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泉 鏡花の物語に独特のエッセンスを加える少年社中の『天守物語』。鈴木勝吾、北村 諒、納谷 健らも出演

泉 鏡花の物語に独特のエッセンスを加える少年社中の『天守物語』。鈴木勝吾、北村 諒、納谷 健らも出演

少年社中第37回公演『天守物語』が、8月2日(金)より東京・紀伊國屋ホールにて上演中だ。
ミュージカル『薄桜鬼』シリーズや「七つの大罪 The STAGE」など話題舞台の脚本・演出を担当し、特撮ドラマ『宇宙戦隊キュウレンジャー』のメインライターとしても注目の毛利亘宏が、1998年の旗揚げ公演から主宰を務めている劇団「少年社中」の最新作。貴城けいや鈴木勝吾、北村 諒、納谷 健(劇団Patch)らを客演に迎え、泉 鏡花の戯曲を大胆に脚色した“少年社中版”『天守物語』を8年ぶりに復活させた。
泉 鏡花が紡いだ独特の世界観と、少年社中ならではの要素とメッセージが織り混ざった幻想的なステージ。
ゲネプロの写真とともにレポートをお届けする。

取材・文・撮影 / 片桐ユウ


古典作品に一滴オリジナル要素を差し入れ、唯一無二の色合いをした作品に

泉 鏡花の戯曲は「白鷺城(姫路城)の最上階には異形の者たちが住む」という伝説をベースにしている。
前半は様々な怪(あやかし)が登場して宴を催す描写で賑わい、後半は天守に住まう最高位の夫人である富姫と、鷹を追って天守閣へとやってきた鷹匠・姫川図書之助が恋に落ち、混沌としていく物語だ。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

少年社中は、これまでにも『好色一代男』や『リチャード三世』など、古典を元にしつつ、そこにオリジナル設定を加えることで、よりエンターテインメントとメッセージ性に溢れる作品を上演してきた。

本作も、上記の戯曲の中に大きな設定が加わっている。それが「妖怪は、人を殺めると鳥となる」という“枷(かせ)”である。これによって、登場人物たちに“業(ごう)”が生まれ、その含みが“少年社中版”の『天守物語』に奥行きとドラマを与えている。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

このオリジナル設定の発端は、おそらく姫川図書之助(廿浦裕介)が逃してしまった“鷹”の存在だろう。
本作では鷹 役を納谷 健が演じており、身体能力を生かして力強く美しい鳥の仕草を見せてくれる。幻想的な照明と羽ばたきなどの音響効果によって、不思議な存在感を醸し出す鷹と、訳知り顔で怪たちの横に居座る極楽鳥(松永有紗)が、真相を知る者として物憂げに佇んでいる。

極楽鳥は白鷺城で暮らしているが、鷹は藩主に献上されるべく図書之助に飼われながら、時おり、白鷺城へと姿を消す。それが富姫(貴城けい)と図書之助を繋ぐ縁(えにし)となり、やがて怪と人といった種族を含めた混乱を招いていく。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

戯曲に加えられた新たな設定として、もうひとつ重要となるのが鈴木勝吾演じる死宝丸の存在だ。
彼は図書之助の弟であり、幼い時分に父親を怪に殺される瞬間を目撃したことで、怪に恨みを抱いている。兄弟で父の墓参りをした帰り、森へやってきた武田播磨守(岩田有民)の一行と出くわしたおり、死宝丸は自分も兄と同じように仕官したいと申し出る。
しかし播磨守は無表情のまま、ひれ伏す死宝丸の腕を切り落とし、首に縄をかけて苦しむ死宝丸を引きずって連れ去るのである。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

兄に甘える少年性と、藩主の残虐性によって突然の不幸に見舞われてしまう悲劇性を、鈴木が強烈に見せる。自身の非力と命の呆気なさを憂いながら、その中で“生”を渇望する様が目線を惹きつけて離さない。
死宝丸には、恨みや憎しみを“生”へのエネルギーとするマイナス感情の役割を背負いながら、それも“負”とばかりにはいえないというメッセージが込められているように感じた。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

死宝丸が囚われたあと、非情な播磨守に対して図書之助は為す術もない。彼にできるのは鷹を藩主の元に届け、弟の命乞いをすることである。 そして図書之助は白鷺城の天守閣へと向かい、気高く美しい富姫と出会うのだ。

貴城けいの気品が富姫の立場にふさわしく、恋に落ちた際に見せる苦悶の表情が富姫という怪に豊かな感情を持たせている。誰も寄せつけないような貫禄と少女のような愛らしさ、一見相反する要素を兼ね備えてみせる、女優の凄まじさは圧巻である。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

今作に出てくる怪たちは、「人を殺めると鳥となる」ゆえに、人間を殺すことをためらわねばならない身である。たとえ人間たちが、天変地異による被害を「怪の仕業」と思い込んで憎み、数多の怪を殺していたとしても。

怪には怪の理(ことわり)があり、それを殊勝に守っているのが富姫を筆頭とする白鷺城の怪たちだが、当然、それに反発する怪たちもいる。
それが、富姫を姉と慕う亀姫(大竹えり)と、亀姫が伴う朱の盤坊(井俣太良)と舌長姥(杉山未央)たちである。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

富姫の元を訪ねた亀姫は共に再会を喜び合うが、土産物などで親睦を深めるかと思いきや、人に対する考えの違いが顕になり、不穏な気配が漂い出す。
極彩色の衣裳が、彼らの異形としての美しさとおどろおどろしさを引き立てている。

奇縁に翻弄されつつもまっすぐな気性で困難に立ち向かおうとする図書之助、粗野な朱の盤坊の迫力、亀姫の情念。少年社中のメンバーたちも要所要所の芝居をしっかりと見せ場にしていた。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

富姫と図書之助の恋の行方、富姫と亀姫の静かな対立、死宝丸の運命と、鳥たちの真実。
様々な要因が絡まり合い、物語は大きなうねりとなっていく。
過去へと話が戻ったときに明かされる因果にハッとさせられ、終盤の近江之丞桃六(北村 諒)による叫びにゾクリと震えた。

少年社中第37回公演『天守物語』 エンタメステーションレポート

古典作品に一滴オリジナル要素を差し入れることで、それが波紋のように水面を揺れ動かして全体へと広がっていき、唯一無二の色合いをした作品となる。
少年社中の古典をベースにした舞台にはそんなイメージを抱いていたが、『天守物語』もまた、独特さを備えたドラマ性を持っていた。物語に呑み込まれていくような怒涛のクライマックスは必見だ。

東京公演は8月12日(月・休)まで紀伊國屋ホールにて上演。大阪公演が8月16日(金)~18日(日)近鉄アート館にて上演される。

少年社中第37回公演『天守物語』

東京公演:2019年8月2日(金)〜8月12日(月・休)紀伊國屋ホール
大阪公演:2019年8月16日(金)〜8月18日(日)近鉄アート館

原作:泉 鏡花
脚色・演出:毛利亘宏

出演:
朱の盤坊:井俣太良
亀姫:大竹えり
武田播磨守:岩田有民
薄:堀池直毅
姫川図書之助:廿浦裕介
琢郎:長谷川太郎
舌長姥:杉山未央
桔梗:内山智絵
小田原修理:竹内尚文
家老:川本裕之
近江之丞桃六:北村 諒
鷹:納谷 健(劇団Patch)
極楽鳥:松永有紗
葛:長谷川かすみ
山隅九平:掛川僚太
女郎花:古澤美樹
萩:SATOCO
死宝丸:鈴木勝吾
富姫:貴城けい

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@shonen_shachu)

原作:泉 鏡花『天守物語』