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サザンオールスターズの新曲は旨味の詰まった熟成曲。全国ツアーで育んだ「愛はスローにちょっとずつ」レビュー

サザンオールスターズの新曲は旨味の詰まった熟成曲。全国ツアーで育んだ「愛はスローにちょっとずつ」レビュー

まるで印画紙が色褪せていくかのように少しずつ“セピア”に“染まる

バンドの新たな旗印ともなった、あの「壮年JUMP」から1年ちょっと。いよいよサザンオールスターズの新曲がリリースされた。今回は、配信とCDという2形態での発売だ。CDのほうは、デビュー40周年を記念した『SOUTHERN ALL STARS YEAR BOOK「40」』に付属される形だという。つまり「ともかく新曲を聴きたい!」というヒトと、「曲はパッケージ含め、メモリアルな年に“形あるもの”として所有したい!」というヒトの、両方に対応した形である。

実はこの曲、2019年3月から6月まで行われたサザンオールスターズの全国ツアー『キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!』において、すでに披露されていた。その際はタイトルの最後に“(仮)”の文字が付いていたのだが、今回、晴れて取りはずされた。

先のツアーで“すでに披露”と書いたが、完成途中のものが演奏されていたわけじゃない。たまにアーティストで、制作途中の作品をワン・コーラスのみステージで披露……、みたいなこともあるようだが、そういうわけではなかったのだ。実際、今、手元に完パケしたものがあるが、楽曲そのものということでは、すでに出来上がっていたようだ。もちろんステージで演奏したものにプラスして、ストリングスなど、よりアレンジを構築させ、最終的な音のバランスも含め、納得いく形へと精魂込め、完成へと至ったものが届けられた。

ところで筆者は、タイトルが「愛はスローにちょっとずつ」だと知ったとき、とっさに思い出したことがあった。1970年代に女優・大原麗子が出演したお酒のコマーシャルのキャッチ・コピー、「すこし愛して、なが〜く愛して」である。さらに、愛を“ちょっとずつ”にしても愛を“すこし”にしても、ある年齢、ある境地に達しないとだろうし、いよいよサザンオールスターズも、そんな作品を歌うようになったんだなぁと、感慨深く想ったものだった。

でも、よくこの歌を聴いてみると、決して愛というものを“スローにちょっとずつ”実践すべし!という歌ではなかった。主人公のロスト・ラブ。その失ったものが、まるで印画紙が色褪せていくかのように少しずつ“セピア”(歌詞では“黄昏”という文字をあてている)に“染まるんだ”という、そんな歌だったのである。

そしてこの、“スローにちょっとずつ”、“染まるんだ”ということが、歌全体を包む“タイム感”ともなっている。ここ、重要だ。

そもそも印画紙が色褪せていく速度というのは、じーっと見つめていても、みるみるセピアになったりなどしない。でも実は、少しずつ近づいていて、いったんそうなれば、そこで時間が止まり、想い出は永遠となる。そう。永遠となるハズなんだけど、まだその気分が“生乾きな状態”を描いているのがこの歌なのだ。

曲調は実に素直で滋味深く、まだ現段階で筆者は8回くらいしか聴いていないのだが、おそらく聴くほどに、歌の主人公の悲しみが、透明度を増していくような気がしている。

特にステキだなぁと想うのは、一気に張り上げるわけではなく、むしろ淡々としている“もう”、“愛”、“なんて”のサビの部分……。主人公は一字一句を自分に言い聞かせるように歌っている。

ストリングスを含めた歌心満載のアレンジは、出だしのピアノのアルペジオからヨーロピアンというか、かつてのイギリスのギルバート・オサリバンとか、そういったアーティストを彷彿させるところもある(後半に出てくるギターに関しては、当然ながらジョージ・ハリソン的と言うべきだろうが……)。

最後に、ひとつ気になっていることを……。この歌で、主人公が失恋した相手のことだ(余計なお節介かもしれないが……)。でも、手掛かりはただひとつ、“鳶色の瞳”である。それ以外は不明。うーむ。これでは手掛かりが少なすぎる。

でも、この歌を聴いていると、ただ歌を聴いている立場であるだけの自分にも、彼女の瞳の輝きが見えてくる。特に歌の終盤では、その瞳に映る自分が、この経験を糧とし、元気と勇気を取り戻しつつあるような、そんな気が……。そのとき、歌の中から降り注いでくる言葉は、まさに“希望の光”、なのである。

歌詞に“夏”とあるので、もちろんこの歌は、今の季節を彩るわけだが、先ほど書いたヨーロピアンな雰囲気も含め、長袖の季節にも、大切に聴きたい名品である。

文 / 小貫信昭