LIVE SHUTTLE  vol. 362

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マオ from SID 男性ヴォーカリストの珠玉の名曲を持ち前の表現力でカヴァー。独特の雰囲気を醸し出す「箸休めNight」の開催意義

マオ from SID 男性ヴォーカリストの珠玉の名曲を持ち前の表現力でカヴァー。独特の雰囲気を醸し出す「箸休めNight」の開催意義

マオ from SID
Acoustic Tour 2019 「箸休めNight」
<2nd SHOW>
2019年7月30日 東京・マイナビBLITZ AKASAKA

2年ぶりにシドのヴォーカル・マオがソロプロジェクト「マオ from SID」として7月17日、東京・恵比寿The Garden Hallを皮切りに全国ツアー“Acoustic Tour 2019 「箸休めNight」”を開催。全国5都市6会場を巡り、各2部制というスタイルで計12公演を行なったこのツアーから、その最終公演となった7月30日、東京・マイナビBLITZ AKASAKAの<2nd SHOW>のレポートをお届けしよう。

取材・文 / 東條祥恵 撮影 / 今元秀明


「箸休めNight」は基本、キーボード、アコギ、バイオリンというアコースティック編成のサポートメンバーをバックに、マオがソロ曲を含め、懐かしの邦楽ラブソングを中心にカヴァー。それに対してオーディエンスは着席したまま堪能するというスタイルのライブである。これだけ読むと、ああ、バンドのシドとは違って静かで落ち着いた大人の雰囲気のライブをやっているんだなと誰もが想像するだろう。だが、マオはそこにはいかず、周囲の予想を裏切るステージを展開するマオのソロライブとは!?

ツアー初日の山口百恵の「秋桜」が感動的で、歌が身体中にしみ渡る

マオ from SID エンタメステーションライブレポート

今回のツアーは、サポートメンバーにバンマスでもあるnishi-ken(Key)、門脇大輔(Vio)に加え、ソロ曲「月」でギターを担当した友森昭一(Ag)を迎えた編成で開催。東京公演のみ初日が“女性Vocalist Cover”、最終公演が“男性Vocalist Cover”という縛りをつけたものだったので、筆者は初日の<1st SHOW>も観戦。その初日のMCで初参加の観客がいることを確認したマオは「いまはみんな緊張感のなかでガチガチだけど、それを歌でほぐしていくから。整体師のごとく」と話しかけ、最終日では「最初は緊張感あるな〜と思ってたのがどんどんグダ〜っとしていって、最後はみなさん“ぐでたま”のようになっちゃうから」と自身のソロライブについて面白おかしく解説していた。上質な歌、サウンドとゆるゆる(?)な日常系トーク、その2つを共存させた空間でどれだけ観客をゆったりした気分にして癒していけるのか。ツアーを積み重ねるうちに、それがいつの間にかマオの「箸休め」ライブの魅力となっていった。松任谷由実の「Hello, my friend」というせつない夏ソングでしっとりと幕開けした初日は、友森も在籍していたREBECCAの「フレンズ」など盛り上がりソングもセットリストにフィーチャー。観客全員を巻き込んで崎陽軒のシュウマイ弁当は縦、横どちらに向けて食べるかというトーク(マオは横派)で大いに盛り上がったあとの、山口百恵の「秋桜」が感動的で、歌が身体中にしみ渡る。マオが自分のなかにある中性的なヴォイスを活かして、柔らかい吐息の混ざった陶器のような繊細な声で切々とこの曲を歌い上げるシルエットは、まるで女性のように儚なく美しいいで立ちだった。

「熱帯夜、歌声で涼ませてあげるから。リラックスした空間、俺の歌で浄化されなさい!」(マオ)

マオ from SID エンタメステーションライブレポート

それに対し、“男性Vocalist Cover”と題した最終日はその様子がガラリと変わった。

拍手と声援に迎えられ、左手を振りながらにこやかな表情で舞台に現れたマオは中央に立ったあと、あごを胸元にすっと引き、一瞬の合間にキリッとした“男顔”になって藤井フミヤの名曲「TRUE LOVE」を歌い出した。顔つきからして、“女性Vocalist Cover”の日と明らかに違う。最小限の音のなかで言葉、メロディの細部まで丁寧に表現していくこのライブでは、このような細かい角度、顔の表情の違い一つで歌が変わってくるのだろう。続いて披露したのは「Squall」。福山雅治が女性目線で切ない恋心を描いたこの曲は、聴きどころとなる“さがしてた あなただけ…”のパートを、じんわりテンポをため、甘い成分を多めに乗せてせつなく歌い上げたところが彼らしかった。観客に挨拶を告げ「熱帯夜、歌声で涼ませてあげるから。リラックスした空間、俺の歌で浄化されなさい!」と言ったあと、MCまで男らしい命令口調になってしまったと思ったのか、マオはうつむいて少し照れる。次は久保田利伸のとろけるバラード「Missing」だ。R&B系では定番の“Baby”と語りかける歌詞を歌いなれていないマオが、バラードでうっとりした観客に向けて“Baby”と甘い声で何度も呼びかける。すぐさまそれに「ハーイ!」とリアクションするHoneyたち。お客さんサイドも、いまや「箸休め」をこうして自らエンジョイしていく余裕が出てきた。そうして、次の歌が始まったら気持ちを音楽に集中させる。

この後、ツアーで初披露となった井上陽水の夏の定番曲「少年時代」へ。バイオリンのメロディが郷愁を誘うなか、現代詩のような歌詞を一句一句大事に歌っていくマオ。歌に気合が入っていて、観客の意識がステージに集中していくのが分かる。それを感じたのか「俺はこれを歌うと風鈴が浮かぶの」と、直後のMCで曲に対する想いを明かした。そのあとメンバー紹介をはさみ、「僕の大好きなバンドから」と言ってUNICORNのサマーチューン「自転車泥棒」を披露。歌い終えた後に「自転車泥棒されたことがある人?」と質問すると客席からたくさんの手が挙がり「結構いるんだね」と驚くマオ。そこからnishi-kenを交えて子供の頃に乗っていた自転車はギアの変速が何段だったのか、当時カゴに何を入れてたのかという話でひと盛り上がり。「あ〜。子供の頃のこと、思い出す。話してると実家の自分の部屋とか友達の顔とか出てくるもん。そういうライブにしたいよね」と「箸休め」について観客に語りかけた。

今ツアーの目玉、マオが初めて作曲に挑戦した作品「最後の恋」を披露

マオ from SID エンタメステーションライブレポート

ライブはあっという間に後半戦へ。シャ乱Qの「シングルベッド」では、自分の歌い回しで最後までこの曲を歌い切って見せた。そこから、新曲「最後の恋」へ。今ツアーの目玉となっていたこの曲は、マオが初めて作曲に挑戦したものだ。偶然が必然になって永遠に変わり、過去も未来も君だけとなっていくという愛のプロセスを描いたこの曲は、初めてとは思えないほどメロディ、コード展開ともにプロフェッショナルな仕上がり。2番で突然ピアノの伴奏だけで“泣きたくなったときは この胸に帰っておいで”と歌いかけ、胸の高鳴りがマックスになったところで間奏のバイオリンがエモーショナルな音色を響かせ、ラストサビへ突入というドラマチックな組み立てが歌詞にとても合っていて、その整合感を含め、マオの作曲センスに驚かされた。作曲に初挑戦したことについて、マオは「東京に出てきて20年。いままで(作曲を)したことがなかった。きっかけがないとできないこと、みんなもあると思う」と静かに語りかけたあと、自分自身は“マオくんのお陰で自分は頑張れてる”と聞くたびに、自分も頑張って曲を書いてみようという気になったことを打ち明けた。「だから、みんな一人ひとりが俺の“きっかけ”なんです」と感謝の気持ちを伝え、「俺の存在がみんなの何かちっちゃなきっかけになってくれたらすごい幸せ」と、会場に集まったファンにエールを送った。

「ここで得たものをシドにすべて還元します」(マオ)

マオ from SID エンタメステーションライブレポート

ソロ・オリジナル曲「サヨナララスト」が始まるとクラップが広がり、照明が明るくなって場内は華やいだ空気に包まれる。2番、指差しウインクで場内はさらに盛り上がる。「最高! 楽しいね」とマオの声も体も弾んでいく。その空気感を受け、客席からは「マオぉー(語尾を上げる)!」と黄色い歓声が上がる。マオは即、その声をキャッチして「それ大好き(笑顔)。これからも絶対やめないで」とリクエスト。そこから「マオ」を連呼する人はいないが「“明希明希明希明希ー”って連呼する人いるよね。1度誰が言ってるのか顔を見てみたいんだよ」と話すと場内は大爆笑に包まれた。ライブ中にそんなところまで観察しているマオのメンバー愛、シド愛にほっこりさせられたあと、流れてきたのは安全地帯の「ワインレッドの心」だった。原曲とはまた違う大人っぽいアレンジの装いのなか、マオがいままで見たことがないような男の色気が匂い立つダンディーな雰囲気で、この曲を堂々と歌い上げたシーンは、この日のライブのハイライトでもあった。そうして、さらにその興奮をマオ流の節回しで、エモーショナルに歌う尾崎豊の「OH MY LITTLE GIRL」で高めていった。「ちょっとはマオ色にできたかな?」と披露したカヴァーについて問いかけたマオは、続けて原曲のハードルが高ければ高いほどカヴァーするにあたって「こっちも燃えてくる」と話し「バンドとかやってる人はそういう性格だから、カヴァー曲をやらせてもらうのは向いてるかも」と伝えた。このあと「もう終わっちゃうよ。やだなー。1曲増やします?」という駄々っ子マオ発動で(笑)、セットリストにはなかった「違う果実」を急遽追加。ソロライブでは初のサプライズに、客席は大歓声に包まれた。そうして、今回のツアーを通して「ソロ活動をやってよかったと心から思いました」といまの気持ちを言葉にしてから「ここで得たものをシドにすべて還元します」と宣言。そうして、ラストソング「月」をミラーボールが回るなかで歌い上げると、客席には泣き出すファンも。そんな観客の愛情すべてを両手で抱きしめたマオはステージを後にした。

終演後は、スクリーンを通して東京・日本橋三井ホールにて12月11日はAcoustic編成による「箸休めNight」、12日はBand編成による「Premium Live」と、今年はクリスマスライブを2本立てで開催することを発表。シドとしては9月4日にニューアルバム『承認欲求』のリリース、さらに9月13日からはそのアルバムを携えての全国ツアー“SID TOUR 2019 -承認欲求-”も控えている。本体であるシドの活動に今回のソロがどう活かされていくのか。期待が高まる。

マオ from SID
Acoustic Tour 2019 「箸休めNight」
<2nd SHOW>
2019年7月30日 東京・マイナビBLITZ AKASAKA

SET LIST
01. TRUE LOVE
02. Squall
03. Missing
04. 少年時代
05. 自転車泥棒
06. シングルベッド
07. 最後の恋
08. サヨナララスト
09. ワインレッドの心
10. OH MY LITTLE GIRL
11. 違う果実
12. 月

ライブ情報

X’mas Acoustic Live 2019

2019年12月11日(水) 東京・日本橋三井ホール
<1st SHOW> 箸休め Silent Night
<2nd SHOW> 箸休め Holy Night

X’mas Premium Live 2019

2019年12月12日(木) 東京・日本橋三井ホール
<1st SHOW> Premium Silent Night
<2nd SHOW> Premium Holy Night

SID TOUR 2019 -承認欲求-

詳細はコチラhttps://sid-web.info/event/205939

マオ from SID

マオ/福岡県出身。10月23日生まれ。2003年に結成されたロックバンド、シドのヴォーカリスト。
2008年10月「モノクロのキス」でメジャーデビュー。以降、「嘘」「S」「ANNIVERSARY」「螺旋のユメ」など、数多くの映画・アニメテーマ曲でヒットを放つ。
2018年、バンド結成15周年を迎え、セレクションベストアルバムと初のミニアルバムをリリース。さらには二度に渡るライブハウスツアーを敢行。さらに2019年3月10日のグランドファイナル・横浜アリーナ公演を大成功のもとアニバーサリーイヤーを締めくくった。
そして、2019年9月4日にはニューアルバム『承認欲求』をリリース。直後の9月13日から全国16公演のツアーもスタートする。

マオfrom SID オフィシャルサイト
http://www.maofromsid.com

マオfrom SID オフィシャルtwitter
@mao_sid

シド オフィシャルサイト
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