山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 67

Column

ケヴィン・エアーズ / Am I Really Marcel ?

ケヴィン・エアーズ / Am I Really Marcel ?

社会・経済が進歩・発展を目指すとき、自然と個の営みはその歪みの中に嬲り棄てられる。
その暴力的なレースからいち早く離脱し、何にも縛られることなく「個」を奏で、自由を歌い続けたミュージシャン、ケヴィン・エアーズ。
半世紀以上前から鳴らされていた警鐘が爆音の渦と化したいま、冷ややかな情熱に貫かれた彼の音楽は、嵐の海を照らす灯台のように遠い光を発し続ける。


どうして彼に興味を持ったのか、きっかけは忘れてしまったけれど、初めて彼の音楽を聞いたときから、その「タッチ=感触」は僕に何かを問いかけてきた。

「どうして君はそんなにいつも頑張らなければいけないんだい?」

いい意味で地に足がついていない、独特の浮遊感。そこはかとなく漂う諦めの雲。それを動かす力は朴訥の風。当時、こころのアニキと慕っていたジョー・ストラマーの対極に位置するような人だった。矛盾するようだけれど、僕はどちらも好き。きっと、ジョーも彼の音楽が好きなんじゃないかな。人は自分がなれっこない姿に憧れるものだから。

闘わない、争わない、頑張らない、すぐに逃避、そして流浪。

イビザ島、マジョルカ島、モロッコ、エトセトラ。彼は若い頃にガールフレンドとともに放浪と逃避を繰り返した。そこで独特の無国籍感を手にしたのだろう。風になびく色鮮やかなインド綿のスカーフのように。

彼がロバート・ワイアットとともに在籍した英国カンタベリー発の伝説のバンド、ソフト・マシーン(1966年結成)は高く評価された。ジミ・ヘンドリックスの前座などで2度のアメリカツアーを行うが、スターになることにまったく興味のない彼は早々と離脱。ガールフレンドとともに、イビサ島に逃避する。

そこで自分を取り戻し、シンプルでちょっと歪んだ曲を書き始め、1969年にソロ・デビューを果たす。

彼の音楽の魅力は形容が難しい。唯一無二の脱力感。背骨のない軟体音楽。それでいて、どこかに歪んだところがあって、一度ハマってしまうと全面的に好きになる。

いくつか入り口としての曲をあげてみる。初期の「Stranger In Blue Suede Shoes」、「May I ?」あたりがいいかなぁ。朴訥でどこかがひねくれていて、さすがにソフト・マシーン出身だけあって、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのような先鋭的な部分もある。

アルバムとしては後期の2枚、『Falling Up 』(1988年)、『Still Life With Guitar』(1992年)が特別に好きだ。

1988年。初めての来日公演。僕は彼と盟友オリー・ハルソール(名ギタリスト。1993年没)に会わせてもらった。僕は24歳。やらせてもらっていたラジオ番組に来てくれたのだった。憧れていたから、もちろん緊張した。

ケヴィンは始めこそ、質問に応えてくれていたが、次第にあくびを止められなくなり、オリーさんがケヴィンの代理で話してくれる始末。英語で深い会話ができない僕が悪いのだけれど、後半は靴下を半分脱いで、退屈そうに足の裏を掻いてたっけ。

『悪魔の申し子たち〜その歴史的集会より』(1974年)というおどろおどろしいタイトル(邦題)のアルバムが好きで、サインをお願いしたら、とっても不機嫌になった。サインなんてもらった時点で、その人との関係が対等じゃなくなることをその時に学んだ。まさに若気の至り。だから、その後、誰かにサインをもらったことはない。

ちなみにそのアルバムはジョン・ケイル、ブライアン・イーノ、ニコ、マイク・オールドフィールド、オリー・ハルソール、ロバート・ワイアットなど錚々たるメンツによる素晴らしいライヴ盤で、“悪魔の申し子たちの歴史的集会”では決してない。

翌日のライヴ。ケヴィンはギターを自分で背負うことすらしなかった。オリーさんが彼の肩にかけてやるのだ。まったく、どこまでダメなんだか。でも、音楽は素晴らしい。

ポジティヴさが皆無のステージから、独特の浮遊感と脱力感が生み出される。強いて形容するなら、ひどくやる気のないダニエル・ラノワみたいな。でも抜群に歌心がある。あれからもう30年も経ったけれど、あの空気感は唯一無二。忘れられない。

2013年2月18日、ケヴィンはフランスの自宅で亡くなった。68歳。枕元には「燃えないと、輝くことはできない」というメモがあったのだと。彼が輝こうとしたことなんて、あったのだろうか? それともこころの底では静かになにかが燃えていたのだろうか? あるいは僕らを煙に巻いたのか? その言葉の深さを未だに理解できずにいる。

スペインで録音されたアルバム『Falling Up』(1988年)に収録されている名曲「Am I Really Marcel?」。この曲には彼の本質が描かれていると思うから拙訳(意訳)で紹介する。

Am I Really Marcel? / Kevin Ayers

I’ve got no ambition, guess I’m out of place

野心なんてあるわけもなく いつも場違い

Cos I’d rather go fishing than run in the race

人生のレースで走らされるより 釣りをしていた方がマシだ

I’m naturally lazy but what can I do?

生まれつきの怠け者に いったい何ができる?

I was born in the wrong place, wrong time too

わたしは間違った時代に 間違った場所で生まれたのさ

Just working for money working for pay

金のために 支払いのために働くこと

All seems so pointless day after day

来る日も来る日も 無意味に感じている

I’m happy dreaming and it’s good for my health

夢を見ているときは健康的で

And only when I’m dreaming am I really myself

夢を見ているときだけは自分でいられる

Some people say it’s just running away

逃避と言われることもある

But then everyone’s running somewhere

でも誰もがどこかへ走っている

And I still believe that the best we can do

それでも信じている。私たちができる最善のことは

Is to know where we are and be there

私たちがどこにいるかを知り そこにいること

For what we call progress

進歩と呼ばれるもののために

We’re selling our soul

私たちは魂を売り続けている

And there’s just too much going on out there
Beyond my control

わたしのコントロールを超えて

感謝を込めて、今を生きる。


Kevin Ayers / ケヴィン・エアーズ
1944年、英国ケント州ハーン・ベイ出身。6歳から12歳までをマレーシアで過ごし、ケント州に戻ってエセックスのハイスクールに進学するが、16歳で中退、放浪の旅へ。各地を転々とした後、18歳でロンドンからケント州に戻り、州都カンタベリーに居住。ロバート・ワイアットやマイク・ラトリッジ、デヴィッド・アレンらと出会い、前身のバンドを経て1966年、ウィリアムズ・バロウズの著書の名を冠したソフト・マシーンを結成。初期の英国サイケデリック・ムーブメント、カンタベリー・ミュージックとして注目を浴びる。ジミ・ヘンドリックスの前座で二度の米国公演を行った後、精神を消耗し、1968年12月にバンドを脱退。ガールフレンドとともにイビサ島へと隠遁。翌1969年に『Joy Of A Toy / おもちゃの歓び』でソロ・デビュー。以降、ソロやバンド(ザ・ホール・ワールド)形態でコンスタントにアルバムをリリースする。1974年6月に行ったライヴを収録した『June 1,1974 / 悪魔の申し子たち〜その歴史的集会より』は、ワイアットやマイク・オールドフィールドのほか、ブライアン・イーノやジョン・ケイル、ニコらが参加し、話題を呼んだ。1988年から2004年まで計4回の来日公演を行っている。
1990年代半ばにイビサ島から英国に戻り、その後フランス南部に移住。2013年2月18日逝去するまで終の住処とした。最後の作品は『The Unfairground / アンフェアグラウンド』(2007年9月リリース)。


『Shooting At The Moon / 月に撃つ+6』
Progressive Rock SHM-CD Collection 1300
WPCR-15525 ¥2,400(税別)/ワーナーミュージック・ジャパンより発売中
自身のバンド、ザ・ホール・ワールドを率いて録音した2作目(1970年発表)‬‬。マイク・オールドフィールドやデヴィッド・ベッドフォード、ロル・コックスヒルらが参加し、実験性とポップの融合を極めた傑作。「May I ? / メイ・アイ」から「Shooting At The Moon / 月に撃つ」までオリジナル9曲に未発表曲(当時)やシングル曲、BBCのインタビューを追加した紙ジャケット仕様の復刻盤。

『Whatevershebringswesing / 彼女のすべてを歌に』
「Stranger In Blue Suede Shoes / ブルー・スエード・シューズの異邦人」を含むソロ3作目(1971年発表)。輸入盤は1999年リマスタリングの8曲入り。国内盤では同曲のレアテイクを収録した12曲入りも(現在は廃盤)。マイク・オールドフィールドらが参加。実験的で革新的なギター、牧歌的なピアノやフルート、気だるく浮遊感漂うヴォーカル、吟遊詩人のようなリリックが秀逸。‬‬

『JUNE1,1974 / 悪魔の申し子たち~その歴史的集会より』
KEVIN AYERS/JOHN CALE/ENO/NICO / ケヴィン・エアーズ ジョン・ケイル イーノ ニコ

UICY-25575 ¥1,851(税込)/ユニバーサル・ミュージックより発売中
1974年6月1日に英国ロンドンのレインボー・シアターで行われたケヴィン・エアーズ、 ジョン・ケイル、 ブライアン・イーノ、ニコによる歴史的コンサートの模様を記録したライヴ・アルバム。マイク・オールドフィールド、ロバート・ワイアット、オリー・ハルソールらも参加した記念碑的作品(1974年発表)。‬‬

『Falling Up / フォーリング・アップ』
Virgin Recordsと契約して1988年にリリースしたソロ13作目。コリン・フェアリーのプロデュースで、スペインに暮らしながら盟友オリー・ハルソールやスペインのミュージシャンたちと作り上げた。1988年度のミュージック・マガジン誌の年間ベスト・アルバム英国ロック部門1位。‬‬

『Still Life With Guitar』
1992年発表のソロ14作目。ライヴ録音のような、生ギター中心の弾き語りアルバム。録音にはオリー・ハルソール、マイク・オールドフィールド、ダニー・トンプソンらが参加。リリース後のツアーでハルソールが急逝し、彼との最後の作品となった。人生の奥深さや無常さを歌う詩の世界は圧巻。新装ジャケット、ボーナス・トラック付きのリマスター盤(輸入盤)。‬‬


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多岐にわたり、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。バンド結成40周年となる今年、これまで以上に精力的にライヴとレコーディングを行っており、9月23日開催のHEATWAVE SESSIONS 2019 “the boy 40”@東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEでは最新シングルを先行リリースする。3月から全国を廻ってきたソロ・アコースティック・ツアー“the boy 40 tour”も10月10日福島、12日岩手でいよいよファイナルを迎え、11月からはHEATWAVE結成40周年全国ツアーがスタートする。

オフィシャルサイト

ライブ情報

New Acoustic Camp 2019 *イベント出演
9月14日(土)水上高原リゾート200(トゥーハンドレッド)
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HEATWAVE SESSIONS 2019 “the boy 40”
9月23日(月・祝)東京 duo MUSIC EXCHANGE
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山口洋(HEATWAVE)the boy 40 tour
10月10日(木)福島県いわき市 Music Bar burrows(バロウズ)
10月12日(土)岩手県奥州市 おうちカフェMIUMIU(ミゥミゥ)
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HEATWAVE 40th Anniversary TOUR 2019
11月10日(日)高松オリーブホール
11月16日(土)長野ネオンホール
11月17日(日)仙台 CLUB JUNK BOX
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リクオ スペシャル・ライブ「グラデーション・ワールド」 *ゲスト出演
11月26日(火)下北沢 GARDEN
出演:リクオ with HOBO HOUSE BAND
ゲスト:古市コータロー(ザ・コレクターズ)/ 山口洋(HEATWAVE)ほか
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