態になろうとしていた暗黒時代の始まりであった。そんな時代背景が本作の重苦しいトーンを示唆しているようにも感じた。

裕福な炭鉱主のハロルド・プリチャード(益岡 徹)と炭鉱夫のジョン・ベイリー(立川三貴)が口論をしているシーンから始まる。世界的な経済不況のあおりを食らい閉鎖する炭鉱を巡って言い争いをしていたのだ。そこへハロルドの友達エイブリー一家が訪ねてくる。かつては家族ぐるみで仲良くしていたが、10年前にハロルドの息子・エドガー(当時12歳)が亡くなったことをきっかけに疎遠になっていた。エドガーの死後、母親・エリザベス(木村多江)は家の中でふさぎ込んでおり、彼女を励ますためにと、ジェフリー(相島一之)とヴァネッサ(峯村リエ)、彼らの一人息子で、エドガーの親友だったテレンス(岡田将生)が訪れる。エリザベスもエイブリーたちが来たことが嬉しい様子で、よもやま話に花が開く。しかし、テレンスがエドガーの部屋で過ごすようになると、毎晩、彼の恐ろしい叫び声が屋敷中にこだまし、テレンスは「エドガーの霊が憑依している」と慄き始める。やがてテレンスは「伝えたいことがある」とエドガーが事故死した現場の炭鉱、ブラッケン・ムーアにみんなで向かおうと語り始めるのだが……。

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』 エンタメステーションレポート

まず翻訳の広田敦郎の手腕が光っている。リズミカルな台詞と即座に意味がわかる丁寧に翻訳された日本語から生まれる、生き生きとした会話のやりとりが耳に心地よい。そして上村聡史の緊迫感と清潔感のある演出が見事だった。どのシーンもつねにピーンと糸が張って、ヨレることも途切れることもなく、研ぎ澄まされた舞台に仕立て上げていた。文学座でもタッグを組んだことのあるふたりが生み出す化学反応によって、この舞台に登場するふたつの家族が10年という長い“分断”から重なり合い、やがて一筋の光明が差し込み始める物語に必然性と説得力を持たせていた。

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』 エンタメステーションレポート

テレンスを演じた岡田将生は、どのシーンでも抜群の存在感があった。ただ板の上に存在するだけで凛としてかっこよく、華になる。エロティックな雰囲気も醸しつつ、癒されるかのような安心感もある。とにかく惚れ惚れするほど美しく魅惑的だ。それでいて、どこか儚い後ろ姿も、役者・岡田将生の本質を射抜いている。理論的で弁が立つタイプの台詞に毒のある芝居を見せるのだが、エドガーが憑依するという現実にはあり得ないことが起きたときの状況を受け入れられずにパニックに陥る芝居がとてつもなくリアルで怖かった。また、狂気を通り越した、12歳のエドガー少年になってしまったときの清々しい演技といったら! 闊達なのになんとも初々しい。全編を通して劇場全体に圧倒的なカタルシスを生み出す“これぞ岡田将生”という芝居だった。

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』 エンタメステーションレポート

その対照的な存在として立つハロルドは、エドガーを亡くし合理的になり、男性原理や理性主義を信奉し、超常現象、神さえも信じられない懐疑論者になってしまった人物で、益岡 徹の屈託のある演技に舌を巻く。それにより舞台で起こる異常な現象が観客の胸にリアルに響くのだ。

一方、木村多江演じるエリザベスは「合理的なものも超えた現象はこの世界に起こり得る」というアンチ・ハロルドを徹底することで、家庭の不和、すなわち“分断”というテーマを如実に露わにしていたと思う。大切な子供を失うという悲劇的な女性でありながら、10年を経ても我が子をひたすら愛し続ける情念があらゆる表情や所作からにじみ出て、力強い母性を感じずにはいられなかった。

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』 エンタメステーションレポート

これ以外にも語りたい個性豊かな役者が多く、この舞台は誰を観るかによっても、劇場をあとにするときの気持ちが違うような気がする。 本作には、悪人はひとりもいない。悪意を持つ人間がいないのに、みんな正しいことをしようとしているだけなのに、想いはすれ違い、“分断”が起きてしまう。いつの時代も、どんな国の人間も、生まれながらに持ってしまう悲しい“業”とも言うべきものがこの舞台では肝になっている。どんなに頑張っても、争いを繰り返すだけかもしれない。それでも、必ずひとつになれるという希望が見える。なにより人間には“愛”があることを訴えてくる。

同時に、いつの間にか世界にはびこる諸問題をも考えさせられている。岡田将生を中心としたカンパニーが作り上げる本作が、この時代に日本で初演を迎える意味も含め、仕上がりの素晴らしさに感嘆のため息をつきたくなるからたまらない。

自信をもってみなさんに届けられる作品

ゲネプロの前に行われた囲み取材には、岡田将生、木村多江、益岡 徹が登壇した。

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』 エンタメステーションレポート

まず、プレビュー公演を明日に控えた意気込みを問われると、岡田将生は「皆さんと脚本の解釈を深めた状態で1ヵ月みっちり稽古ができたので、自信をもって皆さんに届けられる作品だと思います」と答えた。

木村多江は「明日が初日ですが、まだ台詞がうまく言えなくて(笑)。ただ、心強い共演者の方が助けてくださいます。作品は重厚で、大人のお芝居で盛り上げていくので、それについていきたいと思います」と控えめに言葉を口にした。益岡 徹は「一緒に稽古をして関係性を深めてきましたが、幕が開いてからもさらに深まっていくと思います。公演期間中は家族より長い時間を過ごすので、一段と深まる僕たちの関係性を見てください」とコメントした。

役づくりを問われた岡田は「10〜12歳のお子さんをたくさん見ながら、子供たちの動きや声の高さを研究しました」と語り、木村は「薄幸な役ですが、強さと悲しみと果てしない闇を表現できるように心がけました」、益岡は「男はこうあるべきだと断言していたハロルドが何かに囚われて彼の信念が崩れていく様を表現しようと本読みから稽古をしてきました」と語った。

最後に岡田が「“愛”とその“喪失”と“再生”という3つのテーマを軸に物語が展開していきます。僕たちの台詞の力をお客様の耳に届けたいと思います。お時間があればぜひ足を運んでいただければ嬉しいです」と締め括り、囲み取材は終了した。

本作は8月4日(日)まで東京 シアター1010でプレビュー公演を行なったのち、8月6日(火)に長野公演、8月8日(木)から8月9日(金)まで愛知公演、8月11日(日・祝)に静岡公演を行い、8月14日(水)から8月27日(火)まで東京公演をシアタークリエにて、8月30日(金)から9月1日(日)まで大阪公演を梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで行う。

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』

舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』

プレビュー公演:2019年8月2日(金)~8月4日(日)シアター1010
長野公演:2019年8月6日(火)長野県県民文化会館 ホクト文化ホール 大ホール
愛知公演:2019年8月8日(木)〜8月9日(金)日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
静岡公演:2019年8月11日(日・祝)静岡市清水文化会館 マリナ―ト
東京公演:2019年8月14日(水)~8月27日(火)シアタークリエ
大阪公演:2019年8月30日(金)~9月1日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

STORY
1937年、イギリス・ヨークシャー州。裕福な炭鉱主のハロルド・プリチャード(益岡 徹)の元に、ある日エイブリー一家が訪ねてくる。かつては家族同士で仲良くしていたのだが、10年前にハロルドの一人息子・エドガー(当時12才)が、ブラッケン・ムーアという荒野の廃抗に落ちて亡くなった事故をきっかけに疎遠になっていた。それ以来、エドガーの母親・エリザベス(木村多江)は家の中でふさぎ込んでおり、彼女を励ますためにエイブリー一家はプリチャード家に数日、滞在する予定だった。エリザベスはエドガーの親友であったエイブリーの一人息子、テレンス(岡田将生)と再会すると、亡き息子への思いを溢れんばかりに話し出した。
しかしその日から毎晩、うなされたテレンスの恐ろしい叫び声が、屋敷中にこだまするようになる。テレンスはエドガーの霊が憑依し、何かを伝えようとささやいてくると言う。やがてエドガーの霊に憑りつかれたテレンスは、事故現場であるブラッケン・ムーアに向かう。そして事故当時の知られざる真実が、少しずつ明らかになっていく──。

作:アレクシ・ケイ・キャンベル
翻訳:広田敦郎
演出:上村聡史
製作:東宝

出演:
テレンス・エイブリー 役:岡田将生
エリザベス・プリチャード 役:木村多江
ヴァネッサ・エイブリー 役:峯村リエ
ジェフリー・エイブリー 役:相島一之
ジョン・ベイリー/ギボンズ医師 役:立川三貴
アイリーン・ハナウェイ 役:前田亜季
ハロルド・プリチャード 役:益岡 徹
エドガー・プリチャード 役:大西統眞/宏田 力(Wキャスト)

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