モリコメンド 一本釣り  vol. 133

Column

Karin. そこにあるのは“思春期特有”の感情と同時に、人の心を揺さぶる普遍的な何か

Karin.    そこにあるのは“思春期特有”の感情と同時に、人の心を揺さぶる普遍的な何か

人に好かれたくて、つい周囲に合わせてしまうけど、いつも「本当の自分は違うんだけどな」という思いが心のなかにある。自分という存在を認めてほしいという感情を持ち続け、居場所を求め続けている。こういう複雑な葛藤は、ときに“思春期特有の”という枕詞が付くが、大人と言われる年齢になっても、決して消えることがない。「もうそんな感情はとっくに消えたよ」という人もいるだろうが、それは諦念の境地に達したか、「そんな恥ずかしい気持ちを持っていたくない」と目をつぶっているからだろう。

と、そんな青臭いことを思ってしまったのは、Karin.のデビュー作『アイデンティティクライシス』を聴いたからだ。どうしても周りになじめず、本当の気持ちを押し殺してきたひとりの女の子が、自分自身を解放するために曲を書き、歌う。そこにあるのは“思春期特有”の感情であると同時に、あらゆる人の心を揺さぶるであろう、普遍的な何かだ。

2001年生まれ、茨城の高校に通うKarin.。幼少の頃からピアノを習い、吹奏楽部に所属していた彼女は、中学時代の美術の教師との交流をきっかけに、ギターを弾いて歌うことを始めたという。当初はバンドを組もうとしたが他のメンバーと上手く意思疎通が出来ず、弾き語りという方法を選ぶ。初ステージは、2018年の6月。高校生がひとりでライブハウスのステージに立つにはかなりの勇気が必要だと思うが、彼女は「自分の居場所が欲しい」という一心でギターを弾き、歌った。体のなかにある葛藤、悩み、わずかな希望を音楽という方法を使って表現する——もっと言えば、表現しないと生きていけない——彼女はこのとき、シンガーソングライターとしての道を自らの意思で歩み始めたのだ。

曲を書いて歌うこと自体が彼女の拠り所になっているのは、デビューアルバム『アイデンティティクライシス』を聴けば、はっきりとわかってもらえるはずだ。“アイデンティティクライシス”とは、“自己同一性の喪失”。つまり、“自分は何者なのか?”“この社会のなかで、どう存在すればいいのか?”という根源的な疑問のなかで、自分を見失ってしまう状態のことだ。自分のなかにある(誰にも言えなかった)感情を歌にして、どこまでも真っ直ぐに放つことで、すぐに消えてなくなってしまう想いを残す——そうしなければ自分の存在が危うくなってしまうというヒリヒリとした危機感こそが、現在のKarin.のモチベーションなのだと思う。

『アイデンティティクライシス』の1曲目に収録されている「愛を叫んでみた」には、彼女が歌う理由が明確に反映されている。“人に好かれるためにいい子を演じていた自分から、スポットライトの下で本心を歌う自分へ”という変化をリアルに綴ったこの曲は、シンガーソングライター・Karin.の誕生の歌であると同時に、彼女の音楽的な本質そのものだと言っていい。どこまでもシンプルなバンドサウンド、自分自身の思いを必死に刻み込もうとする歌も強く心に残る。

2曲目の「teenage」では、子供と大人の挟間で揺れる感情について歌っている。大人になれば前向きに生きられるようになるのだろうか? それとも自分が嫌いな“嘘つきな大人”になってしまうのだろうか? そんな逡巡を繰り返すなかで、彼女は“もしかしたら、既に自分は嘘つきになっているのかもしれない”という思いに至る。“大人になりたくない、大人やイヤだ”というプロトタイプな青春ソングではなく、現在の思いを生々しく描きながらも、自分自身を冷静に俯瞰することで、楽曲に深みを与えているのだ。切なさと心地よさを同居させたギターのコードワークからも、彼女のソングライティング・センスの良さが感じられる。

その他、フォーク・ロック的な手触りのサウンドとともに、大事な人との別れを切々と歌った「だいじなもの」、R&B風のアコギのリフ、リズミックな歌、別れを切り出そうとする女子の気持ちを描いた歌詞がひとつになった「貴様に流す涙なんて」などバラエティに富んだ楽曲を収録。10代女子の視点、感情をテーマにしながら、幅広いリスナーに訴求できる魅力を備えていることも改めて強調しておきたい。そして、彼女の音楽の中心にあるのはやはり、その歌声だろう。上手く歌おうとか、好かれるように歌おうという気持ちは(おそらく)皆無。すべての言葉にしっかりと思いを込め、どこまでも率直に、できるだけ生の感情を届けようとするボーカルは今後、多くのリスナーの琴線に触れることになりそうだ。また、バンドサウンドを軸にしながら、ポップな匂いをバランスよく加えたアレンジメントも、彼女の瑞々しい歌を際立たせている。初ライブからわずか1年。まだまだ経験不足だし、アーティストとしてのポテンシャルは未知数だが、デビュー作で“なぜ歌うのか”をはっきりと示したことで彼女は、シンガーソングライターとして理想的なスタートラインに立ったと言っていい。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
https://karin-official.com

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