サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 3

Column

眩しいほどの若さがきらめく、サザンオールスターズ1stアルバム『熱い胸さわぎ』〈A面〉

眩しいほどの若さがきらめく、サザンオールスターズ1stアルバム『熱い胸さわぎ』〈A面〉

デビュー40周年を超え、次なるディケイドに歩みを進めたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力とは──。


1978年8月25日。デビュー曲「勝手にシンドバッド」から2ヵ月後に、彼らの1stアルバム『熱い胸さわぎ』はリリースされた。このタイトルは「勝手にシンドバッド」の歌詞から派生したものだろうが、その後、サザンオールスターズが音楽シーンに与えた衝撃を考えると、“胸さわぎ”とはつまり、その“前兆”を表わす言葉だと解釈できる。

『熱い胸さわぎ』はデビュー作らしい内容だ。アマチュア時代の集大成なのである。デビューが決まったあとに書き下ろしたのは「恋はお熱く」くらいで、残りはストックされていた作品からレコーディングされている。1曲目の「勝手にシンドバッド」が終わり、聴こえてくるのは「別れ話は最後に」。ボサノバを彼らなりに解釈した作品である。サザンオールスターズというバンドが、幅広い音楽性を誇ることが、すぐに伝わった。

アルバムの5曲目が「茅ヶ崎に背を向けて」である。以下、この作品にスポットを当てる。原 由子の著書『娘心にブルースを』(105ページ / ソニーマガジンズ 刊)によると、桑田佳祐の初のオリジナルは「娘心にブルースを」という作品だそうだが、この「茅ヶ崎に背を向けて」も、最も初期のものとして知られている。

茅ヶ崎は桑田が育った街である。身近なものから題材を取ることは、アマチュアのソング・ライターとして自然だ。でも、だからといって、この歌は自伝的なわけではない。むしろ、大いに“芝居がかって”いる。

とある男が、この土地に女を残し、立ち去っていくのである。一方、女は、男に〈信じている〉と告げる。いずれ男の居場所が伝えられ、そこで一緒に暮らすとか、はたまた男が舞い戻るのがわかっているのか、ともかく女は冷静である。

印象深いのは、〈今夜は雨はないだろう〉という歌詞の中の台詞だ。立ち去る男が、気象予報をする。なぜ男にわかるのか? 長らくここで暮らしていたので、雲の流れや肌感覚で、判断できるのだ。捨て台詞のようなこの言葉、グッとくる。こうした知識も、別の土地に行けば役に立たないのだ。

桑田のボーカルは、今現在の彼より巻き舌を強調したスタイルとなっている(2018年6月25日に彼らのライヴをNHKホールで観た際、オープニングがこの曲だったが、これほどの歌い方はしていなかった)。オリジナルを聴くと、“ミッナレッタマチ(見なれた街)“のところなど実に鮮やかだし、さきほどの〈今夜は雨はないだろう〉の“ダロウッ”も見事に“巻かれ”ている。

しかし、しかしである。この曲は原 由子とのデュオ構成となっており、そんな桑田に続いて聴こえてくる原の歌声は、まさに真逆なのだ。ジャズ・スクールから出てきたかのようにアンニュイなノン・ビブラート唱法であって、当然ながら、その対比も聴きどころとなっている。

歌の中のふたりの人物を、このように解釈することも可能なのではないだろうか。巻き舌の男は、そうやって、虚勢を張る必要もあったのだ。知らない土地で、なめられちゃいけないし……。一方、ノン・ビブラートの女は、泰然自若の構えということだ。なおこの歌の英語詞の部分は、ピーター・フランプトンの「ショー・ミー・ザ・ウェイ」を彷彿させるところもある。

実は「茅ヶ崎に背を向けて」は、演奏も、いや、演奏こそがすごい。何がすごいかというと、メンバー個々の楽器の自己顕示欲がすごいのである。当時の彼らの持てる技をすべてつぎ込んだ……、かどうかはわからないが、みんな隙あらば、自分が一番目立つことを考えていたのではなかろうか。

こんな書き方をすると誤解されるかもしれないが、この場合、褒め言葉である。これぞ眩しいほどの若さの証明なのである。担当楽器を介して、彼らは音でもって、ありったけの大志を抱いていたのだ。しかも当時のビクターのスタジオが、とてもシャープな音像で、その様子をドキュメントしている。より一層、眩しさが伝わる。

もしこれを“純粋な歌の伴奏”と捉えるなら、決してボーカリストは歌いやすくなかったと思われる。しかし、このバンドのボーカルは、あの桑田佳祐だ。桑田だからこそ、みんなノビノビと、手加減せず、どんどん装飾的なフレーズなども投入し、演奏できたのかもしれない。彼の歌なら、演奏に埋没しちゃう心配など、ハナからなかったのだから……。

文 / 小貫信昭

ALBUM『熱い胸さわぎ』
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