Review

いま一番熱いVRゲーム『東京クロノス』が開くアドベンチャーの新境地

いま一番熱いVRゲーム『東京クロノス』が開くアドベンチャーの新境地

通常のゲームなら電源を入れてコントローラーを持てばゲームスタートだが、VRの場合はそうはいかない。なかなか面倒な下準備を経て、ようやくゲームを遊ぶ感じだ。PlayStation®VRの場合もカメラやゴーグルなどをゲーム機に取り付け、ゴーグルを被って視点を調整する。狭いスペースでは十分に楽しめないので、事前に広めの環境を整える場合もあるだろう。不精な筆者などはこの過程があるため、最近はよほど面白そうなVRゲームでなければ遊ぼうという気分にならない。実際さまざまなVRゲームが出始めた頃は積極的に遊んだり、レビューを書いたりしていたが、最近ではその数もめっきりと減っている。そんな筆者が、これはVRで遊んでみたいと感じた久々の作品が『東京クロノス』である。ちょっと特殊なプラットフォームに人を引き込む“つかみ”がこれほど強烈な作品は滅多にない。

文 / 浅葉たいが


この作品の本気度を知ったら、遊ばずにはいられない

どういった“つかみ”に引き付けられたのか。個人的な体験について語らせてもらおう。なお、念のため伝えておくと、VRの画像を撮影したため、画面端が歪んでいる場合もあるがご容赦いただきたい。
本作の情報は得ていたが、筆者がビジュアルを初めて見たのは徳島県で行われている“マチ★アソビ”というイベントでのこと。このイベントは徳島県内の商店街を会場として多くのメーカーが出展し、ぐるりと巡るだけで多数のゲーム、アニメが目に飛び込んでくる。そこでふと見つけたのが、本作のキャラクターが描かれた大きなポップだった。キャラクターデザインを務めているのは人気イラストレーターのLAM氏。ひと目見ただけでぐっと惹きつけられるカラフルなキャラクターたちは、物語や設定などを知らなくてもパーソナリティが伝わってくるかのような存在感を放っていた。VRのゲームであるということを知るまえに、彼らが登場する作品に触れてみたいと感じた。

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲『東京クロノス』の主人公である櫻井響介。プレイヤーは、彼の視点を通じて物語に触れることになる

スタッフについて調べてみると、プロデューサーは『ソードアート・オンライン』のキーマンのひとりとして知られる三木一馬氏。シナリオはミステリー作家の瀬川コウ氏や小山恭平氏らが務めているという。声優陣も豪華で、アニメなどで名前を見かけたことがあるキャストが中心。オープニングテーマは藍井エイル氏。エンディングはASCA氏だ。クラウドファンディングを実施し好評を博した作品であるということは知っていたが、多くの著名クリエイターが関わっていることを知って驚いた(この豪華さにあぐらをかかず、マチ★アソビのステージでは熱心で丁寧なPRが行われていたのも印象的だった)。新規IPを広めることが難しい時代だからこそ、入念に人の興味を引くフックをさまざまにつり下げたのだろう。そしてこのゲームのプラットフォームが、VRという挑戦的なニューステージときたら“遊びたくなる“気持ちが億劫さよりも勝る。こんなにも強烈なつかみを持つ作品を知ってしまったら、遊ばないわけにはいかないのだ。筆者も、その日一緒にマチ★アソビを回っていた友人たちも、すぐにOculus版を導入することに決めた。
どうですか、皆さんも『東京クロノス』に興味が湧いてきたのでは? もし興味が湧いたのなら、比較的導入の簡単なPlayStation®VR版が発売されたこの機会に遊んでみてはいかがだろうか。本稿も発売されたばかりのPlayStation®VR版をもとにして進める。

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲豪華制作陣とキャストによって作り込まれた挑戦的作品

本作の主人公である櫻井響介は東京都・渋谷で目を覚ます。いつもなら多くの人で賑わうはずの渋谷は閑散としており、自分以外の人影がない。異常事態に緊張しつつも街を探索すると、懐かしい顔ぶれの幼馴染たちと再会することになる。主人公と兄弟のように育ってきた元気溌剌な桃野夕。クールで物静かでなかなか心を開かない二階堂華怜。若くして天才物理学者として名をはせる東国ユリア。政治家の息子であり、生徒会長として凛々しい存在感を放つ神谷才。そんな神谷に心酔し、生徒会書記としてサポートに徹する両角愛。引っ込み事案だが、実は誰よりも周りを見ていて、人の気持ちに敏感な蔭山哲。ムードメーカーとして元気と明るさを振りまく街小路颯太。同世代である8人の幼馴染たちはかつて、何をするにも一緒というくらい仲が良かったはずなのに、再会した彼らからはいくつかの記憶が抜け落ちている。“いつの間にか疎遠になっていた”ことを自覚しつつも、その原因となった出来事については霧がかかったかのようにぼんやりしているのだ。閉じた渋谷のなかで、限られた記憶を持ち寄った彼らは異常事態に対して考察を開始する。

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲左から桃野夕、東国ユリア、両角愛、神谷才、蔭山哲。背景は本作の舞台である渋谷のスクランブル交差点

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲一番左が二階堂華怜、一番右が街小路颯太。こちらの背景は、スクランブル交差点から渋谷駅方面を向いたもの。主人公視点のため、通常は7人の姿しか見られない

彼らは旧交を取り戻して打ち解けはじめ、渋谷に閉じ込められていることを悟る。ライフラインこそかろうじて生きているが、周囲が“壁”のようなもので覆われているのだ。そんな状況で突如、「私は死んだ。犯人は誰?」という強烈な問いが渋谷のスクランブル交差点にある大型ビジョンに掲げられる。現実的ではない唐突なメッセージだが、問いの主は誰なのか、そして問いの主が死んだとしたらその犯人は誰なのか。この謎を解き明かすことが、時の止まった渋谷から抜け出す方法につながるということが徐々に明らかになっていく。これが、『東京クロノス』の物語の“つかみ”である。プレイヤーは、皆を信じて疑わない主人公の視点を通し、すべての人物に目を光らせながら、謎を追いかけていくことになる。この冒頭のシナリオを知ると“仲間だと思っている人物のなかに敵が潜んでいる”という展開を予想するかもしれないが、本作の物語はそう単純ではない。本作のジャンルは公式によるとミステリーアドベンチャーとなっているが、人と人との関係性を丁寧に描き、記憶とともに修復されていく絆やもう戻れない時間への憧憬など、“驚き”だけではない部分にも魅力が詰まっている。実際、世界設定だけの話でいくと、物語を読むことに慣れているプレイヤーであれば、序盤の時点で本作の真相に気づくことも多いはずだ。登場人物の“誰が犯人か”という部分についても、この手のゲームではプレイヤーは全員を疑っているため身構えていればそれほどの驚きはない。ただ、こうした事実を推測したうえでも登場人物一人ひとりの心の動きが明かされる終盤には、ぐっときてしまう。封鎖空間に犯人を含むグループで閉じ込められるという設定だけを見ると、サバイバルやデスゲームを想像するかもしれないが、本作は壮大な再生の物語でもあるのだ。ネタバレを避けるために抽象的な表現になってしまうが、筆者は本作の持つ“優しさ”の部分に心を揺さぶられた。

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲主人公たちに接触してくる謎の人物ロウは、自らを9人目の幼馴染だったと名乗る。しかし、8人は彼のことを覚えておらず、彼の言動に振り回されることになる

VRが描く、リアルとゲームの交差点

優れたアドベンチャーゲームをレビューした文章で、“没入感がある”というフレーズを見ることがある。この表現は物語を読み進めていくうちに作品に引き込まれ、他のことを忘れてプレイしているような感覚を指すのだろう。しかし、本作の場合はプレイヤーが遊び始めた時点で、VRという表現によって強烈な没入感をもたらしてくれる。主人公の目線から見る他のキャラクターとの距離感の表現がVRによって高いレベルで成し遂げられており、ときどきキャラクターの息遣いが聞こえてくるかのような臨場感があるシーンも多い。全体にわたってVRが活かされているという形ではないが、女性キャラクターとのイベントではVRならではの表現を駆使し、プレイヤーの心を掴んでくる。

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲キャラクターとの距離感を表現するため、あえて特殊なパースで描かれたシーンも多い

渋谷というメジャーな場所を舞台にしたことで、リアルとゲームが融合しているような感覚に陥ることもある。実際の渋谷を再現しようと努めた『東京クロノス』のVR表現からはリアルを感じる。そしてその前面に登場するキャラクターたちからは、2次元と3次元の間である“2.5次元”のような雰囲気が感じられる。カラフルな髪の色、パーソナリティを乗せた服の着こなしなどがアイコンとなり、ひと目でだれかわかるキャラクターたちは、エンターテインメントの登場人物としてこのうえなく魅力的だ。キャラクターが複数並んだときのコントラストなども実に見事で、ついつい画面を見回してしまうこともある。

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲ゲームをある程度進めると、キャラクターと背景を選んで鑑賞できる“ヴァーチャルフィギュアモード”が解放される。ひととおり遊んでみたが、他のプラットフォームとの差になるのはこの部分だけなので、物語を楽しむだけなら身近なVR環境で遊んでみるといいだろう

没入感を支えるのは表現の部分だけではない。本作はVR作品なので目のまえだけでなく、左右上下に視点移動することが可能だ。本作はフルボイスのテキストアドベンチャー形式で、キャラクターの台詞や心情描写もテキストとして表示されるが、これらがプレイヤーの視点にある程度追従してくる仕組みとなっている。つまり、誰かと話しているときに違うところを向いたとしても、テキストは追いかけてきてくれるのだ。この仕組みがあるため、ストレスなくテキストを読み進められるのも嬉しいところだ。テキストアドベンチャーというある程度定型化した仕組みを持つ作品を、VRに最適化しているのは見事。VRゲームで起こりがちな疲れや酔いへの配慮か、“VRをほどよく駆使”しているのも偶然の産物ではなさそうだ。本作の表現はなにがなんでもVRというわけではなく、ここぞというときにVRの特性を活かしてくるようになっている。筆者は、1周目のプレイをほとんど休むことなく進めてしまった。

と、手放しで没入感について褒めたが、すべてのルートを見るために必要な周回プレイをする場合はちょっとひっかかる部分もある。それは、スキップ機能が使いづらいところだ。本作には既読シーンスキップ機能があるものの、この機能はシーンを丸ごと飛ばしてしまうため非常に使いにくい。そのうえ、テキストだけを早送りしようにもボタンを押すごとにテキストが進む形式となっているため、2周目のプレイではボタンを連打したくなるシーンが多かった。ボタン押しっぱなしによる既読スキップなどがあれば、2周目も快適にプレイできたのではないかと感じている(ここまで作り込んだ作品だと、些細な粗がどうしても気になってしまう)。こうしたストレスを避けたいという人は、難しいことは考えずに“選んだことのない選択肢をすべて選ぶ“というプレイスタイルで臨むといいだろう。このプレイスタイルでいけば、比較的簡単にすべての物語を目撃することができる。

東京クロノス エンタメステーションゲームレビュー

▲スキップ機能はやや使いにくい。シーンスキップを選んだあとも”はい“と”いいえ“の選択画面が出現し、選択までにひと手間あるため周回プレイのテンポは悪い。操作の部分がさらにVRに最適化されれば、作品の純度は上がるだろう

本作は制作の過程においてクラウドファンディングを成功させ、ファンミーティングなどのイベントも賑わう、熱量の高いファンに支えられている作品でもある。発売まえから大きな盛り上がりを見せていたが、発売後はさらにその熱を高め、魅力を発信するユーザーがあとを絶たない。遊ぶと、語りたくて仕方がなくなる作品。それが『東京クロノス』なのだ。
筆者もプレイを終えたあと、ネタバレ全開で感想を語り合い、「ここはこうだったのかな」などと考察めいたものを展開する仲間が欲しくなった。本稿もこの欲求のもとに書かれている。本作の周辺が盛り上がれば新しい展開が生まれる可能性もある。個人的には、これだけキャラクターが魅力的で関わるスタッフも豪華な作品なのだから、ゲーム以外の媒体でも彼らの活躍を見てみたい。
VRとテキストアドベンチャーの強みを活かした『東京クロノス』には十分に満足させてもらった。VRの魅力については先に書いたが、テキストアドベンチャーの持ち味である選択肢による“分岐”を設けたところも見逃せない。本作は分岐の数こそ少なめだが、分岐で見られるシナリオのボリュームは分厚く、“選択による結果”としての手ごたえは十分だ。ゲームで楽しむ物語には分岐があるほうがわくわくする。プレイヤーはこのゲームのなかで、いくつかの可能性を目撃することになるだろう。
他の媒体の『東京クロノス』が出るとしたら、それぞれのプラットフォームの強みを活かしたものが出てくることを願っている。第一弾としてスピンオフ小説『渋谷隔絶 東京クロノス』が発売されたが、これも大変良かった。先にゲームをプレイしていたから状況が目に浮かぶようなシーンもあり、それでいてゲームとは違う物語に驚かされた。どんどんこういう展開を見たい。できればアニメでも、と思うのはちょっと気が早すぎるだろうか。

フォトギャラリー
東京クロノスロゴ

■タイトル:東京クロノス
■メーカー:MyDearest Inc.
■対応ハード:PlayStation®VR、STEAM VR、oculus
■ジャンル:VRミステリーアドベンチャー
■対象年齢:15歳以上
■発売日:発売中(2019年8月22日)
■価格:パッケージ版・ダウンロード版 各4,980円+税

※PlayStation®VRおよびPlayStation®Cameraが必要です。


『東京クロノス』オフィシャルサイト

©2018-2019 Project TOKYO CHRONOS. All Rights Reserved.