山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 66

Column

イギー・ポップ / 肉体が奏でる音楽

イギー・ポップ / 肉体が奏でる音楽

パンクとは、単に音楽やファッションのスタイルを示す言葉ではない。
個の自由を縛ろうとする価値観、社会に、全身全霊で異を唱え、予定調和に中指を突き立てる生き方のことだ。
イギー・ポップが音楽シーンに登場して50年。
いまなおアグレッシヴに吠え続ける存在の核にあるものを、山口洋が考察する。


60年代後期、イギー・ポップのストゥージズ時代。パンクのゴッド・ファーザーとして、あるいは破壊(サーチ&デストロイ)の始祖鳥として、その音楽はアウトローを目指す者には必聴とされていたが、正直に言って、僕はあまり好きにはなれなかった。

生意気だけれど、彼は肉体と知性をもっと高いレベルで融合できると感じていたから。

もし、あのときに動くイギーの姿を目にしていたなら、その肉体性に目を奪われて、印象はまるで違っていたと思う。そういう意味では、YouTubeという存在は素晴らしくも、恐ろしい。若い頃、それがなかったことに感謝していることの方が多いことも付け加えておく。簡単に手に入らないから、人は何とかモノにしようと努力するのだから。

話が逸れた。

イギーが肉体だけではないことを知ったのは、高校時代にラジオで鮎川誠さんがかけてくれた「NEW VALUES」を聴いてから。耳触りがモダンで、それでいて肉体的でクール。完全に持っていかれた。そこからイギーをもっと知りたくなる。

70年代に盟友デヴィッド・ボウイと組んで作られた作品はどれも好きだった。2人は(イギーはゲイではない)ベルリンで同居していたこともある。共同作業によって、肉体と知性が絶妙に融合していく。

この連載で何度か触れたけれど、デヴィッド・ボウイは僕にとって重要なアーティストを何人も崖っぷちから救ってくれた。ルー・リード、モット・ザ・フープル、マーク・ボラン。そしてイギー。感謝しかない。

ボウイは薬物依存と経済的困窮、2つの崖っぷちに立たされていたイギーを音楽で救った。一方、イギーはボウイに動物的クリエイティヴィティを与えた。思考ではなく、肉体による瞬発的かつ即興的な力を。

肉体と知性。ロックンロールがエヴァー・グリーンであるために必要なもの。のちに映画「トレインスポッティング」で使われ大ヒットした名アルバム『LUST FOR LIFE』はわずか1週間あまりで作曲、録音、ミックスまで完了させたらしい。オープニングのドラムを聞いただけで、肉体と知性が瞬発的に極まっているのがわかる。

音楽ジャーナリスト、故長谷川博一氏の名言。ロックンロールの醍醐味は「ぐっと掴んで、ぱっと投げる」。まさにそれだ。

2人によって共作された名曲「CHINA GIRL」をボウイが自身のアルバムに収録することで、イギーは経済的に助けられる。言うまでもなく、ボウイのヴァージョンは知的で、イギーのヴァージョンは野性味が溢れる。

2人はしばらくの間、袂を分かつが、1986年、アルバム『BLAH BLAH BLAH』で再びタッグを組む。ここでイギーはついにジャンキーのイメージを一新。新しい時代の肉体的ロックヒーローとしてシーンに帰還を果たす。実際のところ、音楽のスケールも大きく、特徴的なイギーのローヴォイスのヴォーカルも圧倒的で素晴らしい。まさにロックンロール・アダルト。このアルバムは1年に渡って、当時の僕の車の中で鳴っていた。

そして80年代の終わり。ついにそのライヴを体験する。

音楽を聞いたというよりも、イギーの肉体ショーを体験した感じ。終始躍動して止まない肉体。僕はかなりのファンだと思うけれど、どの曲を演奏したかもまるで覚えていない。上半身裸で踊りながらステージに現れたイギー。鮮烈にそのシーンだけを覚えている。

その跳躍力はガゼールのようで、シルエットはイカのようで、予測できないマジカルな動きは人類とは思えなかった。イギーという新種の生き物。そして、どこかほのかに危うい。この人は今夜、死んでしまうのではないか。そう思わせる何かがある。

日本公演で最前列にいた美しい女性を抱っこして、そのままバックステージに連れ去り、結婚したと聞いたけれど、そんなことも、十分にあり得ると思えるステージだった。

あれほどの肉体性を感じたアーティストは今までに彼だけ。どんなにミック・ジャガーが奇妙なダンスを繰り広げても、かなわない。思うに、ミックのそれは考え抜かれ、修練を伴うもので、イギーのは本能の赴くまま。すべての意識を肉体を使って解放しているかのように見える。

イギーのステージはいつだって「解放」を目指している。観客をステージに上げて、収拾がつかなくなったのを何度か見た。それでも彼はすべてを「解放」しようとする。

でも、ボウイもルーも星になって、イギーが生き残ると、いったい誰が予想しただろう?

9月18日にニューアルバム『FREE』が届けられる。イギーも72歳。作品にはボウイやルーへのオマージュも含まれると聞いている。

イギーが盟友たちの死をどう受け止め、自らの「老い」にどう向き合って、僕らになにを手渡そうとしているのか? 誤解を怖れずに書けば、イギーがどう「死」を見すえているのか。それが知りたい。

想像だけれど、それが「FREE」つまり「解放」の意味のような気がする。

感謝を込めて、今を生きる。


photo by Harmony Korine

IGGY POP / イギー・ポップ
本名:James Newell Osterberg Jr./ ジェームズ・ニューエル・オスターバーグ・ジュニア 1947年4月21日、米ミシガン州マスキーゴンで、ノルウェー系とデンマーク系の血を引く母親と、ドイツ系、イギリス系、アイルランド系の血を引く父親のもとに生まれる。ミシガン州アナーバーの高校在学時にドラマーとして音楽キャリアを開始。高校の1年後輩で友人だったロン・アシュトンを誘ってバンドを結成。1968年、ザ・ストゥージズとしてデビュー。ザ・ドアーズに触発された奇抜で聴衆を挑発するようなステージ・パフォーマンスで注目を集め、後のパンク・ムーヴメントの火付け役となる。
ドラッグ等の問題で1971年にバンドは解散、1972年〜1974年はイギー&ザ・ストゥージズとして活動。その後、薬物依存治療を行う傍ら、1977年にソロ第1作『IDIOT / イディオット』、第2作『LUST FOR LIFE / ラスト・フォー・ライフ』をデヴィッド・ボウイと共同制作で完成させる。その後もアルコール、薬物依存症による入退院を繰り返しながら、様々なミュージシャンと共演、共同制作。セックス・ピストルズ、ガンズ・アンド・ローゼズ、レッド・ホット・チリペッパーズ、ニルヴァーナなど、後世のバンド、音楽シーンに与えた影響は計り知れない。
私生活では、1983年初の来日公演時に客席にいた日本人女性を見初め、その後結婚したことも有名。1998年の“FUJI ROCK FESTIVAL”では、興奮した観客を100人以上ステージに上げてパニックとなった。
2003年、ザ・ストゥージズを再結成。2007年にはアルバム『THE WEIRDNESS / ザ・ウィヤードネス』を発表したが、2009年1月、ロン・アシュトンが逝去。
2010年、ザ・ストゥージズ名義で『ロックの殿堂』入り。
2016年、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・ホーミと組んだ『POST POP DEPRESSION / ポスト・ポップ・ディプレッション』が自身のアルバム史上最大セールスを記録。グラミー賞の2017年最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞にノミネートされた。
2017年、フランス芸術文化勲章の最高位『コマンドゥール』を受章。
2019年9月18日、ソロ18作目となるアルバム『FREE』をリリースする。
ローリング・ストーン誌選出「歴史上最も偉大な100人のシンガー」第75位。Q誌選出「歴史上最も偉大な100人のシンガー」第63位。

「China Girl(Live at The Royal Albert Hall)」


『LUST FOR LIFE / ラスト・フォー・ライフ』

UICY-76649 ¥2,880(税込)ユニバーサル・ミュージックより発売中
ソロ第1作『IDIOT / イディオット』(1977)に続き、デヴィッド・ボウイと共作、ベルリン録音のソロ第2弾(1977)。ポスト・ロックな感覚をも持ち合わせた斬新なサウンドは、後世のアーティストに大きな影響を与えた。「TONIGHT / トゥナイト」は後にボウイがカバー。表題曲をはじめ「THE PASSENGER / ザ・パッセンジャー」は映画『トレインスポッティング』(1996)に使われたことでリヴァイヴァル・ヒットした。紙ジャケット、最新デジタル・リマスタリングで2014年に再リリース(SHM-CDシリーズ)。‬‬

『BLAH BLAH BLAH / ブラー・ブラー・ブラー』

UICY-77062 ¥1,080(税込)ユニバーサル・ミュージックより発売中
デヴィッド・ボウイのサポートを得て制作され、それまでのジャンキー・イメージを払拭、完全復活を強く印象づけたソロ7作目(1986)。長年の薬物依存から立ち直り、アグレッシブだが健康的で力強いボーカルを聴かせ、大ヒットを記録した。シングル「Real Wild Child(Wild One) / ワイルド・チャイルド」を含む全10曲。2015年に再リリース。‬‬

『FREE』

UICB-1002 ¥2,500(税別)Caroline International より2019年9月18日発売
ソロ18作目となる最新作。ジャズ・トランペット奏者のLeron Thomasと、“Post Pop Depression Tour”のオープニングアクトに抜擢されたギタリストのNoveller(Sarah Lipstateのプロジェクト)とのコラボレーションによって、これまでのサウンドとはまったく異なる瞑想的なサウンドに仕上がっている。1972年にルー・リードが書いた詩や、詩人ディラン・トマスの著名な詩を含むリリックもスリリング。本人いわく「このアルバムは、他のアーティストが俺に代わって表現したものなんだ……俺は、ただ声を貸しただけ。……幸福感や愛よりも、自由を感じたかったんだ」。‬‬


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

山口洋(HEATWAVE) エンタメステーション連載コラム

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。バンド結成40周年となる今年、アルバム発表に向けて現在レコーディングの真っ最中。8月25日には国道拡張のため一旦閉店を余儀なくされた金沢メロメロポッチのファイナル・ライヴに出演。8月30日からは岩国 himaar(ヒマール)でのスペシャル企画を皮切りにソロ・ツアー終盤戦がスタートする。9月にはHEATWAVE SESSIONS 2019 “the boy 40”@東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEに加え、“New Acoustic Camp 2019”への出演が決まった。また、“HEATWAVE 40th Anniversary TOUR 2019”を11月より開催。
2018年ツアーのライヴCD『日本のあちこちにYOUR SONGSを届けにいく』、2018年12月22日HEATWAVEライヴを収めた『The First Trinity』がライヴ会場をはじめHEATWAVE OFFICIAL SHOPにて発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

MEROMEROPOCHI FINAL LIVE「grateful thanks so much !」
8月25日(日)金沢 メロメロポッチ
出演:山口洋/杉野清隆
詳細はこちら

山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour
8月30日(金)岩国 himaar(ヒマール)*ヒマールスペシャル企画「山口洋とギターを弾いてみよう」
8月31日(土)岩国 himaar(ヒマール)*特別公演
9月1日(日)愛媛 松山 スタジオOWL
10月10日(木)福島県いわき市 Music Bar burrows(バロウズ)
10月12日(土)岩手県奥州市 おうちカフェMIUMIU(ミゥミゥ)
詳細はこちら

New Acoustic Camp 2019 *イベント出演
9月14日(土)水上高原リゾート200(トゥーハンドレッド)
詳細はこちら

HEATWAVE SESSIONS 2019 “the boy 40”
9月23日(月・祝)東京 duo MUSIC EXCHANGE
詳細はこちら

HEATWAVE 40th Anniversary TOUR 2019
11月10日(日)高松オリーブホール
11月16日(土)長野ネオンホール
11月17日(日)仙台 CLUB JUNK BOX
詳細はこちら

リクオ スペシャル・ライブ「グラデーション・ワールド」 *ゲスト出演
11月26日(火)下北沢 GARDEN
出演:リクオ with HOBO HOUSE BAND
ゲスト:古市コータロー(ザ・コレクターズ)/山口洋(HEATWAVE)ほか
詳細はこちら

vol.65
vol.66
vol.67