モリコメンド 一本釣り  vol. 131

Column

モトーラ世理奈 フィッシュマンズの名曲「いかれたBaby」のカバーでシンガーデビューした彼女の個性的なセンス

モトーラ世理奈 フィッシュマンズの名曲「いかれたBaby」のカバーでシンガーデビューした彼女の個性的なセンス

モデル、女優として、広告、映画、ドラマなど幅広いフィールドで鮮烈な存在感を発揮しているモトーラ世理奈が、歌手デビューを果たす。最初の楽曲は、フィッシュマンズの名曲「いかれたBaby」のカバー。フィッシュマンズのメンバーである茂木欣一(Dr/東京スカパラダイスオーケストラ)、柏原譲(Ba/Polaris)が参加したこのトラックは、「いかれたBaby」の普遍的な魅力と新たな表情を引き出すとともに、シンガーとしてのポテンシャルの高さを証明している。

2014年、高校1年生のときにモデル、女優としてのキャリアをスタートさせたモトーラ世理奈が最初に大きく注目されたのは、RADWIMPSのアルバム『人間開花』(2016年)のジャケットビジュアルに起用されたこと。そばかすと強い視線が印象的なそのルックスは、音楽ファンを中心に大きなインパクトを与えた。その後、資生堂の企業文化誌「花椿」新装刊0号のカバー、「Amazon Fashion Week TOKYO 2017A/W」のキービジュアルに起用される一方、「パリ・コレクション 2018-19 A/W」でファッションブランド「UNDERCOVER」のショーモデルを務め、パリコレデビューを果たした。また、女優・二階堂ふみがフォトグラファーとして初めて撮影する写真集の被写体に抜擢され、写真集『月刊モトーラ世理奈・夏 写真 二階堂ふみ』を発表するなど活動の幅を拡大。“クリエイターの創造力を刺激する存在”として評価を高めた彼女は、女優としても才能を発揮。2018年に『少女邂逅』(監督/枝優花)で映画デビューし、2019年には映画『おいしい家族』(監督/ふくだももこ/9月20日公開)、映画『ブラック校則』(監督/菅原伸太郎/11月1日公開)、主演映画『恋恋豆花』(監督/今関あきよし)、2020年には主演映画『風の電話』(監督/諏訪敦彦)の公開が控えている。

キャリアを重ねるにつれて、その類まれな表現力を開花させ続けているモトーラ世理奈。彼女の個性的なセンスは、歌手デビュー作となる「いかれたBaby」のカバーにも存分に活かされている。

まずは「いかれたBaby」を生み出した伝説のバンド、フィッシュマンズを紹介しておきたい。

佐藤伸治(V/G)を中心に1987年結成されたフィッシュマンズは、ダブ、レゲエ、ロックステディといったルーツミュージックを基調にしながら、エレクトロニカ、音響系ギターロックなどを融合させたサウンドによって注目を集め、1991年にメジャーデビュー。当初はコアな音楽ファンを中心に支持されていたが、彼らの存在が一般層にまで広がる起点となったのが、93年リリースのシングル「いかれたBaby」だった。穏やかな裏打ちのビート、浮遊感のあるシンセ、そして、繊細なメロディラインと<悲しい時に 浮かぶのは いつでも君の 顔だったよ>という歌詞がひとつになったこの曲は、佐藤のソングライターとしての才能、フィッシュマンズの奥深い魅力を広く知らしめたのだ。

さらに“世田谷3部作”と呼ばれる『空中キャンプ』『LONG SEASON』『宇宙 日本 世田谷』をリリースするなど順調な活動を続けていたが、1999年3月、佐藤が逝去。バンドは活動休止を余儀なくされた。

しかし、フィッシュマンズを求める音楽ファンの声は止むことなく、2005年のライジング・サン・ロックフェスティバルで4年ぶりのライブが実現。原田郁子、永積タカシ、UA、忌野清志郎などをゲストに迎え、名曲の数々が披露された。その後も不定期的にライブが行われているが、「いかれたBaby」は、いつもその中心にあった。この楽曲が持つオーセンティックな魅力は、いまの若い世代のリスナーにも大きな影響を与えていると言っていいだろう。

モトーラ世理奈の「いかれたBaby」は、茂木欣一の「ワン、ツー!」というカウントから始まる。茂木のドラムと柏原のベースによる心地よい揺れを感じさせるビート、ギター(石井マサユキ/TICA, Gabby&Lopez)、トランペット(NARGO/東京スカパラパラダイスオーケストラ)によるシンプルで奥深いアンサンブルも印象的だが、このトラックの軸になっているのはもちろん、彼女のボーカル。ひとつひとつのフレーズを(まるでセリフのように)ナチュラルに紡ぎ出し、原曲の世界観を丁寧に描き出していいるのだ。自分自身の存在をアピールするというより、楽曲のなかに込められた風景、思い、メッセージを抽出するような歌からは、表現者としての彼女の姿勢がはっきりと感じられる。ゆったりと穏やかでありながら、芯の部分に強さや熱が感じられるのも、シンガー・モトーラ世理奈の魅力だ。

山本精一によるリプロダクションの別テイク2versionも収録された本作は、12インチのアナログ、デジタルシングルとして発売。リリース後には都内でイベントも開催され、大きな反響を集めた。「いかれたBaby」から始まった音楽活動によって、彼女の表現の世界はさらに広がるはず。アーティストとして彼女がどんな音楽を生み出していくのか、ぜひ注目したいと思う。

文 / 森朋之

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