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荒牧慶彦&大平峻也らが10年後の磯野家を描き出す。舞台『サザエさん』が明治座で開幕!

荒牧慶彦&大平峻也らが10年後の磯野家を描き出す。舞台『サザエさん』が明治座で開幕!

日本中で愛されているアニメ『サザエさん』の放送50周年を記念して舞台化された舞台『サザエさん』が9月3日(火)より明治座にて上演中だ。原作は1946年‎から‎1974年まで長谷川町子が新聞で連載していた漫画で、本作では、原作を元にしたアニメの物語の10年後の世界が描かれている。
脚本・演出は、劇団ONEOR8の田村孝裕が手がけ、日本の誰もが知る家族の本当の姿を描き出す。主人公のサザエ 役に藤原紀香、彼女の夫のマスオ 役に葛山信吾、息子のタラオ 役に大平峻也、母親のフネ 役には高橋惠子、父親の波平 役を松平 健が務める。さらに、サザエの弟のカツオ 役には荒牧慶彦、妹のワカメ 役に秋元真夏(乃木坂46)と齊藤京子(日向坂46)のWキャスト、飼い猫のタマ 役に酒井敏也も出演。
その舞台の初日がマスコミ陣に公開され、囲み取材も実施された。

※初日と囲み取材のワカメ 役は秋元真夏(乃木坂46)。

取材・文・撮影(囲み取材のみ)/ 竹下力


『サザエさん』は市井の人たちへの人間賛歌

1969年10月5日に放送が開始されたアニメ『サザエさん』。その後50年近くにわたり、時代の変遷に合わせながら、その時々の最先端の社会風俗を上手に取り込んで、毎週日曜日の夜7時、何十年と変わらぬ家族の風景を映し出してきた。頑固な父親がいて、それを支える優しい母親がいて、おっちょこちょいな娘がいて、兄妹がいて、お婿さんがいて、子供がいて、飼い猫がいて……。どこにでもいそうな家族の些細な日常生活は、時代によって観る者の目に変化はあるだろうが、通底して家族というものの繋がり、在り方に共鳴を呼んでいる。『サザエさん』は市井の人たちへの人間賛歌なのだ。

舞台ではサザエさん一家の、まさかの“10年後”が描かれる。アニメのように3話からなる形式をとっていて、舞台も3幕になっているが、それぞれの話が単体としてではなく結びつき、映画の3幕構成的な“序破急”を緻密に構成している。

1幕目の「10年後のサザエさん」では、磯野家の10年後の姿が主に紹介されていく。
海山商事に勤めていた波平(松平 健)は定年退職し、家で悠々自適な生活をしているが、どこか満たされない日々を送り、波平の妻のフネ(高橋惠子)は相変わらず家事に子供たちの世話に忙しいけれど、飼い猫のタマ(酒井敏也)とネコ語(?)で会話ができるという得体の知れない能力を身につけていた。
サザエ(藤原紀香)は元気一杯で前にも増しておっちょこちょいだけれど誰よりも家族想い、婿養子のマスオ(葛山信吾)は平身低頭な態度は変わらないまま、海山商事の部長に出世している。そして彼らの息子のタラオ(大平峻也)は受験を控えた中学生に成長しており、勉強好きで頭の良い真面目な少年となっていた。しかも、妹も誕生しているようで、その名はヒトデ(林間学校で登場はしない)。
一方、磯野家の長男であるカツオ(荒牧慶彦)は大学生だが、ろくすっぽ講義にも出ず、レストランのアルバイトに精を出し、次女のワカメ(秋元真夏)は服飾デザイナーになるべく、専門学校で猛勉強中だ。

時の経過は残酷なもので、かつては家族団欒の時を過ごしていた磯野家の幸せな食卓は、各々が事情を抱え、顔を合わせることさえなかなかない、すれ違いの日々となっていた。それを象徴するように、波平の誕生日を家族でお祝いしようとサザエが計画をするも、それぞれ算段をつけたはずなのに、仕事やアルバイトや授業で集まれず、苛立った波平は三河屋の三郎と呑みに行ってしまう。
第1幕では、すれ違う家族のセンシティブな姿がコミカルに描かれていた。

第2幕の「タマがいなくなった」では、それぞれの年齢成長がもたらす家族との距離感の変化が見えてくる。
波平が一大決心をして、家を売ろうとしているという噂が立つ。と同時に、マスオも、娘もタラオも成長したことだし、そろそろ家を出ようとサザエに相談をする。ワカメも自身がデザインした服が褒められ、学校の先生からフランスへの留学を勧められ、まんざらでもないと考え始めたところ。カツオは父への反発もあり、独り立ちしようと模索している。
それぞれの夢、これからの人生に向けて、家族が微妙にギスギスし始める。その矢先に、タマが突如としていなくなってしまう……。

第3幕は「磯野家の団欒」。家族一同でタマを探し回っていたが、どこにも見つからない……。一家の一大事と、ここ最近のすれ違いに、磯野家には重たく気まずい空気が流れていくばかり。そこで業を煮やした波平が事態を収束させるために家族会議を招集しようとする。そしてサザエの脳裏には10年前のあの頃が甦る……果たしてサザエは家族の幸せな団欒を取り戻せるのか──。

サザエは家族の団欒を取り戻そうと奔走する。気迫のこもった藤原紀香の芝居は、長谷川町子の描きたかった、家族を大切にする力強い女性像に迫っていて感動したし、葛山信吾が演じるマスオの、自分の息子にさえかしこまる芝居にはクスッと笑ってしまった。
また、高橋惠子は、いつでもどこでも良きお母さんというフネを凛と演じていたし、松平 健は、定年を迎えてどこか空虚になってしまった心を隠し、男たるもの弱みは見せずという古き良き“頑固親父”=波平を丁寧に演じていた。
さらにタマを演じる酒井敏也は、まさに演劇的仕掛で猫に見立てられ、“サザエさん一家”を俯瞰で眺めながら、何かしら思うところがあるという佇まいも可笑しくて、時折り見せるユルいギャグでは笑いを誘っていた。今回が初舞台となるワカメ 役の秋元真夏(乃木坂46)も台詞もしっかり立っており、なにより原作そのままの、真面目で一本気なワカメの性格を体現していた。

そして今作で大きな注目を集めるのが、タラオとカツオだろう。
特にタラオは、アニメでは3歳の設定だから、10年という歳月の変化はどのキャラクターよりも想像しにくい。本作ではとても優等生に成長したタラオを、演じる大平峻也が、ちょっとした反抗期も可愛く、それでいて父親と母親を懸命に愛している姿に私たちが知っているタラちゃんの面影も残して演じていた。どこか勇ましい少年、男らしくなっているのもポイントだ。

自立を願うまでに大人=青年になっていたカツオは、思うようにならない自分に苛立ち、思い悩む。能天気だった丸刈りのカツオが就職活動にも身が入らず、ひたすらアルバイトをしながら自分の居場所を探しているとは想像もつかなかったけれど、荒牧慶彦は私たちには見えない10年を埋めるような説得力のある芝居を見せてくれた。彼の不器用な苛立ちの表現は、アドレッセンスの青年そのもの。それでもカツオらしい悪戯好きでお調子者なところも残しつつ、原作と荒牧らしい解釈が融合したカツオを仕立て上げていたと思う。

誰もが年をとり、心も身体も変化してしまうのに、家族関係だけは“あの頃のまま”でいようとすることは不可能かもしれない。でも、この舞台を観ていると、果たしてそうなのだろうか、という疑問も生まれてくる。『サザエさん』が今でも愛されているのは、どんなに環境や生活が変化しても、家族が紡ぐ物語にいつの時代にも通じる普遍性があるからだと思う。家族というのはどんな困難があっても負けない永遠の共同体であり続けるのだ。そこで我々に必要なのは“対話”だと訴えているところに田村孝裕の作劇のうまさがあるだろう。“対立”を煽るのではなく“対話”へ。そういったメッセージは、戦争という未曾有の経験を経た長谷川町子の思想のような気もするし、歴史的作品でありながら、それを下敷きに現代社会へのメッセージも流れている。現代劇として何度観ても楽しめる仕掛けも随所に散りばめられた素晴らしい舞台だった。

アニメではなく、あくまで生身の人間の表現にこだわって

初日公演のあとには囲み取材が行われ、藤原紀香、葛山信吾、荒牧慶彦、秋元真夏(乃木坂46)、大平峻也、酒井敏也、高橋惠子、松平 健が登壇した。

まず初日公演を終えた感想を聞かれた藤原紀香は「演出家の田村先生のご指導のおかげで、細かく稽古をすることができて、本番で再現することができました。みなさんとのチームワークも良かったと思います」と語り、「初めはアニメに声を似せなければいけないという気持ちがありましたが、アニメではなく、あくまで生身の人間の表現にこだわって役づくりをしました」と役づくりについても触れた。

松平 健も「アニメという見本があるので、最初はそれに寄せていきましたが、どんどん自分のものにして、最終的に真似にならないように気をつけました」と述べ、高橋惠子は「アニメの10年後の世界ということで、どれくらい人間的に変わればいいのか試行錯誤していましたが、“10年経っても変わったつもりはありません”という台詞があったので、あえて変えないことを心がけました」とコメント。さらに葛山信吾も「僕も声優の声を頭に残したまま脚本を読んでいたのですが、稽古を重ねて演出家と相談しながら自分らしい役にシンクロさせていきました」と、皆が歴史あるアニメの舞台化に試行錯誤したことをのぞかせた。

大平峻也は「僕は2.5次元の舞台に出ることが多いのですが、日本の誰しもが知っているキャラクターですし、みなさんのイメージがあるので、いい意味で期待を裏切りたいと思って役づくりをしました」と明かし、荒牧慶彦は「“誰もが知る家族の、誰も知らない10年後”というテーマですが、子供の10年と大人の10年は大きな違いがありますよね。子供の10年は人格も大きく変われば顔つきも変わるので、自由に考えながら演じました」と話した。

秋元真夏は「初舞台が、まさか『サザエさん』でびっくりしていますが、みんなが知っているワカメちゃんが大きくなったらどうなるのかを考えながら、みなさんにいろいろ教えていただいて役をつくっていきました」と意気込み、酒井敏也は「最初に“ニャー”と言ったときに僕の役どころは通じたでしょうか?(笑)役づくりは知り合いの猫の動画を観せていただいて勉強しました」と笑いを誘った。

最後に藤原紀香が「みんなが知っている家族の誰も知らない10年後が、舞台『サザエさん』として明治座で始まりました。ぜひ劇場にいらっしゃってください」と締めくくり、囲み取材は終了した。

東京公演は9月17日(火)まで明治座にて、福岡公演は9月28日(土)から10月13日(日)まで博多座にて上演される。

明治座 9月公演 舞台『サザエさん』

東京公演:2019年9月3日(火)~9月17日(火)明治座
福岡公演:2019年9月28日(土)~10月13日(日)博多座

原作:長谷川町子
脚本・演出:田村孝裕

出演:
フグ田サザエ 役:藤原紀香
フグ田マスオ 役:葛山信吾
磯野カツオ 役:荒牧慶彦
磯野ワカメ 役:秋元真夏(乃木坂46)/齊藤京子(日向坂46)※Wキャスト
フグ田タラオ 役:大平峻也
タマ 役:酒井敏也
磯野フネ 役:高橋惠子
磯野波平 役:松平 健
三郎 役:山口森広
金太郎 役:瀬野和紀
西山 役:増田雄二
穴子 役:野依健吾
中島 役:宇乃 徹
みすず 役:鳥居ちゃちゃ
花沢花子 役:篠原初実
みゆき 役:佐藤玲羅

主催:フジテレビジョン・明治座

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@sazae_stage)

©長谷川町子美術館