Interview

キリンジ脱退から、ソロ・アーティスト「堀込泰行」としての覚醒

キリンジ脱退から、ソロ・アーティスト「堀込泰行」としての覚醒

元キリンジの堀込泰行が待望のアルバムを完成させた。タイトルは『One』。これはソロ・プロジェクト“馬の骨”名義の作品ではない。本名“堀込泰行”としての1stソロ・アルバムである。 躍動感溢れるポップ・チューンから賑やかなロックンロール、そして必殺のメロウ・バラードまで。『One』には、これまでのキャリアを総括するかのような全10曲が収められている。そして、それら幅広い楽曲の全体を貫くのは、いよいよ新たなスタート地点に立ったミュージシャンならではの静かな決意だ。 いつも以上に慎重に言葉を選びながらアルバムに込めた想いを語ってくれた堀込泰行。 次の一歩を踏み出した彼の現在を感じてほしい。

取材・文 / 大野貴史 撮影 / 荻原大志

4曲目「Wah Wah Wah」のサビに“待たせたかい 非常事態が君をさらうよ”という一節が ありますが。それを聴いたときに「めちゃくちゃ待ってましたよ!」って言いたくなりました(笑)。

あははは。そうですよね(笑)。

キリンジ脱退から3 年半。ソロ・デビュー曲「ブランニュー・ソング」から2年。今年の春にカバー・アルバム『Choice by 堀込泰行』が出ているとはいえ、やはり……。

はい。けっこう間隔が開いちゃいましたね。

ロバート・レスター・フォルサム(“馬の骨”のデビュー・アルバムでカバーした米国のシンガー・ソングライター)のように沈黙してしまうのではないかと心配しておりました(笑)。

ああ……そうですか(笑)。でも曲作り自体は、ちょこちょこやってたんですよ。楽曲提供をしたりイベントに出たりも。だから休んでたわけではないんですけどね。引っ越しをして、そこに新しくスタジオを作ったりもしましたし。

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現在は、どんな心境なんですか? いよいよ始まる感じなのか。前線への復帰なのか。あくまで延長線上という感覚なのか。

ええとねぇ……まず、やっぱり“馬の骨”とは違うんですよ。カバー・アルバムは楽しんで作ったんですけど、そのときの気持ちとも少し違いますしね。やっぱり1stアルバムっていう感じが強い。そういう意味ではスタートする感じなのかもしれません。

どうして堀込泰行として活動することにしたんですか? 逆の聞き方をするなら“馬の骨”の3rdアルバムにしなかった理由は?

僕の中で“馬の骨”っていうのは“キリンジ”と対になってる存在なんですよね。言葉の本来の意味もそうだし。

キリンジ(麒麟児)というのは将来有望な神童のこと。それに対して“馬の骨”は素性のわからない人物を指しますもんね。

なので、もう僕がキリンジから離れてしまった以上、その反対に位置する“馬の骨”である必要はなくなったわけです。あと、もうひとつの理由としては、このタイミングで自分自身の気持ちをリニューアルしたかったっていうのもあります。ソロとして、もう一度ここからやっていくんだ、というような意味で。音楽的にも“馬の骨”では等身大のことをやってたんですけど、でもこれからソロ名義でやっていくにあたっては、もう少し広がりのあるサウンドというか、これまでよりもスケールが大きい感じにしたかったんですよ。間口を広くとって音楽を作る、というか。

それは、より幅広いターゲットを意識して作る、ということ?

う~ん……でも単純に、わかりやすい薄味なものを、みたいな意味ではないです。管や弦を入れて、ちょっとしたカラフルさっていうようなものを意識する、という感じですかね。“馬の骨”は、すごく小じんまりしていたと思うので……。

その個人的な匂いが“馬の骨”の魅力でもありましたが。

僕も、そう思います。だけど、そこは一度やめてみよう、と思ったんです。そういう意味での間口の広さですね。

それ以外に“馬の骨”と“堀込泰行”との違いって、ありますか?

言葉の選び方かな。そっちのほうがサウンド的にどうのこうのっていうよりも、もしかしたら大きいかもしれない。

『One』を聴いていて、これまでよりもトリッキーな表現が減っているように感じました。

はい。ソロ名義で制作することにしたら、そういった表現があんまり出てこなかったんです。もしかしたら無意識のうちに、そういう表現をキリンジのマナーとしてとらえてたのかもしれないですね。

“New”とか“新しい”とか。あるいは“旅に出よう”とか“雨上がりの日の虹”とか“アラーム”とか。いくつもの楽曲に出発や覚醒を連想させる言葉が使われていますね。

ああ。はい。そうなんです。自分でも作りながら、そのことに気付きました。

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ということは意識して使ったわけでなく、こういう言葉が自然にたくさん出てきたということですか?

そうです。多いかなって思ったんですけど、でも実際そういう状況なんだからしょうがないよな、とも思って。

1曲目「New Day」の冒頭で“New day 何かが少し違う なんだか 異邦人か旅人のよう”と歌われていて。ひとりで活動していくことに関しての、ある種の宣言として受けとれます。

これはね……いや、でも、そうじゃないんですよ(笑)。わりと昔から、こういう気分になることはあって。ヘッドホンで音楽を聴きながら街を歩くことが好きで、そういうときに、こんな気持ちになるっていうか。音楽によって街の見え方が変わる、という歌です。

あ、そうなんですね。深読みしすぎました(笑)。サウンド的にはAORっぽいアプローチと言っていいんでしょうか?

そうですね。シティポップスというかね。ちょっとR&B的な要素なんかも入ってますけど。

といった雰囲気の曲で幕を開けて。これ以降、親しみやすいポップス、スワンプ色の強いスロー・ナンバー、疾走するロック、歌謡曲テイスト……などなど多彩な楽曲が次から次へと。

素直に作った結果なんですけどね。細かく見ていけば、いろいろやってることになるのかもしれないですが、でも「New Day」と「さよならテディベア」と「Buffalo」を除けば、どちらかと言えば甘口のものが並んでるアルバムに仕上がったと思います。だから今挙げた3曲ができたときは、すごくありがたかったですね。

「Waltz」は元々「Swamp」というタイトルでライブで披露されていた曲ですよね? 無骨で、でも優しさも感じられて。すごくカッコいい。

声も嗄れちゃってますしね、この曲は(笑)。

そこから一転して、その直後の「Wah Wah Wah」は、どかんとエネルギーが爆発するようなロック・チューン。

バンドがライブの1曲目に演奏しそうな曲。そういうイメージで作ったんですよ。キーボーディストの伊藤隆博さんに「80年代っぽいオルガンを」ってお願いして。すごく勢いが出ましたね。

「さよならテディベア」についても教えて下さい。開放的なサウンドとシニカルな歌詞の組み合わせが絶妙で。

唯一のシニカルな歌ですね。1枚目のアルバムっていうこともあって、あんまりシニカルだったりシリアスだったり、すごく私小説的だったり、という詞は書きたくなかったんです。でも、やっぱりちょっとは入れておこうかなと思って、この「さよならテディベア」を収録することにしました(笑)。

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サビの“夜更けのお伽話と寂れたダイナー”“煤けたお伽話と冷めたピザ”というフレーズ。しびれました。

アメリカの風景っていうかね。

この一節だけで豊潤な物語が立ち上がってきます。

うん。そうですね。ありがとうございます。

バックで鳴っているブラスのリフの、そのベタベタな感じも最高。

こういうベタな感じって僕、好きなんですよ。でも狙ってできるものでもなくて。ここまで単純明快な感じってのはね。

12月に東京と大阪でアルバム発売記念ライブがありますね。

まだ具体的なことが決まってないんで、あまり話せることはないんですけど……あ、でもメンバーは決定しました。ベースは沖山優司さん。ドラムは北山ゆう子さん。キーボードが伊藤隆博さん。そしてギターが松江潤さん。僕を入れて5人。バンドっぽい感じでやれたらいいなって思ってるんですけどね。

そして気が付けば来年でデビュー20周年。

ああ、そうみたいですね。

他人事みたいに言わないで下さい(笑)。

いつの間にか時が流れてしまった、という感じです。でも20年なんて、そんなに大した長さじゃないよなって思う。だって僕、もう25年くらい同じチャリに乗ってますからね。

え? 自転車?

そう。正確には24年かな。20歳から乗ってるんですよ。アメリカに行ったときに買ったビーチクルーザー。どこかが壊れたら、そこを修理して、ずっと乗り続けてます。

いったい何の話をしてるんですか(笑)。

だから来年で20周年なんて言っても、そんなの大したことじゃないぜっていう話ですよ(笑)。

ライブ情報

堀込泰行LIVE 2016

12月12日(月)東京・TSUTAYA O-EAST
12月14日(水)大阪・UMEDA AKASO

掘込泰行

1997年キリンジのVo/Gtとしてデビュー。 2013年4月12日「 キリンジ」を脱退。 以後、ソロアーティスト/シンガーソングライターとして活動を開始。 2014年11月19日ソロデビュー・シングル「ブランニューソング」をリリース、2015年までにライブツアー、客演参加、楽曲提供などを行い、現在に至る。 代表曲は「エイリアンズ」「スウィートソウル」「燃え殻」など。 希代のメロディメーカーとして業界内外からの信頼も厚くポップなロックンロールから深みのあるバラードまでその甘い歌声は聴くもの魅了し続けている。 またキリンジ時代より提供楽曲も多く「ハナレグミ」「安藤裕子」「畠山美由紀」「杉瀬陽子」などに楽曲提供している。 これまで「馬の骨」名義のソロアルバム2枚、キリンジとしてはオリジナルアルバム10枚を発表。 近作は堀込泰行としての初の洋楽カバーアルバム「Choice by 堀込泰行」(Billboard Records)をリリースしている。