サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 4

Column

サザンオールスターズ、バンドの未来を示唆する1stアルバム『熱い胸さわぎ』〈B面〉

サザンオールスターズ、バンドの未来を示唆する1stアルバム『熱い胸さわぎ』〈B面〉

デビュー40周年を超え、次なるディケイドに歩みを進めたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力とは──。


アマチュア時代のサザンオールスターズを支えた楽曲のひとつが「女呼んでブギ」である。彼らがプロになるキッカケとなったヤマハのコンテスト“EastWest”に出場した際にも演奏されている(1977年)。実はこの作品、歌詞に関しては「アドリブ。毎回違ってた」(『ロックの子』86ページ / 講談社文庫刊)そうである。当時の桑田佳祐のソング・ライティングを知るうえで、実に貴重なエピソードだ。

歌詞というのはいったん完成したあかつきには、それを繰り返し歌うのが普通だろうが、ライヴのたびに“アドリブ”で歌っていたというのだから驚きだ。とはいえ毎回ゼロからやっていたわけじゃなく、“ここはこの言葉しかない!”みたいな感じに、少しずつ固まっていったのだろう。

そして彼らはデビューを果たし、『熱い胸さわぎ』に収録されている「女呼んでブギ」を、私たちは聴くこととなった。ただ、これこそが完成形かというと、それはどうなのだろう……。この場に及んでも、桑田にしてみたら、未だ“粘土を捏ねている最中”だったかもしれない。実際、ホニャララ英語的に処理されている部分もあり、ここちら適切なコトバを探している最中で、ここに記録されたのはこの日だけのトライアルだったかもしれない。かといって、我々は中途半端な未完成品を押し付けられたわけじゃない。「女呼んでブギ」のような作品は、永遠に未完成だから素晴らしい。

この曲の音楽スタイルは基本的にブギ(boogie)である。日本でブギといえば、戦後まもなく服部良一が笠置シヅ子に提供した「東京ブギウギ」(そもそものブギをスウィングさせたもの)や、70年代になってからのダウンタウン・ブギウギ・バンドの「スモーキン・ブギ」(エルモア・ジェイムスなどのギター・ブギを基本としている)などが有名だが、「女呼んでブギ」はそのどちらとも違うスタイルである。

冒頭、原 由子が奏でるピアノ(左手の低音パート)は伝統的なブギウギ・ピアノの雰囲気であり、しかしホーンが加わり、ピアノがずっと、ブギのリズムをキープするわけではない。全体としては、爽やかでノリのいいシャッフルの楽曲、という印象だ。

よく話題になるのが、いきなり聴こえるインパクト絶大なサビの部分である。〈抱いて〉という性愛のイメージを伝えるにあたり、〈もんで〉という具体的所作まで歌詞に加える周到さはほかのバンドには見られないものだ。でもこの曲は、このように分析するとどんどんつまらなくなっていく。「女呼んでブギ」が“どういう歌”かなんてことは忘れ、ゴキゲンなリズムに身を任せたい。

この曲のあと、ザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ』の「グッド・モーニング・グッド・モーニング」のようなニワトリのSEとともに始まるのが「レゲエに首ったけ」だ。この作品は実に渋い。ベースの動きこそいかにもレゲエだが、ギターが“ウンチャウンチャ”と大っぴらにやるわけではない。実は『熱い胸さわぎ』の中で、一番“不気味”なのがこの作品だろう。彼らにはいったい、どんな可能性が秘められているのか? ちょっとミステリアスなこの曲こそが、バンドの将来を暗示する。

さてもう一曲、「いとしのフィート」を取り上げたい。“フィート”とは、アメリカ西海岸出身で主に70年代に活躍したリトル・フィートのことである。メンバーが大好きだったグループであり、桑田は愛聴盤の一枚として、このバンドの『ウェイティング・フォー・コロンブス』を挙げたこともあった(『別冊カドカワ 総力特集 桑田佳祐』84ページ / 角川書店 刊)。

この部分がリトル・フィートのあの曲に似てる、みたいな分析もできなくないが(例えば、冒頭のパーカッションの使い方には「Fat Man In The Bathtub」との類似性がみられる)、特定曲のパロディではなく、あのバンドへの立派なオマージュ作品である。リトル・フィートのひとつのウリは、ボーカル&ギターのローウェル・ジョージが弾くスライド・ギターなのだが、それは大学時代の桑田の研究テーマでもあり、その成果も出ている。

歌詞はアメリカ西海岸とは関係なく、伝わる湿度もドメスティックである。大晦日から元旦への情景が描かれる。仲間と初詣に繰り出すでもなく、主人公はひとりぼっちだ。そして寂しく酒を飲む(正月なんで、特別に樽酒だ)。筆者は「いとしのフィート」を聴くと、ある歌を思い出す。はっぴいえんどの「春よ来い」だ。寂しく除夜の鐘を聞く状況が似ている。あたりが普段よりシンとしているからこそ倍増される、透明な侘しさみたいな感覚も共通する。

文 / 小貫信昭

ALBUM『熱い胸さわぎ』
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