Interview

カンヌ受賞の喜びを深田晃司監督と太賀が語る『淵に立つ』

カンヌ受賞の喜びを深田晃司監督と太賀が語る『淵に立つ』

映画『歓待』(11)で東京国際映画祭日本映画『ある視点』作品賞とプチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。続く、二階堂ふみがヒロインを演じた『ほとりの朔子』(14)ではナント三大陸映画祭グランプリと若い審査員賞をダブル受賞した深田晃司監督が、最新作『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を獲得。本作は金属加工業を営む夫婦のもとに突然ひとりの男が現れ、奇妙な共同生活が始まったことで、それぞれが抱える秘密があぶり出されていく人間ドラマ。36歳という若さでカンヌに初参加にして、公式部門へのノミネートのみならず、見事に受賞を果たす快挙を成し遂げた深田監督と、本作の物語の後半にキーパーソンとして登場し、彼を“特別な存在”と語る太賀の出会いから現在にいたる道のりを聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 冨田 望

最大の見どころは俳優のセッションにある

先週の土曜日に映画『淵に立つ』の初日を迎えた心境から聞かせてください。

深田 2006年にシノプシスを書いてからずっと撮りたいと思っていた作品なので、いいキャスト、いいスタッフに恵まれて、こうして一本の映画として完成したことだけでも奇跡のようなものだと思ってます。しかも、映画祭での評価もいただけた。まずは無事に初日を迎えられて良かったですね。

太賀 僕にとって深田さんとの仕事は、特別な意味があって。今回が2回目なんですけど、映画『ほとりの朔子』で、深田さんにそれまでの自分の役者のキャリアとしては考えられないような世界に連れて行ってもらったという思いがあるんですね。そんな深田さんの作品にまた参加できて、さらに海外からの評価もいただいた映画をみなさんに観ていただけることを、とても嬉しく思ってます。

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太賀さんの言う「特別な意味」というのは?

太賀 『ほとりの朔子』の現場で、それまでに感じたことのない時間を過ごしたんですよね。当時は深田さんに演出をかっちりとしてもらってて。いままでの自分の教科書にはないものがいっぱい出てきたというか。例えば、「もうちょっと、相手の言葉をちゃんと受けてください」っていうことを何度も言われて。それは今、違う現場に行っても自分の芯にあるものなんです。そういう気づきを与えてくれたのがひとつと、僕にとっては、個人賞をいただけた初めての作品でもあるんです。それって、「君は役者だ」って誰かに認めてもらえたような喜びがあって。そういうものを与えてくれたのは深田さんだったし、つねに新しいステージに連れて行ってくれる方だと思っていて。

深田 「TAMA映画祭」だっけ? 最優秀新進男優賞。

太賀 そうです。だから、頭上がらないんですよ(笑)。

深田 いや、それは太賀くんの実力でしょう。

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本作ではカンヌ国際映画祭『ある視点』部門で審査員賞を獲得しました。

深田 本来は出品作として選ばれるだけで光栄な場所なので、そこで賞をもらえたのは運が良かったなと思います。上映後のオーディエンスの反応や現地メディアの取材の熱が結構高かったので、プロデューサー陣はいけるんじゃないかっていう期待はしていたみたいですけど、監督としては賞をもらえて嬉しいなということよりも、今後にとってプラスになるなというほうが大きくて。もともと映画祭というものは、いわゆるわかりやすいハリウッド的なエンターテインメント作品ではない、作家性の強い映画がちゃんと自立していけるように後押ししていくための場所なので、そういう意味では、今後、映画を作りやすくなったなって思います。

太賀 実は、僕もちょろっとだけ、弾丸で行ったんですよ。どうしてもスケジュールが合わなくて、レッドカーペットや舞台挨拶には立ち会えてないんですけど、深田さんが現地レポートのようなメールを送ってきてくださって。「カンヌは映画人としてはとってもいい経験になるはずだ」っていうメールが届いたので。

深田 煽りましたね。とにかく焚きつけようと思って。

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太賀 いや、本当に、それを言われたらもう、いてもたってもいられなくなって、行っちゃいました(笑)。だから、本上映は見れなかったんですけど、世界中の批評家が集まる上映会を観せていただいて。観終わったあと、拍手が起こったんですよ。

深田 それはたぶん、かなり珍しいよ。いわゆるマスコミ試写で、向こうのバイヤーが観ているから。彼らはいわば、魚市場に魚を見に来るような感じだからね。例え魚が美味しくても、自分の店に合わないのなら買わない。そんな感じで出たり入ったりする場所なので、そこで拍手が起こるのはかなり珍しい。

太賀 ほぼ満席で、2割くらいは席を立つこともあったけど、結構な数の人が残ってましたよ。観終わったあと、ちょっと興奮した感じで「アーユーアクター?」って話しかけられたから、「イエス!」って答えて。「ハーモニウム(海外タイトル)、グッド!」とも言われて。深田さんが“世界の深田”になった瞬間が見れて、嬉しかったですね。

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それはとてもいい経験でしたね。ここで改めて、深田監督に太賀さんをキャスティングした理由をお伺いしたいと思います。

深田 シノプシスは太賀くんと『ほとりの朔子』でお仕事をする前、2006年には書いていたんです。でも、『ほとりの朔子』の撮影が終わって、この企画をふと思い出したときに、孝司役は太賀くんでいこうっていうのはなんとなく決まっていたんですね。『ほとりの朔子』でやってもらった“孝史”という役を引き継ぐ形で太賀くんにやってもらった理由のひとつに、まず、太賀くんの受けの芝居のうまさがあったと思います。我の強い演技をガンガン押し出していくタイプの俳優さんで魅力的な人もいると思うけど、太賀くんはちゃんと自分を持ちながら、周りの共演者のお芝居を受けて、すごくナチュラルにそこに立っていられるのが良くて。あと、今回の孝司は、いいやつであることっていうのが大事だった。利雄と妻の章江にとって、いわば、自分の恨みの対象である青年がいいやつだったら困るよなって。もしもそれがいかにも悪いやつや不良だったら、思い切り責められるけど、いいやつだと、う〜ん……ってなっちゃう(笑)。その役には太賀くんが適任だなと思い、自分の中で最もグッド・ガイな俳優である太賀くんにお声がけさせていただきました。

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太賀 ありがとうございます。役者はどうしたって待つしかできないんですよね。作品を選ぶにしても、声をかけていただかないと始まらない。それに、『ほとりの朔子』で感じた、深田さんとの出会いの大きさというのは、あくまでも僕の主観で、深田さんにどう思ってもらえてるのかはわからないじゃないですか。だから、役者として、ご自身の作品にもう一回、声をかけていただけるっていうことは、ものすごく嬉しいことなんです! だからこそ、絶対に大きな力で返していきたいし、できる限りをやりたいって思ってましたね。

 

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