Interview

カンヌ受賞の喜びを深田晃司監督と太賀が語る『淵に立つ』

カンヌ受賞の喜びを深田晃司監督と太賀が語る『淵に立つ』

無自覚な怖さっていうのを表現できればいいかなと思ってました

2年ぶりに現場で顔を合わせてどんなことを感じました。

深田 役者としてはもちろん成長しているけれども、感覚はまったく変わってない。「そうそう、これ」っていう感じでしたね。僕は、2年前から太賀くんを当て書きしてるから、逆にやさぐれていたりとか、変わっちゃってたら困るっていう。「あれ、こんな感じになっちゃったの?」って(笑)。そういう意味では、当て書きも超えてくれたと思います。章江役の筒井真理子さんと太賀くんが絵を描きながら話すシーンがこの映画の中で一番好きなシーンなんですよ。あの二人の対話は勝手に映画史に残るカットバックだと思ってます。

太賀 (感慨深そうに)あぁ……嬉しいです……。僕はやっぱり怖かったんですよ。2年前の僕を見て声をかけてくださって。監督は「変わってない」と言ってくれましたけど、いろんな経験を積んでしまっている以上、あの頃とは、いい意味でも悪い意味でも違うっていう自覚があって。だから、監督が求めてくれていることを超えることが絶対条件だと思っていたので、現場でのやり取り、ひとつひとつに心臓がバクバクしてました。

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(笑)。前作では丁寧な演出をつけたとのことでしたが、今作ではどんな演出をされました?

深田 今回は当て書きしている強みもあったので、基本的には何も言ってないですね。まずは太賀くんの自由にやってもらったと思ってます。

太賀 そうなんですよ。がっつりディスカッションがあったとか、ガチガチに演出をつけるっていうことがまったくなかったから、逆に「何も言われないけど大丈夫かな?」って不安になってきて。だから、一度だけ相談したら、「大丈夫です。脚本がすべてだから脚本を信じてほしい」っておっしゃってくださって。それが、自分が演じるうえで明確なベクトルになってましたね。初めて本を開いた段階からすごく面白いって素直に感動したし、素晴らしい脚本と監督に導かれてここに立っていると思えば、何も怖いものはないって思えた。あのひと言で迷いが消えましたね。

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深田 どの日に言ったかは覚えてないんですけど(笑)、自分が答えそうなことではありますね。僕は現場でがっつり演出をつけて俳優をコントロールしていくっていうタイプではなくて。まず、自由にやってもらいたいとつねづね思っているんですね。むしろ、監督の演出は現場からではなく、脚本から始まると思ってやっていて。脚本がしっかりと書けていれば、今、このキャラクターは怒っているのかもしれないとか、嬉しいのかもしれないとか、寂しいのかもしれないとかがちゃんと観客も想像できるはずだと思っているし、それを信じて書いてる。それができていないと、脚本の足りない部分を俳優がフォローしなくちゃいけなくなっちゃうんですね。自分が怒ってることを演技で説明しなきゃいけなくなってくる。それを僕は「俳優の荷物が増える」っていう言い方をしてるんですけど、そうなると俳優さんが自由に動けなくなるし、何かを説明している芝居っていうのはヘタな芝居に見えちゃう。だから、俳優さんが自由に演じられるためにも脚本にしっかり作らなきゃいけないっていう思いが「脚本を信じてください」っていう言葉に繋がってるんだと思います。

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太賀さんは物語の後半だけに登場します。前半の浅野忠信さん演じる八坂と対となるキャラクターですが、どう演じようと考えていました?

太賀 僕は前半と後半の内容を知っているし、浅野さんがどんなお芝居をしてくるかっていう想像はするわけじゃないですか。そのうえで、同じアプローチでは太刀打ちできないし、観客のみなさんにも楽しんでもらえるとは思えなかったので、まったく違うアプローチでいこうっていうことを決めていて。意識したのは、さっき監督が言った「いいやつである」っていうこと。自分が置かれている状況と、自分の意識はズレているなかで、無自覚な怖さっていうのを表現できればいいかなと思ってました。自覚はないんだけど、とてもオフェンシヴな存在であるっていうことを頭において現場に入ってましたね。

深田 前半を終えてから後半の撮影までに1ヵ月のスパンがあったので、仮編集をしたんですよ。太賀くんには見せてないけど、「これはすごいものになってるぞ」っていう確信があったので、こっちとしては、「後半、大丈夫かな?」っていうのがあって(笑)。前半がこんなに面白くなっちゃうと、後半ちょっとでも落ちたら尻つぼみになっちゃうじゃないですか。浅野さんもメイキングで「あとは任せたぞ、太賀くん」っていうプレッシャーをかけてましたけど、しっかりと想像を越えていきましたよね。浅野さんの印象が後半にもいい感じで残りつつ、太賀くんの芝居と混じり合ってる感じが良かった。完成した作品を観た浅野さんも「後半が面白くて悔しい」って言ってましたね。

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太賀さんは前半を観て、どう感じました?

太賀 安い言葉になっちゃいますけど、「浅野さん、えらいことになってるな」と思いましたね。浅野さんの作品はほとんど観てますけど、「久々にヤバいな、怖すぎなんですけど!」って。

深田 あははは。黒沢清監督に「浅野さんのこの手の役の決定打だ」っていう言葉をいただけたのも嬉しかったですね。

表面上にはまったく出してないんですけどね。笑顔も多かったですし。

太賀 それでも、というか、だからこそ、馬鹿みたいに怖いんですよね。ビジュアルもそうだし、醸し出す雰囲気、言葉、ひとつの目線、すべてをひっくるめた得体の知れなさが圧倒的で。「うわ、このあと、俺かー」って思いました(笑)。でも、後半も面白いですよ!

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それは間違いないですね。ネタバレになってしまうので詳しくは話せないのが残念ですが、心がざわつく作品なので、ぜひ劇場で観て欲しいなと思います。最後に監督から読者に向けてメッセージをお願いします。

深田 とにかく観てくださいということしかないんですけど、僕が観て欲しい最大の見どころは俳優のセッションにあって。ベテランの俳優の経験の豊かさを感じる芝居から、太賀くんのようにフレッシュだけどもしっかりとした芝居まで、いろんなタイプの芝居があって、それがちゃんとアンサンブルになってる。こんな映画、珍しいんじゃないかなと思っているので、とにかく俳優を見て欲しいなと思いますね。

映画『淵に立つ』


第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 審査員賞受賞
2016年10月8日公開

小さな金属加工工場を営む鈴岡家は、夫・利雄、妻・章江、娘・蛍の三人家族。平凡な家族の前にある日、利雄の知人で、最近まで服役していた八坂草太郎が現れる。利雄は八坂を雇い入れ、自宅の空き部屋を提供。章江は戸惑うが、礼儀正しく接する八坂に好意を抱くようになる。だが、ある日、八坂は姿を消し、利雄は八坂の行方を探し続けていた。そして、8年後。工場に山上孝司が新人として入ってくるのだが──。

【監督・脚本・編集】深田晃司
【出演】 浅野忠信 筒井真理子 太賀 三浦貴大 篠川桃音 真広佳奈 古舘寛治
【主題歌】「Lullaby」HARUHI(Sony Music Labels Inc.)
【配給】エレファントハウス カルチャヴィル
オフィシャルサイト  
ⓒ2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS

プロフィール

深田晃司

1980年生まれ、東京都出身。大学在学中の1999年に映画美学校フィクションコースに入学し、自主制作映画を製作後、2005年に平田オリザが主宰する劇団・青年団に演出部として入団。2006年にアニメーション映画『ざくろ屋敷』を発表し、パリ第3回KINOTAYO映画祭ソレイユドール新人賞を受賞。2008年に発表した長編『東京人間喜劇』がローマ国際映画祭、パリシネマ国際映画祭などに選出される。また、2010年に『歓待』(11)が東京国際映画祭日本映画「ある視点」作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。2013年に『ほとりの朔子』(14)で三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。2015年には『さようなら』(15)がマドリッド国際映画祭ディアス・デ・シネ最優秀作品賞を受賞。今作『淵に立つ』は第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」審査員賞を受賞している。

太賀

1993年生まれ、東京都出身。2006年に俳優デビュー。2014年にはTAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。2016年には主演映画『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(中川龍太郎 監督)が公開。主な出演作に【映画】『桐島、部活やめるってよ』(12/吉田大八 監督)、『ほとりの朔子』(14/深田晃司 監督)、『私の男』(14/熊切和嘉 監督)、『アゲイン28年目の甲子園』(15/大森寿美男 監督)、『あん』(15/河瀨直美 監督)、『マンガ肉と僕 Kyoto Elegy』(16/杉野希妃 監督)、『闇金ウシジマくん the Final』(16/山口雅俊 監督)【テレビドラマ】『仰げば尊し』(16/TBS)、『ゆとりですがなにか』(16/NTV)、『恋仲』(15/CX)などがあるほか、公開待機作に『アズミ・ハルコは行方不明』(12月3日公開/松居大悟 監督)、『追憶』(17/降旗康男 監督)などがある。

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