連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 11

Interview

朝ドラ『なつぞら』アニメーション監修&制作チームが明かす! タイトルバックや劇中アニメに込めた思いとは?

朝ドラ『なつぞら』アニメーション監修&制作チームが明かす! タイトルバックや劇中アニメに込めた思いとは?

いよいよクライマックスを迎えようとしている、節目となる100作目の“朝ドラ”こと連続テレビ小説『なつぞら』。広瀬すず演じるヒロイン・奥原(坂場)なつがテレビアニメーションで作画監督に抜擢されるなど、「アニメーター編」も佳境に入って久しい。なお、なつたちが手がけるアニメ作品は、そのさわりが劇中でオンエアされてもいるが、それらの監修を務めているのが、かつてスタジオジブリで数々の名作に携わった舘野仁美さんだ。そして、舘野さんの指名で題字とタイトルバックのアニメーションを手がけたのが、若きアニメーターの刈谷仁美さん。奇しくも同じ名前の2人に、『なつぞら』におけるアニメーションの役割や制作秘話など、エピソードの数々を明かしてもらった。

取材・文 / 平田真人


劇中アニメをつくるだけではなく、広瀬すずたち役者への指導や監修も行う

お二方、それぞれの役割を具体的に教えていただけるでしょうか?

舘野 今回に関していうと、タイトルバックと劇中のアニメーションをつくること、また劇中で使われるアニメ用の原画や動画といった小道具も作成しております。それとは別にアニメーター役の俳優のみなさんに、初歩的な所作や道具の扱いなどの訓練を、私が担当しています。紙をパラパラとさせながら動画のチェックをする仕草は、人によって得意不得意があるので、そういうこともお教えしていて。また、演出家さんの要望で撮影時に練習以外の所作が発生した場合、チェックした上で実際の動きに近づけるためのアドバイスもしています。

第75話より ©NHK

広瀬すずさんをはじめ、役者のみなさんのアニメーターぶりは、どう映っているのでしょうか?

舘野 練習の時はみなさん、真剣に取り組んでいらっしゃいますが、充分な時間をかけて訓練するわけではないので、どうしてもぶっつけ本番で取り組むこともあるんですけど、快く対応してくださっていて。役者さんによっては練習の時間がとれなくて、“パラパラ”の仕草がぎこちなかったりもするんですけど、何度か撮影の回数を重ねると上手になっていらっしゃるので、影で努力なさっているのかなと思ったりしています。
広瀬すずさんは、わりとご自分から学んでいかれるタイプの方で、ひととおり教えると自分なりに工夫しながら会得されていこうとするので、ポイントだけ押さえて自由にやってもらっていて。集中力もすごいんですけど、楽しそうに作業しているのが印象的でした。

刈谷 私はタイトルバックや劇中のアニメ制作に携わっています。まだ自分が関わっていない時点では、「アニメーターのお話を朝ドラでやるんだ」と他人事のように思っていて、まさか自分が関わるとは夢にも思ってもみなくて。なので、最初に舘野さんからお話を聞いた時は、とにかくビックリしました。その日はすぐにお返事をせず、いったん家に持ち帰って台本を読んだりしながら…たぶん、もうこういった機会はそうそうないだろうと思ったんです。これも何かの縁だと思って、数日後に舘野さんに「やります」とお返事をしました。
実際に絵を描いていくと、自分の絵柄を『なつぞら』の時代のアニメの絵のタッチにどう寄せていくか、というところで苦労しました。当時のアニメーターの方々の画集を参考にして、絵の雰囲気を近づけようと心がけている、と言いますか…。昔の作品の絵には独特の品の良さだったり、柔らかくてシンプルなんですけど、立体感がすごくあるんです。それでいて洗練されているので、簡単に真似はできないんですけど、空いている時間に練習をして、表情の魅力や立体感が出せるようにと意識しました。 

舘野さんが刈谷さんを指名したのは、どういった理由からだったんでしょう?

舘野 乱暴な言い方になってしまいますけど、ほとんど直感です(笑)。台本をいただいて読み始めてみたんですが、刈谷さんのことが浮かんでくるんですね。このお話はヒロインが描く絵が必要になってくるはずだから、その時に刈谷さんの絵を使わせてもらうのはどうだろう、と。なので、最初から彼女しか考えていなかったんです。ほかにも同じくらいの年ごろで、絵が上手な人を何人か知っているんですけど、中でも彼女の姿が浮かんできて決めた、というのが正直なところです。その当時は、彼女が所属していた会社の絵柄が色濃かったんですけど、絵というのは描き手本人が出るんですよ。生命力や活力がある人は、それが絵に投影されるというか。そのころ、刈谷さんと仲良くはさせていただいていたものの、すごく親しかったわけではなかったんですけど、絵には本人の素養が出るものなので、絵が素敵なら本人も素敵という私の勝手な思い込みで決めましたが(笑)、そういったことも含めて、今回はすべてがいい方向にまわったなと思います。

第87話より ©NHK

今の話を聞いていると、なつと重なる部分もあるのかなと思えてきますね。

舘野 広瀬さんに対抗しようなどと思ったわけではなくて、絵を描く側にもヒロインに相当する存在がいたら、ドラマがより素敵になるかなと思ったんです。もちろん、ベテランのアニメーターに描いてもらうことも可能性としてはあったわけですけど、できれば(ヒロインと)年齢が近い人の方が、あたかもヒロインが描いたようにも見えてくるんじゃないかなと考えた部分はありました。

舘野さんはそうおっしゃっていますが、いかがでしょうか、刈谷さん。

刈谷 今のアニメ界で主流とされている絵だけではなくて、1960〜70年代のアニメーターの方々の絵柄をとりいれることによって、私自身の画力が少しだけ上がったような感覚はあるんですけど…当時の方々の絵は再現できないくらい、奥深いんです。模倣すらできたかどうかわからないので、これからもどん欲に吸収していきたいところではありますね。

刈谷さんはアニメーターのお仕事をされて、まだ2年強ぐらいとのことですが、なつたちをご覧になってどんな思いを抱いたのでしょうか?

刈谷 なっちゃんは「仕上げ」という色を塗る部署からアニメーションの仕事を始めているんですけど、私は最初の段階からアニメーターとして、原画の方が描いた絵を動かす「動画」から始めていて。なので、自分が新人のころを思い出して「そうそう、わかるわかる」と共感したというよりも、「昔のアニメーションの現場は、こんな感じだったんだ」と、なっちゃんから教わるような感覚の方が強かったです。でも、仕事場から夜遅くに家へ帰ってきて、職場のゴミ箱から拾った先輩方の上手な原画を手本に模写をしている場面は、自分も画集を見ながら絵の練習をしたことを思い出しました(笑)。

一方、舘野さんが若いアニメーターの方々に伝えていきたいことというのは、どういったことなのでしょうか?

舘野 たくさんありますけど…たとえば、脚本の内容を精査しないといけなくなった時などに、いろいろな知識があると役に立つんですね。そういう意味では、時代考証的なことも他人任せにするのではなくて、アニメーターも一緒になって考えるべきだと私は思っていて。昔の作品や映画、歴史そのものだったり、地理といったことをある程度は知っていないと、アニメーターは務まらないんじゃないかな、と。絵だけ描ければ幸せ、という人もいて、絵ばかり練習しがちなのはわからなくもないんですけど、雑学も知っていた方がいいんじゃないかなって。私が憧れていた先輩方──監督であれアニメーターであれ、総じて物知りでしたし、日ごろから勉強もされていたんですよね。もちろん、絵が上手な人がアニメーションをつくる上では要職を任されることが多いんですけど、そこに知性がプラスされると、もっと素晴らしい仕事ができるようになると思うので、若い人たちには絵だけが上手ければいい、という前提で勉強してほしくないなと思っています。

「なつぞら」で脚光を浴びたのをきっかけに、若いアニメーターの待遇改善の実現を望む

では、『なつぞら』の劇中アニメを制作する上で、どういったところにこだわっているのでしょうか?

舘野 メインはもちろん、少ししか出てこない人物もきちんとキャラクター表をつくっています。
キャラクターの数が絞られた作品であれば、1本つくれるくらいのものは用意してあって。ただ、基本的には演出サイドの要請にそって用意するという感じですね。オープニングに関しては、刈谷が自分で必要だと思う量を用意したので、かなり多くのポーズを描いたと思います。

まさしく第1話からアニメが多用されていましたが、業界内からも反響は大きかったのでしょうか?

舘野 そうですね、私自身も驚きましたので(笑)。第1回は大まかに言って3つのアニメがありました。タイトルバックに、物語冒頭の東京大空襲の描写と、なつが空に飛び上がるシーンをつなぐアニメーション、です。「あれ、ドラマじゃなくてアニメが始まったのかしら」と思ってしまうぐらいでしたが、メディアの方々や視聴者のみなさん、そして同業者も好意的に受け止めてくださって…うれしい誤算でした。正直、同業者にはもっと反発を招くかなという不安もあったんですけど、思い過ごしに終わってよかったです。「アニメーターを陽の当たる場所へ出してくれて、ありがとう」と言ってくださった方がいて、その言葉を聞いた時は、やっぱりうれしかったですね。

第99話より ©NHK

ちなみに、オープニングでも使われている『なつぞら』のタイトル文字は、“なつぞら独自のフォント”だそうですね。

舘野 先ほど、「若い人たちにはいろいろな雑学を知ってほしい」といったお話をしましたが、私も本当にたくさんのことに興味がある“オタク”なんです。特にきれいなものが大好きで、その中の一つにカリグラフィーという手書き文字があるんですね。そんなに詳しいわけではないんですけど、素敵だなと思ううちに調べていって、ディズニーのアニメでも活用されていることに気が付いたんです。日本が戦争を始める前の時代から、すごく素敵な作品をつくっていたディズニーのスタッフのみなさんが「一番素敵な字なんだ」と自負していた表現で。たとえば『白雪姫』のオープニングでは、絵本が出てきて扉が開くと、孔雀が登場してタイトルに絡まっていたりするんです。「あ、これだ!」と思って、今回の『なつぞら』のタイトルバックの字を書く時に参考にさせてもらいました。時折、そういった天啓を受けることがあるんですけど(笑)、いろいろなことに興味を持っていると、点と点がつながって線になることがあって。そういった着想から、「独自の“刈谷フォント”をつくってほしい」とカリグラフィーの本を渡して、考えてもらいました。

刈谷 舘野さんから渡された本を参考にデザインしていったのですが、舘野さんに見せた途端ダメ出しをされるという(笑)。最初に書いたタイトルが既存のフォントを飾るようなデザインだったんですけど、実は自分でもそんなに手応えがあったわけではなくて。でも、いったん叩き台として見ていただいた時に、“刈谷フォント”のお話をされまして。

舘野 見た人がビックリするようなフォントを目指してほしいと、けしかけまして(笑)。

刈谷 なので、それまでの発想は全部捨てて、カリグラフィーの本を読んだり、ディズニー作品のオープニングを見てみたり、いろいろと試行錯誤した結果、今の“なつぞらフォント”ができあがったわけですが、タイトルバックで動かすための作画を描くのが、さらに大変だったという。まあ、自分で原画を描くんだろうなと予想はしていたんですけど…(笑)。

舘野 お互い同時に「このタイトル、字が動いた方がいいですよね?」って言ったりしてね(笑)。

刈谷 CGでフワッと出てくるようなものではなくて、アニメーションの作画で動かすような演出になるんだろうと想定はしていて。ただ、あまり派手にしすぎても、かといって素朴すぎても物足りなくなってしまうので、その辺りは描きながら注意していました。

『なつぞら』で少なからずアニメーターという職業に対する注目度も高まったと思いますが、お二方は作品によってどんな効果が波及してほしいと思っていますか?

刈谷 アニメーターの女の子が主役になるドラマというのは、少なくとも私は知らなかったので、『なつぞら』によってアニメーター志望の人が増えてくれたらいいな、と思っています。アニメーターという仕事に興味を持っていただくのは個人としてもうれしいんですけれども、今のアニメーション業界は新人にとって経済的に厳しいという問題も色濃くあるんですね。なっちゃんたちの新人時代は、まだそういうこともなかったようなんですけど、これからアニメーション業界に興味を持ってくれる人たちが増えてくるであろうことを踏まえると、私たち自身の待遇の改善にも何かしらの作用をもたらしてくれたらいいな、と願っているところもあります。

第123話より ©NHK

舘野 おそらくアニメーターが主人公の朝ドラ、いえ、ドラマは二度とつくられることがないんじゃないか、と実際のところ思っておりまして(笑)。なので、今回このお仕事を引き受けた時も…刈谷も話していましたけれど、こんな機会は二度とないかもしれないと思ったことも大きかったりするんです。なぜなら、アニメーターに日常を描くのは、思いのほか難しいからなんですね。基本的には1日中机と紙に向かっている、見た目にも地味な作業なので、どうやったら魅力的に見えるのかが、自分でもよくわからなかったりするわけです。ジブリなどのドキュメンタリーを見てもおわかりのように、基本的には座って作業をしているシーンが多くて、日々面白いことはそうそう起きないんですよ。そんな日常をはたしてドラマにできるのだろうか、と思ったのが一つ。それと、うまい原画とそうじゃない原画の差が、視聴者にわかるのだろうかという懸念もありました。絵を描かない人からすれば、私たち業界の人間が「そんなでもないかな」と思った原画でも、おそらく素敵に見えるからなんです。
そのくらい高みを目指すとキリがない世界なので、そういったストイックなところをどうやってドラマとして描くのかな、と思ったりもしたんですが、実際にこうしてドラマ化していただいたことで、ところどころを強調して描けば、アニメーターの日常もドラマとして表現できることがわかったのは、発見でもありました。そして…おそらく刈谷も話してくれたように「なっちゃんみたいになりたい」と、アニメーターを目指す若い人はそれなりに増えると思います。ただ、待遇に関しては昔から良くないんですよ。確かに一部の…なつが入社した東洋動画など大手の会社はきちんと定期的に給料が支払われていると思うんですけど、プロダクションはどこも大変だというのが現実だったりします。私も新人のころはギリギリでやりくりしていました。今、活躍している有名なアニメーターの方々も若い時には経済的に苦労なさって、そういう時期を乗り越えて“神”と呼ばれるようになっているので、アニメーターの待遇改善は永遠のテーマなんです。それでも、ジャパニメーションと世界で認められる作品の数々が生まれるわけですが、その土台を支えている若い人たちが本当の意味で仕事に幸せを感じられなければダメだと、個人的には思っていて。なので、なっちゃんに脚光が当たったことをきっかけに、今回こそ業界にはきちんと経済的な待遇のことを考えてもらいたいと、切に願っています。

舘野仁美

1960年生まれ、福島県出身。アニメーター、ササユリカフェの経営者。1987年~2014年、スタジオジブリにて数多くの作品で動画チェックを手掛けた。著書に『エンピツ戦記』がある。

刈谷仁美

1996年生まれ、高知県出身。2017年、東京デザイナー学院卒業後、アニメーターとして活躍。「東京アニメアワードフェスティバル2019」アニメ オブ ザ イヤー部門・個人賞受賞。

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

©NHK

オフィシャルサイト
https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
Twitter(@asadora_nhk)
Instagram(@natsuzora_nhk)

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