【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 136

Column

<最終回>ふと、思い出した80年代の歌たち

<最終回>ふと、思い出した80年代の歌たち

80年代には様々な名曲が誕生した。しかし、これらをひとつに括り、“80年代的なるもの”として語るのは困難だ。これからお届けする曲達も、総括みたいなこととは無縁だ。ふと、思い浮かんだ楽曲達である。

ちなみに、“ふと”、というのはバカにできない。それは単なる気紛れのようで、脳が高速回転し、取捨選択を繰り返し、我が人生における現時点のアンサーとしてハジキ出したものでもあるからだ。なので今回は、“ふと”というのを信頼し、さっそく始めることにしよう。

佐野元春「ブルーの見解」

まずは佐野元春の傑作『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』の中からこの曲を。もー、大好きだ。でもこれ、歌ではあるんだけど語るように歌われるので、まるで“声の競歩”であるかのようなイメージだ。まあ要するに、歌と朗読の中間の佇まい、ということなのだが…。

このタイトルの“ブルー”を、人物を指す固有名詞と捉えるなら、ポール・オースターの小説『幽霊たち』を思い浮かべることも可能だが、関連は不明である。

そしてこの歌、勝手につけてきた“ブルー”と主人公とのやりとりを描いた作品だ。“ブルー”はやけに主人公のことに詳しく、彼に対する情報・興味は、多岐に渡っていく。1番も2番も、決まってこの台詞で締められる。主人公である“俺”は、[君からはみ出している]、と…。それはいったい、どういうことなのだろう?

オーソドックスに考えるなら、“ブルー”は基本的には“主人公自身”なのであり、しかし、ありのままの自分ではなく、“世間体という仮面(ペルソナ)を被った姿”であって、ホンモノの主人公は、そこから逃れ、より自由になろうとするわけだ。“はみ出す”という言葉の意味としては、そんなふうに聞こえる。もちろん、歌には様々な聴き方がある。みなさんご自由に。

佐野元春で、個人的に思い出したことがある。『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』がレコーディングされている時、ロンドンに彼を訪ね、取材をした時の想い出だ。

あの時、佐野元春はフラットを借りて住んでいた。

で、彼にはちょっとした困りごとがあったのだ。フラットには、もう一人の別の住人がいて、そこと佐野の住居は、“親子電話”で繋がっていた。つまり、どちらかに電話があると、両方が鳴ってしまうシステムだった。しかも、別の住人とは生活時間帯がズレているらしく、佐野が抱えるストレスに同情した。

しかしこれは、ソングライターの彼にとって、好奇心をくすぐる興味深いことだったかもしれない。彼の生活に、見ず知らずの“他者”が入り込んでくるわけだ。もちろんこの話は、「ブルーの見解」とは無関係なんだけど。

ストリート・スライダーズ「かえりみちのblue」

ブルーつながりで、ふと(笑)。アルバム『スクリュー・ドライバー』のなかで発表した楽曲である。ボーカルのハリーの歌声が、実に切ないナンバーだ。彼らの音楽は、黒人のブルースに多く影響されたものだが、“ブルース”と書けば音楽ジャンルを指すけれど、単数の“ブルー”にすると、また少し違うニュアンスが伝わる。寂しさや悲しみが、個人の足元にあるものとして降り注ぐのだ。

表題ともなっている詞の部分、“かえりみちのblue”を、終盤に差し掛かると“か〜えりみちのblue”と、感情込めて歌う場面がある。ここで淋しさは増幅する。歌がこの場面に差し掛かると、毎回、僕の胸の奥である音(一般的にはキュン、などと表現される音)がする。でもとても小さな音であり、自分以外には聞こえない。

小田和正「一枚の写真」

ガラッと変わってこの曲を。アルバム『BETWEEN THE WORD & THE HEART』に収録されている。その後、ライブでちょくちょく歌われることもなく、今もひっそり、あのアルバムのなかに存在する楽曲だ。[あなたの心]が[まだ波間に]とか[好きな写真][これは君が泣いたあと]とか、歌詞の表現が冴え渡っている。ツー・コーラス目の歌詞の、体言止めが続くあたりもグッとくる。

この歌を聴いた後に心に残るのは、淡いようで印画紙に色濃く映し出されたような、ひと夏の恋愛の景色である。ところでこの先、「一枚の写真」がライブで聴ける日がくるのだろうか。来ないのかもしれない。「小田さん、“一枚の写真”、ライブでやんないんですか?」。今度、訊いてみようか…。いや、やめとこう。

RCサクセション「Oh! Baby」

これはアルバム『OK』に収録され、シングル・カットもされている。忌野清志郎のすべての作品のなかで、最も優しく最も悲しい歌声が聞こえてくる。「Oh! Baby」のアナログのシングル盤は、今も大切にしている。

忌野清志郎というと、歌のメッセージ性で反原発など社会的な運動にも貢献したイメージが強いが、(もちろんそれも彼の真実だが)僕が彼から直接聞いたことで印象深く覚えているのは、たとえばこんな言葉だ。「あんまり“世の中お騒がせ男”みたいになってもネ。ボクがやりたいのは、リズム&ブルースなんだからサ」

井上陽水「この頃、妙だ」

さて最後は“ふと”ではなく、いま、これを書いている段階で、必要にかられてCDラックから持ち出してきた歌である。ちなみに、彼のアルバムでは『バレリーナ』に収録されている。

まさにこの歌のように、ここ最近、“この頃、妙だ”と思うことが多い。さらに、当初は僕自身が僕のことを“妙だ”と感じていたのに、どうやら僕ではなくみんな(世の中)が僕より妙だから、僕のほうが錯覚し、自分を“妙”に感じていたことも分かってきた。だとしたら、まさにこの歌のまんまじゃないか、とも思う。この状態はいつまで続くのか…。でも“妙だ”くらいだったら、まだ軽傷なのかもしれない。

文 / 小貫信昭

*現在、新企画計画中。公開まで少しお待ちください。お楽しみに。


ストリート・スライダーズ「かえりみちのBlue」
アルバム『SCREW DRIVER」より

小田和正「一枚の写真」
アルバム『BETWEEN THE WORD & THE HEART』より

RCサクセション「Oh! Baby」
アルバム『OK』より

井上陽水「この頃、妙だ」
アルバム『バレリーナ』より

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