Interview

草彅 剛「45歳になったから余計に響く」。『台風家族』市井昌秀監督が描く両親やきょうだいを思う気持ちに共感

草彅 剛「45歳になったから余計に響く」。『台風家族』市井昌秀監督が描く両親やきょうだいを思う気持ちに共感

草彅 剛が主演した映画『台風家族』が9月6日(金)から3週間限定で全国公開される。本作を手掛けたのは、『箱入り息子の恋』や『ハルチカ』などの市井昌秀監督。12年間あたためてきた両親への思いをもとに、オリジナル脚本を書き上げた。

物語は葬儀屋の鈴木家の両親が強盗事件を起こすところから始まる。その10年後、行方不明となった両親の“見せかけ”の葬式をあげるために久しぶりに集まった4人のきょうだいは、“本当の目的”である遺産相続のバトルを繰り広げる。親への複雑な思いや、きょうだい間の嫉妬や愛情などを、シニカルに笑い飛ばしていく。

エンタメステーションでは、そんな本作で、遺産を少しでも多く手に入れようとする、ちょっとダメな鈴木家の長男・小鉄を演じた草彅と市井監督に、撮影現場のエピソードや作品への思いをたっぷり聞いた。

取材・文 / 上村恭子 撮影 / 斎藤大嗣


ひと夏のたった1日に家族の感情や時間の流れが凝縮されている。

台風家族 草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

小鉄はダメ男だけど、人間らしくてどこか憎めない。今まで見たことのない草彅さんでした。

草彅 本当ですか? ありがとうございます。伝わっていてうれしいです。

今年3月に公開された『まく子』でも、ダメなお父さん役でした。続いていますね。

草彅 そうですね、変な親父役が続いていますが(笑)、でも楽しいですよ。人っていろんな面があると思うので、演じながらやりがいを感じます。「なんだこいつ?」と思いながらも、人間っぽいところに共感できるので面白いです。

監督は、草彅さんにあてがきされたそうですが、どういった理由だったのでしょうか?

市井 これまで草彅さんのドラマ、映画をたくさん観てきましたが、日常に近い感じの“ずるい男”の役はなかったなあと思って、「その辺にいそうなクズ」を演じる草彅さんを観たいと思ったんです。小鉄はちっちゃいところにこだわる汚さがあって、それを草彅さんが演じたら面白いんじゃないかなと考えたら、筆がどんどん進みましたね。12年前に構想して、ちょっと置いていたのですが、草彅さんに役が決まってからは一気に書き上げました。

台風家族 市井昌秀 エンタメステーションインタビュー

草彅さんは、役のオファーがきて、どう思いましたか?

草彅 楽しい役をいただいた幸福感がありました。クズの部分を誇張できたし、演じやすかったです。演じながら面白くて、笑っちゃうなあと思うシーンばかりで、クズだけど、ちょっと微笑ましくてどこかほっとけない人物になっていたらいいなと意識しました。

台風家族

遺産を巡ってのきょうだいバトルが、居間ひとつで演劇のように繰り広げられる凝縮した表現でした。

草彅 きょうだい関係ギスギスだけど、居間には小さいときの身長が柱に記されていたり、ひと夏のたった1日を描いているだけなのに、家族の時の流れが感じられますよね。大人になってそれぞれが家庭を持って、全く立場が違ってしまうのもよくあることだと思いますし、小鉄のように、ずーっと父親に対して許せない気持ちがあるんだけど、その反面、父のことがずっと気になっていたり、よくある家族なのかなって思います。羽振りのいい次男に対しては、「俺をバカにしやがって」とコンプレックスを持っていて、弟の方が背が高いのもうらやましい。僕も演じながら「背が高くってうらやましいなあ」と本気で思いました(笑)。監督の弟は、本当に監督よりも背が高いんですよね(笑)。

市井 うん。実は、この家族はみんな僕に近いんですよ。長男の小鉄と末っ子の千尋が一番近くて、人物の過去や背景を書いたキャラクター表の分量も多くなりました。家族だけでなく、登場人物みんな、汚い部分があって、ちょっとダークなんですが、ひっくるめて自分だなと。観てくれる方も、「人間って汚いけど、自分にもそういうところがあるよね」と思って、鈴木家が愛おしく感じられるんじゃないかな。

そのダークな面がぶつかり合う本気の言い合い、殴り合いでは、白熱した俳優同士の芝居が見どころでした。

草彅 中でも僕が一番ダサいポジション。猫パンチですよ(笑)。あんまり殴ったことない感じで、当たっても効かない(笑)。末っ子の千尋は若いし今どきだから、中村(倫也)さん、(パンチは)フック気味でしたよ(笑)。

市井 草彅さんも、中村さんも瞬発力のある俳優さんなので、本当にうまくいきました。ケンカは全員が弱いという設定です。

台風家族 エンタメステーションインタビュー

草彅 ドタバタしているだけなのに、本当に面白いシーンなんですよ。リハーサルで、監督から、両親の遺影の父親だけを踏むようにと言われて。小さい写真だから難しいんだけど、足の親指だけで母ちゃんの方は踏まないように、父ちゃんだけを踏んづけました(笑)。もう、笑いそうになっちゃった。細かいところだけど、監督のこだわりなのでそこも観て欲しいですね。

プレッシャーだった“クズダンス”は偶然の産物

台風家族 エンタメステーションインタビュー

家族の会話がどう転がっていくのかわからない楽しさもありますが、アドリブも出ましたか?

市井 アドリブではありませんが、そんなにセリフを決めずに、実際に現場でつくっていったシーンはあります。たとえば、一鉄と小鉄、父と息子の殴り合いのシーンは、一鉄が相手の隙を伺って殴りますが、藤(竜也)さんがリハーサルで見せてくれたときに浮かんだもので、現場で取り入れたんです。これは小鉄と次男の京介が殴り合うシーンでも使いました。

台風家族

草彅 藤さんのパンチは速いんですよ。「パパパ~ン!」って。リハーサルの段階からすごく速くて、横からくると思ったら、真正面から入ってくるし、それに合わせて動かないとならないので、気持ちの中でのアドリブ感はありました(笑)。あとは、とにかく熱中症になるかと思うくらい暑かったので、1回で決めたいと焦ってキョドっていたら、それが微妙に小鉄っぽい感じになりました(笑)。

僕は基本的にセリフをあんまり読み込まないんですよ。ちょっと間が合いたら、僕のセリフかなっていう(笑)。ほぼその場で「俺の番かな?」って空気を読んでいたので、そういう意味ではアドリブですかね(笑)。

市井 それが面白かったです。いい意味で、想像以上に役からはみ出してくれたと思いました。素敵に演じてくれたと思います。

台風家族 草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

草彅 あと、小鉄が「クズで結構~」って踊るところ。あれこそぶっつけ本番です! 監督が「剛くん、これ踊りなんだけど、ポーズある?」って聞いてくるんですけど、「考えときます」って言っときながら、ホントは考えていなかった(笑)。すごいプレッシャーだったけど、ちょうど焦っている小鉄の感じが出せるし、できれば本番にぶつけたいと思って。だから、クズダンスは、偶然の産物かもしれません。いい感じで小鉄の気持ち悪い感じが出せました(笑)。

MEGUMIさんや、中村さん、尾野(真千子)さん、俳優のアンサンブルも見事でした。

草彅 民家を貸し切って撮影したんですけど、冷房もなかったのでものすごい暑くて。首を氷で冷やしながらの現場かと思えば、夜の森の中のシーンでは、夏なのに寒くて、ストーブ焚いてたんですよ(笑)。苦楽をともにしたことで、みんな仲良くなりましたし、それがセリフのキャッチボールにつながって、お互いの間がうまく取れたと思います。

台風家族

市井 民家の門のあたりに屋根を張って、俳優部に常にいてもらったので、スタッフと俳優の距離が近くて、関係性が良かった。みんなで同じ目標に向かっていけましたよね。

草彅 監督、懇切丁寧でしたよね。一人ひとりに演出してくれて。僕は必死で聞きながら「暑いから早く帰りたいなあ」とジトーッと汗をかいていました(笑)。監督の奥さんも出ているんですよ。劇中劇といったらいいのか、ソンビになって襲い掛かるシーン。すごい狭いところで、奥さんとスタンバイして。屋根裏で尋常じゃない暑さで蒸し風呂状態でした。ちょっとしたシーンなのに、監督のこだわりが感じられました。

台風家族 市井昌秀 エンタメステーションインタビュー

後半は思わぬ展開になっていきますね。クズな一家に見えたのに、家族それぞれの事情が分かり始めて、だんだんジーンとさせられます。

草彅 思わぬ展開ですよね。一人ひとりの親や兄弟に対しての気持ちが、じんわり伝わってくると思います。いざこざがあったり、コンプレックスがあったり、鈴木家は全部ひっくるめて面白くて、微笑ましい。僕は、クライマックスで、きょうだいが親のことを必死に思う姿が大好きなんです。リアリティーとファンタジーが入り混じった「市井マジック」がかかっている、大好きなシーンです。ぜひ、そのときのみんなの必死な表情を観て欲しい。最後にはちょっとホロッとさせられます。

市井 本当にみんないい表情をしてくれました。終盤では何も言わなくても、それぞれが役になりきっていました。

台風家族 草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

草彅 この映画は、最後まで全員が出ずっぱりです。僕はラストシーンが一番好き。あそこに家族の本当の姿が表されているのかもしれない。僕も45歳になりましたので、両親に会うたびに年を取ったなと思う状況です。だから余計に響きました。

3週間限定公開とは言わず、もっと公開して欲しいという思いもありますが。

草彅 状況が状況だったので、公開できるだけでホッとして、うれしいです。スタッフ、俳優それぞれが人生を賭けてやっていたので、日の目を見ずに終わらなくて良かったです。『クソ野郎と美しき世界』は2週間限定だったから、それよりも1週間長いじゃないか! という気持ちです。それで十分って言っちゃうと、応援してくれている方々に失礼なのですが、とりあえず公開できてうれしいです。 

今年はファンミーティングもあって、稲垣吾郎さん、香取慎吾さんの主演映画も公開されました。ファンの期待も高いと思います。

草彅 同じ年に、3人それぞれの主演映画が、こうしてファンの皆さんの前でお披露目できることは、僕にとってもとてもうれしいです! 二人の映画を劇場に観に行きましたが、また、ひと皮もふた皮むけたなあ、新しいステージに立って表現しているなって刺激を受けました。二人はDVDを借りてきてよく観るんですけど、僕の映画は、ぜひとも劇場に行って観て欲しいと思います。

台風家族 草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

市井監督は、草彅さんにまた出て欲しいのではないでしょうか?

市井 ぜひ、また出て欲しいです! 草彅さんにはいろいろな面があって、こんな役をやって欲しいな!って、パっと思いつかないほど引き出しがありますから。

台風家族 市井昌秀 エンタメステーションインタビュー

どんな役を演じても、その役を自然に生きているようにしか見えない稀有な存在の俳優さんですよね。

草彅 ありがとうございます! そんな大きなお褒めの言葉をいただいて(ペコリ)。完成した映画を観て、いい映画になったなあと思いました。最初と最後、小鉄の娘・ユズキの目にも注目してください。「サイテー」だった家族が、最後にユズキの目にどう映るのか。ユズキの目に映った家族の変化を観て欲しいです。

最後に、40代半ばになって、いま、草彅さんご自身の芝居への思いをお聞かせください。

草彅 環境が変わってもうすぐ2年になるんですけれども、目の前のものに向かって全力で挑戦していかなければならないと思っています。大きな先のことを見据えるというよりも、こうやって縁あって声をかけてくれる関係者の方々と少しでも長く仕事をして、いい作品に出演したいと思います!

楽しみにしております。ありがとうございました!


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映画『台風家族』

9月6日(金) 全国ロードショー

台風家族

【STORY】
紙袋を覆面代わりに被った老人が地方銀行で2000万円を強盗。金ピカの宮型霊柩車で逃走し、妻と共に行方をくらました。強盗事件はあっという間にニュースになったが、老夫婦の行方も、霊柩車も、奪われた2000万円も不明のまま月日は過ぎていった──。
時は流れ2018年。台風が近づくある夏の日、鈴木小鉄は妻の美代子と娘のユズキを連れて実家へと車を走らせていた。10年前に銀行強盗をして世間を騒がせた両親の葬儀に参列するためだ。葬儀といっても、死体はおろか霊柩車すら見つかっていない。にもかかわらず形式的な葬儀をする理由は、きょうだいで財産分与を行うためだった。
すっかり朽ち果てた実家に一番乗りで到着したのは小鉄たちだ。葬儀屋を併設した古びた二階建ての日本家屋、表札には「鈴木一鉄」とある。店のシャッターには「盗人」「バカ」などとペンキで描かれ、当時の記憶がよみがえる。鈴木家の居間には2つの棺桶が並び、小さな写真立てには28年前の両親が映っている。
しばらくして長女の麗奈がやって来る。麗奈は両親の事件のせいで離婚、現在つき合っている男性はいるが独身だ。ほどなく住職の萬福寺さんがやって来て、“見せかけ”の葬儀が始まり、遅れて次男の京介も到着する。兄の小鉄とはあまり仲は良くなく、小鉄が遺産を独り占めしようとしているのではないかと勘ぐっている。残るは兄姉から可愛がられていた末っ子の千尋だが、なかなか姿を現さない。葬儀開催のハガキが届いていないのだろうか……。葬儀が終わっても千尋がやって来る気配はなく、仕方なく3人で財産分与についての話し合いをすることにする。
「預金や保険も一通り調べたけど、大した額じゃないから、遺産はこの家と土地だけだ」と、いかにも長男らしく振る舞いその場を仕切ろうとする小鉄。どんな仕事も長続きしない彼にとって「遺産」という二文字は何にも代えがたいほど魅力的だったのだ。おまけに少し前、勤務中に玉突き事故に巻き込まれてむちうちになり、首にはサポーター、頭には包帯が巻いてある。何としても遺された家や土地をお金に換えたい、一番多くもらいたい、というのが小鉄の本音だ。
財産分与について話し合う最中、玄関のインターフォンが鳴る。ようやく千尋が来たのだろうか? しかし、そこに立っていたのは千尋ではない、茶髪のチャラチャラした男だった。見知らぬ訪問者によって、話し合いは思いがけない展開に転がっていく。きょうだい同士がこれまで溜めてきた想い、小鉄とユズキの間にある親子の溝、そして10年前に両親が起こした強盗事件の背景に何があったのか? 刻々と台風が近づくなか、鈴木家にも嵐が渦巻いていた……。

出演:草彅 剛 MEGUMI 中村倫也 尾野真千子 若葉竜也/甲田まひる 長内映里香 相島一之 斉藤 暁/榊原るみ・藤竜也
主題歌:フラワーカンパニーズ「西陽」(チキン・スキン・レコード)
音楽:スパム春日井
監督 市井昌秀(『箱入り息子の恋』『僕らのごはんは明日で待ってる』『ハルチカ』)
配給 キノフィルムズ/木下グループ

©2019「台風家族」フィルムパートナーズ

オフィシャルサイト
http://taifu-kazoku.com/