Interview

浦井健治が語る“役者は普通の人”という意味とは?『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で問いかける、生きることの幸せ

浦井健治が語る“役者は普通の人”という意味とは?『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で問いかける、生きることの幸せ

1997年からアメリカのオフ・ブロードウェイで上演され、ロングランを記録した『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。2001年には映画化もされ、舞台・映画ともに大ヒットしたロック・ミュージカルだ。日本版の初演は2007年、主演は三上博史だった。8月31日(土)よりEX THEATER ROPPONGIにて上演される本作は、2012年以来の7年ぶり、4演目にあたる。
そんな舞台で明日のロックスターを夢見るヘドウィグ役を務めるのは、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第22回読売演劇大賞最優秀男優賞など俳優として輝かしい受賞歴を持つ浦井健治。
彼に、本作のこと、肝となる音楽のこと、さらには、数々の舞台を経てきた役者・浦井健治が語る“役者論”まで迫った。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 岩田えり


日本で4人目のヘドウィグを演じることは光栄

まず、日本に7年ぶりに名作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が帰ってきます。過去には、三上博史さん、山本耕史さん、森山未來さんと錚々たる役者がヘドウィグを演じていますが、今のお気持ちはいかがですか。

緊張していますね(笑)。それと同じぐらい、日本で4人目のヘドウィグを演じることは光栄でもあります。もともと本作が日本で上演されるきっかけは、三上さんがアメリカのオフ・ブロードウェイで実際にご覧になられて「日本でも上演したい」という熱い想いからのスタートでしたから、三上さんの想いを受け継いだ役者たちがヘドウィグを演じてきて、その気持ちがお客様に伝わっていたからこそ、再演が繰り返される歴史ある作品になったので、心してヘドウィグを演じていきたいです。

浦井健治 エンタメステーションインタビュー

ヘドウィグはどんな役だと思いますか。

ヘドウィグと名乗ることになるハンセル少年は、自由の国のアメリカに渡ってロックスターになるのが夢でした。そして彼は自分の生涯の相棒のような“カタワレ”を見つけようと心に決めます。挫折や苦しみを味わいながら、ある日偶然にひとりの男と運命的な出会いをして、結婚の道を選び、アメリカに渡るために性転換手術をします。それが失敗して股間には「怒りの1インチ(アングリーインチ)」が残ってしまう。そこからヘドウィグと名乗って、果たせなかったロックスターになるべく再スタートを切る。それでも、苦労がたくさんあって、離婚をしたり、ベビーシッターをして生活苦にあえぎながらも、愛を叫ぶことを忘れずに歌い続けます。彼を通して“人間とは?”という深いテーマに辿り着くストーリーだと思います。

演劇の可能性を信じて繊細な作品に

前作を拝見したときに感じたのが、ヘドウィグは心に何かを秘めた役だと思いましたが、どのように演じていこうと思っていますか。

今回の演出の(福山)桜子さんとも話したのですが、初演に近いオーソドックスなヘドウィグを演じようと思っています。前回の森山未來くんの場合は、舞台を日本に置き換えたり、美しいダンスを披露したり、様々な要素を織り交ぜ取り組んでいましたが、今作では、三上さんが試されようとしていたことのより近いところを目指してみたいです。相手役のイツァークになるアヴちゃんは、話を聞くと日本のヘドウィグと言われていたそうで、ヘドウィグにはぴったりなんです(笑)。だからこそ、アヴちゃんではなくて、あえて僕が演じることに意味が生まれるように、演劇の可能性を信じながら繊細な作品にしたいと思っています。

浦井健治 エンタメステーションインタビュー

実際に井上芳雄さん、山崎育三郎さんと組んだユニットのStarSのコンサートで、今作で使われる楽曲の「Midnight Radio」というバラードを披露されたそうですね。

そのコンサートの演出は小林 香さんで、「浦井くんに似合うから」と「Midnight Radio」を勧めていただいて歌いました。お客様とのコミュニケーションが歌の中でできるという奇跡的な瞬間が生まれましたね。今回は、脚本を読んでいけばいくほど、この曲のダイナミックさとメッセージ性は醍醐味になるし、核になると思っていて。この舞台のテーマである“愛を誰かに届けることの大切さ”、“人はひとりではない”というメッセージを伝えていきたいです。

激しいロックもありますし、実際に本作の音楽に触れてみていかがですか。

今作では歌唱指導としてデモをつくってくださっているのが、劇団☆新感線の作品では何度も共演して、昨年末の『メタルマクベス』disc3でもお世話になった冠 徹弥さんで、それがかっこよくて。冠さんがデモで歌ってくださったニュアンスや発音、母音の使い方や切り方をマネしながら、僕なりのヘドウィグの歌をカンパニーみんなでつくっていきたいと思います。

それにしても、バンドメンバーは達者な奏者が揃いましたね。

そうですね。桜子さんが「何を投げかけても、的確な答えを返してくれるツワモノ揃いだよ」とおっしゃっているほど素敵なバンドになっています。彼らと稽古の段階でしっかりコミュニケーションをとっていくのが勝負だと思います。楽曲は一筋縄ではいかない、いろいろな歌唱法を試せる珠玉の名曲揃いですね。

浦井健治 エンタメステーションインタビュー

アヴちゃんは人の本質を見抜く力を持っている

イツァーク役のアヴちゃんとのコンビも注目ですね。

アヴちゃんは、自身のバンド女王蜂の楽曲をプロデュースしているので、ビジュアル面も歌詞の世界も伝えたいメッセージに溢れている、エネルギッシュな方です。話を聞けば聞くほど繊細で、ある意味、本当にヘドウィグで、たくさんのものを背負い、刹那を生きている人物にも思える。僕がパーソナリティーを務めているラジオ「Dressing Room」にゲストに来てくださったときに、僕の言葉を分析するのも早くて、人の本質を見抜く力を持っている方だと感じましたし、とにかく共演するのが楽しみです。

『Fate/Grand Order』シリーズを手がけたり、ニューヨークでも活躍されている福山さんの演出も楽しみです。

役者を見捨てない方で、つねに一緒に歩いてくれます。脚本も台詞のビジョンを明確に捉えているから、言葉に嘘がない。実際に見たことや感じたことを大切にされているので、本番には入らないけれど、過去のシーンを演じるようなワークショップ的な稽古もすると思います。今作は、一人芝居に近い要素があるので、言葉という、本作で最も大切な部分に真実味を持たせてくれると思います。

一人芝居に近い要素と言いますと?

一人芝居であれば、台詞の量は膨大ですし、自分から発声のリズムを決めなければいけない。しかも喉の消耗も激しいので大変です。なにより自分がダメになったら進行が止まってしまうので恐ろしい気持ちもあります。ある先輩に今作は「少人数の芝居だけれど、バンドを背負ったパフォーマンスでもあるよね」と言われて、なるほど、と。“ヘドウィグ”は、歌のショーとメッセージのある演劇という認識をしているし、実際にイツァークもいますから一人芝居ではないのですが、少人数のお芝居の趣もあって。とにかく出演する人数は限られているので、歌に関しては無理のないように歌うことを心がけたいです。ハードな公演スケジュールを完走できるよう、これからいろいろ探りながら本番まで稽古をしていきたいと思います。

浦井健治 エンタメステーションインタビュー

ヘドウィグは、怒りを抱えつつも、愛を求めてさまよい続ける姿が感動を呼びますね。今作のポイントはどんなところにあると思いますか。

家族愛や人間愛といった、愛の大切さと尊さがメインに描かれていると思っています。奇抜なファッションだし、激しいストーリーが展開していきますが、そういったことを抜きにしても、誰しもが感じている人生においての些細だけれど大切なことを感じていただけると思います。

会場は、EX THEATER ROPPONGIやZeppとライブハウスに近い印象を受けます。

そうですね。ただ、先ほども言ったように、初演でのメッセージを大切にして、オフ・ブロードウェイで1997年に上演された当時の熱狂的な熱さも背負いながら、今の我々にできる“ヘドウィグ”をつくっていくことは変わらなくて。会場は着席型になって落ち着いてご覧になれると思うので、ミュージカルを観劇するような感覚で楽しんでもらえるように頑張りたいですし、“ヘドウィグ”らしいとんがった部分が好きな方も満足できるように、「これが浦井のヘドウィグだ」と思っていただけるようにしたいです。

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