Interview

aiko「恋をしたのは」。映画『聲の形』の主題歌を歌う想いとは?

aiko「恋をしたのは」。映画『聲の形』の主題歌を歌う想いとは?

5月から約4ヵ月間にわたって行われたライブツアー“Love Like Pop vol.19”が9月17日のNHKホール公演で大団円を迎えた。
ツアー開始直前にリリースされたニューアルバム「May Dream」からの楽曲を中心に、18年のキャリアの中で生まれたたくさんの名曲たちを織り交ぜたライブは、どんなときでも楽しく、せつなく、観る側の感情を心地よく震わせてくれるaikoならではの、aikoにしか創り出せない夢のような時間を今回も与えてくれた。そこには彼女がここまでに築き上げてきたライブに対しての安定感と、それに起因する安心感があることは間違いない。だが、今回はどこかが、何かが違っていた。
各会場にはこれまでにないほどの興奮と熱狂が渦巻き、物理的な距離感はゼロになり、あたかも肌を重ね合わせてお互いのぬくもりを感じ合うような――そんな激しい感情のやり取りが繰り広げられていたように思うのだ。aikoとオーディエンスが「もっと!」と求めあうことで目に見えるほどにグングンと上がり続けていくテンション。それにより、“Love Like Pop”と題されたライブの概念は大きな変貌を遂げたようにも感じたし、何よりもライブアーティスト・aikoのポテンシャルが無限であることがまざまざと証明されたように思う。
“aiko史上最高”を全力で更新してみせたツアーを終えた今、彼女は果たして何を思うのか。まずはライブのお話から。

取材・文 / もりひでゆき


aiko ライブ Love Like Pop vol.19

全力でぶつかってきてくれる人には全力でぶつかり返したい

全国ツアー「Love Like Pop vol.19」はaikoさんにとってどんなツアーでしたか?

いろんなことを感じたツアーでしたね。嬉しいも悲しいも悔しいも楽しいも、全部マックスに感じることができました。生きている中で、そういういろんな感情を一気に味わえる瞬間ってそうそうないと思うんですよ。だからこそ1本1本全力で向き合うこともできて、結果的に燃え尽きられたんやと思います。ほんとに濃い、大切な時間を過ごせました。

LLP史上最高に熱くエモーショナルなツアーでしたよね。ダブルアンコールが各地で多発したのも納得というか。

全力でぶつかってきてくれる人には全力でぶつかり返したいっていう気持ちが今までで一番強かったんですよね、今回は。だからこそあれだけダブルアンコールが生まれたんやと思う。ファンの方はもちろん、バンドメンバーやスタッフにも同じ気持ちでした。

うん。ファイナル公演はステージ上での気持ちのやり取りもめちゃくちゃ熱かったと思うんですよ。バンドの演奏が曲を重ねるごとにどんどん熱を帯びていったし、それによってaikoさんの歌や立ち振る舞いもどんどん激しくなっていって。

バンドメンバーにはツアー中ずっと、「期間限定で付き合ってると思って、今一生懸命、全力でぶつかってきてください!」って言ってましたからね(笑)。「みんなでやってるグループLINEもツアー終わったらやめますから」って。「えー!?」ってビックリしてたけど(笑)。

aiko ライブ Love Like Pop vol.19 aiko ライブ Love Like Pop vol.19

あんなに目をつぶって歌ったのは初めて

徹底してますよね(笑)。

だってね、みんな仲良しやけど、なれあいな感じになったら絶対にダメじゃないですか。なあなあになれへんからこそ、一緒にいる間は徹底して燃え尽きることができるんだと思うので。私はそういう気持ちでツアーを周ってましたね。

MCで「たぶんツアーが終わったら死ぬと思う」って言ってたのがすごく印象的で。もちろん例えではあるんですけど、aikoさんはそれくらいの気持ちでステージに立っているんだなって思えてものすごく感動したんですよね。

私にとってはそれくらいに思えるくらいライブが生きる糧なんですよね。それをステージから感じてもらえたらすごく嬉しいです。だからね、私はもうライブの打ち上げとか別にいらないんですよ(笑)。地方の美味しいものとかまったく食べれなくってもいいの。ライブさえできればいいので。

今回のツアーは全34公演でしたが、急遽、ファンクラブ会員限定無料ライブとして熊本公演が追加されましたよね。震災を受けての開催だということはわかっていましたが、その裏には大きなきっかけがあったとか。そのお話も聞かせてもらますか。

はい。実はファンの方から「震災で家が半壊したので購入していたライブのチケットをキャンセルできますか?」ってファンクラブに電話がかかってきたんですよ。それを聞いたときに、私に何かできることはないかなって思ったんです。で、スタッフやイベンターさんがすぐにいろいろ動いてくれて、無料ライブが実現したんですよね。

事務所に電話をかけてきたファンの子も参加できたそうですね。

そうなんです!ライブ中にその話をしたら「それ私です」って手を挙げてくれて。「あー良かった!」って思いましたね。あの日のライブはもう歌うのがほんまにキツかった。<泣いてしまうなんて勿体ない>っていう歌詞がある「Aka」を歌ったんですけど、みんな号泣してくれていて。

それは胸に染みますよね。お話を聞いてるだけで泣けてくる。

みんなのことを見たら私も歌えなくなっちゃうんで、ずっと目をつぶって歌ってました。あんなに目をつぶって歌ったのは初めて。それくらいみんなが同じ気持ちで「Aka」を聴いてくれていたあの空間、時間のことは一生忘れないです。

aiko

充実のツアー終了からわずか4日後、aikoはニューシングル「恋をしたのは」をリリースした。表題曲は現在公開中のアニメーション映画「聲の形」の主題歌となっている。aikoファンであればご存知かと思うが、彼女は「聲の形」の原作漫画をかねてより愛読し、そのストーリーに感動するあまり、ライブのMCで1話分のお話を丸々話してしまったことがあるほど。そんな愛する作品に楽曲で参加できることは彼女にとって大きな喜びであったはずだ。だが、実際に楽曲を制作する際には気持ちをフラットにして、「聲の形」のことは頭から切り離すことを心がけたという。aikoはこれまでにも様々なドラマや映画、CMなどに楽曲を提供してきているが、基本的にはそのスタンスを崩すことはない。それはどうしてなのだろう? さらに言うならば、そうやって気持ちをフラットにして作った楽曲群が提供先の作品にしっかりと寄り添うことになるのはなぜなのか?

初めても最後も今もずっとあなたに感謝しているよっていう曲にしたいなって

以前からファンだと公言していた「聲の形」の映画主題歌のお話が来たときはどんな気持ちでした?

「ウソやろな」と思いました(笑)。でもそのお話が本当だったので、ものすごい嬉しさはありつつも、今度は「どうしよう!」っていう気持ちになって。私は好きな作品に対して感情移入しすぎると、どうしても変な方向に行ってしまうクセがあるというか。なんだか自分が作った曲ではないものが出来上がってしまう感じがするんですよ。

これまでも様々な作品に楽曲を提供していますが、その度に気持ちをフラットにして曲作りに臨んだとおっしゃっていますもんね。

そう。曲を作るときは自分が主体じゃないとダメなので、誰かの曲を書くことがほんとにできないというか。誰かの気持ちを曲にするのなら、実際にその人になってみないと私は書けないんですよね。それはデビュー以来、ずっと一貫していて。だから今回も、今の自分が歌いたい歌を作ろうって思いました。依頼されて、それに合わせた曲を作れる人はほんとに尊敬しちゃいますね。

「恋をしたのは」では“想いの強さ”を描いていますよね。

はい。なんの私利私欲もなく、純粋に心の底で想う気持ちだけで大切な人と繋がっている瞬間があったらいいなと思って書きました。相手に対して、「ああして欲しい、こうして欲しい」って思うのではなく、初めても最後も今もずっとあなたに感謝しているよっていう曲にしたいなって。

aiko ライブ Love Like Pop vol.19

映画を観ている人たちの隣でちゃんと鳴っている曲にするにはどうしたらいいのか

そこにはaikoさんの恋愛観が滲んでいるところもあるんでしょうか。

そうですね。年々、そう思うようにはなってると思う。一緒にいてケンカしたりぶつかったりしていても、こういう気持ちが根底にないとちゃんと向かい合うことができないんじゃないかなってすごく思うので。たとえ別れてしまったとしても、そういう感謝の気持ちを抱くことはありますしね。

そういった感情は「聲の形」の主人公、石田将也と西宮硝子の関係からも感じ取ることはできますよね。だからこそaikoさんはこの作品に惹かれたんだろうし、だからこそ意識せずともちゃんと作品に寄り添う曲になったのかなと思うんですけど。

そうかもしれないですね。曲ができた後、2コーラス目の<初めても最後も今も舞う花びらに刻み送るよ>っていう歌詞は作品にリンクできたのかなって思えました。将也と硝子の手話が私には花びらに見えたりもしたので。あとはね、歌入れをするときに、この映画を観ている人たちの隣でちゃんと鳴っている曲にするにはどうしたらいいのかなっていうことはすごく考えたんですよ。

曲作りはフラットな気持ちで行いつつも、歌うときには作品を意識することもあるんですね。

うん、それはあります。この曲はこのドラマ、この映画で流れるんだなぁとか、そういうことは頭のどこかで思ったりすることは多いですね。

「恋をしたのは」を最初に聴いたとき、その世界観に胸を打たれたのはもちろんだが、それと同時に強く印象に残ったのは実は<Darling>というワードだった。世に存在するラブソングでは比較的目にすることが多いが、これまでのaikoの曲にはほぼ出てくることがなかった。だからこそ斬新に感じたし、彼女がこの曲でそれを使うことの必然性も強く感じることができた。それ以外にも聴き手の心を鋭く捉える言葉がたっぷりと詰め込まれた本作の歌詞についても紐解いてみたい。

aiko ライブ Love Like Pop vol.19

歌詞に関してはちょっと柔軟になってきたところがあるのかもしれない

aikoさんが<Darling>という言葉を使うのって、もしかして初期の名曲「ジェット」以来じゃないですか?

そう! そうなんです。今回は<Darling>って歌ってるんですけど、普通にそういう言葉が浮かんだんですよね。で、書き終わったときに自分でもあまり使ってこなかった言葉だという認識があったから、「これってどうなのかな?」っていう気持ちになって。そうしたらプロデューサーが「<Darling>ってかわいいから、絶対変えないほうがいいよ」って言ってくれたんです。なんかね、歌詞に関してはちょっと柔軟になってきたところがあるのかもしれないなって思うんですよね、最近は。さすがに<未読スルー>とかは使わへんけど(笑)、あんまりいろいろ気にしすぎなくはなってきた気がします。それによって自分の曲の表現が広がる楽しみもあったりするし。

aikoさんは日常的に言葉を書き留めておくんですよね?

うん。なんでもとりあえず歌詞にするっていう“ごっこ”が自分の中にあって(笑)。すごくムカついたことや悲しかったことなんかを、曲にしなかったとしてもとりあえず歌詞にしてみるっていう“ごっこ”をよくするんです。

そのときって、ムカついた気持ちを単純に<ムカつきました>って書くわけではなく、ちゃんと歌詞のフレーズとして意識して書くわけですよね?

え~どうやろ? 例えば「詩的にしよう」とか、そういうことはまったく考えないですけどね。いわゆるポエムみたいなものは、そういう本もあまり読んだことがないから自分には書けないんですよ。ただ、電球を見たときに、それを電球と言わずに説明するにはどうしたらいいかな、みたいなことはよく考えますね。普段からそういうことを考えるクセがあるというか。

へぇなるほど。「恋をしたのは」で言うと、<赤色><白色>という言葉が対照的に出てくるラインがあって。そこの表現って、ある意味、聴き手に委ねるところがあるというか、いろんな感情や景色を想起させると思うんですよ。でも、一方では大サビの<困るな…>のように、すごく赤裸々な感情をストレートに書いていたりもする。その対比に僕はすごくグッと来たんですよね。「聲の形」の硝子ちゃんが心の中で<困るな…>って思ってそうだなーって思えたし。

ありがとうございます。嬉しいな。大サビのフレーズは一昨年くらいに書いたフレーズで。この歌詞はいつか曲にしたいなと思っていて、今回「恋をしたのは」を作るときにちょっと変えて入れてみたんですよね。

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「恋をしたのは」という曲は、その構成もなかなか興味深い仕上がりだと個人的には思っている。単純にとらえればAメロ~Bメロ~サビ×2~大サビ~サビという流れになるだろう。だが、聴き心地としては、Aメロからサビまでがひとつの大きなメロディとしてふくよかに情景を描き出していき、大サビが本当の意味でのサビであるような気がしてならないのだ。比較として例を挙げると、今回のシングルの2曲目に収録されている「夏バテ」のサビは、“THEサビ”と言うべき強力なインパクトがある。「恋をしたのは」は確実にそれとは違ったアプローチで1曲としての物語を紡いでいるような気がするのだが、どうだろうか? そんな疑問をぶつけることで、aikoの曲作りへの想いを探ってみた。

大サビがこの曲のキモになってるってことだと思いますね

「恋をしたのは」のキモは大サビにある気がするんですよね。

そうですよね、うん。映画のCMでもそこを使ってもらえているし。大サビにある<恋をしたのは>というフレーズを曲の頭にまず持ってきたのも、自分の中にそういう感覚があったからやと思うんですよ。あそこはね、タイトルを歌詞という設定でまず歌うっていうイメージがあって(笑)。

あははは。まずタイトルコールをしてる感覚ですか(笑)。だから歌詞には記載されてないっていう。

そうそう(笑)まず言いたい、みたいな。それくらい<恋をしたのは>っていうフレーズを含め、大サビがこの曲のキモになってるってことだと思いますね。

この曲のAメロ、Bメロ、サビは、そのキモである大サビにたどり着くために、全体で大きな流れをもったひとつの美しいメロディになっていると思いました。作っている段階で、そういう意識ってありました?

頭から作っていったけど、そういう意識は全然なかった。まったく考えてなかったですね。でも確かにそういう流れになってるかもなって自分でも思うけど。

例えば頭から曲を作っていって、出来上がった段階でサビにインパクトが足りないな、もっと強いサビにしようとか思うこともあります?

思うときはありますね。でも、そうやって感じてあらためて作り直したりするとだいたい曲にはならないんですよ。基本的に計算して曲を作ることが苦手なんでしょうね。料理で例えるなら、計量カップでしっかり分量を図らなきゃいけないお菓子作りみたいな手法は苦手というか。それよりも調味料をアバウトに入れてパパッと作るみたいな?私はそっちのほうが好きなんですよね。

aiko ライブ Love Like Pop vol.19

ちょっとずつ自分の中の振り幅を超えていかないとダメ

なるほど。とは言え、18年ものキャリアの中での経験があると、砂糖や塩をこれくらい入れるとこんな仕上がりになるっていうのはわかってきてしまうわけですよね。

あー、確かにそうですね。でもね、そうやって手クセみたいな感じで曲を書いたりすると気持ちが一気に覚めるんですよ。私はそうでなくても自分の手が届くくらいの範囲のことしか曲にしていないので、その中で自分の気持ちが上がるような言葉やメロディを書かなきゃダメだなってすごく思っているんですよね。

自分を驚かせるためには、経験に頼らず積極的にトライをして新しいものを見つけていかなければいけないと。

そう。だから曲を作っていても「これじゃアカン! 飽きる!」って思って途中でやめることも多いですね。「もっとドキドキする曲にしないと!」って。

そうなると活動を続ければ続けるほど、ご自身の中での曲作りのハードルは上がっていきますよね。

うん。でも、そうじゃないと楽しくないんですよね、人生が。楽しくするためには、嬉しいことも苦しいことも、ちょっとずつ自分の中の振り幅を超えていかないとダメなんだろうなって思いますね。

曲作りにおいても、ライブにおいても現状に満足することなく果敢に、貪欲にアップデートし続けることを怠らない。だからこそaikoという存在は、移り行く時代や音楽シーンの中でいつまでも瑞々しく、まばゆいばかりの光を放ち続けることができるのだろう。だからこそ僕らはaikoという存在からいつまでも目が離せないのだろう。嬉しくて――困るな…。

aiko ライブ Love Like Pop vol.19

aiko

1975年11月22日生まれ。大阪府出身。シンガーソングライター。1997年12月、インディーズ 1 stアルバム「astral box」発表。1998年7月に、シングル「あした」でメジャーデビュー。メロディはもちろん、彼女の恋愛観で綴られる歌詞に、そしてライブでの熱いパフォーマンスに、幅広い年齢のファンが支持している。来年、2017年は、デビュー20周年目に突入。

オフィシャルサイト http://aiko.com